11-27 オマゾンを救え③
ボリゾディスは、女性将校用バスルームにはいっった。
そこには、バスタブの中で身を縮こませている3匹の若い人魚たちがいた。
ボリゾディスがはいってくると、あわてて胸をかくし、警戒の目で彼を見た。
ボリゾディスの後ろには、ボウデイッカと若い女将校が数人いる。
「この人魚を一匹ずつ、俺の部屋へ運んでくれ」
「どの人魚を先に連れて行きますか?」
副官のローズルが訊く。
「そうだな... 緑色の髪と黄緑色の髪の人魚の方が、出るところは出ているから...」
そう言ってボリゾディスは、豊かな胸と張った腰をもつ二匹を好色そうな目で見た。
緑色の髪と黄緑色の髪の人魚は、まるでボリゾディスの言葉が理解できるかのように、豊満な胸を抱えたり、腰を自分でなでたりしてなまめかしいしぐさをしている?
「ほう... 俺を誘っているのか?」
「■■■■!ピュッ ピュ―――――!」
すると、どういうわけか水色の髪の人魚が何かわけのわからない言葉で叫び、ひと際鋭い音をたてた。
「なんだ、おまえはヤキモチを焼いているのか?」
緑色の髪と黄緑色の髪の人魚を運ばせようとしたボリゾディス。
少しおどろいたようだが、思い直したように命令を下した。
「では、おまえから先に可愛がってやるとするか。この水色の髪の人魚を連れて行け!」
「「「「「「はいっ!」」」」
女性将校たちが答える
「ピュ ピュ―――!■■■■■!!」
「ピュ ピュ――!■■■■■!」
どういうわけか、緑色の髪と黄緑色の髪の人魚が目の色を変えてうるさいくらいに叫びはじめた。
水色の髪の人魚はバタバタするが、4人の女性将校たちに抑え込まれ、ロープで後ろ手に括られると担がれてバスルームから連れ出される。
魚のような下半身をバタバタするので、下半身を抱えていた女性将校が投げ飛ばされた。
「クソ!誰か軍医を呼んで来い。麻酔薬を打たせよう!」
「ピュ ピュ―――――――!!!」
絶望的な悲鳴のような叫び声をあげる人魚。
ド―――ン……
その時、近くでカミナリが落ちたような音がした。
「な、なんだ!」
「カミナリ? こんな晴れた日に?」
「すぐ近くに落ちたわ!」
ボリゾディスたちは窓に駆け寄る。
先ほどまで晴れ渡っていた空は真っ黒な雲で覆われていた。
外で騒ぎが起こっている。
「!」
「監視塔が!」
「監視塔に落雷したの?」
カミナリは、ボリゾディスたちのいた将校用の宿舎から50メートルほどのところに立っていた監視塔に落ちたらしく、木材で作られた監視塔が真っ黒になって黒っぽい煙をあげていた。
「見ろっ!あれは?」
「浮かんでいる!」
「魔術師だ!」
外にいる魔軍将兵たちが騒いで空を指さしている。
「ムッ!敵の魔術師だ!」
「いつ、どこから来たのかしら?」
「おそらく、姿を隠す魔法を使っていたのだろう!」
ボリゾディスとボウデッカが、空に浮かんでいる女魔術師を見ている。
司令部棟などの建物が並ぶ森林の中の開けた場所の上空に浮かんでいる、白のウインプルとトゥニカを着た魔術師は若く美しい顔の女性魔術師であることがわかる。
「何をしているっ?早く撃ち落とせ!」
しばし茫然と見ていた魔軍兵士たちに、そこにいた上官の魔軍将校が命令をする。
魔軍兵士たちが、あわてて銃を構えて狙いを定めようとしたが―
バリバリバリッ!
ドドドドド――――――ン!
眩しいようなカミナリが瞬時に魔軍兵士たちに落下した。
命令をした上官も銃を向けようとした魔軍兵士たちも、悲鳴も上げるひまもなく黒焦げになり、消滅した。
「無駄な抵抗はしないでください。私の名前はアイミ。ここにいるあなたたち魔軍将兵を一人も残らずに倒すことができる力をもつ魔術師です!」
そう言うと、アイミと名乗った美しい魔術師は、両手を空に向けた。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!
目が眩むような青白いカミナリが、数百もオマゾンの密林に落ちた!
しばらくしてから、すさまじい落雷音が響いて来た。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――――――ン!
サンダーストリーム
ボリゾディスたちは口も利けないほど驚いて茫然と見ていた。
「それに、あなたたちの潜水艦艦隊は、今ごろ全滅させれれているはずよ。無条件降伏をお勧めするわ!」
ズズ――――ン……
ズズズズズ――――――ン……
ズズズズズズズ――――――ン……
オマゾンの魔軍司令部からそう遠くないところ― イリリ川の上流にある魔軍の潜水艦隊停泊地の方から、腹に響くような音が聞こえて来て...
無数の黒煙が上がりはじめた。
「!」
「!!」
「‼」
そして―
アイミと名乗った美しい女魔術師の周りに
次々と魔術師たちが姿を現しはじめた。
* * *
『オマゾンの人魚作戦』が発動されたのは、1時間ほど前だった。
アイミが「人魚姫が助けを求めています!」とレオに言ったことから、まず最初にホワイトドラゴンで偵察をすることが決定された。
ゲート能力のすぐれているフィンラがゲートを開けて、リョースアールヴが5匹のホワイトドラゴンに乗ってオマゾン川の上空までゲートで跳び、ステルス飛行で姿をかくしてオマゾン流域をくまなく偵察することにしたのだ。
《司令部へ。司令部へ。こちらホワイトドラゴン偵察隊3班!》
《こちら司令部。ホワイトドラゴン偵察隊3班どうぞ》
《イリリ川の上流で、魔軍の艦隊らしいものが停泊しているのを発見!》
《詳細を知らせてください、3班》
《艦船数は百ほど。なんだか黒色に船体が塗られており、甲板上には目だった兵器などは見られません!》
《魔軍艦隊は、現在、どんなことをしていますか?》
《兵を岸に上陸させているようです》
《了解!引き続き、何か変わったことがないか観察願います》
オマゾン地域
オマゾンで魔軍の艦隊が発見された!
