11-35 カナストラの戦い
魔軍第四軍は、獣人族国西南部のネイボース川地域からトロール国南部のオリンコ川にかけてのデルタ地域にまで後退しながらも強固な抵抗を続けていた。
アウロラとリョースアールヴの1番隊、2番隊は、その魔軍第四軍の司令部を攻撃すべく高速飛行しながら探索をしていた。
飛べないエルフはホワイトドラゴンに乗っている。
ステルス魔法を使っているので地上からその姿は見えない。
ホワイトドラゴン偵察隊からの情報では、魔軍第四軍の司令部はカナストラ山脈のどこかにあるという。
「カナストラ山脈のどこかにあると言ってもなァ...」
グルッタ5号の背でアレクがボヤく。
グルッタは、エルフ国のヴァナ港から南西80キロの山中にある「カヴェルナッス洞窟群」で見つかった三十数匹のホワイトドラゴンのうちの一頭で、「グルッタ」という鍾乳洞にいたことからグルッタ1号、2号...と数字をつけられたものだ。
今回の『箒星作戦』には、グルッタ5号、8号、12号が参加している。
(そうボヤかないで、アレク。じゃあ、ロッキラさん、ステルス魔法を解除してバリアーだけで、山脈のふもとの東側を南から北へ向かって低空で飛んでみて。
8号のヨシュミさんは5号の10キロ西側をふもとの西側をおなじように。
12号のロザリンさんは、8号の10キロ西側を。魔軍が攻撃して来たら、
どこからの攻撃が多いか観察すること。また、火や煙を見たら、それがどこから出ているのか確認すること。気を抜かないでしっかり見てちょうだい!)
アウロラが的確に指示を出す。
(((了解!)))
(飛行できる子はなるべく地上近くを飛んで、防御陣地や地下陣地の所在地を示す炊事の煙などが出てないか注意深く観察すること。こちらはステルス魔法を忘れず!)
((((((((((((了解!))))))))))))))
カナストラ山脈は、魔大陸のアンターカ岬から魔海峡をはさんでちょうど反対側にあるペンゾン岬からはじまり、ずっと北へ600キロほど伸びている山脈だ。
山脈と言っても、一つの山並みが続いているわけではない。
まるで大地が波打つように、いくつもの山が幾重にも並んで走っているのがふつうで、カナストラ山脈もその例外ではない。
『巨嘴鳥座作戦』によって獣人族軍20個師団の250万に西から攻め込まれ、南の海側からは人族連合軍15師団が上陸し、南西部海岸からはヤマト軍、ドワーフ軍がそれぞれ5個師団ずつ迫った。
これら同盟軍は強力な火力を有しており、兵力的にも火力的にも劣勢となった魔軍はずっと奥地へまで後退している。
80万の兵力をもつ魔軍第四軍は、知将ザーディス軍団長がカナストラ山脈に構築させた巧妙な防御陣地のため、平地戦では圧倒的な攻撃力を誇る同盟軍の機甲師団も山地戦では有効に使えず、白兵戦に近い肉弾戦がメーンとなる苦戦を強いられていた。
そこで、アウロラはローラー作戦みたいな戦術をとることを決断したのだ。
アウロラは、600キロの延長があるカナストラ山脈の最北端に魔軍の司令部があるとは考えてはなかったが、そう簡単に発見できるとも考えてなかった。
とにかく安易な考えは捨て、地道にしらみつぶしで探すしかない。
時おり、グルッタ偵察隊から地上から攻撃を受けたとか、あやしい煙を発見したとかの念話連絡がはいったが、急行してみると、小部隊だったり、地元の獣人の家から出る煙だったりした。
(アウロラ隊長、こちらグルッタ12号。現地点で予想以上の攻撃を受けています!)
いつもはのんびりしているロザリンから切羽詰まったような連絡が入った。
(なんですって?それで、ロザリンさんたちは何かしたの?)
(はい、ためしにファイアーフォールをぶち込んでみたら、猛烈に反撃して来ました!)
(わかったわ!すぐにそちらに行くから、攻撃を続けて。でも決して無理をしないように!)
(はい!)
(ザパータの者たちには十分気をつけて!)
(はい!)
グルッタ5号と8号には引き続き偵察を続行するように連絡すると、アウロラは飛行偵察していたリョースアールヴたちを招集した。
もし魔軍第四軍の司令部なら、総力で攻撃するためだ。
そのとき、予知・予測が特技のミッチェラからアラームが発された。
(グルッタ12号、大至急、その場から離脱してください!この波動はザパータの者です!)
アウロラはマッハ3を超える超速度で現場へ急行する。
(リョースアールヴ《光のエルフ》たちは安全なところに待機!私がザパータの者を始末するまで何もしないで!)
((((((((((((了解!))))))))))))))
折り返し、アレクに勇者王国の参謀室に状況を説明させた。
(アウロラちゃん、十分に気をつけて! 今アイミにも知らせたから、彼女の支援が必要だったらすぐに連絡をして!)
