2-54 モモッタ参上!
若い女性軍人は、青い目、ブロンドの短い髪で頭に赤いベレー帽をかぶっていた。
服装は黒っぽい迷彩服で、膝まである黒いブーツを履いていて、腰にはこれも迷彩色の鞘に収まった剣を下げている。身長はドワーフにしては少し高めの155センチほど。
そして、ドワーフにしてはスマートすぎる体形の女性将校だった。スマートすぎるどころか、人族なみに細い身体だ。
“この娘はドワーフじゃないだろ?”
“この娘、人族?”
カイオ王子もイザベルも思った。
部屋の中に入ってきた若い女性軍人は、踵をカツンと鳴らしてくっつけ、上官たちに敬礼をした。キビキビした動作だ。
「モモッタ、あんた、なんでここにいるの?それにその制服は...」
どういうことか、ラナ将軍が、バンディ少尉を呼びすてにして目を丸くして驚いている。
「まあまあ、落ち着け、ラナ将軍。見てのとおり、 モモッタ少尉はレインボー部隊の隊員じゃ。しかしな… こうなったのは、モモッタなりに深く考え、行動した結果なのじゃ。母親であるおまえが、自分の娘は軍人になってほしくないと思っておったのもワシは知っとるんじゃが...」
なんと、モモッタ少尉はラナ将軍の娘だと言うではないか?
それにしても、1.50メートルにも達しないタルのような体格のラン将軍の娘が、このように細い体だとは?
ガン総司令官― ラナ中将の実父だが- が語ったところによると...
モモッタは生まれてすぐに、やはり軍人であった父を亡くした。
ミッッデンランジアで、ある人族国の軍事顧問をしていた父は、魔軍が侵攻して来た時、士官養成学校の生徒たちを守って死んだのだ。
妻のラナはすでに軍人だったが、夫の死を悲しみながらも魔軍との戦いで勝つことが亡き夫への最高のはなむけになると考え、一人娘のモモッタを母あずけっぱなしにして戦いに次ぐ戦いの年月を送った。
モモッタはそんな母をとても尊敬し、人族の生徒をかばって亡くなった父のこともたいへん誇りに思っていた。
しかし、1年に1、2度休暇で帰って来る母は、いつもモモッタに“軍人にだけはなっちゃダメだよ”といつも言って聞かせていた。
母親であるラナにしてみれば、ふつうに学校を出て、ふつうの仕事に就いて、ふつうにステキなドワーフの彼氏を見つけて、ふつうの平凡な家庭の妻になり、幸せな家庭を築いてほしかったのだろう。
だが、小さいころからモモッタが心に抱いてきた夢- 父や母のように立派な、国を人を守る軍人になりたいという気持ちは一日たりとも忘れることはなかった。
そして、悩みに悩んだ末に、ある日、モモッタはおばあちゃんに自分の夢を話したのだ。
おばあちゃんは最初とても驚いたが、孫の決心が固いことを知ると夫― ガン将軍と話してくれた。
ガン将軍もランの気持ちをよく知っていたため、孫のモモッタが軍人になることには大反対だったが、妻に説き伏せられてある条件を達成することができたら、おじいちゃんからお母さんに話してあげよう、と約束した。
その条件というのは、ドワーフ陸軍士官養成学校に入って3番以内の成績で卒業するということだった。
身体こそ細かったが、どこにそんなに力があるのかと士官学校の教師や同級生がおどろくほど力があったモモッタは、わずか14歳で士官学校の入学試験を受けトップの成績で入学。
入学後もその知能の高さとバツグンの身体能力でもって3年かかる課程を1年で終えた― それも首席で。ドワーフ国軍士官学校の開校以来最年少での卒業だったそうだ。
15歳で士官学校を卒業すると同時に、ドワーフ国軍の中でもっとも訓練が厳しいと評判のレインボー部隊に、士官学校校長のドワ・グルス・ドンデン・ルガーボ中将の推薦状で入隊。レインボー部隊では、推薦状に関係なく入隊テストを行ったが、体力、知力とも抜群の成績で合格した。
モモッタは荒くれドワーフ野郎だらけの中の紅一点 ―いや正確には女子は2名いたので二点だが― だったが。
訓練は荒くれドワーフたちさえ泣き出すような厳しいものだった。
