2-32 エルフ少女の冒険②
アイミが3歳になったとき、エフィジェンヌ女王が、やはり短命問題で90歳という若さで早逝しました。
あとを継いで新エルフ女王となったのは巫女長だったエスティーナでした。
エスティーナは新しいエルフ女王に就任すると同時に、『エルフの早期教育プログラム』を創設し、そのためアイミは3歳でシルファーガルデンに入学することになりました。
このシルファーガルデンとは、エルフ人生100年を生きなければならなくなった新世代エルフ― 彼らの間ではニュージェネレーション・エルフと呼ばれています― たちに、短い人生をよりよく生きれるようにと、15歳までに全ての教育と職業訓練を施し、その後の短い人生を有意義に過ごせるための基礎をあたえることを目的として創設された学校でした。
シルファーガルデンは、目に見えて減っていくエルフの人口を少しでも増やそうとエスティーナ新女王 と長老たちが考え出した苦肉の策、“エルフたちよ、産めよ増やせよ”というキャンペーンの結果、少しずつ生まれる子が増えて来たので― それでもエルフ全体からみると微々たるものですが― 急ぎ計画し作られた学校で、そこでは幼年組(3歳から6歳まで)と年長組(7歳から15歳まで)のエルフの子どもたちが学んでいました。
アイミの入学した幼年組には、40人ほどのエルフの子どもがいましたが、アイミはその中でも、タンヤ(男5歳)、マーブ(男4歳)、ターブ(男4歳)、スージ(女4歳)、メイ(女3歳)という名前の5人ととくに仲がよかったそうです。
タンヤは男の子で5歳とクラスで一番年上のせいもあって、もっとも身体も大きく、いわゆるクラスのガキ大将― 間違いました、リーダーのような存在でした。マーブとターブは双子の男の子。マーブはおっとりした気性でしたが、ターブは少々神経質だけどいつでもうまく立ち回る子でした。スージはおしゃまな青い髪が目立つ女の子。メイは緑の髪のかわいい甘えん坊です。
アイミはシルファーガルデンの幼年組に入ることになって大よろこびでした。
なんといっても、毎日、同じ年頃の子どもたちとおしゃべりし、遊べるのが楽しいのです。
勉強の中でも魔法の授業はとくに楽しいものでした。ほかの科目は... まあまあ好きだったということにしておきましょう。
ちなみに、アイミちゃんはお母さんのお乳が好きで3歳まで飲んでいましたが、エルフ学校に入学した日、先生のあいさつが終わったあとで
「お母さん、お乳ちょうだい!」
とお乳をねだったのを、新しいお友だちとなったクラスの子どもたちが見て
「わー、アイミちゃん、まだお乳飲むのォ?」
「アイミちゃんのママ、ボクにも飲ませてー」
と思いっきりからかわれたので、その日をもって(ようやく)乳離れすることができたそうです。
アイミは毎日、小鳥やリスや蝶々、カブトムシなどを連れてくるので学校でも人気者でした。
しかし、ある日、20匹ほどのゴキブリを連れてきた時は、子どもたちだけでなくエルフの女先生までがキャーキャー悲鳴をあげて逃げ回ったそうです。
またある日は、どこから迷い込んできたのかわからない大きなマハナヤ・タイガーを2頭連れてきて、その時はさすがの校長先生までが青くなって走ってエルフ警備兵を呼びに行ったそうです。
まあ、このマハナヤ・タイガーはアイミやアイフィお母さんの言うことをよく聞いて悪いことはしないとわかって皆んな安心したのですが。
このマハナヤ・タイガー、実は夫婦で後日かわいい赤ちゃんタイガーが生まれて、エルフの子どもたちのマスコットになったという後日譚もあります。
アイミが5歳になったときに、新しいお友だちができました。
でも、それはエルフではなく、人狼というオオカミ族の希少種の子どもでした。
人狼という種族は、ミッッデンランジア(中央大陸)とイーストランジア(東大陸)に少数が暮らしていたのですが、めずらしい生き物ということで人族の心ないハンターなどの狩りの標的にされ、数が減っていくのを可哀想に思ったエルフ女王が聖域に住む場所をあたえたのです。
