3-05 エルフのかくれ里
その洞穴はホワイトドラゴンが降りた岩だらけの岬から2キロほど離れた海に面した断崖にあった。
断崖の前には狭く岩だらけの浜が続いていた。アイミによれば、この洞窟に魔法陣のマスターと呼ばれるエルフ魔術師のボックズが待っているという。
ホワイトドラゴンのアールとビーナはあまり大きすぎて、そこにまで連れて行けないので、途中の森の中へ置いて行くことにした。
このあたりは人里からも遠く離れており、また、魔軍の制空権外なのでブラックドラゴンは現れないとは思うが、万一、ブラックドラゴンが現れたららすぐ隠れるように、とレオは100倍力で二匹が隠れることができる横穴をオリハルコン製のシャベルで30分もかからずに掘ってしまった。
シャベルはドワーフ兵器廠のドン長官にムリを言って借りて来たもので、オリハルコン製のツルハシも持って来ている。ホワイトドラゴンにとって紫外線は大敵なので、日中は横穴ですごして、夜になってから出て草木を食べるように言い聞かせた。アールとビーナにとっては、紫外線の方がブラックドラゴンよりも怖い敵なのだ。
その作業を目を丸くして見ていたのはランとモモだった。
ランはヤマト国でレオが多くの剣豪を相手にして目にも止まらない速さで剣豪全員を倒し、あまつさえ瞬間移動能力でレオの後ろをとり、剣で刺そうとしたランを無力化― 反対にうしろから抱かれて何もできなかっただけ― したほどの戦闘能力を持っていることは知ってはいたが、バカでかいホワイトドラゴンが二匹入るのに十分な大きさと深さののトンネルを、30分とかからずに掘るほどの力を持っているとは知らなかったのだ。
森の中で木の枝葉をボリボリムシャムシャ際限がないような食欲で食べている二匹のホワイトドラゴン。
“なんだかこの二匹、ここ一週間ほどで一回り大きくなったような気がするな”とレオは思っていた。
レオとアイミを先頭にして洞窟の中に入る。
アイミが上手に口笛を吹く。
“唇をとがらして口笛を吹く顔もかわいいな...”
などとレオが思っていると、奥の方から同じように口笛が聞こえる。
洞窟の奥から出てきたのは二人のエルフ兵士だった。
「アイミ、無事だったか?ギブやほかの者は?」
「アイミ、この方たちは?」
問いかける二人の兵士に、アイミは手短に彼女とギブを残して偵察隊は全滅したこと。そしてレオたちに助けれれ、新しい仲間も増え、これからエスティーナ女王に会いに行って報告をするのだと伝えた。
「そうか... タムル殿もオーノルも亡くなったか... 残念だ」
「わかった。では奥にある移動用魔法陣でエルフの里へ飛んでくれ。ボックズ師もあちらに帰られている。我々はここで次の命令があるまで魔法陣を守りつづける」
「はい。わかりました。あとはよろしくお願いいたします」
「まけせとけ!」
「向こうに行ったら俺たちは元気だと家族に伝えてくれ」
「はい、わかりました。」
一行はさらに奥に行き、壁に2メートル四方ほどの紙のようなもの― 何かの皮をなめしたものに魔法陣が描かれたもの― が掛けられているところに来た。
アイミが詠唱をはじめる… すると魔法陣が淡いオレンジ色の光を放ちはじめた。
なおも詠唱を続けると、魔法陣の真ん中が一瞬強く光り、次にそこにどこかの家の広間らしい光景が現れた。
「さあ、みなさんエルフの里へ行きましょう!」
アイミに続いて魔法陣から出たところは家の広間だった!
