2-45 魔軍の秘密兵器
ラヴォルジーニとマレフィキウムは大きなテーブルがある部屋に入った。
壁には一面に幾枚もの地図が張られており、各地域の戦況が一目でわかるようになっていた。
ときたま、参謀将校らしい者が出入りして新しいデーターなどを書き込んだり、印を地図につけたりしている。
ラヴォルジーニは一枚の地図の前に来ると第六軍とヤマト軍の状況を話し始めた。
魔王による世界戦略作戦『新秩序計画』が開始されて、早くも百年になる。
当初は魔軍の鍛錬度、装備、士気など全てにおいて他種族の軍隊を超えていたこともあり、まさに破竹という言葉が相応しい進撃をもたらし、勝利に次ぐ勝利でミッッデンランジアにおいて勢力を大きく伸ばした。
しかし、鬼人軍の巻き返し、獣人軍の抵抗、ミッッデンランジア人族軍の善戦などによって進行速度は落ちはじめ、さらにこれらの種族が同盟を結び、戦略的に連携して戦線を張るようになってからは、状況はさらに悪くなり、ここ数十年は完全な膠着状態にあること。
この膠着状態を破るために、魔王は2年前に新秩序Bプランを発動。
これは、ミッッデンランジアでトロール族を相手に戦っていた第一軍と第二軍のうちから、第一軍をミッッデンランジアの人族諸国制圧に送り込み、第二軍を鬼人国相手に苦戦している第五軍の増援軍として派遣するという『第一段階』と、新たに設立された第六軍120万と第七軍125万の兵力を、それぞれイーストランジアのヤマト国およびドワーフ国の攻略に送りこみ、これら2国を攻略した後に鬼人国へ東海岸から侵攻させ、西側で戦っている第一軍と第五軍でもって東西から鬼人国包囲攻略する、という『第二段階』からなるものだ。
したがって、新秩序Bプランを成功させるためには、第六軍と第七軍がそれぞれヤマト国軍、ドワーフ国軍を“速やかに制圧”することが必須条件となる。
その新秩序Bプランのかなめの一つとも言える第六軍が、先ほど話したようにぶざまな総退却をしたのだ。これは魔王にとっても甚だ頭の痛い想定外の突発インシデントだった。
ラヴォルジーニならずとも3千人もの魔軍将兵を見せしめのために処刑したくもなるだろう。
魔王にしてみたら、3千人など少ないかも知れないが、あまり処刑しても戦力を減らす上に、士気を下げるという逆効果も出かねない。そこのところをラヴォルジーニはうまく魔王の気持ちを汲んで“3千人だけ”処刑したのだ。
ラヴォルジーニは、そこまで説明したあとで、マレフィキウムを見て言った。
「マレフィキウム軍団長。貴公には一ヵ月以内でヤマト軍を殲滅してほしい。そのために第六軍は20万の増員を受けて総兵力は140万となる。ほかにも、先ほど魔王様も言っておられたが、必要と思われるものは人事でも何でも遠慮なく言ってほしい。出来るだけ便宜を図るつもりだ。」
「ラヴォルジーニ様、ありがとうございます。つきましては、早急に新たに第六軍の幹部将校を任命したいと思っております。」
「よかろう。年功序列などは一切考慮せず、貴公がこれと思った者を必要と思う階級、ポストにつけるがよい!」
「それと、ディアボニクスを千匹ほどお貸しいただきたい。」
「なに、ディアボニクスを?」
「はい。」
それまで落ち着きはらっていたラヴォルジーニが、初めて驚いた表情をした。
ディアボニクスは、全長2.5~3mほどの小型竜だが、高い知能をもつ魔獣だ。
それほど早くはないが空を飛べ、地上も時速40キロという速さで走れる。
するどい爪をもっており、集団で襲うというおそろしい魔獣なのだ。
まだブラックドラゴンほど多く使われていないが、魔軍の“次期戦力”として極秘裏に生産数が増やされている秘密兵器だ。
「ブラックドラゴンだけでは不十分か?」
「ラヴォルジーニ様もよくご存じと思いますが、ブラックドラゴンは図体が大きくて小回りもきかないので、トロールのようなデクノボウに等しい敵相手や、平地での戦いでは有利ですが、地図を見たところ、ヤマト軍は山岳地帯での戦闘に長けているようですので、今度の戦いはディアボニクスのように知能が高く、小回りが利き、集団で攻撃できる魔獣の方が有利と思います」
「ふむ... さすがマレフィキウム殿。地図を見ただけでそこまで分析し、戦略を立てるとは。よかろう。すぐに魔大陸に要請してディアボニクスを千匹ほど送ってもらおう。」
「はっ、ありがとうございます。あとは軍を見て、必要なものがあれば後ほどご連絡いたします。」
「よかろう。しっかりやってくれたまえ。魔王様のご期待に何としても応えてほしい」
「はっ。重々承知しております。お任せください。」
「うむ。」
「では、第六軍の司令本部まで向かいます。」
「うむ。すでに総軍本部長に第六軍の幹部将校たちに貴公の紹介をたのんでいるので、総軍本部の部屋へ行って彼を探すとよい。」
「かたじけなく思います。」
「しっかりたのむぞ!」
「はっ。では失礼します。」
“ディアボニクスまで投入するとは...
聞きしに勝る戦略家のようだな”
ラヴォルジーニは唇の端に笑いを浮かべた。