その人狼たちも八十数年前の魔軍のアルフヘイム侵略の時にエルフたちを守って何十匹かが死に、残った人狼たちはエルフたちとマハナヤ山脈まで逃げてきていっしょに暮らしていたのですが、シルファーガルデンが始まった時、人狼は格闘術にすぐれていたことので、一人の人狼がエルフ女王の招きに応じて、エルフ学校の年長組の子たちに格闘術を教えるために一家を連れて宮廷の近くに引っ越してきたのです。
その人狼戦士の家族にはギブンティスという名前の1歳の男の子がいて、家が近かったこともあり、アイミはたちまちその人狼の子と仲良しになったのです。
ギブンティスも心がやさしいアイミが大好きで、おたがいアイミ姉ちゃま、ギブちゃんと呼びあうようになりました。
ギブは小さい時からお父さんから格闘術を習っていたこともあって、アイミが行くところはどこへでもついて行きました。そしていつも「ボクはアイミ姉ちゃまのボディガードだ!」と言っていました。
もっとも、二人とも大きくなるにしたがって、アイミのことを姉ちゃまと呼ばずに、アイミさまと呼ぶようになりましたが。
だって、知らない人が聞いたら、「エルフ少女の弟がオオカミ少年だということは、さてはエルフ母さんがオオカミ男とウワキを...」なんてよからぬ想像をしてしまわないかとギブが心配したからです。
まあ、エルフの女性たちは、そんなくだらないゴシップなどには興味がないということになっていますので。一応、そういうふうなことを エルフの女性たちは主張していますので、ここではそういうことにしておきましょう...
アイミも7歳になり、シルファーガルデンの年長組に入ることになりました。
そして、この時にアイミは初恋をしたのでした。
その初恋の相手は、エスティーナ新女王によって採用された人族のボッチ先生でした。
女王は、エルフの寿命が人族並みの100年になったことから、100年という短い人生を上手に生きている人族の教師を雇ってエルフの子どもたちに短い人生での生き方の知恵というものを教えた方がいいと考えていたのです。
そして選ばれた人族の教師はブラッド・ボッチという名前で180センチの長身、金髪碧眼のイケメンだったのです。
なんでも彼は冒険家で世界を放浪していて、たまたまマハナヤ山脈で前人未到と言われていたガヤー山に登山しようとやって来て迷って、寒さと空腹で死にそうになっていたのを、エルフのかくれ里境界見回り隊員に発見され、手厚い看護を受けたのだそうです。
ちょうどエスティーナ新女王が人族の教師を探していたころでもあり、彼は早速、読心能力のあるエルフ魔術師立会いの下でエルフ女王のインタビューを受けた結果、「期間限定」という条件付きで教師を引き受けることになりました。読心能力のあるエルフ魔術師が立ち会ったのは、もし、エルフのかくれ里を去ることになったとき、かくれ里のことを言いふらして回る人間かどうかを診るためでした。
しかし、一説によると- ボッチ先生がエスティーナ新女王の目にかなったのは、彼がイケメンだったからだそうです。
あくまでも、宮殿で勤めているエルフ巫女たちの間から広まった噂だそうで、真偽のほどは定かではないそうです。ま、これもいつも通りですね。
結局、彼は秘密を守れる人族だということが判明して、晴れて人族教師第一号になったわけですが、
イケメンで快活で世界各地を旅行していますので、若いけど興味深い経験や面白いお話しをたくさんしてくれるボッチ先生は、たちまち学校の女の子たちの憧れとなりました。
なにせ、まだ年端もいかないよう念組の女の子たちまでが「ボッチしぇんしぇい見たら、はあとがキューンってなるの」なんて調子で恋バナをするくらいでしたから、年長組、それにエルフの女教師や生徒のママたちからも熱い視線を向けられたと言いますから、その人気のすごさがわかるというものです。
いえいえ、エルフの女教師や生徒のママ...というくだりは、たんなる噂話です。もとより、エルフの女性たちは、いくら若くてイケメンだろうが、人族の男になどまったく関心はないそうですので、どこからそんな噂が流れたのか知りようもありませんが...