志願者の半分以上が脱落するというレインボー部隊の訓練を6ヵ月やり抜いたあと、レインボー部隊で“戦闘実地訓練”と称する「実戦体験」のためほかの隊員たちとともにミッッデンランジアに送りこまれ、戦地で6ヵ月間戦闘に参加して無事帰還。
ちなみに、大陸における「実戦体験」では、モモッタ少尉の判断力、統率力、戦闘能力のおかげで今期のレインボー部隊は1名の戦死者も出さなかったとして『勇敢なドワーフ兵士章』をレインボー部隊の隊長から授かっている。
そして、今回、ドワーフ軍前線にとてつもない能力の“異世界の勇者たち”が現れ、魔軍を蹴散らしたとおじいちゃん― ガン総司令官から聞いて、居ても立っても居られず、母親であるラナ将軍の指揮する南部兵団のところへ行こうとした矢先、“異世界の勇者たち”が国軍司令部に来ると聞いて、今日、勇者たちといっしょに戦わせてほしいと頼みに来たのだ。
「というわけだ、ラナ将軍。これだけがんばって来たんじゃ、バンディ少尉、いやモモッタの願いを聞いてやってくれ、ラナ!」
一人前の立派な戦士となったわが娘をじっと見つめるラナ将軍。
「わかりました、お父さん。しかし、私が許しても勇者の皆さんがどう思われるかです!」
「ボクは異存はないよ!」
「私も。すでにエルフのアイミも獣人族のギブも仲間だし。レオも賛成すると思うわ。」
「まあ、レオは美女には弱いから問題ないよ...」
カイオとイザベルが即答する。
「グァーハハハハハハ!そうか、そうか!母親似で美人でよかったのう?!」
「もう... なにを言っているの、おじいちゃん!」
「そうだ、そうだ、顔は私に似て、頭がいいのはおじいちゃんに似たんだよ! ガッハッハッハ!」
ラナ将軍も緊張がほぐれたのか、父親のガン総司令官に負けずに大声で笑いだした。
モモッタも顔を赤くしながらうれしそうだ。
「これからよろしくな、モモッタさん!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします、カイオ王子。」
「私もよろしくね、モモちゃん!」
「えっ、モモちゃん?!」
バンディ少尉が面食らった顔になってイザベルを見る。
「あなたドワーフ軍での経験はもうかなりあるみたいだけど、まだ私より一つ下の16歳でしょう?」
「あ、はい...」
「じゃあ、女の子らしくモモちゃんでいいじゃない? 私たちは軍隊じゃないんだから、少尉とか階級名で呼ばないしね!」
「あー、それいいね!」
カイオもバンディ少尉の新しい呼び名に大賛成のようだ。
「おう、“モモちゃん”の方がかわいくて、婿さんも早く見つかりそうじゃな?」
ガン総司令官- いや、おじいちゃんの一言で、バンディ少尉の愛称はモモに決まってしまった!
その夜。
一行は『名もない兵士亭』という料亭のような店の三階の個室にいた。
ガン総司令官を上座にして、その右側にカイオ、イザベル、そしてモモ。
左側にラナ将軍、ミナ、ロン。
ちなみにガン総司令官の両隣には、ドワーフ美女が二人いて、お酒をついだり、料理を総司令官のお口にもっていったりしている。まあ、どこの世界でもこういうところはお馴染みの風景だ。
テーブルの上には、山鳥の丸焼き、何かの串焼き、それにキノコや山菜を煮たものや、焼いたものなどがところせましと並んでいる。
なんでも、この料亭は昔、ガン将軍といっしょに戦って、右足と右腕を戦いでなくした元戦友が退役後に妻といっしょに開いたものだという。
ギンさんと呼ばれるそのドワーフ人は、当時、『勇敢なドワーフ兵士章』を軍から贈られたが、「兵士が戦地で戦って手足をなくして戦えなくなるってのは、恥ずかしいことだ。こんなことで章なんて受け取れん!」と固く辞退したそうだ。
それでギンさんがこの店を開いたとき、店の名前もつけずにこじんまりとはじめたのを元戦友たちが見つけて、ギンさんの生活を助けてあげようと軍の仲間たちに口コミして客が増えるのを手伝ったとか。
そのときに誰がいうともなく『名もない兵士の店』と呼ぶようになって、それが店の名前になったのだそうだ。ちなみに、今でも店の看板はなく、店を知らないものはここに料亭があるなんて気づきもしない。おかげでギンさんの妻の上手な経営もあって繁盛し、今では三階建てにまで増築している。
