2-41 アールとビーナ
餓死しそうになっていた白いブラックドラゴン。
アイミが二匹の白いブラックドラゴンに回復魔法をかけて少し元気をとりもどさせたあとで、ミヤモト中尉の部下たちにたのんで集めてもらった草や木の葉をあたえた。
二匹ともわき目もふらず、ガツガツ、ボリボリ、ムシャムシャと一生懸命に食べている。
閉じ込められていた檻のトビラを開いて、洞窟の中で食べさせているのだが、ヤマト兵たちは怖がって洞窟の入り口から遠いところにいる。
レオたちといっしょにいるのはミヤモト中尉だけだ。さすがダテに剣豪と呼ばれていない。
「問題は紫外線からどうやって守るかだな...」
思わず口に出た言葉に宮本中尉が興味を示す。
「シガイセンとは何ですか、レオ殿?」
「シガイセンというのは、太陽の光に含まれている目に見えない光で、日を浴びると肌が色濃くなるのはそのシガイセンのためなんですよ。」
「ホーゥ… じゃあ、男はたっぷり日を浴びた方がいいですな。たくましく見えますし!」
どの時代もどの国も世界も男は黒く日焼けしている方がモテるのだろう。
「ところで、アイミちゃんとランちゃんはどうやって日焼けから肌を守っているの?」
「私はできるだけ日を浴びないようにしています。どうしても日中で歩かなければならない時はカサや長袖長ズボンに手袋を使います。それと顔にはこのような目のところだけ開いている頭巾を使います」
そういえば、ランは上から下までニンジャ装束のような白い着物を着ている。
それにヤマト軍の地下陣地から地上出るときにはホコリで顔が汚れないようにと言っていつも頭巾をかぶっていたが、真の目的は保肌のためだったらしい。
「私たちエルフの女性はフランボエザの種で作った日焼け止めを使っています。」
「えーっ、アイミちゃん、そんなモノ使っているの?」
「私もアイミさんからもらってつけているわ!」
「なに、そのフランボエザっていうのは?タネっていうから何かの実?」
「イチゴに似ているけど、低い木になるのがフランボエザです、レオさま」
「イチゴに似ているけど、低い木になる...?」
「それはキイチゴですよ、レオ様。ヤマト国にはどこにでも生えているからすぐ見つかります。」
さすがヤマト国生まれの女の子。ランはよく知っているようだ。
「そのキイチゴの種で作った日焼け止めをこのホワイトドラゴンたちに使えないかな、と思って...」
「えーっ? この子たちに日焼け止めを使ってどうするんですか? 外に連れ出すの?」
「いや、遠くに行くときに乗せてもらうんだよ。たとえばミッッデンランジアのエルフの里とか...」
「あ、それはいい考えですね、レオ様!」
ランは早速賛成したようだ。
アイミはちょっと考えていたが...
「まあ、この子たち命を助けてくれたらなんでもするって言っていたから...」
とアイミもホワイトドラゴンたちに日焼け止めを使うことに賛成した。
フランボエザの実
ミハリバン岩あたりは、まだ完全なヤマト軍の支配地域ではないので、オス(兄の方)は『アール』、メス(妹の方)は『ビーナ』と名づけられた二匹のホワイトドラゴンー と呼ぶことになった― は、夕方の日が傾いて紫外線の少ない時間にヤマト軍の本陣がある山脈にまで飛んでもらうことにした。
そう決めた時点でミヤモト中尉の偵察隊には先に帰ってもらうことにした。
まあ、偵察隊は馬で移動するから、どんなに早くてもホワイトドラゴンより早く着くことはないのだが。
居眠りから目覚めてホワイトドラゴンを見たシーノ。
“まあ、レオもモノ好きね...”
というような顔をしていたが、何も言わなかった。
ホワイトドラゴンの上に乗るために必要な鞍などは用意してなかったので、森からツタを切ってきて、それをつないで結んで手綱代わりにすることにして、帰りも来た時と同じくアイミとランをレオが担いでドラゴンに乗ることになった。
レオの100倍力でドラゴンが高速で飛んでもしっかりと手綱をつかまえていられるからだ。
ランは本当を言うと馬術はうまいのだが、自分一人だけドラゴンに乗っても感激も感動もないのでその事は言わずにレオに担いでもらうことにした。
来た時と同じように、ランは前で抱っこ、アイミは後ろにおぶさった。
レオはアールの背中に乗ると合図を出す。
「よし、アール、出発だ!」
ブワッブワッブワッ――っ
アイミがレオの命令をアールに伝えると、凄まじい羽ばたきをしてアールは飛び立つ準備をする。
さすが全長15メートルもあるドラゴンだ。翼開長も20メートル近くあり、砂埃や葉っぱなどが目も開けられないくらい舞い上がる...
