3-07 トンシー大先生
翌日、みんなは『エルフ戦士の丘』にいた。
百年前、魔王の軍勢が首都アルフヘイムを奇襲攻撃し、宮殿にまで攻め入ったとき、シューナーデ将軍をはじめ、エルフ国とエルフの民を守って亡くなった千五百人余りのエルフ戦士たちのために建てられた碑がこの丘にあり、亡くなった戦士たちの名前が刻まれている。
アイミの祖父であるエヴァルド・ジロン・テフは当時、宮殿の神衛士長であり、やはりこの時に亡くなっている。
エスティーナ女王が献花する。
続いて、レオたちがそれぞれ小さな花輪を献花する。アイミもおじいちゃんと亡くなった偵察隊の戦士たちのために祈り献花した。
今日、『エルフ戦士の丘』に来たのは、魔法士タムル、神衛士オーノルをはじめ、今度の偵察隊の任務で亡くなった十名のエルフ戦士の名前が新たに刻まれたからである。
昨夜、宮殿で女王招待の晩餐会が終わったあとで、レオたちはアイミの大叔父のトンシーというエルフの偉い学者から、「ワシの家に泊まりに来んか?」との招待を受けていた。
すでに女王側で国賓用の宿泊施設(山荘のようなものらしい)が用意されてはいたが、アイミからも「ぜひ、大叔父さまのお家に泊まってあげてください」とのオススメがあり、エスティーナ女王も「一泊さなって見れば?」と言ったので泊まることになったのだ。
カイオもイザベルもランもモモも問題ないというので5人で泊まりに行くことになった。
アイミは久しぶりに親の家で寝ると言って両親と帰って行った。
トンシー大先生の家は...
正直言って、エルフ女王の宮殿より大きかった!
これにはみんな目を丸くした。二階建てで、その点は宮殿の方が見栄えもいいし、さすがに一国の女王の宮殿にふさわしい建物であるが、面積ではトンシー大先生の屋敷の方が数倍大きかったのだ。
玄関に着くと、すでに午前零時を回っていたのに、前もってアイミが知らせてあったのだろう、トンシー大先生大先生と思われるかっぷくのいい学者風のエルフと、その横にエルフにしては小柄でかなり若い奥さんと助手やメイドさんなどが十人ほどが両側に並んで待っていた。
「トンシー大先生、すごくお金持ちみたいね?」とモモが小声でランに言っている。
「それになに、あの奥さん? めっちゃ若いんだけど?!私とあまり歳変わらないんじゃない?」とラン。
ちなみにトンシー大先生はエルフにしては背が低い。その代わり横には太いが。
大先生のかわいい奥さんもあまり背が高くないので意外とお似合いの夫婦かも知れない。
家の中に入って、そこでなぜこのエルフの著名な学者の屋敷がこれほど大きいのか、その理由がわかった。
それは、屋敷中がまるで博物館よろしく、ゴキブリのような昆虫からはじまってクジラのような巨大な動物まで、剥製標本や骨格標本、世界中のありとあらゆる草や植物の標本、鉱石や地質の標本や採掘機械の試作品やそれを製造する工場まであったからだ。これではいくらスペースがあっても足りないくらいだろう。
最初の紹介の時に、トンシー大先生は博物学の学者だと自己紹介した。
だが、趣味は植物だけにとどまらず、幅広く他の分野にも向けられていることは、さまざまな種類の動植物や昆虫などの標本や飼育箱などを見てもわかる。
トンシー大先生- とみんなが呼んでいるので、レオたちも同じように呼ぶようにした- の家は、エルフ国にとってVIPであるレオたちを宿泊させるにふさわしいと女王が考えてOKしたのだ。たぶんレオたちをガッカリさせないだけの家なのだろう。
「さあさあ、もう夜も遅いから、君たちも眠いじゃろう? ワシもいろいろ聞きたいことは山ほどあるんじゃが、明日の朝食のときにでも聞かせてもらうとしよう。さ、寝室はこちらだヨ」
博物学大先生は先に立って、広い屋敷の中をどんどん歩いて行く。
このエルフ大先生、年はかなりとっているようだが、山歩きなどで鍛えているからか、結構歩くのが早い。ランやモモは小走りでついてくる。
「さあ、着いた!ここが君たちの寝場所じゃヨ」
そういってトンシー大先生が見せたのは、吹き抜けの高い天井のあるかなり大きな部屋。
天井まではおよそ30メートル以上はありそうだ。そして、なんだか幹がハンパないほど太い木が数本あり、同じく一抱えもありそうな枝が横に何本も伸びていて、その先にはまたバカでかく分厚い葉がついている。
しかし…
ベッドらしいものも、寝床らしいものも、寝袋らしいものもない。
「......?」
「???」
