3-12 コロセウムの死闘①
そして2時間後。
レオたちはコロセウムにいた。
ワ――ワ――ワ――ワ――!
ワ――ワ――ワ――ワ――!
ワ――ワ――ワ――ワ――!
そこはすでに獣人の観客で埋めつくされており、試合がはじまる前から観客たちはエキサイトしている。たぶん5万人以上いるだろう。よく短時間でこれだけ集まったものだ。
コロセウムの観客席の方の、一番見晴らしのよいところは特等席らしく天幕が張ってあり、そこに獣人国王ゼリアンスロゥプ大王の巨大な姿が見える。
大王の両横にはべらせているのは謁見の間にいた大王の寵妃たちであろう。
獣人将軍たちの姿も大王の前の席に見える。
しかし、何人かの将軍は闘技場にいる。きっと近くで見物するためだろう。
もちろん、これらの将軍たちは「かぶりつき」と言われる半分地下式の観覧席にいるのだが。
レオたちはその将軍たちとは反対側の半分地下式の「かぶりつき」観覧席にいて試合前の注意などをジャバリュー豹顔将軍から聞いていた。
「よいか、ランとやら。武器はいくつ使ってもいい。闘技場内の12ヶ所にはありとあらゆる種類、大きさの武器がある。ないのは弓矢だけだ。勝負は制限時間なし。先に相手を倒した方を勝ちとする。しかし、最終的に勝ち負けの判断をするのは大王様だ」
「武器は何本使ってもいいのなら問題ありません。で、大王はどのように裁定するのですか?」
「いたって簡単だ。大王が勝った戦士に対して親指を立てる- 上に向ける- と“勝利”、指を伏せる- 下に向ける- と“負け”だ。」
「えーっ、それって実際に勝っていても大王が“負け”と言ったら負けになるの?」
「まあ、そういうことだ。これが獣人族の闘技場におけるルールだ。それが嫌なら今から戦士たちに土下座して命乞いでもするがいい。もっとも、それで助かるかどうかはわからんがな。わっはっはっは!」
「問題ないわ。要するに、誰から見ても文句がつけれないほどコテンパンにやっつければいいということね?!」
「それが出来ればな、わーっはっはっは!」
ジャバリュー豹顔将軍は、面白くてしかたがないとばかりに大笑いしながら闘技場の中央に歩いていった。
「ランちゃん、オレは信じているよ!」
「私も!」
「ありがとう。やってやるわ!人族がどんなに怖いか思い知らせてあげるわ!」
「その意気、その意気!やっつけて来い!」
「あなたが倒されたら、私がカタキをとってあげるから、安心して戦って!」
「ばーか!なによ、その応援は?!」
「あーはっはっは!」
「きゃーははは!」
ランはモモがわざとそんなことを言って、ランの緊張をほぐしてくれているのだと知っていた。
仲間はやはり心強い。
レオのためにも、人族のためにも、エルフたちのためにも、ミィテラの世界のためにも、この試合はぜったいに勝たなければならない。
キリっと唇をむすび、闘技場の中央へと歩いて行くラン。
緋色のニンジャコスチュームに包まれた彼女は炎が歩いているようだった。
緋色のニンジャコスチュームを着て、漆黒の髪を後ろで束ねたランが闘技場に現れたとき、5万人を超える獣人族の観客たちは、ランの美しさと小柄さに大歓声をあげた。
ワーワーワーワーワーワーワーワー!
ワーワーワーワーワーワーワーワー!
ワーワーワーワーワーワーワーワー!
そのどよめくような大歓声は、半分地下式の「かぶりつき」特別観覧席にいたレオとモモにも届いた。大歓声は半地下式の観覧席の中で響いて、耳鳴りがするようだ。
ランは、決められた位置につくと、大王の方を向いて優雅に頭と片手を下げで礼をした。
すると、大王も片手をあげて返礼をした。それを見た観客はまた騒ぐ。
ワーワーワーワーワーワーワーワー!
ワーワーワーワーワーワーワーワー!
ワーワーワーワーワーワーワーワー!
「大王様が、闘技場で戦士に返礼するのは初めて見た!」
レオたちのそばにいた 犬将軍モロシアン・マスティフが目を丸くしていた。
“オレは犬が目を丸くするのを初めて見たよ”とレオは余裕で聞いていた。
ワーワーワー!
ワーワーワー!
今度は、獣人族の戦士五名の登場だ。
歓声が少し低い気がするのはレオとモモだけか?
獣人族の戦士五名も中央まで進むと、やはり大王に向かって礼をする。
しかし、大王は何もしない。だまって見ているだけだ。
獣人族の戦士たちは、それぞれ剣や槍や三つ又槍などを持ち、兜、鎧、盾で装備している。
それに対してランは緋色のニンジャコスチュームと黒鞘のヤマト刀だけだ。
「それでは、これより人族夜叉種のモリ・ランは、わが軍戦士の代表であるガネーシャ、エンバラモス、ガルディクス、メーティオーン、グット・シー五名との試合を行う!」
とジャバリュー豹顔将軍が声高く告げる。
「なお、この試合のルールは伝統通りだ。つまり、武器は何をいくつ使っても構わん。闘技場内にはありとあらゆる種類の武器がある。勝負は制限時間なし。先に相手を倒した方を勝ちとする。しかし、最終的に勝ち負けの判断をするのは知っての通り大王様だ。大王様が勝った戦士に対して親指を立てると“勝利”、指を下に向けると“負け”。わかったな?」
「はい」
「あいよ」「おう!」「ギャース!」「フンガ!」「ガウ!」「ギー!」
全員返事をする。
「それでは... 」と言って、豹顔将軍は後ずさりをはじめる。
十分に安全なところまで下がったところで叫んだ。
「はじめっ!」
五人の獣人戦士は、すばやく半円形にランを囲む。
最初に剣をふるってランに切りかかったのはリザードマンの女戦士ガネーシャ。
数秒遅れて、ほぼ同時にオーク戦士のエンバラモスと大猩々戦士のガルディクスが、それぞれ三又槍と槍をくり出した。
三つの武器が交差し、金属のぶっつかり合う音が響いた。
が...
ランの姿は消えていた。
“瞬間移動を使ったな!”レオはすぐにわかった。
オオオオオオオオオオオ――――!
観客がどよめく。
耳が痛くなるほどだ。
3人の戦士たちは、おたがいに顔を見合わせたあと、キョロキョロあたりを見回してランの姿を探している。残った2人も油断なくあたりを見ている。
「どこ見ているのー? 私はここよー!」
どこか上の方から声が聞こえる。
みんなが声の方を見る。
「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」
なんということだ、ランは大王のいる天幕の上にあるゼリアンスロゥプ大王の紋章旗を掲げているポールの上に立っているではないか?!
オオオオオオオオオオオ――――!
観客のどよめきがハンパない。
みんなが大王の紋章旗の方を見て指をさして驚いている。
すると、岩のごとく動かないので有名な大王が、自分の椅子から立ち上がって天幕の上を見上げているではないか!
それを見たランは、ふたたび優雅に大王に対して礼をした。
「大王様、上からの失礼、ごめんなさい」
次の瞬間、ランの姿が消えた。




