2-19 エルフ少女をおんぶします
それは突然現れた。
森の大木のかげから次々と。
全部で10頭。
その銀色に光る毛、爛々と光る黄色い目、ピンと立った耳と口からのぞく鋭い犬歯。
尾を入れると4メートル近い体長を持つ銀狼たちがそこにいた。
先頭のひときわ大きい銀狼の背に乗っているのはギブだった。
1.8メートルもあるギブがまるで馬にでも乗ったかのように見える。
「やあ、みなさん着きました。エルフさんたちに大きな恩義を感じしている銀狼さんたちは、必要以上の数を出してくれることになりました!」
晴れやかな顔で報告するギブ。
やはり、同じオオカミ族であるギブが交渉に行ったのが功を発したようだ。
「まったく、すごく迫力のある銀狼さんたちだね!」
「3人が乗せてもらって、あとの7頭は護衛してくれるそうです。銀狼ならヒエーナなんて目じゃないですよ。」
「ギブ、よくやった!」
「さすが、ギブ。みなさんの期待に見事に応えられましたね!」
それから、A班の者は毛布を出して銀狼の背中にロープでくくりつけたり、手綱の代わりの紐を用意したりと忙しかった。
レオとアイミと言えば…
2人で話し合った結果、一番適当な担ぎ方は“おんぶ”ということに決まった。
“おんぶ”だと、レオは両手が自由なので、もし、敵と遭遇しても剣を手にもって戦えるし、背中のアイミもメイスで戦うことができるからだ。
(まあ、それはあくまでも“可能性”で、実際には難しいだろうが)
早速、レオは皮のベルトなどで“おんぶ紐”を作った。
一、二度、アイミを背負ってみて“おんぶ紐”を調整する。
アイミは恥ずかしがりながらも、これも大事な“使命”の一つと考えて、遠慮しながらおぶさっていた。
はたから見て、なんとも心がほんわかとする、戦場の1シーンであった。
「それじゃあ、ボクたちはドワーフ国目指して出発するよ。」
「じゃあ、レオもアイミちゃんもケガとかしないようにがんばってね!」
「レオさん、アイミさま、くれぐれもお体をお大事に!」
銀狼にまたがったカイオ、イザベル、それにギブがしばしの別れを告げる。
「おう!お前たちも気をつけてな!こっちはアイミさんのステルス魔法とシーノがついているけど、そっちはステルス魔法もシーノもないからな!」
「その代わり、心強い護衛が7人もいますよ!」
「カイオさん、イザベルさん、ギブをよろしくお願いします。くれぐれもお気をつけて!」
「じゃあな!」
「しゅっぱーつ!」
(秘策を忘れないようにー!)
銀狼に乗ったA班は森の中に消えて行った。
彼らは敵と遭遇する可能性が低い森や草原を走るルートを選んだ。
7頭の護衛のうち、3頭は前方を走り、敵がいれば少数であれば3匹で倒す― 銀狼の戦闘力はそこらへんの魔族など足元にも及ばないのだ― 敵が多ければ迂回するようにオオカミ同士の連絡方法(高周波の咆哮)で知らせる。効率的な体形だ。
一方、こちらは二人三脚ならぬ二人二脚のB班。
「アイミちゃん、走りはじめるよ。しっかりつかまって!」
「あ、はい!」
おんぶ紐でしっかりとレオの背中に背負われたアイミは、レオの肩をつかむ。
次の瞬間、レオは走り出した。
見る見る加速していく。
(“加速装置がカチリと入り、『自動制御式ヒューマノイド型機械‐零零九号』は加速した”。 くーっ、カッコいいなー!)
(レオ、岩ノ森 正太郎先生のマンガの主人公みたいなこと考えてないで、アイミちゃんを振り落とさないようにしなさい!)
楽しい想像の世界から耳を引っ張って現実にもどされたレオ。
時速100Km― 秒速約30メートルという速度は、これが台風とかだったら屋根が飛ばされたり電柱が倒れたりするし、ウイング車(ハコ型トラック)などは横転する風圧を生じる。
レオの場合、風圧はシーノの対物理攻撃バリアで無効化できるが、走行中の着地による衝撃は無効化のしようもない。まあ、アイミ自身がレオの背中で上下運動することで多少は軽減はできるが。
ダダダダダダダ…
止まることなく秒速30メートルで走り続けるレオ。
背中ではアイミがしっかりと両肩をつかんでいる。
おんぶ紐でしっかり背負われているから振り落とされる心配はないのだが、やはり乗用車のシートのように乗り心地の良いものではない― ミイテラにもテラにも乗用車などないのだが。
レオはA班の3倍の距離を走らなければならないため、あえて道を走ることを選んだ。
敵と遭遇する可能性は高い― 必ず遭遇するだろう― しかし、山や森を通るよりずっと早く走れるからだ。アイミのステルス魔法のため、誰も彼らの姿は見えない。時たま道に出てきたリスや鹿などのそばを通り抜けるが、一陣の風が吹いたとしか感じないだろう。
(敵の部隊が前方を行軍中よ)
シーノのアラートが鳴ると、場合によっては森に入り迂回してまた道に戻る。
敵が少人数だと頭の上を飛び越えてやり過ごす。ジャンプ後の着地は少なからず衝撃をもたらす。そんなときアイミは着地寸前にレオの首にしがみつく。
ズン!
着地の衝撃後、すぐに走りはじめたレオは、両手を回し着地の衝撃でずり下がったアイミのおしりを上へ持ち上げ、走りながらおんぶ紐を締めなおす。
ふっくらしたアイミのおしり― “アイミが「私は骨ごつごつの痩せぎすじゃありません」と言ったのは本当だな”―を感じながらレオはニタリと笑う。
背中にはアイミがしっかりとしがみついているために、彼女のふくやかな双丘が押しつけられている。
“DKXの世界はサイコーだー!エタナールさん、ありがとーう♪”
どこかで“あら、楽しんでくれているようでうれしいわ...” とつぶやく声がしたような気がした。




