3-09 エルフ少女との別れ
トンシー大先生と奥さんに一泊と朝食のお礼を言って大博物学者の屋敷を後にしたあと、エルフ国軍の司令部に向かった。
女王の宮殿からは渡り廊下で繋がっているため、必要なときは女王はいつでも司令部へ行けるようになっている。
レオたちが参加を要請されたのはエルフ軍司令部の大会議室で、アイミのもたらした情報の検討、およびレオたちがすでにヤマト国とドワーフ国で進めている作戦を検討し、エルフの聖域および首都アルフヘイム奪還作戦とのすり合わせをするためである。
会議には、女王ももちろん参加している。
「今までの説明で、レオ殿たち勇者たちが、“Xデー”としている〇〇月〇〇日にヤマト国軍のノブノブ将軍およびドワーフ国軍のガン総司令官は、イーストランジアの北からと南から同時に反攻作戦を実施する予定であることがお分かりいただけたと思います」
話しているのは バンヴァルド・コナ司令官。
一般的に背が高いエルフ族の中でも飛びぬけて高い。落ち着いた感じのエルフ軍人だ。ちなみにコナ司令官は、アイミの父・オイヴァルドの実父である。
アイミの父オイヴァルドは、アイミの家、テフ家に入婿としてアイミの母アイフィと結婚したのだ。
奪還作戦について説明をはじめたのは、エルフ国軍参謀長のメンロル。
「ボックズ師によれば、例の持ち運び式移動用魔法陣は、すでに十数枚完成しているそうです。前からも何度も司令部で検討し、議論して来たように- すでに女王様もご存じで、作戦を支持されていますが- この移動用魔法陣を使って、ミッッデンランジア(中央大陸)の同盟諸国から兵力をイーストランジアに派遣して、一挙に我らが聖域および首都アルフヘイムの奪還作戦を実施することになります」
「ただ、問題は、先ほどレオ殿たちからの説明にあった“Xデー”となる〇〇月〇〇日までに同盟諸国に赴いて兵力を派遣してもらうための交渉をし、それぞれの国で必要となる移動用魔法陣を設置する時間がないということです。
みんなもよく知っている通り、移動用魔法陣というものは、入口と出口にそれぞれ魔法陣を設置しておかなければならない。したがって、兵力を送りこむ同盟国とその兵力が送りこまれる聖域周辺にも魔法陣を設置することが不可欠の前提条件となります。
魔軍の厳しい警備下にある聖域に潜入するのは、今回、アイミも参加した偵察隊の例を見てもわかるように、たいへん危険のともなう困難な任務で、誰がどうやるかが大きな課題となります...」
「ヤマト国軍およびドワーフ国軍の反攻作戦やその規模を見ても、この“Xデー”に合わせる形で同盟国軍にイーストランジアに侵攻してもらうのが最もベストなのだが...」メンロルが問題点を指摘する。
そこまで聞いて、レオが手を挙げた。
みんな「?」「?」「?」「?」「?」という顔をしている。
“しまった!この世界では発言を求めるときに手を挙げないんだな…”
「発言を求めます!」
「おう、レオ殿、どうぞ!」
コナ司令官が発言を許可する。
「コナ司令官、たしかにそれらの同盟諸国とこのエルフの里の距離はたいへん離れており、普通に行ったのでは、半年から1年近くかかるでしょう。それも、無事に魔軍の監視の目をくぐり抜けれたと想定してです。しかし、ホワイトドラゴンを使えば、ここからもっとも遠い鬼族の首都ガジーマまでは、オレの計算では20時間くらいで行けますし、大陸の人族首都ナンバまでならそれ以下の時間で行けます」
「「「「「「オオオオー!」」」」」」
コナ司令官をはじめ、そこにいたエルフのエライ軍人たちがハモって驚きの声をあげる。
「レ、レオ殿、そ、そのホワイトドラゴンというのは、どんなドラゴンなのですか?」
メンロルがどもりながら聞く。
「メンロルさま、ホワイトドラゴンにつては、私に説明させてください。」
「お、アイミか、たのむ!」
「ホワイトドラゴンは、ブラックドラゴンの白子、一種の変種で名前の通り白いドラゴンです」
「ブラックドラゴンの変種?危険じゃないのか、お前たちは襲われなかったのか?」
「いえ、ご存知の通り、私は虫や動物と話すことができます。それでそのホワイトドラゴン-2匹いるのですが-に聞いたところ、元々ブラックドラゴンも人や動物は襲わないそうなのです。それを魔族が襲って食べることを教えたためにキバが発達して、狂暴になったというのです。」
「つ、つまり、誰も襲わないと?」
「はい。おとなしいドラゴンです。」
「では、肉を食べないのなら、何を食べるのだ?」
「草や木の葉っぱを食べます。」
「馬や牛のようにか?」
「はい。なので大きなキバもありません。」
「「「「「「ほーう!」」」」」」
コナ司令官以下、全員ハモる。
「そして、ホワイトドラゴンの飛行速度は400キロを超えるのです。だから、たまいまレオさまが言われたような短時間で長距離を旅行することができるのです」
「「「「「「400キロ!?」」」」」」
テフ司令官以下、全員驚愕して口をあんぐりと開けたままとなる。
