3-08 目が覚めたら天使がいました!
翌朝。
レオはゴクラクベッドツリーの快適な葉の中で目を覚ました。
トンシー大先生の言ったとおり、ぐっすりと眠れることができ、ここ数日の強行軍の疲れもとれていた。
“さすがトンシー大先生。こんなすごいモノを自宅に植えてお客をもてなすなんて...”
とレオは考えながら、葉っぱの上ブタを指先でトントンと軽く叩くと葉はすーっと開いた。
半身を起こしてほかの仲間が昨夜入ったゴクラクベッドツリーの方を見る。
カイオはすでに顔を洗ったらしく、タオルを首にかけて洗面所からもどって来た。
すぐ、そのあとにモモも手にタオルを下げて歩いてきた。
カイオもモモもすでに普段着に着かえている。
「それじゃあ、ボクは朝食の前にちょっと外をひとっ走りしてくるよ!」
「あ、じゃあ私もいっしょに走るわ!」
カイオとモモが出て行った。
「あーぁ、私も顔でも洗って、外を散歩してくるかな...」
イザベルもタオルをもって部屋から出て行った。
ゴクラクベッドツリーの部屋に残ったのはレオだけ。
昨夜が遅かったので、レオはまだ葉っぱの中に半身を起こしたままでしばらくぼーっとしていた。
“さて、オレもそろそろ起きるか...”
とレオが思ったとき、レオのいるゴクラクベッドツリーの前にあるゴクラクベッドツリーの下の方にある葉がゆっくりと開いた。
“あれっ、まだだれか残っていたのかな?”
レオは考えながら、真向いの葉の斜め上に位置するところから見ていた。
その白い羽毛のようなやわらかい褥の中にいたのは…
光り輝くような白い体、青い瞳をもつ天使だった!?
しかし天使の羽は見えない。
天使は、「ふわーっ!」
と大きくあくびをして両腕を上に伸ばした。
ふっくらとした控え目な胸。
細い腰。
やわらかそうなおなか。
かわいいおへそ。
白い足...
......
そして
天使はサファイアのような清らかな目で見上げた。
「えっ?」
天使は半分寝ぼけた目でレオを見ていた。
「アイミ?なんでハダカなの? それになんでここにいるの?」
「レ、レオさま!!!」
ハッとして、思わず周りを見回して、そして自分を見るアイミ。
「キャ―――――――っ!」
一瞬遅れて、状況がわかったアイミはソプラノで思いっきり悲鳴をあげた。 いそいで両腕を胸の前で交差させて控え目なおっぱいを隠そうとする。
そして下の方が無防備なのに気づいて、腕を交差させたまま半身を前に倒して、下もをかくそうとする。
まるでヨガの難しいポーズみたいだ...
アイミの悲鳴を聞いて誰かが来るかと思ったが、誰も来ない。
トンシー大先生の家の人たちはみんな忙しいのだろう。
イザベルも顔を洗ったあと、そのまま外に出て行ったらしい。
エルフ美少女の悲劇を見ているのは、レオとゴクラクベッドツリーたちだけだった。
しばし、アイミのヨガの難しいポーズのような白い体を見ていたレオ。
「今、降りてアイミちゃんの服とってあげるから!」
葉から飛び降り、アイミのいる木の下にきれいにたたまれて置かれていた服を手に取ってアイミのいる葉っぱの中に投げ込んでから背を向けて部屋から出て行きながら聞いて見た。
「でも、なんでアイミちゃんここにいるんだよ? お母さんのお家に泊まるって言ってたんじゃあ?...」
「... お家に帰ったら、おばあちゃんが、トンシー大先生のお家には美容にとてもいい葉のベッドがあって、レオさまたちはきっとそのベッドで寝るんだよ、って言ったから、私ももっときれいになりたいから昨夜、家を出てお父さんに送ってもらって来たのです...」
「で、なんでマッパダカなの?まさかトンシー大先生の...」
「トンシー大先生が、女の子たちはみんな裸になって葉っぱの中に入ったって言うから...」
