2-14 バッタの寿命の解決策
アイミから魔軍の戦力を聞いたレオ。
「うーん... 装備も訓練度もミィテラの同盟国側を上回っている魔軍が、兵力でもそれだけ擁しているということは、同盟国側も苦戦するはずだ」
腕を組んで考えている。
「やはり、同盟国側は兵力を再編する必要があるし、戦略も練り直さなければジリ貧になってしまうな!」
カイオ王子もミィテラ同盟国軍の直面する課題がなんとなく理解できたようだ。
「ドワーフ族軍と鬼人族軍の戦力はやはり刮目に値するわ。魔軍の猛攻に耐えて首都の陥落を防ぎ、さらに国家総力戦で魔軍戦線を一部で押し返しつつあるというのも当然と言えるべきね。」
「しかし、一国や二国の戦力だけがズバ抜けていても全体的な戦局をひっくり返すことはできない。やはり、反攻のウイークポイントとなっている国の軍の士気を上げ、兵力を増強するなどの思い切ったプランが不可欠だろうな...」
(まずは手始めに、今は魔族国となっている元エルフ国の奪還するのよ!)
「えーっつ、何だってェ?!“手始めに”って、それ魔軍の本陣だよ、シーノちゃん?」
「レオ、シーノちゃんは何を言ったんだ?」
「そうよ、自分だけわかって反応していないで!」
レオはシーノの言葉をカイオ王子とイザベルに話すと同時に、アイミとギブにも伝えた。
学習能力100倍プラス シーノの特訓の甲斐あって、エルフ語をふつうに話せるようになっていたので問題なくエルフ語に翻訳できた。
やはり、カイオもイザベルもアイミもギブも目を丸くして驚いた。
「ちょ、ちょっとシーノちゃん、ボードゲームじゃないんだから、そんなに簡単に敵の砦を攻略できないのよ?」
「いったいシーノちゃんは、どんな事を考えているんだ?」
アイミとギブはエルフ国のことだけに大いに関心をもったが黙って聞いている。
(ボードにアイミが描いたイーストランジアのマップを見てごらんなさい。魔王が占領したエルフの国は、見てのとおり、ドワーフ族と人族の国に南北から挟まれた形になっているわ)
イーストランジアのマップ
シーノの言葉をレオから聞いたカイオ王子。
「たしかにそうなっているな」とうなずいている。
(魔王ルゾードは、エルフの国を電撃作戦で急襲占領し、返す刀で南の人族国と北のドワーフ族国に攻めこんだのよ。南のヤマト国にはあまり抵抗も受けずに侵攻できたようだけど、北は勇猛で戦闘能力の高いドワーフ軍の抵抗に阻まれ、首都を落とせなかったどころか、却って戦線を押し返しつつある状況にまでなっているの)
「それはたしかにそうね。ドワーフさんたちの強さってハンパじゃないみたいね。」
(だから、この状況を利用し、ドワーフ軍とヤマト軍に加勢して、二面作戦で攻勢をしかけ、魔王が占領してカーマダトゥーと名前を変えたアルフヘルムを取りもどすのよ。これを何としても成功させる。そうすれば一石二鳥どころか、一石三鳥、一石四鳥の相乗効果が得られることになるわ)
「えっ?そりゃ聖域を奪還すればエルフさんたちは、故郷に帰れて元通り長生きできることになるけど、それ以外にどんなメリットがあるのかな?」
(第一にレオの短命の問題を解決できるわ。第二に魔王の本拠地を陥落させることで魔軍に大打撃をあたえることができる。第三にあなたたち異世界の勇者とともに戦えば、魔軍も恐れることはないとアッピールでき、同盟国の団結を強めることができ、世界的な大反攻作戦のキッカケが生まれることになるわ)
“立て板に水”とはシーノの理路整然とした説明のことを言うのだろう。
レオはシーノの言葉を逐一テラ語とエルフ語に訳さなければならないので忙しい。
「それは本当に成功すれば、得られるメリットは図れないほど大きいな...」
「でも、“レオの短命”って何? なんでその目的が最優先みたいになっているの?」イザベルが当然ともいえる疑問を口にした。
(それはレオはバッタとの合体なので、バッタ並みに寿命も短くなったということよ)
「あ、そうか... バッタの寿命って短いものね!」
「バッタって1年も生きれきれないからな...」
“って、おい、オレが1年しか生きれないということはスルーかよ?”
