3-11 獣人族国大王との謁見
いよいよ最初の訪問国、獣人族国に到着したレオたち。
さて、どんなハプニングが待っているでしょう?
高々度での高速飛行は続く。
慣れてしまえば、これほどたいくつな旅もない。
テントの窓から見えるのは青い空だけ。雲などははるか下に見えているだけだ。
女の子たちはずーっとしゃべり続けて―
“よく、そんなに話題があるものだ...”とレオが呆れていると、しゃべり疲れて、スースー、クーカークーカーとかわいい寝息や│鼾をかいてイスで眠ってしまった。
“顔もかわいいけど、│鼾もかわいいな”とレオが見ていると、しばらくすると起きてトリゴパンのサンドイッチで食事をとったり、水などを飲んだりして、それからまたおしゃべりをして― よく話題があるものだ…- また食べて飲んで、また寝て...
一昼夜を空で過ごしたと思われるころ、不眠不休でアールを守るバリアーを張っていたシーノがレオに目的地が近づいたことを知らせた。
(レオ!そろそろ着くわ。そんなにランとモモの寝顔を見てないで起こしてっ!)
「な、なにを言っているんだ? オレはただ雲の様子を...」
(はいはい。ランとモモはそれでダマせても私はダマされないわ!)
ウトウトしていたモモがレオの声を聴いてハッと目を覚まし、ほぼ同時にランもパッチリと目を開けた。
「雲がどうしたんですか、レオさま?」
「えっ? 私の目にクマが出来ているっ?どうしましょう!こんな顔レオさまには見せられないわ!」
ランの方はあわててレオ見られないように反対側を向いてしまった!?
「ランさん、そうじゃないわ。レオさまは雲がなんとかかんとかって言っていたのよ!」
「え、そうなの? でも、モモちゃん、私の顔を見て。ヨダレとかついてないか。」
「だいじょうぶよ。いつも通りのきれいな顔よ! 私の顔はどう?」
「相変わらずのドワーフ顔よ!」
「言ったわねーっ、この夜叉娘!」
「フフフフ...」
「ハハハハ!」
「レオさま、雲がどうしたんですか?」
「あ、うん... 雲を見ていたら、そろそろ獣人族国に着きそうだってシーノちゃんが教えてくれたんだよ!」
レオは何とかごまかす。
「ようやく着いたのね!」
「降りたら、レストランを見つけてフツーの食事がしたいわ。」
のぞき窓から下の方を見ていたレオ。
「よし、アール、目的地の目印はひょろ長い海(湾)だ。たぶん、あそこに見えているのが『南ゾオル湾』というやつだな。」
「どれどれ...」とモモとランがレオが見ている窓に頭を寄せてくる。
「あっぷ...(髪の毛くさーい!)」
一晩風呂もシャワーもなしなので、髪の匂いが強い。
「そんなに寄ってきたら、オレが見えないじゃないか!」
「あーら、すぐ降りるんじゃないから、そんなに急がなくてもいいでしょう?」
「そうよ、そうよ」
まったく、仕方がない女の子たちだ。
「よし、アール、この狭い海を右の沿岸にそって飛んでくれ。しばらく行ったら大きな入り江があるはずだ。そうしたら、その入り江の方向に飛べば大きな町がある。そこがゾオルだ。」
「ギュイ!」
高度千メートルほどの低空飛行に切り替えて、1時間ちょっと飛んだころ入り江が見え、アールは言われたとおりに入り江の上空に入り飛びつづけた。
そしてさらに40分ほど飛んだところで、眼下に大きな町が見えて来た。
さすがミッッデンランジアで最大の面積をもつ獣人族の国の首都だけあって、かなり大きい。ドワーフ国の首都グラガスの数倍はある。
アールはどんどん高度を下げはじめた。
町の郊外の近くにあまり家がない草原を見つけて降りるように指示してある。
やがてアールは、適切な草原を見つけ、その大きな翼を羽ばたかせて着陸した。
数時間後、三人はダイダロス宮にいた。
獣人族国の首都ゾオルにある、獣人王ゼリアンスロゥプ大王の居城である。
時刻はすでに昼過ぎ。レオが確認してみると、やはり予定より2時間ほど早く着ている。
アールのアップダウン飛行方式は、さらに速度が上がったようだ。
草原をあとにする前に、アールが日中紫外線から身を守れるように、レオは100倍力とオリハルコン製のシャベルを使って横穴を掘って、夜になるまで穴の中で待つように言ってある。
また、ダイダロス宮に到着してから、郊外の草原に巨大な白ドラゴンがいるが、誰も襲わないし、危害も加えないので、攻撃したりしないで静かにいさせてほしいと頼んである。
ダイダロス宮の広大な謁見の間には、獣人族の将軍たちや戦士たちが両側にずらりと並んでいる。
レオはいかつい姿やおどろおどろしい形相をした獣人たちを見ても全然動じない。
ランもモモも平気な顔をしている。
「それでは、これらの親書-ヤマト国のオダ将軍、ドワーフ国王ドワラン14世およびガン国軍総司令官、それにエスティーナ女王-に書かれておる異世界の勇者とは、その方たちか?」
たずねるのは 先ほどジャバリューと名乗った豹顔の猫人将軍だ。
「いえ、異世界から来た仲間は3人いますが、本日、ゼリアンスロゥプ大王にお目通りすべく表敬訪問をしているのはオレだけです。こちらの二人は、それぞれヤマト国のオダ将軍の息女のモリ・ラン殿とドワーフ国のラナ中将-ガン総司令官の娘ですが-の孫娘のダルーシ・モモッタ・ロウ・バンディ少尉です。」
「なに、そこにおる女は、一人はオダ将軍の娘御で、もう一人はガン総司令官の孫娘と?!」
