2-53 首都ガラガス
ドワーフ軍の“ヒミツ兵器”軌道輸送車は、トンネルを数十キロ走ってから地上に出た。
カイオとイザベルは、物珍しそうに窓から景色を見ている。ドワーフ国は国土の70パーセントが山脈地域で占められているため、地上に出た軌道輸送車も何度も何度も山をくぐるトンネルを通過する。
ドワーフ国はミィテラの世界でも屈指の鉱石産出国でもあり、鉄、銅、鉛、鉄鉱、スズ、亜鉛などはもちろん金鉱、銀、宝石などの鉱床も多くあるという。そのほかにも燃料に使う火石(石炭)も無尽蔵といっていいほどある。この地下資源の豊富さも魔王がドワーフ国征服を狙う目的の一つなのだが。
「うーむむむむ...」
ラナ将軍が長い椅子から半身を起こし手を伸ばし、背を伸ばした。
そしてミナが金属製のカップに入れて差し出した熱いお茶を目を細めて飲みながらカイオとイザベルを見ながら
「どうだ。ミナとロンの説明でわが軍の状況はよく分かったかね?」と聞いた。
「えっ、ラナ将軍はぐっすり休んでおられたんじゃなかったんですか?」
「ガーッハッハッハ!将たるものは体は休んでいても頭は完全に眠ってはないんだ。とくに耳は絶対に眠らせてはいかん。ガーッハッハッハ!」
首都ガラガス
それから数時間後、朝になって軌道輸送車は首都グラガスに到着した。
すぐに迎えに来ていた馬車に乗ってドワーフ国軍総司令部へ向かう。
「さすがにドワーフ国の首都だけあって、どこもここもドワーフばかりだな!」
「カイオったら、バカみたいなこと言っていたら、みんなに笑われるわ!」
「ガーッハッハッハ!ドワーフばかりか、そりゃ愉快だな!」
「アーハッハッハッハッ!カイオ殿は気楽な性分だね!」
「ワーハッハッハッハッハッ!」
はたしてみんなから笑われてしまった。
イザベルは自分が笑われたのではないのに、顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
「あーはっは!イザベルが恥ずかしがってどうするんだ?」
カイオがイザベルを指さしながらからかう。
「あなたがバカみたいなことを言うから、笑われているんじゃない!」
「戦いでは死ぬか生きるかだから、たまにはバカらしい、アホらしいことを言って思う存分笑うんだよ!」
「そうだそうだ。たまにはアホなことを言ってバカ笑いしたり、酒を飲んでどんちゃん騒ぎなどをしたりしなければ軍人はやっていけないからな?」とミナがカイオに同意する。
ドワーフ国の首都だけあって、さすがに活気があり賑やかだ。
ミナによれば、グラガスの人口は40万近いそうだ。ドワーフ国の経済を支えているのは、やはり鉄鋼製品、銅、錫、火石(石炭)などの生産・輸出だそうだ。
しばらく街の中を走った馬車は、衛兵のいる立派な門を、馬車がかざしている中将旗でフリーパスして国防本部の荘重な大理石造り建物の前に横付けした。
大理石の階段を上がって中に入り広い廊下をしばらく歩き、大きな部屋に入った。
そこはどうやら作戦本部らしく、壁にも大きなテーブルにもさまざまな地図があった。
ラナ将軍たちが入ると、二十人ほどいた将校たちが皆敬礼をした。
ラナは中将だし、ミナもロンも少将なのだ。
ラナ将軍たちも答礼をし、さらに奥に進み、とある部屋の前に行きドアをノックした。
「ガン総司令官、ラナです。」
「おう、入ってくれ!」
太い声が中から聞こえた。
「秘策があります!」
ドワーフ国軍総司令官ドワ・ジロン・ガンタレーパ・バンディ大将― 通称ガン将軍に会い、ラナ将軍からそれぞれ紹介、イザベルとカイオ王子が南部兵団に現れた経緯を話したあとで、ラナ将軍は単刀直入に言った。
「ほーう、秘策?ヒサクとかヒミツ兵器とかはいい響きがするな、グァーハハハハハハ!」
ラナ将軍の豪傑笑いは父親譲りらしい。ひとしきり大声で笑ったあとで、身長より横幅の方が広そうな、恰幅のいいガン総司令官は鋭どい目でイザベルとカイオを見た。
