2-49 ドワーフ軍攻防史①
ドワーフ軍と魔軍の戦いの歴史です。
なぜラナ将軍がドワーフ国軍の中で“名将軍”と呼ばれるようになったかがわかります。
カイオ王子とイザベルの驚いた顔を見ながら、ラナ将軍は説明する。
「ドワーフ国軍は、「国民総戦士令」を発令し魔軍戦を勝利すべく全国民が何らかの形で戦いに貢献しているのだ!」
「「国民総戦士令?」」
カイオとイザベルがハモる。
「子ども以外は全員、女といえど訓練をうけて戦線に送りこまれる。今見られたように、軌道輸送車を使ってわが軍の各前線基地には、毎日続々と新たな兵力が送りこまれている。」
「ここだけ増援が来ているというわけではないんですね?」
「うむ。敵が気づかぬ間に我々は 軌道輸送車をどんどん延長拡大し、兵員と補給物質を送りつつあるのだ。これがドワーフ国軍が魔軍を押し返している最大の要因となっている。」
ラナ将軍が軌道輸送車と呼ぶ鉄箱列車を見ていると、先頭の鉄箱に立ってドワーフ兵たちの乗り降りを見ていた一人のドワーフ下士官が、後列の鉄箱の中に残っていたドワーフ兵たちに号令した。
「点検結果を報告せよ!」
「一番車、異常なし!」
「二番車、異常なし!」
「三番車、異常なし!」…
と次々に30番者まで報告する。
一つの鉄箱に8名ずつなので全員で240名だ。
いずれもふつうのドワーフ兵より腕の筋肉が隆々としている。
それを確認したドワーフ下士官。
「全員降車!のち休息所へ向かえ!」
「おおう!」
同じく降車するとドドドドっと階段を上がってたちまち消える。
すると入れ替わるように、別の屈強なドワーフたちが、別の下士官に引率されて降りて来た。
それぞれ8名ずつ鉄箱の前に配置する。
「全員、乗車!」
下士官の命令とともに全員鉄箱に乗る。
「全員、位置につけ!」
「「「「「「「おおう!」」」」」」」
見ていると、3両目の鉄箱に、先ほど積み荷の上げ下ろしをしていたドワーフ兵士たちが何やらもって来て鉄箱につけはじめた。ガラス窓付きの天蓋、ソファー、椅子、テーブルのほかに家具みたいなものまで鉄箱の中に据え付けている。
たぶん、エライ人さん用の快適旅行キットなのだろう。数分とかからずにすべてつけ終えた。
カイオ王子もイザベルも、“ああ、あの鉄箱がラナ将軍用特別鉄箱になるんだな!”と思った。
ドワーフ兵士たちの取付作業を見ていたドワーフ下士官は、取り付けが完了したのを確認するとラナ将軍に向かって敬礼をして報告した。
「ラナ将軍、取り付け完了いたしました。どうぞご乗車ください!」
「うむ。ご苦労!」
ラナ将軍はカイオ王子とイザベルを見て言った。
「さあ、わが軍のヒミツ兵器、軌道輸送車に乗ろうか?」
「は、はい。」
「はい!」
5人は3両目の鉄箱に乗った。
それを確認した下士官。
「出発用意ーっ!」と怒鳴る。
「「「「「「「おおおう!」」」」」」」
240名の屈強なドワーフたちが叫び声をあげる。
そして、4人一組で鉄箱の前後にあるカバー付きのハンドルのような者をみな一斉に回し始めた。
見る見る屈強なドワーフたちの顔は真っ赤になりはじめる。
ゴトン…
音を立てて鉄箱列車は動き始めた。
ゴトン、ゴトン…
ゆっくりとだが鉄箱列車は次第に速度をあげ始める。
ハンドルにとりついたドワーフたちのハンドルを回すスピードが徐々に速くなる。加速がついているのだろう。屈強なドワーフたちの顔からは汗が滴り落ちているが、誰一人としてハンドルのようなものを回す手を休めない。
「ハッ、ホッ!ハッ、ホッ!ハッ、ホッ!...」
かけ声を上げながら、さらに回す速度を上げて行く。
ゴトトン、ゴトトン、ゴトトン、ゴトトン…
かけ声の感覚がさらに速くなり、軌道輸送車の速度もそれに増して上がって行く。
「ハッホッ!ハッホッ!ハッホッ!ハッホッ!...」
ゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴトゴト...
「どうだ、わが軍のヒミツ兵器、軌道輸送車の乗り心地は?」
ミナ師団長が誇らしげにイザベルとカイオに聞く。
「すごいです!驚きました。ドワーフ国って進んでいるのですね?」
「これだけの輸送車を首都に着くまで休みなしで走らせ続けるんですか?」
「ああ、ふつうは途中で5回ほど止まるのだがな。今回は貴殿らを乗せておるので直行だ!」
ラナ将軍が平然と答える。
「あの... ハンドルを回しているドワーフの方たち、疲れないんですか?」
「ああ、あいつらか。ある程度速度がついたらあとは楽だから、交代で休むのだ。」
「我々は一日や二日くらい寝なくとも休まずとも戦うことができるから、あんなものを10時間程度回すくらいなんでもない!」
「そ、そうですか...」
「直行だともっと早いから8時間くらいだから、ひと眠りをしている間に着くかも知れんのう。ガーッハッハッハ!」
相変わらず、豪快に笑うラナ将軍だった。
ー ∞ -
トンネルを抜けるとそこはドワーフ国だった。
ラナ将軍によると、南の兵団司令部から首都グラガスまでは600キロちょっとの距離だという。
この数か月でラナ将軍率いるドワーフ軍南部兵団は、イーストランジア西部戦線において魔軍を100キロほど後退させたという。
「おかげでグラガスが100キロほど遠くなった! ガーッハッハッハ!」豪快に笑う将軍。
思いっきり笑ったあと、静かになったと思ったら...
グーガー... グーガ―... と鼾をかいて寝ていた!
ラナ将軍が居眠りしている間、ミナ師団長とロン師団長が代わるがわる2年前に魔軍がイーストランジアに攻め込んできてからの戦いについて話してくれた。
当初、魔軍はヤマト国に侵攻したときと同じようにドワーフ国へ西部海岸から上陸を図った。そこからだと首都グラガスまではわずか100キロしかないからだ。
しかし、当時、ドワーフ国の西部を守っていたのは、ラナ将軍の父ドワ・ジロン・ガンタレーパ・バンディ中将、通称ガン将軍だった。
彼は魔軍上陸の報告を受けると、即座に部下であったラナ少将に2個師団10万名のドワーフ兵を率いて迎え撃つように命令した。
実はガン将軍は、いつの日か魔軍がドワーフへ攻め込むことを予測して、緻密な防衛作戦を立てていたのだ。




