2-28 銀狼たちの戦い①
カイオ王子、イザベル、それにオオカミ少年ギブの戦いが始まります。
レオたちと別れたカイオとイザベルとギブ。
彼らは銀狼の群れとともにドワーフ軍と魔軍の対峙している前線を目指して森の中を移動している。
銀狼族は犬科動物の特徴である長距離走に適した種族であるが、同属の犬や狼にくらべてはるかにスタミナとパワーがあるため、時速40~60キロでの長時間移動ができる。
計算では、ドワーフ軍の前線までは15時間ほどで到着するはずなので、走りはじめて十数時間たった現在位置は、すでに魔軍の前線にかなり近いところのはずだ。
したがって、いつ魔軍の部隊に遭遇するかも知れない。
そのリスクを避けるためにわざわざ森の中を通るルートを選んだのだが、森のとぎれたところなどでは空から偵察をするブラックドラゴンに見つかるかも知れない。油断は禁物だ。
レオとアイミとシーノのA班のミッションは南方で魔軍に押し込まれて苦戦しているヤマト軍と接触し、南からの反撃作戦について説明し説得すること。
カイオ、イザベルとギブの三人のB班のミッションは、北方で魔軍相手に善戦しているドワーフ軍と接触し、これも同じく北からの反撃作戦について説明し説得することだ。
どちらの班のミッションもたやすいことではない。
しかしミィテラの世界を救うためにやらなければならないことで、ほかの誰でもない、自分たち― 創造主エタナールさまから“勇者”と名付けられた者たち― がやらなければならないことなのだ。
B班のフォローをしてくれているのは十頭の銀狼たち。
彼らはオオカミ族の中でも希少種であるが、絶滅寸前だったところをエルフ族に救われた恩を少しでも返したいとギブの要請に応じて助っ人としてB班に合流した。
森の中を疾走する銀狼たち。
尾を入れると4メートル近い体長を持つ銀狼たちが疾走する姿はまるで銀色の風が通り抜けるようだ。
カイオとイザベルとギブが乗っている3頭の周囲には4頭が距離を置いて護衛しつつ並走している。
3頭は前方数百メートルを走っていて、もし敵がいてそれが少数であれば倒す― 銀狼の戦闘力はそこらへんの魔族など足元にも及ばないのだ― 敵が多ければ迂回するようにオオカミ同士の連絡方法(吠える)で知らせる。
“そろそろ魔軍と接触してもいいころだな...”
すでに夜になって、カイオもイザベルも周りが暗いのであまりよく見えないが、ギブも銀狼たちも暗闇の中でも視力は衰えることはない。
カイオはみんなに注意をうながし、ギブに銀狼たちに伝えるように頼んだ。
それからしばらく走ったとき、森の中を疾走していた銀狼たちが、急に耳を立てたかと思うと止まった。
「おっ、なにかあったのかな?」
「もしかして魔族を発見?」
ギブが早速「ウルウル」とオオカミ語で銀狼と話している。
「カイオさん、イザベルさん、前方の銀狼さんたちが魔軍部隊をキャッチしました!」
「よし、じゃあ、先頭の3頭の銀狼たちに敵の状況をよく偵察するように言ってくれ。あくまでも隠密行動で!」
「ウルル、ウルウル...」
早速、ギブがカイオの命令を伝える。
それに対してギブが乗っているボス銀狼から反応がある。
「グルル、グルググル...」
「われわれ3人を乗せている銀狼をのぞいて、ほかの4頭の銀狼も偵察に向かわせると言っています。」
「オーケー。よろしくたのむ!」
さらに4頭の銀狼が静かに群れから離れて索敵に向かう。
待つこと1時間弱。
次々と偵察に向かった銀狼たちから報告が入っているらしく、3人を乗せているボス銀狼と2頭たちがぴくぴくと耳を動かしている。ときたま銀狼の群れのボス― ロボンというらしい―が高周波の遠吠えで返事をしている。
「ロボンさんによれば、この先、東北東5キロのところに魔軍の大きな兵站基地があるそうです。そしてそのそばには防衛をかねた後方部隊の駐屯地があり、およそ数千人の魔軍兵士がいるそうです」
「よし、じゃあ小手調べにこの兵站基地を攻撃して、魔軍の後方を乱すか?」
「魔軍の後方を乱すのはいいけど、そのあとどうするの?」
「そうだな... それだけじゃドワーフ軍のおエライさんの注意を引くには不十分だな。」
「それと、やはり我々3人と銀狼さんたち10頭じゃ戦力が足りないと思うわ...」
「うーん... たのみの綱はイザベルのガンデーヴァの弓とボクのゲイボルグの槍だけだし、実際に大勢の敵を相手にしたとき、どれだけ攻撃力があるか、まだよくわかってないところがあるからな...」
