2-38 エルフ少女の冒険⑧
そして、グゴスモ副司令官がいると聞いた酒場とやらに着いてしまいました。
酒場から少し離れたところでレオさまは私を降ろしました。
私はレオさまの言いつけにしたがって、ステルス魔法をかけて姿を隠して遠くから見ていました。
酒場の前の通りに出ていたグゴスモはカバみたいに大きい魔物でした。
胸のところにドクロのような模様が入った黒い色の胸プレートをつけ、裏地が赤い黒マントを羽織っています。遠くから見ているだけでも、強そうな魔物です。
グゴスモの周りには魔軍の将校らしい者たちが20人ほどいました。
たぶん、レオさまが先ほどからホテルや通りでショーゲキハで破壊していた音が聞こえたので酒場から出てきたのでしょう。
レオさまの強さはこれまでの戦いでよく知っていますけど、このとても強そうな魔物相手にだいじょうぶでしょうか? それにほかにも20人ほど強そうな魔族がいるのですよ?...
でも、魔物たちは目の前にレオさまが破壊しながら走ってきた通りを見て動揺しているようでした。
魔軍を相手にできる者は限られています。
トロール族とかドワーフ族とかの戦士。鬼人族の戦士も魔族を恐れないので有名です。
人族は、残念ながら体格的にも体力的にも一対一の戦闘ではとても魔族にかないません。
そして、このあたりには魔族を前にして怖がらない種族は誰もいないと彼らは思っているのです。
だって、目の前にいるのは変な仮面をかぶっているけど、弱っちい人族じゃないですか?
それも体つきからすると、それほど鍛えているようにも見えません。
聖堂の森で私がはじめてレオさまを見たときに、その小柄な体に似つかない強さに驚きましたが、魔族たちもきっと同じことを感じているのでしょう。
しかも、捕虜にして情報を聞き出した魔軍兵士は、グゴスモはとてつもなく強い魔族だと言っていました。その強さを知っている者なら、グゴスモを前にしてビビらない者などいないはずとも言っていたのです。
たぶん、魔軍の将校たちは一人で立ち向かって来たレオさまのことを“無謀なバカ”と思っていたことでしょう。
ただ、グゴスモだけが、さすが魔王にヤマト国攻略軍の副司令官として任命された魔族らしく、冷静な目でレオさまを見ていました。さすがに大物の魔物は違います。
グゴスモは直観から、レオさまがタダモノではないと気付いたのでしょう。
「コノモノを殺せ!」
とすぐに周りの部下たちに命令をしました。
私は次に見えるであろう光景を見ないために思わず手で目をふさごうとしましたが、
その直前、突然レオさま姿が消え、魔軍の将校たちを光が一閃したようでした。
そして、魔軍将校たちは全員切られて倒れていました。
一人も残さずに…
私は両手を顔の前で止めたまま、その光景を見ていました。
そして、あのグゴスモという魔物は、レオさまの姿が消えた瞬間にすばやく後ろへ飛び、酒場の屋根の上に立っていました。
そしてすぐに詠唱をはじめたのです!
魔法を使う魔族はとても危険だと教わっています。
このグゴスモという魔物は、どんな魔法を使うのでしょう?
私はしっかり見ていました。
グゴスモはすぐさま詠唱を唱え、防御用の魔法陣を張りました。
私は解析をして、それが《対物理攻撃および対魔法攻撃の魔法陣》だと理解しました。
「なんとも面妖なヤツだ... コノようなモノがまだいたとは...」
「やあ!お前がグゴスモか。結構強いという話だな?」
レオさまは、まったく緊張もせずに軽い調子で言っています。
レオさま、気をつけて!
油断大敵です! 魔物はレオさまの気をそらして、そのスキに攻撃してくるかも知れません!
「試してみるがいい...」
グゴスモが言い終わるや、急速にあたりが冷えたのがわかりました。
きっと魔物は温度を下げる魔法を使う気です。
吐く息が白くなりりました。
空気が星の光を反射してキラキラと光っています。
まるでマハナヤの高い山の冬の朝に空気がキラキラ光るのと同じです。
気温がとても下がっているのでしょう。
そしてグゴスモが詠唱をすると、彼の周囲に剣のような氷が数えきれないくらい現れたのです!