モモ参謀室長から間髪をいれずに連絡が来る。
グルッタ12号が知らせて来た地点に接近したとき、一条の超高熱のビームが彼女に向かって放たれた。
(ヨケテ!)
その念話がなければ、たぶんアウロラのひたいには穴が開いていただろう。
百万分の一秒差でアウロラはかわしたが、金髪が数十本焼き切れた。
息もつかせずに、続いて二条目、三条目と超高熱ビームが空気を焦がして、ジグザグに高速で飛ぶアウロラを捉えようとする。
アウロラは防御バリアーを張っているから、超高熱ビームでもまったく問題はないのだが、相手が何人いるかわからないので、自分の手の内は見せないつもりなのだ。
(ヨケテ!)
またアラートが来た。
アウロラは急停止すると直角に上昇した。
背後からビームが追ってくるが、彼女が直進しようとしていた空間が透明な強化ガラスのように硬化したのを察知した。
“これで二人…”
アウロラは高速でジグザグ飛行しながら、反撃を試みる。
ビームの発生源に向かって1万度の熱線の束を放つ。
それも一度ではなく、連続して1分間ほどシャワーのように降らせる。
アウロラの得意な致死的魔法攻撃だ。
超高熱ビーム攻撃が途絶えるが、敵は死んでいないことを知っている。
空気の壁がしきりに現れる。
もう一人の敵がいると感じたポイントを中心に今度は零下百度の凍嵐を見舞う。
1万度の熱線の束を放ちながら、同時に凍嵐をこれはと思うポイントに放射する。
はるか上空で見ていたリョースアールヴたちがぶったまげている。
“アウロラ隊長の魔法、神業だね!”
“わたしなら、この時点でイチコロだわ…”
ダブル超魔法攻撃が功を奏したようで、どうやら一人の敵は戦線から離脱したようだ。
(みんな、敵がそちらに行ったかも知れないから気をつけて!)
必死に戦いながらも、リョースアールヴたちを気遣うアウロラ。
するとアウロラが戦っていた敵が攻撃をやめ、姿を現した。
高度千メートルほどの高さに浮遊している。
「やはりザパータの者ね... あなたはアビズム!」
「ヒーッヒヒッヒ!よくちょこまかと逃げる小娘じゃ。じゃが、これでオマエも、そのあたりにいるエルフたちも終わりじゃ!」
「なんですって?」
ダークグレイのローブを着た老魔術師の周りの空間が変化しはじめた。
(キケン!キケン!)
悲鳴を上げるようなアラートが送られてくる。
しかし、これは逃げることができない…
アウロラはそう確信した。
それは老魔術師アビズムの前方50メートルほどの空間に現れた。
その黒い小さな点は、どういうわけかまるで掃除機のように周りの空気を激しく吸いはじめた。
数ミリだった黒い穴は、5センチ、30センチと急速に成長していく。
それとともに、まるで突風のように周囲の空気が吸い込まれていく。
穴が大きくなるにつれ、その吸引力も格段に強くなっていく。
1メートルほどの直径になったとき、アウロラは吸い込まれないように全力で逆方向へ推力を働かせなければならなくなった。
「ヒーッヒヒッヒ!なぜ、わたしの名前がアビズムかわかるか?
それは、この究極の魔法を使うからじゃ!
このアビズムからは誰も逃れることができんぞ?」
「どうやらそのようね? でも、幸い、私は魔族の古の魔術の研究もしているのよ。アビズムの対処法も研究済みってこと!」
「な、なにをほざくか!?」
アウロラは両手をアビズムの穴に向けると、そこから凄まじい光― いや、粒子の束が穴に向かって流れ込み始めた。
「そ、それは!?」
次の瞬間、目も開けてもられないような眩い光があたり1キロ四方を満たした。
アウロラはその直前に目を閉じ手を前に当てていた。
念話で近くにいたリョースアールヴたちにも直前に念話で同じことをするように命じていた。
光がなくなったあと、10メートルにまでなっていた黒い穴もザパータの老婆も消滅していた。
「こ、この――っ! よくもアビズムを!」
リョースアールヴたちに近いところにいた、もう一人のザパータの者、ゼンデゴラが、リョースアールヴたちに超高熱ビームを放ったが、ミッチェラの予知で知らされたアルウェンが即座に発動した“還着”魔法ではね返されて、蒸発してしまった。
(さあ、みんな。邪魔者はいなくなったわ。敵司令部の始末をはじめましょう!)
((((((((((((了解!))))))))))))))