ガヤガヤとみんなが話している声が聞こえたのだろう、部屋のドアが開けられ、一人のエルフが顔をのぞかせた。そしてアイミの顔を見ると、大声で叫びはじめた。
「ボックズせんせーい、みんなー、アイミちゃんが帰ってきましたー!」
家の中が急に騒がしくなり、ドタドタと走って来る音が聞こえ、次から次へとエルフたちが広間に集まりはじめた。
「おお、アイミ、無事で帰ってきたか!」
「アイミちゃん、どうだった、偵察は?」
「アイミ、無事だったんだな!」
うれしそうな顔で言ったのはキュィポラ。
ボックズ師の有能な弟子だそうだ。
最初にアイミと亡くなった神衛士オーノルとともにテングノハナ岬にまでドコデモゲートを持っていて設置したボックズ師の弟子だ。
「誰かをすぐに女王様とアイミちゃんのお母さんに知らせに行かせなければ」
「おれが女王様にお知らせに行く!」
「じゃあ、あたしはアフィさんに!」
二人が走って飛び出していった。
そのとき、誰かが広間に入って来た。
みんなが道を開ける。その青いとんがり帽子をかぶったエルフを見たアイミはあいさつをした。
「ボックズ師さま、アイミただ今もどりました。こちらの方たちは、ヤマト国ならびにドワーフ国の勇者さまたちです」
アイミには、レオたちがテラの世界から来たということをしばらくの間かくしておくようにたのんである。そうでないと大騒ぎになるからだ。
必要あると思った場合は、あとで説明するつもりだ。
天才魔法陣設計士と言われるボックズ師は、中年おじさんといった感じのエルフだった。
両手を広げてアイミに近づき、抱きしめる。
「おお、アイミ、よくもどってくれた!ほかの国が送ってくれた戦士の多くが集合地点に着く前に倒されたと聞いて、とても心配していたのだ!」
「まことに残念ですが、イーストランジアまでたどり着くことができたタムルさまとオーノルさまも魔軍との戦いで亡くなられました。私が、いえ、私とギブが生きておりますのは、テラのこの三人、レオさま、カイオさま、それにイザベルさまのおかげです。」
「そうか、そうか。若いのに苦労をしたのう... 勇者殿たち、アイミとギブを守っていただき、たへん感謝する!」
「いえいえ、オレたちがこちらの世界に来たとき、運よく、アイミちゃんとギブがそこに居合わせただけですよ。」
「そうですよ、ボックズ先生。困っている人を助けるのはふつうです。」
「それにしても本当によかった。まあ、つもる話もあるが、それは追々話すとして、女王様がお待ちであろう。早速、宮殿に向かおうではないか。話はそのあとでじゃ。」
「はい!」
ボックズ師の家は、まさしく工房と言った方がよかった。
それとも魔法陣スクールと言った方が適切か?とくかく、ざっと見ただけでも100人くらいのエルフたちが魔法陣の制作に携わっていた。
中央大陸中央大陸北東部のテングノハナ岬からエルフのかくれ里へ一瞬で来れる移動用魔法陣が置いてある広間から、両側にトビラなしの工作室がたくさんある― そこではボックズ師の弟子たちや見習いたちが一生懸命に魔法陣の制作に取り組んでいた― 廊下を渡り、外へ出る大きな扉をあけると、そこにはエルフの楽園があった。
山間にあるエルフの里では、傾斜地に多くの家が建てられている。
谷底にあたる平地の真ん中には川が曲がりくねって流れていて、川の両脇にはなにか作物が植えられており青々とした葉を見せていた。
マハナヤ山脈の中でももっとも高いと言われるガーヤ山の中腹にあるエルフのかくれ里は、そこかしこに花畑があり、色とりどりの花が咲いている。
ガーヤ山の雪解け水が清らかなせせらぎとなって流れており、そのせせらぎにはところどころ小さなアーチ形の木の橋がかかっていて、そこをエルフの親子などが渡っている。
名も知らぬ小鳥のさえずる声が聞こえ、お花畑には蝶々のあとを追う小さなエルフの子どもたちの歓声が聞こえる。エルフの里は標高4千メートルくらいのところにあるので、空気が薄いとアイミが言っていたが、息苦しさなどはまったく感じられない。
レオはそのことを不思議に感じながら、アイミとボックズについて エスティーナ女王の待つ宮殿へ向かう。空はどこまでも青く、気温も快適。まさしく桃源郷だ。
しばらく道を歩くと、前方に三階建ての大きな建物が見えて来た。
やはり傾斜地に建てられているが、長さ百メートルほどの宮殿は白っぽい木を使った木造建てだった。
宮殿に着くまでにアイミが語ってくれたところによると、魔王の軍勢から逃れて中央大陸に渡ったエフィジェンヌ前女王の共をしたのは、カイヒャク師の移動用魔法陣を使っていっしょに逃げることのできた千人ほどのエルフたちだったという。
エフィジェンヌ前女王は二度とエルフたちが魔軍に襲われることがないようにと、とてもたいへんな長い旅をして誰人も容易に近づけないマハナヤ山脈の中腹に新しいエルフの里を作ることを決めたという。
新しいエルフの里を作るにあたって、エルフたちは標高の低いところにある獣人族の小さな町『チェナム』の郊外に仮のエルフ村を作り、そこからガーヤ山中腹の新しいエルフの里候補地へ男たちを送って、エルフの里作りにとりかかったという。
標高4千メートルの高地での作業は言葉では語れないほどの苦労の連続だったらしい。
しかし、トンシー大先生-動物学、植物学、鉱物学、地質学に通じた大博物学者-が作った寒いところでも長時間体を温めることのできるエルフ茶を飲み、エルフ魔術師たちも総出で回復魔法や寒さ耐久魔法を作業をするエルフたちにかけて、がんばってようやくエルフの里が出来たそうだ。