「あの大先生、かなりスケベなんだな...」
「わ、私は、高いところが苦手だから、それで低いところの葉っぱの中に寝ようと思って... こ、ここに寝たんです。レオさま、もう私の生まれたときのままの姿を見られたのですから、オヨメさんにもらってくださーい!」
「あのね... この前も言ったけど、オレにはそんな話はちょっとまだ早いんだよ」
「でも... 恥ずかしい姿を男の人に見られたエルフは、その人と結婚するかしかないんです!」
「うーん... 困ったなぁ... どうしよう...」
しばらく考えていたレオ。そしていい考えを思いついた。
「じゃあ、こうしよう。一応、将来にその方向で考えるとして、今は許嫁ということで」
「いいなずけ?」
「将来の結婚を約束するということ」
「はい!」たちまち元気になるアイミ。
「ただし...」
「ただし?」
「ただし、おたがいに、これから先、ほかにもっと好きな人が出来たら、それを相手に告げることで解消できることにしよう」
「えーっ?私はぜったいにほかの人なんか好きになりません!」
「それはわからないだろう?アイミちゃんも、これからの人生で多くの男性を知っていくのだから、その中にオレなんかよりもっといい男の子も見つかるかもしれないし」
「いいえ。レオさまよりステキな人はぜったいに現れません」
「それともう一つ」
「?」
「今のこの話も今あったことも誰にも言わないこと」
「はい!」
アイミはとたんに元気になり、ヘタな口笛を吹きながら服を着はじめた。
それからしばらくたって。
朝食のために食堂に集まった仲間たち。
そこにアイミの姿を見てみんな驚いている。
「みなさん、おはようございます。」
「おはようって、アイミちゃん、あなたお母さんのお家に泊またんじゃなかったの?」
「おはよう、アイミちゃん。いつ来たの?」
「アイミちゃんが来ているって知りませんでした!」
「ええ、実は昨夜、家でおばあちゃんから、“みんなトンシー大先生のお家の若返りベッドで寝るんだよ”って聞かされて、私もそのベッドで寝たくなって、お父さんに送ってもらって昨夜来たんです」
「えっ、じゃあ、あのゴクラクベッドツリーの部屋にアイミちゃんいたの?」
「はい。おかげさまで今日はお肌がツルツルです!」
「あはは。アイミちゃんは若いから、いつもツルツルじゃないの?」
「そんなことはありません。このところ忙しかったり、冷たい風にさらされたりで少し肌が荒れていましたもの。」
「きゃはは。まだ17歳のあたながそんなことを言っていたら、18歳の私はどうなるの?」
「ランさんは、うらやましいほどきめ細やかなお肌ですから。」
「そんなに褒めたって、なにも出ませんよ!」
「あははは」
「きゃははは」
「はははは」
いっぺんに賑やかになった。
そこにトンシー大先生がガウンを着て現れた。
後ろに長身でエルフにしてはめずらしく黒い髪の中年エルフ男性がいる。
「お、みんなもう起きとるな!おはよう」
「「「「「おはようございまーす!」」」」
「あ、これはワシの研究を手伝ってくれておる、共同研究者のウラシマ・サブロー博士じゃ」
「はじめまして。ウラシマ・サブローです」
トンシー大先生の後ろにいた、ひょろっとした背の高いエルフがあいさつをした。
「えーっ、あなたがウラシマ・サブロー??」とおどろくレオ。
いつかアイミが話してくれた、浦島太郎の子孫が研究者としてエルフの里にいるといっていたが、まさかここで会うとは思わなかったのでおどろいたのだ。
「おや、レオ殿はウラシマ博士をご存じじゃったかな?」
「いえ、今日お会いするのがはじめてですが、アイミちゃんから以前聞いていましたので...」
