2-35 エルフ少女の冒険⑤
これにはアイミも面喰いました。
なんだか、この人族の少年は念話の制御が出来てないようです。
恥ずかしさのあまり、真っ赤になりながらも「エルフはいつも礼儀正しく!」と人族の教師に教えられたことを思い出して、勇気をふり絞ってお礼を言いました。
ギブも戦闘形態であるオオカミの姿から人族の姿にもどってお礼を言いましたが
「こ、これは狼男?!」
ギブの変身にもまた驚いたようでしたが...
そしてお互いに自己紹介したときに、ギブが12歳だと聞いてまた驚いていました。
よく驚く少年です。
アイミは相次いで起こっていることに理解が追いつきそうにありませんでしたが、理性をもって状況を考えてました。
“このレオンと名乗った人族の少年。
年のころは、私とあまり変わらないようだわ。
背は私よりいくぶん高いので170センチはあるでしょう。
黒い髪に少し日焼けした腕や顔。
笑うと白い歯がステキ♡
彼はこの世界では念話でコミュニケーションできると知って、また驚いていたわ。
意外と面白い人族の少年のようね...”
その少年には、驚いたことに守護天使がついていました。
エルフ女王さまをお守りしているペルという守護天使と同じなのですぐわかりました。
守護天使に守られるなんて、ふつうの少年ではありません。断じて!
アイミは、少年がやはり年頃なのでしょう、しきりに自分の胸をちらちらと見ているのに気がつきました。アイミは自分の胸は典型的なエルフ女性の胸- とても控えめな胸- なので、それほど誇らしいとも思ってなかったのですが、あまり見られて恥ずかしくなりました。
そして、この不思議な人族の少年の顔を見ていると、初恋の人―ボッチ先生―を思い出して胸がドキドキしてきました。
“レオと呼んでくれ”と言ったこの人族の少年、ボッチ先生ほど背は高くないし、髪も金髪ではないし、目も鳶色でもないのですけど、どこかボッチ先生に似た雰囲気がします…
しばらくすると、先ほど別の場所で戦闘が行われた方向から、新たな人族が二人現れました。
一人の少年と一人の少女です。
少年の方はレオさまと変わらないくらいの年頃で、身長はレオさまより少し高いくらいです。ブラウン色の髪と目をしています- かなりのイケメンですねー 言葉や動作に少し気品が見られるようです。
ひょっとすると高貴な血筋の方かも知れません。着ている服もかなりいいものです。
赤髪の少女の方は... とても美しい人です。
この方も同じくらいの年のようです。
快活そうな方で、やはり私と同世代みたいです。
色は白く赤い髪がステキ!
背は私よりやや低いくらいですけど、
胸とかおしりとかはたいへん立派で私が逆立ちしても勝てそうにありません。
どうやらレオさまの仲間のようですが...
この赤髪の美少女とレオさまは、どんな関係なのでしょうか?
かなり親しいようです。
おたがいに紹介しあい、ブラウンの髪の少年はカイオ王子と名乗りました。
やはり王族だったのですね。そんな感じしますもの。
赤髪の少女はイザベルさんとおっしゃるそうです。年はアイミと同じだそうですが、なかなかしっかりした賢い女性のようです。こんな女性を私は尊敬するんですよね。
お二人は弓と槍をもっていますが、どちらもふつうの武器ではないのが一目見てわかります。
だから、あれだけの魔軍兵士を相手にしても傷一つ負わないで勝てたのですね。
レオさま、カイオ王子さま、それにイザベルさまの三人は、お話を聞いてみるとどうやらテラの世界からゲートを通って来られたようです。それにしてもあの強さは尋常ではありません。
それにレオさまは、どうやら空中を飛ぶ能力をお持ちのようですが、それには私も驚いてしまいました。そうそう、レオさまと言えば、私がエルフが長生きできなくなったと聞いてたいへん驚かれていていました。”
“よく驚かれるレオさま...”
そして私が「今年17歳になりました」というと、ずっこけるほど驚かれていました。
さらに、「これでも十分“人生の酸いも甘いも噛み分けている”と自負しています」
と私が言うと「!…」絶句していました。
“なんだかレオさまって、かわいい!”
いえいえ、そんなことを命の恩人に対して思ってはダメですよね...
レオさまは、たぶんアイミが170歳くらいのエルフだと思っていたのでしょう。
レオさまの驚かれる姿がおかしくて、つい“女の子の保健教育もちゃんと受けています”と言っちゃいました(汗)。
あちゃー...
こんなことまで言っちゃって、きっとレオさまは私がエッチなエルフだと思われたことでしょう。どうしましょ?
でも、エルフが人族みたいに短く生きるようになったので、女王さまが幼年エルフたちに早熟教育を3才児から実施するようにしたと説明すると納得していただけたようでした。
ほっ。少し安心しました。”
そして エスティーナ女王がエルフの短命問題解決のために、エルフの国を魔王から取りもどし、それとともにミィテラの世界を魔王の魔手から救うための反攻計画を立て、その調査のために各種族の戦士で構成された偵察隊をイーストランジアに送られることを決められたことをお話ししました。
私も女王さまのたっての願いで偵察隊に加わりましたが、イーストランジアに着いて任務を果たすまでに多くの仲間の戦士の命が失われ、私ととギブだけが生き残ったということもお話しました。
本当につらい苦しい旅でした...