「そうよね... シーノちゃんは、私の弓は“カーンダヴァの森を焼き払い多くの敵を殺した”とか言ってたし、カイオの槍は“ただ1~2メートル伸びるだけでなく、投げれば無数に枝分かれして降り注いで刺さり、突けば無数の槍の穂となって敵を刺す”なんて言ってたけど、まだ実際にその威力を体験してないから不安あるわよね...」
「シーノちゃんは、ボクには土属性の魔法土弾、散土弾があるはずだし、イザベルには火属性のファイアーアロー、ビッグファイアなんていう魔法があるから、今度の戦いで思う存分ためしてみるといいって言ってたけどな...」
「ここはやはり、最初にミィテラの世界に来た時みたいに、試しに戦って自分たちの戦闘能力っていうか、この宝具の力を実体験したいわね...」
「じゃあ、僕がロボンさんに言って、カイオさんたちが無理しないで戦えるくらいの適当な数の魔軍兵士を見つけるように頼んでみましょうか?」
「そうだね... やはりここはムリをしない方がいいだろうね。ボクらのプライオリティーは生きてドワーフたちに会い、いっしょに魔軍と戦う事だからね」
「じゃあ、たのんでみます... ウルル、ウルルウル...」
「ググル、ググルグルグル?...」
「えっ?」
「どうした、ギブ?ロボンさんが“それは出来ない”って言ったか?」
「いえ、実はロボンさんは、僕たちが出発してからすぐに、もっとたくさんの仲間が後をついて来ているって言ってるんですよ!?」
「なに?もっと多くの銀狼たちがボクらのあとをついて来ているって?」
「ギブ、その仲間たちってどれくらい来ているの?20頭とか30頭とか?」
「いえ、銀狼部族の主だった戦力― 300頭ほどが1時間ほど遅れてぼくたちを追っていて、今は僕たちが止まっているから、ここから後方5キロほどのところで止まっているそうです。」
「さ、さんびゃく頭???」
「銀狼さんたち、どうしてそんなことをしているの?」
「ウルルウル...」
「ググルグルグル...」
ちょっと長いオオカミ同士の会話が続いたが、銀狼族のリーダーだるロボンが語ったところによると、魔王ルゾードがエルフ国からエルフたちを追い出してから、聖域の状況はどんどん悪くなるばかりで、このまま魔族がイーストランジアを占領し続けると、遅かれ速かれ銀狼族たちも魔族に追われるようになり、ヘタすると銀狼族は滅亡してしまう。
銀狼族としても何とかエルフたちに協力して、聖域を奪い返す手助けをしたいが、今までその機会はなかった。しかし、この度ギブが現れ、異世界からやってきた勇者たちを手伝ってこの世界を魔王の手から救おうとしてると聞いた。
そしてその異世界からやって来た勇者たちは、想像もできないような能力と創造主さまの加護をもっているらしいことがわかった。
そこで、ロボンは銀狼の族長として、これこそが銀狼が生き残る唯一の道だと決心し、その旨を一族に伝えたところ、全員が族長の考えに賛成した。そこで一度に300頭もの銀狼が勇者たちと一緒に移動しても目につくので離れてついて来て、時期を見て話すつもりだったということだった。
「よし、では銀狼諸君の決心を尊重して、今から魔軍に攻撃をするので、銀狼たちのグループリーダーにここに集まるように伝えてくれ。今から作戦会議を開く!」
「はい、了解しました。ウルルウル...」
しばらくして、3人の前に7頭の銀狼のグループリーダーたちが集まった。
それぞれボスであるロボンに勝るとも劣らない巨体の持ち主だ。
中でも体毛が銀と言うより白銀といった方がいいほど光沢のある毛をもった銀狼がいた。その銀狼の体長はほかのリーダーに比べて一回り小さいようだが、それでも3.5メートルほどはある。
ボスの前に来たリーダーたちは、それぞれ自己紹介した。
ガブリル、ローギ、ギィマロ、ゴロー、グエンス、ガァロー、そして白銀狼のキャネリー。
ギブによると、ガブリル、ローギとキャネリーは族長ロボンの子どもたちで、キャネリーは10歳のメス銀狼だそうだ。
「ふーん... ギブちゃんはキャネリーちゃんに一目ぼれってことね?」
イザベルがギブの耳元でささやくと
「ト、トンデモナイです、イ、イザベルさん。ただきれいな銀狼の娘だなーって思っただけですよ!」
ブンブンしっぽを振って否定するギブだったが、その目の中にラブハートマークが浮かんでいるのをしっかりと確認したイザベルだった。
「では、これより作戦会議を開きます。イザベルもギブもロビンさんをはじめとする銀狼グループのリーダーのみなさんも忌憚ない意見を述べてください」
「はーい。」
「了解です」
「ワオオーン」
銀狼たちから一斉に了解の吠え声があがった。




