3-14 ケンタウロスの間で晩餐会①
フラガラッハの剣は、最初に象将軍ディアドコイが右手に持っていたオノを真っ二つに叩き切ってレオの手元に帰って来た。
それをふたたび投げて、今度は左手のオノを同じく真っ二つに切る。フラガラッハの剣は投げるとブーメランのように、持ち主の手にもどって来るのだ。
次に巨大な三又槍をもつ人虎将軍ガドゥンガンにフラガラッハを投げてこれも使えなくし、もどって来たフラガラッハの剣を、今度は犬将軍モロシアン・マスティフの大剣を目がけて投げ、根元からたたっ切り、それから馬頭将軍ガヴァーロの持つトゲトゲ付き鉄球が鎖でつながっているフレイルと牛頭将軍のカーマデーヌの2メートルもある鉄製メイスをそれぞれ鎖を切り、フレイルを根元からスパっと切ってしまった。
文字で書くと長くなるが、これをレオは50メートルの高さへ飛びあがりながら、次々とコンマ何十分の一秒という、瞬きよりも短い時間内でやってのけたのだ。
将軍たちの目に見えたのは、レオの姿が消えたのとほぼ同時に自分たちの武器が根本から切られたり、真っ二つにされたりして使い物にならなくなり、気がつくとレオは30メートルほど先に立っていた。
「おのれ―――っ、こしゃくな―――っ!」
人虎将軍ガドゥンガンが鋭いツメを出してレオに飛びかかった。
レオはフラガラッハの剣を回転させながら投げた。剣の柄が人虎将軍の胸のプレートに激突し、人虎将軍は30メートルほど後ろへ吹っ飛ばされた。
もちろん今回もあまりにも速すぎて、誰の目にもフラガラッハの剣の柄が当たったのは見えない。将軍たちや観衆に見えたのは、人虎将軍ガドゥンガンがレオに襲いかかろうと走り出した瞬間、「ゴツッ!」と高い音がして後ろへ吹っ飛ばされたことだけだ。
ガドゥンガンはビクともせずにのびたままだ。胸のプレートは大きくへこんでいる。
「ガドゥンガンっ!...」
「ガドゥンガン!」
「殺されたか?!」
ディアドコイ将軍やマスティフ将軍たちが、おどろき、ガドゥンガン将軍の無事を気遣う。
中にはディアドコイ将軍に駆け寄ろうとする者や、ディアドコイ将軍はレオに襲いかかろうとしている。
「ガドゥンガン将軍は無事です。気絶しているだけです!」
「なにっ?」
「死んでないのか?」
「そういえば血が出ていない!」
「それ以上、一歩でも動いたらガドゥンガン将軍と同じようになりますよ。ディアドコイ将軍、あなたでもです!」
「な、なにおー!」
大声で叫んで、レオに向かおうとした象将軍。
次の瞬間、その3トン近い巨体はレオの頭上にあった!
オオオオオオオ――――!
観衆がどよめく。
「?...」
一瞬、何が起こったか分からなかった象将軍だったが、自分の体がレオに頭上高く抱えあげられているのがわかったとき、負けを認めた。
「わ、わかった。おれは降参だ...」
レオはゆっくりと象将軍の体を降ろした。その顔には汗ひとつかいていない。
ワワワワワオォォォ―――――――――ン
ワワワワワオォォォ―――――――――ン
ワワワワワオォォォ―――――――――ン
コロシアムはもうスゴイどよめきだ。
レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ!
レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ!
観衆のコールがやむことなく続く。
審判のジャバリュー豹顔将軍も止めようもない。
ゼリアンスロゥプ大王が右手を高くかかげた。
一瞬のちにコロシアムは静かになった。
そして大王はおもむろに右手親指を上へ向けた。
「大王の裁定により、レオの勝利!」
ジャバリュー豹将軍が告げる。
ふたたび ワワワワワオォォォ―――――――――ン
そしてレオコール。
レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ、レーオ!
なんだか、大王もモゴモゴとレオコールを言っているようだ。
やがてコールは大王の名前になる。
ゼリア―――――ン!ゼリア―――――ン!偉大なるゼリア―――――ン!
ゼリア―――――ン!ゼリア―――――ン!偉大なるゼリア―――――ン!
それに応えて大王もモゴモゴと言いながら手をふっている。
観衆は熱狂し、コロシアムは大きく揺れた。
フレイル
その夜。
ダイダロス宮の『ケンタウロスの間』ではゼリアンスロゥプ大王主催の晩餐会が行われていた。
レオとランの圧倒的な強さにいたく感銘した大王が、部下たちの非礼を詫びる意味で饗応の宴を設けたのだ。
常に寡黙なゼリアンスロゥプ大王が、今日のコロシアムでの試合ほど生き生きとし、人生の楽しさ、すばらしさを感じたことはない、と大王がおっしゃったと側近将軍であるジャバリューがレオたちに語ってくれた。
もちろん、それは大王がコロシアムでの剣闘士たちによる試合が好きだということではない。それどころか、大王がコロシアムに行ったのは、コロシアムが完成した時と今回だけだと言う。
「だからこそ、5万人もの獣人が一目大王を見ようとあれだけの短時間で集まったのだ」と豹顔将軍は言った。
「闘技会を見るのは二の次だったのだ」とも。
だから、レオの試合が終わったあと、レコ・コールの次に熱狂的な大王コールがあったのだと。