と思った次の瞬間、アールは飛び立っていた。
妹のビーナもすぐあとに続いて飛び立つ。
「キャーァァァァ...!」
アイミがカワイイ悲鳴をあげる…
「ヒャーァァァァ...!」
それを見たランまでが負けじと悲鳴をあげる。
そして二人の美少女の悲鳴を前奏曲として、アイミはべったりと背中から体を押しつけてしがみつき、ランは前から豊かな胸を押しつけてしがみついた。
レをは幸運の女神に感謝しながら、またもや鼻の穴を全開、小鼻を全開にして、若き乙女たちのふくよかな体とそのかぐわしい匂いを堪能していた。
(“幸運の女神”じゃなく、エタナール様に感謝しなきゃね...)
と陶器のペンダントの中からシーノがつぶやく。
シーノの念話には耳を傾けず、どっぷりとピンク色の世界にひたるレオ。
“これでイザベルがいたら、どうなっていたんだろうな... イザベルはオレのアタマの上か、それとも尻の下か... いやいや、オレがイザベルの尻の下にしかれることはあっても、イザベルがオレの尻の下にいることはないよな... あの娘意外とプライド高いし...”
アールとビーナは、人族のそのような複雑な人間関係などはまったくわからない。
ただ、レオが示した方角へ向かってスピードをあげて飛び続ける。
高度もさらに上げた。おおよそ高度500メートルくらいか。
はるか下には草原や山が見え、それらがどんどん後方へ流れて行く。
かなりのスピードだということがわかる。
この巨体で、これだけの速さで飛べるというのも驚きだ。
速度が速いだけに風圧もかなりのものだが、シーノに頼んでバリアーを張ってもらっているおかげで感じない。
山あいをくねるように通っている街道を見ると
馬に乗った一隊が土埃をあげながら走っているのが見えた。
先ほどのミヤモト中尉の率いる偵察隊だ。
ヤマト軍の司令部にもどっているのだろう。
なにか異様な気配を感じたのか、ミヤモト中尉が空を見上げたのが見えた。
しかし、アイミのステルス魔法で姿が隠されているのでホワイトドラゴンたちは見えない。
ミヤモト中尉は腑に落ちないと言った顔で、なおも空を見上げながら走り続ける。
ヤマト軍の司令部には30分もかからずに着いた。
ヤマト軍の将兵を驚かすと思って、司令部からちょっと離れた場所に着陸させることにした。
それと、ホワイトドラゴンを手なずけたと知らないヤマト軍の兵士たちがアールとビーナを矢や投げ槍で傷つけるのを恐れたのだ。
しかし、ホワイトドラゴンの存在を完全に隠しておくのはかえって危険だ。
ヤマト軍の見回り隊などに発見されたら大変な騒ぎになることは目に見えている。
そこで、レオは司令部を少し過ぎたところで故意にアイミにステルス魔法を解くようにたのんだ。
着陸するのに適当な開けた場所を見つけ着陸させた。
そして、アールとビーナには草や木の葉を食べているように言って待った。
しばらくすると...
はたして見回り隊が顔色を変えて森の中から現れた。
手に手に弓に矢をつがえ、槍を構え、剣を抜いて、いつでも戦える態勢で。
「やあ、みなさん、ご苦労さまです! ただ今、ノブノブ将軍がご依頼された任務を終えてもどって来ました。恐れ入れいますが、どなかたノブノブ将軍に「レオとランさんとアイミさんが無事にもどった」と伝えていただけませんか?」
機先を制して、見回り隊の兵士たちが攻撃する前にレオが呼びかけた。
ノブノブ将軍と彼の大事な養女-ランの名前を出して。
「お... おお、そ、そうか... し、しかし... その 白いブラックドラゴンは?」
見回り隊の隊長が刀を鞘に納めながら、蒼い顔をして訊く。
「ああ、これはノブノブ将軍が所望したものです。なに、おとなしいから、こうやって草や木の葉を食べさせていれば、誰にも危害は加えませんよ!」
「危険はないのか?」
「ほら、この通り、おとなしい、いい子ですよ」
「......... そ、そうか」
隊長は、レオやランがホワイトドラゴンを触っているのを見て安心したようだった。
すぐに隊員に命じて急いで連絡に行かせる。
しかし...
それから30分後。
そこには大勢ヤマト軍将兵が集まって来て大騒ぎになった!