氷属性魔法です!レオさま、お気をつけて!
グゴスモが両手をレオさまの方向に向けて振ると、その無数の氷の刃が一斉にレオさま目がけて飛んでいきました。
“レオさま、危ないっ!”
思わず叫びそうになりましたが、レオさまはその攻撃を予測していたのでしょう、
一瞬で消えて、別の地点い現れましたが、グゴスモは次々に氷の剣をレオさまが現れるであろうと思う場所に氷の剣を飛ばし続けるのです。
グゴスモは“予測能力”を持っているのでしょうか?
だとしたら、とても危険です。でも、レオさまはあのバカでかい、いえ、間違えました、大きな剣を軽々と水車のようにふりまわしながら飛んで来る氷剣を払いつつ、ジグザグに移動しています。
きっとあの動きでグゴスモの予測を困難にしているのでしょう。
グゴスモは氷剣による攻撃を続けながら、左手を頭上で回し始めました。
また何か魔法を使うようです。星が見えていた空が急速に黒々とした雲で覆われた、と気づいた次の瞬間
バリバリバリッ!
耳をつんざくような大きな音がして、と無数のカミナリがレオさまに落下しました!
「レオさまっ!」
また思わず叫びそうになりましたが…
カミナリはレオさまに当たったはずなのに、レオさまは平気なお顔をして立っています!
“あれはサンダーボルトという雷属性魔法”だと解析でわかりました。
レオさまが無事なのは、きっとシーノさまのバリアーのおかげでしょう。
本当にたよりになりますね、守護天使さまは。
「?!」
グゴスモはなぜカミナリが当たってもレオさまが平気なのかわからないという顔で見ています。
「お前の手の内は見せてもらったよ!」
「ナニ、ナニをキサマは言っているのダ?」
その次の瞬間、氷剣による攻撃は、すべてはじき返され粉々になりました。
「キサマ、魔法陣を張ったカ?!」
「いや、これはオレの守護天使様のバリアーさ」
「守護天使ダト?」
「お遊びはここまでだ」
そう言い終わった瞬間、レオさまの剣はグゴスモの胸に深々と刺さっていました。
私にさえレオさまが剣を投げる動作は見えませんでした。
「コンナ、バカな... わしノ魔法陣ハ効かナカッタのカ?」
「フラガラッハの剣の前には、どんな鎧も魔法バリアーも無効ということだ!」
レオさまは言い、グゴスモの体は消えてしまい、あとには黒っぽくかなり大きい魔石だけが残りました。
「オダ・ノブノブ軍の奇襲攻撃だ――――っ!」
「「「「「「「「「オオオオオオオオオオ――――――――――!!!!」」」」」」」
「魔軍司令官バメロスは打ち取った――――っ!」
「「「「「「「「「オオオオオオオオオオ――――――――――!!!!」」」」」」」
「魔軍副司令官のグゴスモも打ち取った――――っ!」
「「「「「「「「「オオオオオオオオオオ――――――――――!!!!」」」」」」」
グゴスモを倒したレオさまは、私をふたたびおんぶして、私のかけるステルス魔法で姿を隠しながら町の中を疾走し、恐怖のショーゲキハをまき散らし、道を阻む魔軍兵士たちは誰に切られたかもわからずに切り伏せられていきました。
魔軍のパニックはそれはもうすごいもので、恐怖にひきつった顔で、みんな一目散に町から逃げだして行きました。
オダ将軍の秘密奇襲部隊の手によって、魔軍ホのメロス総司令官とのグゴスモ副司令官も殺されたというのですから、驚かない魔軍将校も魔軍兵士もいるはずがありません。
そしてその話は前線を駆け巡り、魔軍部隊はわけのわからない恐ろしさからすべて逃げ出してしまったそうです。