元気よく返事をするリョースアールヴたち。
しかし、結局、リョースアールヴたちは、その威力を発揮する機会はなかった。
アウロラたちの戦いぶりを見ていたザーディス軍団長が、
「この者たちと戦っても無意味だ。兵を無駄死にさせたくはない」
と言って白旗を上げさせ降伏したのだ。
そのことを知らされた援軍の水中艦隊の援軍司令官のデーリング将軍とハイバデイッカ参謀は、ネイボース川を50キロほど遡ったところで浮上して降伏を告げた。
デーリング将軍もハイバデイッカも ボリゾディスとボウデイッカから勇者王国軍に降伏したと知らされていたからだ。
* * *
かくして、勇者グループとリョースアールヴの活躍で、司令部を衝かれ、司令官たちが降伏し捕虜となった魔軍第三軍と第四軍は、全軍が同盟国軍に降伏してしまった。
わずか一日の戦いで‐それも20人ほどの小部隊で魔軍第三軍と第四軍を降伏に追い込んだ勇者王国の力に同盟国諸国は再度驚き、魔軍総司令部はひっくり返るほどの衝撃を受けた。
魔王もアサグもベイアリアも口にこそ出さなかったが、もう魔軍にはもう同盟国に攻め入る方策がないということを知っていた。
魔王が作戦司令部から不機嫌な顔で退出したあと、ベイアリアはアサグ参謀長とほかの参謀たちや将軍たちの顔を見回して言った。
「今度は同盟軍が侵攻してくるわよ!防戦の準備をしなければ...」
そして魔王に続いて指令室を出て行った。
ベイアリアは大きくふくらんだ腹をなでながら‐もう妊娠6ヶ月なのだ‐“同盟国軍がこの首都ルーパダトゥまで攻めこんで来たらどうしよう...” と考えていた。
ハイバデイッカとボウデイッカからは“捕虜になったけどケガはない”と連絡があった。
同盟軍は、魔軍の捕虜を手荒に扱わないということは、魔軍将校の間ではすでに常識となっていた。
それゆえ、降伏・投降する魔軍将兵が続出しているのだ。
バリゾディス 軍団長もボリゾディス軍団長も老練なザーディス軍団長も、そのことを知っているから無駄な戦いを避けて降伏したのだろう。
ハイバデイッカとボウデイッカは、彼女たちが原案を作った『炎の地獄作戦』が最初のゾオル攻略でつまづき、大敗を喫したことの責任をとってオマゾン地域およびネイボース川デルタ地域での反撃作戦に自ら志願して、作戦のフォローをするために戦地へ向かったのだったが、ベイアリアは娘たちが死地を求めて行ったのだということを知っていた。
ハイバデイッカもボウデイッカも若すぎるし、また潔すぎる。
死ぬことをまったく恐れてないし、参謀部の古狸将軍たちや古参参謀たちから、“大敗の責任者”と見られていることに憤慨し、第一線で見事に散ることでラヴォルジーニ家の誇りを守ろうとしているのだということも。
なので、娘たちが無事だと知ったときはひざの力が抜けて床にひざまずいてしまった。
涙があとからあとから頬をつたって床に落ちた。
* * *
勇者王国軍は、オマゾン地域の魔軍将兵の武装解除を終え、彼らを収容所へ送り出す作業に没頭していた。魔軍のグヴァシル将軍も協力を惜しまずに働いた。
懸念していたカインガー族の問題も、彼らがアイミを“神様”と恐れ、敬ったことで問題なく解決した。
それはそうだろう。
空中を飛行し、バリアーを張っているために周りの空間が球状に少し太陽光を反射する姿‐白いウィンプル姿‐は神々しくもあり、雷撃魔法で魔軍陣地を粉砕したのを見て、恐れ戦いてしまったのだ。
レオたちがアイミを連れて‐有尾族への効果も狙って空中浮遊させて‐大酋長ツピナンバを訪問したのだが、ツピナンバは住居である茅葺のバカでかい家から出てきて一族郎党ともに地面にひざまずいてレオたち一行を迎えた。
レオたちを代表してランが大酋長ツピナンバと配下の10人の酋長ならびに3人の息子たちに告げた。
「アイミ女王さまは、次のことを命令する。大酋長ツピナンバは大酋長の座を退き、なんの権限もない隠居となる。以後、 カインガー族は大酋長を立てずに、10人の酋長による集団協議体制によって部族を維持すること。今後、いかなる理由があれ、ほかの有尾族を攻撃してはならない。今後、人魚を狩ったり、捕えたり、食べたりすることは厳禁する。もし、これを破る者がいれば、“神様”が厳罰に処する...」
そこまで言ったとき、突然、ひざまずいて聞いていたカインガー族の一人が大声をあげて抗議した。
「それはなんじゃ――?! オマエたちだけで人魚の肉を独占しようというのか――?!」
ツピナンバでさえ“ギョッ!”とした顔になってその声の主をみて叫んだ。
「パジェー、だまらんか!」
「いや、だまりはせん。アタシはカインガー族の予言者じゃ。このニセ神どもにしたがったら、われわれの部族は没落...」
パジェーは最後まで言えなかった。
シャーマン老女は突然消えた。