三人にそのお話をしていたら、仲間の戦士たちが一人、また一人と魔族に襲われて死んでいった様子をありありと思い出し、私の目からはとめどもなく涙が流れました。”
それから三人に手伝っていただいて― いえ、正しくは、あの細い体からは考えられないほどの力持ちであるレオさまにお手伝いしていただいて、亡くなった戦士たちの埋葬をしました。
レオさまの力の強さは信じられないほどです。あれほど重く、私など腕一本も動かせなかったトロール族の戦士の体も軽々と抱えてお墓の穴に入れてくれました。
埋葬をしたあとで、私は亡くなった戦士たちにお祈りを捧げました。
あとでイザベルさまが話してくれたところによりますと、レオさまにはやはりバッタの足だか、バネだかが植えつけられているそうです。
破れた衣服の上から見た限りではバッタの足をお持ちのようには見えませんでしたが。
あれほど遠くまで飛べ、あれほどの力を出せるバッタの足がどのようなものか、私自身としては甚だ興味があるのですが。
“ズボンを降ろして見せてください”
などと恥ずかしくてエルフの女の子からはとても言えませんので、想像するしかありません。
いえいえ、そんなことを言ったら、エロエルフって思われること必須です(汗)。
でも、いつかはレオさまにバッタの足を見せていただきたいものです。
まだまだお話したいことも、お聞きしたいことも山ほどありましたが、ここは魔族の本拠地です。
いつ、また魔軍の巡回警備隊がやって来るかわかりませんし、先ほどの警備隊がすでに侵入者を発見したと魔軍に連絡しているかも知れませんので、この場所から早く脱出した方が無難だと申し上げましたら、いったん彼らの世界『テラ』へ戻ることになりました。
もちろん私とギブもいっしょに連れて行ってくれることになりました。
それを知ったとき、「ほっ」と安心しました。こんなところにギブとだけ置かれたら、すぐに魔軍兵士につかまってしまいますもの。
でも、『テラ』ってどんな世界なのでしょう。
今から胸がドキドキします。いや、これは先ほどからレオさまに見られているせいなのでしょうか?
ああ、なんだかわからなくなりましたが、ドキドキしっぱなしです。
そのとき、守護天使シーノさまが魔軍部隊がすでにこちらに向かって来ていると警告を出され、時間がないからレオさまは二人ずつ抱えてバッタの跳躍力で聖堂まで飛ぶようにシーノさまから言われたのです。
そして... ああ、なんという幸運でしょう... いえ、間違いました。
なんという恥ずかしさでしょう...
私はイザベルさまといっしょに、先ほどハートがドキドキしたばかりのレオさまにしっかり体を抱えられ、バッタのように空を飛んだのです!
私は怖さのあまり、「ヒィィィ…!」と小さな叫び声を出してしまいました。
ほかにつかまるところもないので、たいへん申し訳なかったのですがレオさまの首に私の両腕をまきつけさせていただきました。もちろん無断で。
そして両目をしっかりとじて運を天― いえ、レオさまにおまかせました。
イザベルさまは、「キャーぁぁぁむぐぐぐぐ…キャーぁぁ!」
と叫んだかと思うと、片手でご自分の口をふさいだり、一本だけの腕でレオさまにしがみついて落ちそうになって、また両腕でしがみつき直したり、また悲鳴をあげたり、となんともご器用なことをされていましたが、無事に聖堂に着地できました。
聖堂に着地したあと、レオさまは私とイザベルさまを抱えたままゲートがある祭壇まで目が回るような速さで走って聖壇の前に着き、そこでようやく降ろしてもらいましたが、私はまだドキドキと大きく弾んでいる心臓の上を手でおさえてながら、ふとレオさまのお顔を見ると...
なんだかご自分の両手を見ながらニコニコ― いや、にやにやしていました。
よく見ると、どうやらご自分の手を嗅いでいるようではないですか?!
ど、どうしたのでしょう??
私が恐怖のあまりたくさん汗をかいたので、手が汗くさくなったのでしょうか???
すると念話でシーノさまの鋭い声が響いてきました。
(レオォ!!!何を悠長なことをしてるのォ?!そんなに触りたいのならあとで触りなさい!私がさわらせてあげるから。それよりも早くカイオとギブを助けに来なくちゃダメでしょう?!)
“ええっ、レオさまって、私たちの体を触れたのでにやにやとよろこんでいたのォ?!”
それを聞いたイザベルさまは真っ赤になって
「ちょ、ちょっとシーノちゃん、な、何をいっているの?」と抗議しました。
私は...
本当は胸がドキドキするレオさまにしっかりと体を抱かれて、天国を飛んでるような気持になって... とても気持ちよかったのです。
だって、お父さま以外の男性に体を抱かれるなんて初めての経験ですもの…
でも、このまま黙っててはシーノさまやイザベルさまに変に勘繰られるかも知れませんので
「あのー… それは私としても少し困ります...」
と同じく抗議しましたが、私の顔が少し赤くなっていたのはレオさまに抱かれたことで、気分が高揚していたからなのです。これは“エルフの秘密”ですので絶対に人には言えません。
レオさま、カイオさま、イザベルさまとシーノさまが明けてくださったゲートを通って、アイミは生まれて初めて異世界― テラへ行くことになりました。