喚くように言ったのは、犬顔のモロシアン・マスティフ将軍だ。なんだか噛みつきそうな顔をしている。
ランは正確にはノブノブ将軍の娘ではなく養女なのだが、この際、そんな些細なことはどうでもいい。
「風の噂では、ヤマト軍をイーストランジアの南の端から海へ追い落とそうとしていた魔軍軍団を総退却に追い込み、ドワーフ国軍と対峙していた魔軍前線を火炎地獄に変えて数万の魔軍兵士どもを黒焦げにしたと聞いているが、本当にそんな事があったとはとても信じられん!」
懐疑的な言葉を投げつけたのは、数トンはあるのではないかと思われる巨体の象- ディアドコイ将軍と名乗ったヤツだ。口から出ている長いキバのうち一本は中ほどで折れている。おそらく魔軍との戦いで折れたのだろう。
「どうせ、人族あたりが吹聴している根も葉もない噂話だろ?」
無表情に言うのはリザードマン女戦士のガネーシャ。
自分の種族を侮辱されてランの顔には朱がさしている。
きっと怒っているのだろうが、表敬訪問ということもあり、何も言わずに堪えている。
謁見の間のもっとも遠いところにいる獣人王ゼリアンスロゥプ大王は黙って何も言わずに見ている。
謁見の間のフロアから十段ほど階段を上がったところに王座があるために、遠くからでもその巨大な姿が見える。
ゼリアンスロゥプ大王の頭には燦然と輝く宝石を散りばめた王冠があり、耳の上からは長い角が二本でている。大王の服装は、豪華な黄金の飾りがついた青い服で、裏地が真っ赤なマントをはおっている。
そして、その大王の両脇には、片側二十人ずつほど、若い獣人族の女たちが色鮮やかな衣装をまとってはべっている。たぶんゼリアンスロゥプ大王の寵妃たちであろう。
「つまり、オレたちにはそんな力がありそうにないから、オレたちの話は信じられないということですね?」
「ま、早く言えばそういうことだ」とリザードマン戦士のガネーシャが肯定する。
「では、オレたちの力を見てもらうために、そちらが選んだ戦士と試合をしてもいいですよ」
ヤマト国で、ノブノブ将軍たちに自分の力を見てもらうために使ったのと同じことを提案する。
「なに、我らの戦士と試合とな?」ギラリと黄色い目を光らせて聞くジャバリュー将軍。
「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」
思わず、身を乗り出す獣人族将軍たちと戦士たち。
ゼリアンスロゥプ大王も興味を示したのか、少し前向きになったようだ。
“ははーん... コイツら、何か余興が欲しくてたまらないんだな...” とレオは理解した。
「そちらでは誰でも好きな戦士を選んでくださって結構です。こちらは...」
「私が相手をします!」レオの言葉をさえぎってランが名乗りでた。
「えっ、ランちゃん?!」レオが驚く。
モモも驚いているが何も言わない。
「ではワタクシがお相手をしよう!」
名乗り出たのは先ほど人族を侮辱するような発言をしたリザードン女戦士のガネーシャ。
「あら、あなた一人でだいじょうぶ?誰かほかの戦士に加勢をしてもらってもいいのよ?」
「なにィ、この人族風情が!」ガネーシャの顔が怒りで赤くになる。
「オレが相手をしてやる!」
「いや、オレが骨まで叩きつぶしてやる!」
「わしが...」「オレサマが...」とたちまち6人ほどの戦士が名乗り出た。
「よかろう、では、2時間後にコロセウムにおいて、ゼリアンスロゥプ大王の御前で試合をいたすこととする。勇者側はモリ・ラン殿。獣人族側は、ガネーシャ、エンバラモス、ガルディクス、メーティオーン、グット・シー の5名だ。いいな?」
「それでいいわ!」
「おう!」「ギャース!」「フンガ!」「ガウ!」「ギー!」
めいめい、返事をする。
「それまで、人族の勇者たちは控室で休むといい。飲み物や食べ物などいるものがあれば用意させる」とジャバリュー将軍が言う。
「それでは、そこで少し休ませてもらいます」とレオ。
ジャバリュー将軍が部下の猫耳将校に命じて案内させたのは、ダイダロス宮から出てすぐのところにある、近衛兵の駐屯所のようなところだった。
バリっとした近衛兵のユニフォームを着て槍をもっている犬耳門番兵が胡散臭そうな目で3人を見ている。
中に入って、少し廊下を歩き、ある部屋のドアを開けた。
そこは、使い古した木製の長イスとテーブルがあり、壁には服をかけるフックがあるだけの殺風景な小さな部屋だった。窓には鉄格子がはめられていた。
「ここで試合の時間まで待つがいい。何か必要だったら誰かを呼んで頼め。」
そう言い残して猫耳将校は去って行った。
「さて、ここで持ってきた携帯食を食べながら、試合のことについて話そうか、ランちゃん?」
「食べるのは賛成だけど、試合の事は心配しなくてもだいじょうぶよ、レオ様。」
「私の力が必要だったら、えんりょしないで言っていいのよ?」とモモが言う。
「モモちゃん、ありがとう。でもだいじょうぶよ。あんなヤツらの5人や10人、武器さえあれば問題ないわ。レオと人族をバカにしたことを後悔させてやるわ!」
レオもモモもランが戦うのを実際に見たことはない。
レオはノブノブ将軍の部下の剣豪たちとの試合のとき、ランの得意技を垣間見ているが、あれがランの全力ではないことをよく知っていた。
“もし、ランが危ない時は、オレが秒速40メートルの瞬足で助けてやろう”と考えていた。