ツッコミたかったが、説明が面倒になるのでやめた。
シーノは平然とレオをバッタに例え、そこにいた全員を納得させたが、レオは憐憫の眼差しをアイミとギブから向けられた。
「うむむ... そうか。それはレオのバッタの宿命を変えないとな。それはいいとして、では具体的にはどのようなプランをシーノは考えているんだい?」
カイオが面白そうな顔をしてレオを見ながら訊く。
“とうとうオレがバッタであることが確定的となったな... それにしてもバッタの宿命とはなんだ!”
心の中でしきりにクサるレオ。
(それはあなたたちがよく考えて決めて。作戦参謀は私の役割じゃないわ。アドバイスをしてあげただけよ)
「そうか。そりゃそうだな。そこまで考えてくれるんだったら、シーノに神様のメッセンジャーとして各国へ行ってもらって説得してもらって、統一した戦略を練って実行すればいいだけだから」
「現実はそれほど簡単ではないということよね!」
(でも、忘れてはならないことは、あなたたちはまだ一騎当千とまではいかないけど、一人で敵100人くらい相手できる戦闘能力をもつ勇者だということよ。)
「そうなんだよな。“ミィテラを救う勇者”なんだから、いつまでも人に頼ってばかりじゃいられないということだ。」
「そうね。しっかりとプランを練って、その上でシーノちゃんにスーパーバイザー的に見てもらえばいいのよ」
「よし、それで行こう!で、最初の計画『レオのバッタ的短命問題解決作戦』だな」
“だから、もうバッタはいいって言うの!”
「そう。シーノちゃん、それには具体的には何をすればいいの?」
(ミトラカルナー山まで行くのよ!)
「えっ、“神聖ミトラカルナー山”まで行かれるんですか?」
アイミがびっくりして聞く。
「なぜ、ミトラカルナー山まで行く必要があるの、シーノちゃん?」
( それは、ミトラカルナー山の石を入手するためです)
「あ、あーぁ、わかりました!」
アイミは“ミトラカルナー山の石”と聞いて合点したようだったが、ほかの者は「?」だった。
「ちょっと、ちょっと、アイミさん、ボクたちにもわかるように説明してください!」
「わかりました。カイオさんとイザベルさんにもわかりやすいようにお話しますね。私たちの国、エルフの国の事をお話しした時に、エルフたちはエルフ種族が持つ“長生き”という特性とあわせて“神聖な山”からの強い慈素を近距離で浴びることにより、その恩恵として長寿をあたえられ、それゆえ数百年も長生きできていた、とお話ししましたよね?」
「あ、そうか!だから、その 神聖なミトラカルナー山の石を近くに置くか、持っていれば長生きできる ― つまり、それでバッタの寿命しかないレオをふつうの人間なみの寿命に伸ばすことができると言うわけだ!」
「おい、カイオ、そう何度も何度もオレのことをバッタのように言うな! キズつくだろう?」
「えっ、傷つくって、おまえが?」
「オレは多感な年ごろなんだよ!」
「へェ... レオが多感な年ごろねェ...」
「でも、もしそれが可能なら、魔族たちだって神聖なミトラカルナー山の石を削りだして自分たちの魔大陸へ持っていけば、もっと効率よく魔族を長寿化することができるんじゃないの?」
イザベルがレオとカイオの馬鹿話を無視して続ける。
“おいおい、赤毛の美少女さん、少しは面白い話につきあってよ!”
(さすがイザベル、鋭いわね。でも、ミトラカルナー山の石は、それをふつうに取り出しただけでは慈素を発する力を失うのよ)
「そうなんだ。だから魔王は聖域に本陣を構えて出ていこうとはしないし、ミトラカルナー山を切り分けて魔大陸へ持って行こうとしないのね。」
(その通りよ)
「では、シーノ様は、どのようにすれば“神の山”の力を持つ石を、レオさまの寿命を伸ばすために使われるつもりですか?」アイミも鋭いところを突く。
「まさか、レオをミトラカルナー山に貼りつけておくというわけじゃないよな?」
「なんでオレがバッタの標本のように山に貼りつけられなければならないんだ?」
(神の山の石で何かレオがいつも体につけておくものを作って、それを離さないで持っていればいいのです!)
「...!」
「そんなことでいいの?」
(レオやエルフたちなど、ふつうの者には効果があるわ。こうして後顧の憂いを無くすことで、レオにも精一杯がんばってもらうのよ)
「オ、オーケー...」
もはや疑問の余地もない。ただうなずくだけのレオだった。
レオの短命の問題解決の光が見えて来たようです。




