2-40 ミハリバン岩
「じゃ、じゃあ準備もできたことだし、出発するか!」
レオは“前門の虎”と“後門の狼”が相手に向けて放つ激しい十字砲火を垣間見たたのだった。
この二人、ふだんはとても仲がいいので心配はないが、ことレオに関することになると異常なほどのライバル意識を発揮するのだった。
カイの町までレオは軽く時速100キロで走った。
だれもレオたちの姿は見えない。アイミに頼んでステルス魔法をかけてもらったのだ。
いや、敵に見つからないためだけではない。味方、つまりヤマト軍やヤマトの人たちに見られないためでもある。ヤマトの人たちはともかく、ヤマト軍の将兵はとびっきりの美女を前後に担いで走っているレオを見れば冷やかすに決まっているからだ。
だから、アイミとランが所定の位置につき、出発する時点になってレオはステルス魔法で恥をかかないようにしたのだ。
前門の虎後門の狼― いや、前のランと後ろのアイミはそれぞれの“優先座席”で、前からと後ろからしっかりとレオに抱きついている。ぴったりとレオに密着して!
ランはレオの左肩に頭を乗せ、アイミは右肩に頭を乗せ、それぞれ桃源郷にいる心地だった。
レオはといえば、荷重が増えたからバッタエンジンの燃料消費量を増やすためではないが、鼻の穴を全開、小鼻も全開にして吸入酸素量を増やして“前門の虎”の若い乙女の香りを嗅ぎ、“後門の狼”の若い乙女のふくよかな体を感じ、堪能していた。
いつもは小姑のように口うるさいシーノはレオが首から下げている薄青色の陶器のペンダントの中で居眠りしている。
自分のご主人レオに危険はないと知っているのでのんびりしているのだ。
それでも、もし、レオに危険がせまればすぐに覚醒してその務め― 主人を守ること―を果たす。
現在の彼女にとって、アイミとランの恋のさや当てなど全然興味ないのだ。
途中の道で、ノブノブ将軍の兵士たちに護衛されてヤマト軍のいる南部の方へ向かっている人族の列を何度か見た。老人や若い者、それに家族連れなどもいる。数百人、数千人単位でもくもくと南を目指して歩いていた。
ランによると、魔軍は占領した地域の人族に、魔軍の食糧を確保するために食料生産農場や牧場を捕虜たちに強制させていたのだという。
農場ではイモ類やトリゴなどの穀物、牧場ではブタ、ウシ、ニワトリなどを飼育させ、定期的に魔軍に供給されていたそうだ。そして、生産に役立たない老人などは魔族の“食料”にされるために競技場などに閉じ込められていたのだという。なんとも残酷なことだ。
走ること90分。
三人は絶壁のように前にそびえたつミハリバン岩を見上げていた。
「あ、レオ殿、アイミ様、それにラン様、どうもわざわざ来ていただきありがとうございます!」
偵察隊長のミヤモト・ムササビ中尉がステルス魔法を解き、二人を降ろしたレオを見て駆け寄って来た。
間一髪で、二人の乙女を前後に抱っこしているのを見られるのを避けられた。危ないところだった。
ミヤモト・ムササビは、先日の野試合でレオと戦い、大きなたんこぶを作って負けた剣士だが、軍では中尉らしい。野試合で負けたことなど全然気にしてない気さくな性格の持ち主のようだ。
「ミヤモトさん、どうもお疲れ様です。で、どこですか、その白いブラックドラゴンとやらがいるという洞穴は?」
「すぐそこです。私がご案内します。それにしても着くのが早かったですね!」
岩山にさらに近づき、ちょっと小高い丘のようなところを越えると下の方におおきな洞窟があるのが見えた。偵察隊隊員らしい者が数名入り口にいたが、レオたちが近づくと敬礼をして道を開け、一行を通す。
外は午後の日差しが熱いが、洞窟の中はヒヤッと涼しい。
洞窟の天井は高く20メートルはありそうだ。足もとは結構岩などがあるが、歩くのに問題はない。先頭を歩くミヤモト中尉の持つ松明が外からの風でゆらゆらと揺らぐ。
かなり奥へ入ったとき、前方に大きな格子状のものが見えて来た。
さらに近づくと、それは太く頑丈な木材で作られた檻で、その奥には暗い洞窟の中でもはっきりとわかる白い翼竜、いわばホワイトドラゴンと呼ぶ怪獣が二匹重なるようにうずくまっていた。
レオはアイミを通して念話でホワイトドラゴンに訊く。
(お前たちはなぜここにいるの?)