報告はすぐにオクタゴンハウスにいたレオにも知らせられた。
レオはアイミが人魚姫の念話をキャッチした時、オマゾン川にいるらしいと思っていたが、報告を聞いてアイミの伝えた情報が正しかったということを確信した。
「ホワイトドラゴン偵察隊からの報告では、どうやら魔軍はオマゾン川の支流の一つであるイリリ川の上流に軍を送りこんだようです」
勇者王国軍司令部。
作戦会議室で、イーデルがマソテレビに、ホワイトドラゴン偵察隊が送って来た魔軍艦隊の写真を次々と画面に映して見せる。
上空から写した写真もあるが、かなり高度を下げ―と言っても安全な距離をとったのだろうが― 斜め上空から撮った写真もあり、魔軍の軍船の特徴がよくわかる。
「ふうむ... たしかに変わった軍船ですね」
バルキュス司令官が言うと、ヤンガーも大きく頷く。
「たしかに船上構造物は真ん中にある艦橋だけのようだが、アンテナらしいものがあるだけだな?」
レオはひと目見てわかった。
“これは潜水艦だ!”
「これは、たぶん、水中を航行できる潜水艦というやつだ」
「え? センスイカン?」
「水中を航行できる?」
「そんなモノを魔軍は開発したのか!」
「水中だと、空気がなくなって死ぬのじゃないか?」
バルキュス司令官たちがおどろき、ベンケイがあごに拳をあてて言う。
「いや。たぶん空気を取り入れるシュノーケルを使って、呼吸用とエンジン用の空気を取り入れているんだろう」
「しゅのーけるとは、何ですか、レオ殿?」
「?」
「?」
「?」
「なんだ。新しい名前のスイーツか?」
イーデルが訊き、ほかの者も?マークを浮かべている。
ベンケイはお菓子の一種だと思っているらしい?
まさか、“ドイツ語で鼻”という意味の―
地球という惑星で、ドイツが開発した潜水艦用の通風・排気装置― なんて言えない。
「ある神話に、『ドンナー』という神が、海を支配していた悪神と戦うために、神通力で鼻を長く伸ばして海面の上から空気を吸って戦い、勝ったというのがあるんだ。その長い鼻のことをシュノーケルと言うんだ」
いいかげんな神話を作り出してゴマかした。
「すごいです、レオさま。私もそんな神話は知りませんでしたわ!」
「どこの神話なのでしょうか? 私、初めて聞きましたわ」
アイミとオリヴィアが、尊敬の目差しでレオを見る。
「そんな神話、今まで一度もマリステラに話してくれたことなかったじゃないの!」
「モモコーにもレオタローにも話してくれなかったぞ?」
「レンにも話してくれていませんわ」
「ジオンとマユラからも、パパからそんな話を聞いたと聞いたことがありません」
イザベルたち奥さんから、一斉にブーイングが起こる。
「みんな、今はそんなことよりも、魔軍の新兵器という重大な事を話しているのよ!」
モモがピシッと言うと、奥さんたちはだまってしまった。
「なによ。モモは子どもがいないもんだから...」
「そうよね。子どもが出来ないと母親の気持ちなんてわからないわ」
ボソボソとイザベルとランが小さな声で、まだ子どもを産んでいないモモを批判する。
「聞こえているわよ? わたしが子どもを作らないのは、まだ魔王との戦いが終わってないからよ!」
少し怒った顔のモモも魅力的で、レオは思わずその横顔を見とれてしまった。
“今のことをオカズにして、夜、ベッドでからかってやろう...”
などとよからぬ企みをするレオ。
モモはイザベルたちが、自分をからかっているということを知っており、本心から怒ってない。
勇者グループでまだ子どもを産んでないのはモモだけではない。
絶世の美女、紫の瞳の奥さんオリヴィアもいまだ産んでない。
その理由は、オリヴィアによれば“子どもを産むと体形がくずれる”というものだった。
彼女は高級婦人服ブランド『オリヴィーユ』のトップモデルであり、それをとても誇りに思っているのだ。
「コホン... で、レオ、そのシュノーケルとかをつけている潜水艦って、どんな性能なの?」
レオが彼女の顔を凝視しているのに気づいて、少し顔を赤くしながらモモが説明をうながす。
「まあ、水圧に耐えれる船体の強度にもよるけど、だいたい50メートル、よくて100メートルくらいだろう」
「50メートルというと、ほぼ空中からは確認できませんね」
「100メートルというと、絶対に発見できないな...」
イーデルとヤンガーが“やっかいな新兵器だ”と認識したようだ。
「じゃあ、レオがオマゾンの人魚姫さまを救出することに、かなり関心があるようだし、オマゾンで兵力を増強しつつある魔軍を叩くのにいい機会だと思うから、『オマゾンの人魚作戦』を練りましょう!」
「ちょ、ちょっと待て、モモ。それじゃあ、まるでオレのお姫様救出作戦みたいじゃないか?」
「あら、そうじゃないの?」
「わたしもそうだと思いました」
「そうじゃないのか? まさかオマゾンで釣りをするのか?」
「いいではないですか、レオさま。オマゾンの人魚姫さまの救出作戦って...」
「とてもロマンチックだわね!」
というわけで、『オマゾンの人魚作戦』が正式な作戦名になってしまった。