「秘策と言えば、ラナ将軍が急いで作らせている例のモノも関係あるのじゃろ? なんでも大量に作って毎日どんどん前線に送りこんでおるらしいが。あれは製造に手間がかからんからいいし、ラナ将軍たちには盾隊とかトンネル隊とか軌道輸送車とかの妙案でドワーフ軍を大いに助けてもろうとるから、わが軍が勝利の道を進むために必要なのであれば、何でも自由に作らせるだけの権限ををあたえおる!」
「ガン総司令官、それについては我ら南部兵力団もたいへん感謝しております。」
「まあ、それは当然のことなので礼を言われるまでもない。で、その秘策とはどんなものかね?」
それからイザベルとカイオは秘策について詳細に説明をはじめた。
「グァーハハハハハハ! それはすばらしい秘策だ!ラナ将軍からの報告書で、そなたたちはとてつもない戦闘能力をもっておると聞いたが、それと組み合わせれば、この秘策は万全じゃな!」
「それにヤマト軍も、わが軍と呼応して秘策を使って反撃を開始するそうです」ラナ将軍が付け足す。
「よーし、これでイーストランジアにおける魔軍はみんな海へ追い落とすことができるな!」
「はい。あとは準備を万全に行って、イザベル殿たちが決めておられる作戦決行日に反攻を開始するだけです!」
「うむ。結構だ」
「ところで、エスティーナ女王殿の要請に応じて、わが軍から送り出したドワーフ軍戦士たちはどうしているかな? 貴公らの話では、そのエルフの魔術師はエルフ国の偵察隊の生き残りだと言っていたが?」
と、ガン総司令官は偵察隊に合流させるべく選抜し、ミッッデンランジアに送った戦士たちのことを聞いた。
「ガン総司令官さま、残念ながら、その方たちは魔軍との戦闘で、ゴメヌさま以外は全員ミッッデンランジアでの戦闘ならびにヤマト海からイーストランジアに船で渡る際にブラックドラゴンに襲われて亡くなられたそうです。そしてただ一人生き残られましたゴメヌさまも聖域での戦闘で...」
「そうか... こちらから送った者は全員戦死したか... 誠に残念だ。国軍業務局に伝えて遺族に連絡するとともに、弔慰金や遺族年金などの手続きをすぐとらせよう。」
「たいへん悲しい報告をすることになって申し訳ございません。」
「いや、カイオ王子とやら、そなたが謝ることではない。戦士たるもの、一度家をあとにしたらいつ倒れるかもしれないという事を覚悟しておる。エスティーナ女王殿にもその旨をよく伝えて欲しい。」
「かたじけなく思います、総司令官さま。」
「カイオ王子殿もイザベル殿もまだ若いのによく出来ておるのう。さぞやお父上たちの信頼も厚いことであろう!」
「いえ、わたしなどまだ皆さまにご迷惑をかけてばかりです。」
「ううむ。ワシにまだ独身の子どもか孫がおれば、カイオ王子を婿に向かえるか、イザベル殿を嫁にもらうんじゃが、独り者は孫娘だけでなァ、残念じゃ!」
「ガン総司令官、なにを言っているんですか? カイオ殿もイザベル殿も、嫁探しや婿探しにドワーフ国に来たわけではありませんよ!」
ラナ将軍が父親がおかしなことを言いはじめる前にストップをかける。
「あー、気にせんでくれ!」
「あ、はい。」
「はあ...」
「うむ。それでは後ほど、いつものところに行ってメシでも食うか?」
「はっ。夜8時ころでよろしいですね?」
「うむ。それでついでだが、カイオ殿とイザベル殿にワシの方から一つたのみがあるんじゃが...」
「えっ、総司令官のお願いですか?」
「総司令官のお願いでしたら、私たちにできる限りのことであれば、引き受けさせて頂きたいと思います」
「そうか! バンディ少尉、入って来なさい」
“バンディ少尉”と聞いて、ラナ将軍は椅子から立ち上がった。
「ダルーシ・モモッタ・ロウ・バンディ少尉、入ります!」
総司令官室の脇のドアを開けて一人の若い女性将校が入って来た。