(おれたちは仲間から見捨てられたんだ...)
(見捨てられた?それはなぜ?)
(おれも妹も体が白いため、日にあたることはできない。短い時間ならいいが、長く当たっていると体がやけどをして死んでしまう)
(それと見捨てられたことに何の関係があるの?)
(ブラックドラゴンは昼間しか飛べない。魔族たちが逃げ出した時、おれたちの仲間も朝が来るのを待って逃げ出したが、おれたちは昼間は飛べないためここに置かれた...)
アイミは動物や虫などと意志を交わす能力をもっているのだ。
「なーるほど... そういうことか...」
「ノブノブ将軍はこのドラゴンに何かおっしゃっていましたか?」
「たぶんオレたちに一存していると思います。」
「外でご覧になったでしょう?こいつらは家畜や人族を食らうんですよ。人族の骨は部下に言って埋葬させていますけど、そんなバケモノ早く始末した方がいい。」
ミヤモト中尉は狂暴なドラゴンは殺すべきだと言う。
「ちょっと待ってください」
アイミが話の中に入り、ホワイトドラゴンたちとコミュニケーションをはじめる。
(なぜ、あなたたちは人族を食べるの?)
(いや、おれも妹も人族もほかの動物も食べたことはない)
(じゃあ、外に散らばっていた人族の骨はなに?)
(あれは、仲間たちが食ったものだ。だいたいおれたちは肉を食べなくてもいいんだ。草や木の葉を食べて生きていけるんだ)
(じゃあ、なぜあなたの仲間たちは人族や家畜を襲って食べるの?)
(それは、より狂暴になるためだ。血肉を食べることによってはるかな昔に肉食だったころの狂暴な本能が目を覚ますのだ...)
アイミが白いブラックドラゴンから聞いたことをレオとミヤモト中尉に伝える。
「えっ、そうなのか?道理でこの檻の中にも外にも骨がないと思っていたよ。」
「にわかには信じられんことですな...」
ミヤモト中尉が、まだ納得できてないという顔で言う。
それも当然だろう。今まで何千、何万という同胞が食われてきたのだ。
わたしたちは“シロ”です、と言われても信じられないのも当然だ。
「レオさま...」
「ん?どうしたアイミちゃん?」
「この子ら、おなかが空いて死にそうだって言っているの。もし、助けてくれたら何でもするって。」
「えーっ、だからぐったりとしているのか?」
「餓死寸前。妹の方はしゃべる元気もないみたい...」
レオは、檻の中にぐったりとうずくまっている白いブラックドラゴンのステータスを念のために見てみた。
《名無しの大翼竜:ステータス》
職業:みなしご
種族: 大翼竜種
性別: オス
年齢: 2歳
レベル 1
HP 4/1500
MP 3000/3000
STR 400
VIT 350
AGI 50
INT 100
Ex: 5
スキル: 高速飛行
《名無しの大翼竜:ステータス》
職業:みなしご
種族: 大翼竜種
性別: メス
年齢: 2歳
レベル 1
HP 3/1700
MP 3200/3200
STR 480
VIT 370
AGI 55
INT 130
Ex: 5
スキル: 高速飛行
“なるほど。たしかに死にかけているけど、こいつらのステータス、ハンパじゃないな...
特にMP保有量がすごい。それにメスの方がオスよりもややスキル高めか…”
「じゃあ、アイミちゃん、まずは回復魔法をかけて元気づけてくれ。それからこのホワイト・ドラゴンたちが食べる植物とか教えてもらって」
「はい。(詠唱...)」
二匹のホワイト・ドラゴンをやさしい光がつつむ。
しばらくすると、二匹はもぞもぞと起きた。
(おお、なんだか生きる力がでてきたぞ!)
(お兄ちゃん、ワタシも... まだお腹はへっているけど。)
レオたちはミヤモト中尉の部下に手伝ってもらって、近くの森や原っぱからドラゴンたちが食べるという草や葉のたっぷりついた木の枝をたくさん切ってもらってホワイトドラゴンたちに運んできた。
二匹がわき目もふらずにムシャムシャ、ボリボリと草や木の枝を食べている。
よく見ると、たしかにティラノサウルスのような大きくて鋭い歯はなく、ギザギザのノコギリの刃のような歯が並んでいる。
しかし、レオが前世で知識として知っている、神話やラノベなどに登場する“ドラゴン”ではない。大翼竜なのだから爬虫類の一種なのだろう。
空腹を満たすべくいっしょうけんめいに食べているホワイトドラゴンたちを見ながら、レオはこの二匹は利用できるかも知れないと考えていた。