「そ、それは1日に400キロ飛べるということかね?」
ロンメル参謀長が確認のために訊く。
「いえ、1時間に400キロです」
「「「「「「1時間に400キロ!?」」」」」」
全員がまたハモる。
「つ、つまり、その草を食うという白いドランゴンに乗って同盟国まで行くというわけか?」
止まっていた息を吸い、口を閉じたコナ司令官が聞く。
「その通りです。ホワイトドラゴンは二匹いますので、二つのグループに分かれて行くことで、任務遂行が早くなります。」
「オレたちは、ヤマト国軍のオダ総司令官とドワーフ国王およびガン総司令官の親書をこれから訪問する国のリーダーたちに渡すべく預かって来ている。なので、エルフ国でもエスティーナ女王の親書をいただければ、交渉国との話もしやすくなると思っています」とレオが補足する。
「わかりました。早速、親書を書いてお渡しします。何通書けばよろしいですか?」
「獣人国、人族連合、トロール国、鬼人族国ですから四通ですね」女王の問いにレオが答える。
「わかりました。ティティア、親書用の便箋とペンを...」
「すぐお持ちします、女王様」侍女長が侍女に言いつけて取りに行かせる。
「獣人国、人族連合、トロール国、鬼人族国それぞれの国の首長、もしくは軍の最高司令官の名前は?」
便箋を前に羽ペンを手にして女王は、親書を誰宛に書くかを聞く。
「はい。獣人国はゼリアンスロゥプ大王、トロール国はオンドロワス王、人族連合軍最高司令官ブサジ議長、そして鬼人族国あhエンマ大王です、女王さまです。」
「よく勉強しましたね、アイミ!」
ニッコリ笑って、アイミの成長をよろこぶ女王。
「いえ、今朝、こちらに向かう途中でみなさんにに教えていただきました」
「それはアイミちゃんの謙遜ですよ。彼女はたいへん探求心の強い勇者です」とレオが言う。
「そんな...」早くも頬を染めてモジモジする耳長エルフ少女。
その光景を微笑んで眺めながら、さっさと親書をしたためる女王。
しばらくすると四通の親書が出来上がり、便箋に入れて、レオとイザベルに二通ずつ渡される。
二人はそれを雨などで濡れないようにきっちり密閉できる箱に入れてからバッグにしまう。
「それでは、これからボックズ師の家へ行って、持ち運び式移動用魔法陣をお借りして、すぐにホワイトドラゴンのいるテングノハナ岬へもどり、それぞれの目的地へ向かって出発することにしますので、お別れをするのなら今です」とそこにいる全員に告げるレオ。
お別れをするのはアイミだけだ。
お父さん、お母さん、おばあちゃんと抱擁しあって別れを告げるアイミ。
やはり涙を流している。そして最後にエスティーナ女王に別れを告げる。
「それでは、エスティーナ女王さま、行ってまいります!」
「よろしく頼みますよ、アイミ。エルフの民の将来がかかっている大事な任務です。くれぐれも怪我などしないように気をつけて...」
「はい。よくわかっております。お任せください、決してご失望はさせません!」
「カイオ殿もイザベル殿も、くれぐれもアイミのことをよろしくお願いいたします。」
「はい。だいじょうぶよ、私たちに任せておいて!」
「オーケー、安心していいよ、女王様。しっかりとアイミちゃんを守るから!」
「レオ殿も、今度の旅ではアイミと別れた行動をとることになりますが、よろしくお願いいたします。」
「だいじょうぶですよ、女王様。アイミはすごい娘ですから!」
別れを惜しんでいるものがもう一人いた。
守護天使のシーノだ。
(あーあ、せっかくお友だちになれたのに、もうお別れなんて残念ね...)
(シーノ、また会えるんだから、そう気を落とさないで。それより、しっかりとあなたのご主人様を守るのよ?)
(だいじょうぶよ。あれでレオはすごい幸運の持ち主なんだから)
(でも、油断しちゃダメよ)
(うん。油断はしないわよ。その点はエタナール様に耳が痛くなるくらい言われているから)
(じゃあ、また再会の日まで!)
(じゃあね、ペル!)
一行はボックズ師の家まで行き、持ち運び式移動用魔法陣を受け取った。
「レオ殿、カイオ殿、イザベル殿、ラン殿、モモ殿、それにアイミ、任務は重大だが、しっかりたのむよ。」
「「「「「はい!」」」」」
「この『ドコデモゲート』の設置が聖域およびエルフの国奪還作戦の成否を決めることになるのだ」
「なんですか、その『ドコデモゲート』というのは?」とランが聞く。
「この持ち運び式移動用魔法陣のことじゃよ。あまり名前が長いと言いにくいと、わしの弟子のひとりのユックリタが提案したんじゃ」
「あ、それは呼びやすい名前ですね、ボックズ師さま」短い名前が気に入ったのだろう、とアイミが言う。
“まるでドラ〇エモンの『どこでも〇ア』だな...”
レオはサイボーグネコが登場する子ども向け人気アニメを思い出した。
「それでは『ドコデモゲート・オペレーション』、ただ今よりスタートです!」
「「「「オーウ!!」」」」一斉に雄たけびをあげる勇者たち。