ギンさんは先ほどまでいたが、内々だけの話もあるだろうと気を利かせて階下に降りて行った。
テーブルには当然お酒もあり、ラナ将軍もミナもロンもドワーフ軍人らしいの飲みっぷりで次々とボトルを空にしていたが、ガン総司令官は一人だけ上機嫌でギンさんがもってきた小樽を横に置いて、その酒をドワーフ美女たちについでもらって飲んでいた。
ガンさんに一番近いカイオが湯飲みのようなコップをのぞてみると、なんだか白く濁った液体が入っている。
「ガン総司令官、それはお酒ですか?」
「ああ、これはな、ニゴリ酒といってな、ヤマト国からコメという穀物の種をギンさんが取り寄せて、郊外のドワーフ農家にたのんで栽培して収穫した実-正確には種だが- を炊いてカビを植えつけて発酵させたものだ」
「へーえ… そんなお酒もあるんですね」
「うまいぞ、飲んでみるか?」
「いえ、まだ未成年なんで飲めません」
「なにィ、未成年?ドワーフでは15からみんな飲んどるぞ?」
「えっ、15歳から?」
「このラナなんぞ、12歳から飲んどるわ」
「ちょ、ちょっとお父さん、何を言っているの?それじゃまるで私がのん兵衛みたいじゃない!」
「なにを言うとる?お前は生まれつきのん兵衛じゃろうが?」
「ちがいない、ちがいない、アーハッハッハッ!」
「ギャハハハハ!」
「ガッハッハッハ!」
「グワッハッハッハ!」
「あっはははは!」
「なーんだ、お母さん子どもの時からのん兵衛だったんだ、あっはっはっは!」
「こらーっ、母親をからかってから!なんて娘だい!」
「グワッハッハッハ!」
「ギャハハハハ!」
「ガッハッハッハ!」
「あーははは!」
またひとしきり笑いが続く。
イザベルもモモもお酒は飲まず― モモは祖父譲り、母親譲りで将来大酒飲みになるかも知れないが- もっぱらご馳走を食べることに専念している。
「あのね、モモ...」
「なあに、イザ?」
二人とも、もうおたがいを愛称で呼びあうほど仲良くなっている。
「あなた、私たち勇者の仲間になったでしょ?」
「うん。なったけど...?」
「でね、勇者になると自分や仲間のステータスを見ることができるのよ」
「えっ、なになに、そのステータスっていうの?初めて聞くんだけど?」
「私たちの体力、能力、装備などの状態を示すものよ。ためしに“ステータス表示”と念じてみて」
「“ステータス表示”っと... ワォっ、これナニ?目の前におかしな文字や数字が現れたんだけど?」
《モモッタ:ステータス》
《装備》
E 剣
E 迷彩服
E 黒皮ブーツ
特技: 高レベル身体能力、高速反応、高速移動、高速攻撃/防御 龍人能力(‐)
「それがあなたの体力、防御力、戦闘能力や知力などよ。レベルは強さの段階、HPは体力。HPが0になってしまうと、死んだり戦闘不能になったりするから気をつけないとね。MPは魔力。魔法などを使うときに消費するけど、休息すれば回復するわ。HPも同じよ。STRは... 」
一つ一つの項目についてイザベルの説明を受けながら、モモは目をキラキラさせながらしきりに感心したりうなずいたりしている。
「能力をたくさん使ったり、戦いをしたりすれば、どんどんレベルアップしてさらに強くなるの」
「どうして、こんなものが見えるようになったのかしら?」
「それは勇者たちには、ミィテラの世界で果たさなければならない大事な使命 -魔王がミィテラの世界をわが物にしようとする野望を砕く- のために、魔王の手先たちとの戦において常に自分の状態をセルフコントロールするためと、もし仲間の誰かが危険な状態になったらヘルプしてあげれるためよ。」
「そっか。よくわかったよ、イザ。ありがとう!」
モモも厳しい軍事訓練を受け、戦地で戦った経験もあるので、自分の状態を常に把握し、いっしょに戦っている兵士仲間の状態を把握することが、任務遂行においてたいへん重要だということを十分知っていた。
そういう意味からも、魔軍と戦う者にとってこのステータスウインドウは不可欠なものだと感じていた。




