1-07 りょうしのむすこのステータス?
守護天使シーノから、「マスターの寿命は100分の1になった」と聞いて顔面蒼白となり、少々パニック状態になったレオに一向に構わうこともなく、シーノは冷酷とも言えることをさらっと言った。
(ゆっくりお母さんのおっぱいを吸って育っていったら、乳離しないうちに1年経って死んじゃいますよ)
(ゲッ… ようやくヨチヨチ歩きができるようになった頃に死ぬなんて最悪のバッドゲームじゃん!)
(でしょう?)
(......)
1年以内にクリアするって、どうやればいいんだ?
だけどDKXの世界での冒険は始まったばかりだし、クヨクヨ悲観的に考えてもしかたない…
などと考えながら服を着終わり、イスの上にあったこれも粗い厚手のウールの帽子を頭にかぶり、ベッドの下にあった革製のサンダルを履く。
(それにしても、16歳からのスタートで、名も顔も知らない親たちの子どもって、ちょっと無謀な設定じゃない?)
さっき聞こうと思っていたことを思い出して聞いてみた。
(状況が状況ですから)
すました顔でシーノは答える。
(で、どうやってこの世界でオレの両親という設定になっている人たちに、オレがその人たちの子どもだって思い込ませているんだよ?)
(記憶を刷り込ませただけです。いたってシンプル)
(ゲッ… そんなこともできるんだ)
(当たり前でしょう?エタナール様は万物の創造主ですよ)
(いやァ、想像以上の能力だな)
(ちなみに、この世界の人や動物などで、あなたと関係があるものたちにはすでに同じ処置が施されています)
(メチャ完璧主義じゃん!)
(ふふふ。エタナール様のなさる仕事に中途半端な事などありません)
誇らしげに、小さくちょっと上を向いている鼻をさらに上に向かせてのたまう守護天使だった。
レオは窓際にあった小さな机の引き出しを開けた。
中にはビー玉と波辺で拾ったらしいきれいな石と貝殻が入っていた。
次に壁際の古い洋服ダンスを開く。中には、ウール製の服が何着か木製のハンガーに吊るしてあった。その下にある引き出しの中には、下着や靴下などが入っていた。
「ないな...」
(マスター、何を探しているんですか?)
(うん。DK7では、オレの部屋に「やくそう」とか「まもりのたね」とか「G」とかあるじゃん?)
(マスター… ここはDK7の世界じゃないんですよ?そんなモノ見つかるはずがないじゃないですか?)
(ええええーっ、ないのかよー!)
期待が外れて、拍子抜けのレオ。
「レオ―、なにをグズグズしているの!早く降りて来なさい!」
階下からふたたびサラ母さんの叫び声が聞こえる。
“しかたない。収穫なしだが、最初のクエストをこなすか...”
そんなことを考えながら、階段を降りようと思ってふと気がついた。
(シーノ、お前、オレのポケットかどこかに隠れた方がいいんじゃないか?)
(だいじょうぶよ。私はマスターにしか見えないから)
(あ、そうなの。それは便利だな)
(まあ、見せようと思ったら見せれるんだけど…)
(いやいや、それはお願いだからやめてくれ。ややこしい説明とか母親にも誰にもしたくないし)
(なら、このままで行きましょう)
(おケー)
階下に降りると、台所では一人のちょっと太った中年の女性がせっせと何かをやっていた。
どうやら彼女がオレの母親役のサラさんらしい。
「よしっ ちゃんと目が さめたようだね!」
「ウン」
「顔を洗って、サンドを食べたら、父さんにお弁当を届けてちょうだい」
「いいよ、母さん」
洗面所に行きながら返事をし、小ダルにためてあった水を洗面台にある浅くてちょっと広い桶に移してバシャバシャと顔を洗い、壁に下げてあったタオルのような布で拭いて台所にもどってテーブルについた。
木製のシンプルなテーブルの上には木皿があり、ちょっと厚目のピザみたいなのが2枚重ねられた食べ物があり、真ん中を包丁で二つに切って食べやすくしていた。2枚重ねられたピザ風なもの間には赤っぽいペースト状のものが挟んであった。
(この中にあるのは生ハンバーグなのかい?)
(あー、それはね、ボニートという赤みの魚のお肉を小さく切って、それにニンニク、塩、胡椒など調味料を加えてオリーブオイル漬けしたもので、お父さんも、レオも大好物の食べ物よ)
(えっ、オレってそんなモノが好物だったの?)
(前世の好物なんて知らないわ。この世界ではそういう設定になっているの)
(なんだか都合のいい設定みたいだな。でも、そのボニートっていう魚は…)
(あー、それはあなたの元の世界でカツオって呼ばれていた魚のことね!)
(なんだ、カツオのオイル漬けかい!)
(そうとも呼ぶ)
(じゃあ初めから、そう言ってくれ!)
(そうしたら、この世界の名詞を憶えれないでしょう?)
(それもそうだ。じゃあ、安心して食べていいんだな)
(グッド ブレックファースト!)
ピザのようなパンはアラブ人が食べるホブズに食感が似ていた。
たぶん酵母菌を使わず小麦粉を練って焼いただけなのだろう。あまり柔らかくはないが、モチモチしていて、ちょっと塩味がしてけっこうイケル。
ボニートのオイル漬けをすり潰してペーストにしたものは、意外とおいしかった。
まったく臭みがないし、オニオン、ペッパーなどの調味料がほどよく効いていて、食欲をさらにすすめる。テーブルにある素焼きのポットにはお茶かジュースが入っているのだろう。
素焼きのポットにはいっていたものを、これも素焼きのコップに注いで見るとレモンのような香りとはちみつ独特の甘い匂いがする飲み物だった。
飲んでみると、レモンのさわやかな酸味とコクがあってあっさりとしたべっこう飴のような香りが口中に広がった。
「あー、おいしかった!」
予想以上にうまかった朝食への賛辞が思わず口に出た。
「レオはいつも母さんの作る料理をおいしそうに食べてくれるから、母さんもうれしいよ」
サラ母さんは木でできた弁当箱みたいな(それもかなり大きい!)をフロシキのような柄物の布の真ん中に置いて、その上にコルクでフタがされている素焼きの口の細い瓶を立て、四つ結びで包みながらニコニコ顔で言った。
「食べ終わったのなら、早くこれを父さんに届けてやってちょうだい。父さんの大好きなボニートのオイル漬けのサンドのお弁当だよ」
「ウン」
フロシキ包みを母親から受け取る。かなり重い。
“オヤジはかなり大飯食いなんだな…”
なんて考えていたら、シーノがレオに言った。
(レオ、“ステータス表示”と念じてみて)
(ン?)
よくわからないまま“ステータス表示”と心の中で念じたら
目の前に四角いウインドーが現れた!
レオ・ステータスLV1