「おお、そうか。ウラシマ博士には、とくに植物の方の研究に携わってもらっておる。あのフランボエザ液も彼の研究の成果じゃ」
「ああ、あのエルフ女性たちがみんな使っているという...」
「あまりに注文が多いので、増産体制をしかなければならなくなりました」
ウラシマ博士はおとなしい口調で言う。
効果バツグンの日焼け止め薬なら、エルフだけじゃなくて、どの種族の女性でも欲しがるだろう。
「では朝食といたすかな」
大先生のお声で、奥さんを先頭にメイドさんたちが朝食をテーブルに運んできた。
「さあ、みんな、腹いっぱいたべてくれ。これはカウの木のステーキ、これはセキショク豆のから揚げ、これはセキショク豆の焼き鳥、これはウズラ豆をゆでたもの...」
見たことも聞いたこともない食用植物の名前を言いはじめた。
「トンシー大先生、このカウの木のステーキというのは?」
「ああ、それはな、ビッグナスの木にカウという肉のうまい動物のタネを交配して作ったものだヨ。カウの肉に似た食感と味があるのが特徴だヨ」
「大先生、セキショク豆の卵焼きというのは?」
「セキショク豆というのも、セキショクドリという鳥のタネをビッグナスと交配して、作ったものだヨ。セキショクドリの肉に似た食感と味があるのが特徴だヨ」
「ウズラ豆というのはなんすか、大先生?」
「ウズラ豆は、ウズラというおいしい卵を産むトリのタネを、エルフ豆と交配して...」
「「「「「トンシー大先生、すごーい!」」」」」
「ワシの夢は、ミィテラの世界から餓えと食糧不足をなくすことで、そのためにさまざまな研究をしとるし、世界中を回って改良できそうな植物や動物などを探しておるんじゃヨ」
ニコニコ顔で語る大博物学者であった。
「この人は、その計画に夢中で、なんども危ない目にあっているんですよ」
奥さんが、やはりニコニコしながら話す。もう慣れきっているのだろう。
「そもそも、魔王の世界征服というのも、真の原因は食糧難だと思っとるのじゃヨ」
「えーっ、魔軍の世界的規模での侵略は、食糧難を解決するためなんですか?」
「魔族そのものは、ワシらと同じで出生率は低いんじゃが、魔眷属と呼ばれるゴブリンとかコボルトとかはネズミみたいに増えるからのう...」
「それを誰か魔族から聞いたのですか?」とカイオが聞く。
「いや、あくまでもワシの推測じゃヨ」
「それはそうと、あのゴクラクベッドツリーっていうのは、寝るのには快適ですけど、食糧難解決にはあまり関係なさそうですね」と今度はイザベルが聞く。
「ああ、アレはな、中央大陸の秘境の一つと言われるオマゾンの大密林地帯で、ギガントザルたちが、毎晩、ほかの地域のギガントのように寝床を作らないのに気づいて、夕方に後をつけて行ってあの巨大なゴクラクベッドツリーの葉にはさまれて寝ると言うことを発見したのじゃヨ」
「それで、ゴクラクベッドツリーは食虫植物のように、サルをとじ込めて溶液で溶かして自分の栄養としないのですか?」
「そこが不思議なのじゃが、ワシが数年かけて観察、研究した結果わかったことは、あの木は葉の中でサルが出す排泄物や汗などを自分の栄養の一部としてるようなのじゃヨ」
「あー、だからハダカで寝ろって言ったんですね?」とレオが聞く。
「それもあるが、やはり若返りと美容にはマッパダカが一番じゃと、これも研究でわかっとる」
「個室ならまだしも、みんなといっしょじゃねぇ...」とランがつぶやく。
「でも、あのゴクラクベッドツリー、お金持ちのマダムたちには需要がありそうよ?」
「いや、男たちの方が、もっと女性にモテようと使いたがるかも知れない」
「あら、私は年取った人たちに優先的に使わせるべきだと...」
おいしい朝食をいただきながら、夢のある議論が尽きない。