「 ? 」
「...?...」
みんなこんな感じだった。
「あの... トンシー先生、どなたかお布団とかベッドとか持って来てくれるのですか?」
イザベルがみんなを代表してか、質問する。
「いやいや、そんなモノはいらんヨ。君たちはここで寝るんだヨ」
「あの... 誰も寝袋も毛布も持ってきてないんですけど...」とイザベルが言う。
「女王さまの山荘に行った方がよかったかも...?」なんてランとモモは小声で言っている。
ガヤガヤ騒ぎはじめたみんなを見て、ニヤリと笑う長耳の大博物学者。
「君たちは、このゴクラクベッドツリーで寝るんだヨ」
「えーっ、木の上でおサルみたいに寝るんですかァ?落ちちゃうよ?!」とレオ。
「レオは100倍力だから、私をお姫様抱っこして寝せてね!」とラン。
「じゃあ、私はカイオにお姫様抱っこ...」とモモが言おうとしたら
「ボクは1倍力だし、フィアンセがいるからダメ!」とカイオにすげなく断られた。
もとより、モモはからかって言っただけなので小さく舌を出して笑っている。
大先生は隅にあった車輪付きの脚立をゴロゴロと押してゴクラクベッドツリーというヘンな名前木のところまで来ると、床から1メートルほどの高さで横に伸びている、一抱えもありそうな太い枝の下に止め、意外と身軽にハシゴを上り、巨大で分厚い葉っぱの上をトントンとやさしくをたたいた。
するとどうだろう、その巨大な葉はぱっくりと開いたのだ!
巨大な葉は、下の葉はそのままで、上の部分がフタのように開いたのだ。
トンシー大先生がハシゴの上で手招きするので、レオが脚立の反対側のハシゴを上って開いた葉の中を見た。
下の葉の中はまるで羽毛のような白い毛みたいなものが一面にあり、まるで何か巨大な鳥の巣のような感じだった。
「ほれ、この通り、中はとても快適な寝床となっておる!」
トンシー大先生の言葉にイザベルたちも興味をもって、代わる代わるハシゴに上って中を見る。
「このゴクラクツリーベッドの上の葉っぱは、外の空気と中の空気を交換する機能があるんじゃよ。それに、中にはいってフタが閉まれば中は快適な温度にたもたれるんじゃヨ。この葉っぱの中は疲労回復に効果があり、美肌効果、シワ取り効果がある成分を含む揮発性物質をふんだんに発生させてな... これがまたちょっぴり甘い香りがしてのう... たまらんのじゃが- と言うことで、美容と若返りにバツグンの効果があるんじゃ。君たちワシの奥さんを見たろう? アレはあれでもう50歳になるんじゃが、あのとおりピチピチの体をしている。それも毎晩この葉っぱで寝ているからじゃ!」
夫のお褒め言葉をいただいた奥さん。
「大先生が今おっしゃったように、私は50歳を超えています。みなさんはすでにご存じとは思いますが、このエルフの里では私どもエルフはほかの種族と同じように老衰しますので、本来であれば私はすでに中年太りかシワが出始めてもおかしくない歳なんですよ」
“若返る”“シワがとれる”という言葉に敏感に反応したのは女の子たちだった!
みんなまだ二十歳前だが、女性というものは、すでに若い時からこういうキーワードに敏感なのだ。
「じゃあ、私はためしに寝てみようかな...」
真っ先にゴクラクベッドツリーの葉っぱで寝ることを決めたのはイザベルだった。
「あら、私も寝てみたいわ!」とラン。
「しょうがないわね。じゃあ私もおつきあいしていっしょに寝るわ」とモモ。
「ボクも寝てみるか。少し疲れているし...」とカイオも寝る気満々だ。
自慢するゴクラクベッドツリーをエルフ女王様の大事な客人全員に使ってもらえるとわかって、得意満面な大先生。
「それでだ、このゴクラクベッドツリーの若返り&シワ取り効果を最大限に利用するためには、ハダカになって寝るのが一番なのだヨ」
「えーっ、ハダカって、なにも着ないってこと?」
「パジャマもダメですか?」
「ネグリジェもー?」
女の子たちが思わず身を守るように両腕を体の前で交差させて後ずさった。
なぜか、カイオ王子も同様に両腕を体の前で交差させている?
「ワシの奥さんもワシもマッパダカで寝るんじゃゾ?」
「あなた... 若い娘たちにそんなこと言っても... 服を着たままでもだいじょうぶですよ。効果は少し落ちるけど効きますよ。それに睡眠を助けるいい匂いもでるので安眠できるわ」
大先生の奥様の言葉で、服を着たまま寝ることにした全員。
レオもゆったりしたスリーパーを着て寝たのだった。