ボッチ先生は、さまざまなことを教えてくれました。
とくに人族の生き方というものについて。
「人生は短いんだから、君たちも人生を人族のように生きようと思ったら、のんびり生きていてはだめだ」
「好きなことを見つけたら、いっしょうけんめいに打ち込むこと」
「好きなことなら、なんど失敗してもあきらめないこと」
「好きな人を見つけたら、いっしょうけんめいに恋をすること」
「友だちは大事に。ぜったいに裏切ってはいけない」
などなど、エルフの大人からは決して習わないような“人生の教訓”というものがたくさん含まれていました。
アイミはそんなボッチ先生をうっとりした目で見ながらも、しっかりとそういった“人生の教訓”を心に刻んでいました。
アイミはアイホおばあちゃんが見抜いたように、一度見た魔法をすぐに解析して覚える能力をもっていましたが、心優しいアイミは、人や動物を傷つけたり、自然を破壊したりする魔法をおぼえる気はまったくありませんでした。
それでも、スクールの魔法の授業でクラスメートたちが、火の魔法や、氷の魔法、かまいたちの魔法などを使っていると、知らず知らずのうちに解析して覚えてしまうのですが、魔法というものは、使わないと上達しないものなので、これらの魔法の習熟度は初歩レベル止まりでした。
その代わり、人や動物を助けたり、元気づけたりする魔法は積極的に覚え、また使ったので年長組に進級したころは、アイミの回復魔法や治癒魔法はベテランの魔術師に匹敵するような強力なレベルにまで上がっていました。
しかし、残念なことに、アイミが12歳になったとき、かくれ里のエルフ学校で7年間教鞭をとったボッチ先生は「また冒険の旅に出るんだ!」と言ってエルフのかくれ里を去り、また放浪の旅に出て行ってしまったのです。
ボッチ先生とのお別れの日に、涙を流して別れを悲しんだのは学校の女の子たちだけでなく、エルフの女教師(中には既婚者もいたとか...)や女の子たちの母親の中にも少なからずいたとかいなかったとか...
まあ、そんな事はどうでもいい事なのですが、学校関係者もエスティーナ新女王も人族の教師の有用性をしっかりと認識しましたので、しばらくすると後任に30代の人族の女性がやって来ました。
「まだ独身です」というスリムな身体の女性歴史学者に大いに関心をもったのは、先年、長く連れ添った妻を亡くしたばかりのエルフ学校の校長先生だけでなく、学校にわが子、わが孫を通わせているエルフお父さんやエルフおじいちゃんの中にも結構いたとかいなかったとか。
そして、そのことを知った奥さんやおばあちゃんに強烈な肘鉄砲を食らったとか食らわなかったとか... 真偽のほどはよくわかりません。なにせ人里離れたエルフのかくれ里の出来事ですので。
そういうわけで、アイミ&すべての女子生徒の初恋ははかなく終わったのでした。
アイミは、この新任の人族教師からも、世界の歴史というものについて多くの事を学びました。
そしてまた2年がたち、エルフ・スクールを首席で卒業したアイミは、彼女の優れた魔法能力を聞いたエスティーナ新女王が、ぜひアイミをという要望で宮廷で巫女見習いとして務めはじめることになりました。ちなみに、お母さんのアイフィもおばあちゃんのアイホも魔術師でもあり巫女でもあるのです。まあ、おばあちゃんはもう現役を引退したので、宮廷には女王さまとお茶を飲み、おしゃべりをしに行くくらいなのですが。
巫女見習いの仕事は、宮殿で行われる神事のお手伝いをする傍ら、女王のお世話もします。
どちらがメーンとも言えないので、巫女見習い兼女王のメイド見習いさんみたいな感じでしょうか。
女王も心優しくて賢いアイミがとても気に入って、よく「アイミは...」とか「アイミにやらせなさい」などと何かにつけアイミに仕事させたり、たいした用もないのに呼んでいっしょにお話をしたりするのです。
巫女見習いってメッチャ楽~♪




