2-48 軌道輸送車
「イ、イザ...???」
なにを言い出すんだ、とカイオ王子が言おうとしたが、イザベルは無視して続けた。
「私が昨夜からずっと魔軍に炎の雨を降らして焼き払っていたとき、逃れた魔軍どもはすべてここにいるカイオ王子と300頭の銀狼たちが始末してくれたんですよ?」
「なに?カイオ殿は王子なのか?」
「300頭の銀狼が?」
「そうです。銀狼たちは、魔軍を一匹として後方に逃がしていませんよ。だから、魔軍本部は北部前線で何が起こったか詳細を知らないはずです。たぶん、あなたたちドワーフ軍の総攻撃とでも思っているのではないかしら?」
「ガーッハッハッハ!われわれの総攻撃と思っていると? ガーッハッハッハ!それは面白い!」
「兵団長、笑っている場合じゃないですよ!」
ミナ師団長が食ってかかる。
「イザベル殿は、支援さえあれば魔軍の本拠地まで攻め入れると言っているのですよ?」
「ドワーフ軍の戦士さんたちが、300頭の銀狼さんたちの見事な働きに匹敵する働きをしてくれればね!」
「ガーッハッハッハ!よい、よい。イザベル殿はハッタリをかますようなお方じゃないだろう。イザベル殿は若いにもかかわらず大へん勇敢で、賢いオナゴのようだ。その目を見れば人を欺くようなオナゴでなないということがよく分かる!」
「はっ。」
「兵団長がそうおっしゃるなら。」
「イザベル殿たちの戦力についての信頼性には問題ないと思うが、先ほど話された作戦については、やはり国防軍本部に報告し、裁可を仰ぐべきだな。」
「わたしもそう思う。」
「俺も同じ意見だ。」
「それがいい。」
師団長たち全員がラナ兵団長の言葉に賛同した。
「それでは、人族の勇士たちをちょっくら国防軍本部にまで連れて行くか!」
「国防軍本部って、この近くにあるんですか?」
「いや、こんな危険な前線の近くにあるはずもなかろう。首都グラガスにあるんだよ!」
ロン師団長が答える。
「えっ、ラナ将軍、グラガスってここからだいぶ距離があるんじゃないですか?」
「ああ、普通で行ったら20日ほどかかるがな...」
「それじゃあ私たちが作戦で予定している日に間に合いませんよ、ラナ将軍?」
「あー、それは心配せんでもよろしい。わが軍のヒミツ兵器で10時間もあれば着ける!」
「えっ、10時間?!」
「あの、それって銀狼さんみたいな動物に引っ張らせる馬車ですか?」
「馬車ぁ? ガーハッハハ!それは面白そうだが、だが、馬は長時間走れんし、あのような大きなオオカミはこの辺にはおらんし、おっても飼いならしようもないしな。ガーハッハハ!」
よく笑う司令官だ。
「では...?」
「まあ、あたしについて来な。おう、ミナとロンはいっしょに来い。ズンとボビ、あとはよろしく頼むぞ!」
「はっ。おまかせください!」
「はっ。いってらっしゃいませ!」
ラナ将軍は先に立ってさっさと歩き始めた。
ギブはアイミがいつこちらに来るかわからないというのと、銀狼たちを彼らだけにしておくのはかわいそうだと言って残ることになった。
たぶん、あれはアイミ云々というのは言い訳で、白銀狼のキャネリーのそばを離れたくないというのが本心だろう。ギブも青春真っただ中の思春期人狼なのだ。
洞窟内を何層か階段を降りて行くと、平坦な通路に出た。
壁にはところどころにランプがつけられているので結構明るい。
その通路には担架に乗せられたりイスに座ったりしているドワーフ兵士が百人ほどいた。
中には負傷兵らしい者も数十人いて包帯を巻いたり、衛生兵などが付き添ったりしている。
ラナ将軍が通路に現れると、負傷兵たちや衛生兵たちが敬礼をする。
「あー、構わん、構わん。そのままでいいぞ!」
ラナ将軍は気さくに声をかける。
そして負傷兵のそばに行くと「傷の具合はどうだ?」とか「痛むか?」とか「よく頑張ってくれたな!」とか気さくに励ましの言葉をかけている。
負傷兵も「なに、これくらいの傷、すぐに治して帰ってきますよ」とか「さっさと義手をつけてもらいます」とか「次はもっと魔族をやっつけます」とか元気に答えている。
この女傑将軍、ドワーフ兵の間ではかなり人望があるようだ。
通路の長さは300メートル以上はあるだろう。
かなり長い。通路の幅は10メートルほどでその端は1メートルほど低くなっており、その低いところには上部が少し平べったく細長い鉄製らしい物が150センチほどの間隔で平行してずらーっと置いてあり、さらにその下には分厚い角材が等間隔で並べられていて、その二列の細長い鉄はちょうどその角材の上に乗っている感じだ。
細長い鉄はところどころ継ぎ目らしいものがあるが、それはずーっとトンネルの先で暗くて見えなくなっているところまで続いていた。
“これがドワーフ軍の秘密兵器?...”
などとカイオたちが思って見ていると、トンネルの端の方から小さな音が聞こえて来た。
コトンコトンコトンコトンコトンコトン...
次第にその音は大きくなり
ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…
と聞こえはじめ、やがて先ほどまで暗かったトンネルの先に小さくランプの光が見えて来て、それがどんどん近づいて来た。
ガタン、ガタン、ガタン、ガタン、ガタン...
うるさい音をたてて、鉄製の大きな箱らしいものが数珠つなぎになっているものが、低いところにある二本の上面が平たく細長い鉄の上を走ってきた。それぞれの箱の中にはドワーフ兵がいっぱい乗っている。
ギギギギギィィィィ…
耳が痛くなるような音が数十秒続くと、その鉄製の大きな箱の列は止まった。
「全員降車!全員降車!」
先頭の鉄箱に乗っていた指揮官らしいドワーフ将校がどなると、
ドワーフ兵たちがわれ先にと通路― プラットフォームに飛び降りる。
「整列!ラナへ兵団長ならび師団長へ敬礼!」
ざざざっと素早く整列したドワーフ兵たちが、それぞれの武器を手にラナたちへ敬礼する。
ラナたちも答礼する。
「ラナ兵団長!増援部隊千名、ただいま到着いたしました!」
「うむ。大尉、ご苦労だった。さ、上に上がって長旅で疲れている兵たちを休ませてやってくれ!」
「はっ!第204大隊、回れ右!駆け足で兵舎までのぼれっ!」
「「「「「「「「「「おおう!」」」」」」」」」」
威勢のいい返事をして、増援のドワーフ兵たちはドドドドドドドドドっと階段を駆け足で上がって行った。
増援大隊の兵たちが行ってしまうと、今度は負傷兵たちが衛生兵に担がれたり、肩を貸されたりして鉄箱に乗りはじめ、ほかのドワーフ兵たちは後方の鉄箱から補給物質らしい箱などを降ろしはじめる。鉄箱には例の“モノ”も積まれており、それらを降ろしたドワーフ兵士たちは担いで階段を上がって上の方に持っていく。
それらの作業をしばらく見ていたラナ将軍は、イザベルたちの方をふり向いて言った。
「これがわが軍のヒミツ兵器、軌道輸送車だ!」
「!...」
「!...」
カイオもイザベルもこんなモノは見たことのないので驚いて見ている。




