2-08 間一髪
魔軍部隊が迫って来ているようです。
絶体絶命のレオたち。
どうやって危機を脱出するのでしょうか?
エルフ少女アイミから、魔軍はすでにレオたちが魔都に侵入していることに気づいていると教えられて、慌てる勇者たち。
魔都エリアに侵入者がいるのがわかれば、魔都の治安・防衛を担っている魔軍がすぐにも部隊を送りこんでくるだろう。それもかなりの人数を。
「いったい、どこに逃げればいんだ?」
「どこか隠れるところはないの?」
「レオ、隠れるための穴掘ったら?」
慌てふためくレオたち。
その時、シーノの落ち着いた声が聞こえた。
(ここは一旦、聖堂までもどって、ゲートから元の世界へもどりましょう)
「お、おぅ!その手があったか!」
「だけど、あのゲートの魔法陣はかなり傷ついていたようだけど、まだ作動するの?」
「そうだ、その問題もある!」
(先ほど、こちらに来た時によく見ましたけど、傷ついているのはゲートに魔力を集中して送り込む魔法陣だけで、移動にもっとも重要なゲートの部分の魔法石板はほとんど無傷のようだから、問題なく作動すると思うわ)
さすが守護天使のシーノ、確認すべきところはちゃんと確認している。
(それよりも早く聖堂にもどらないと、魔軍に私たちの移動手段であるゲートの存在を見つけられ破壊されてしまう恐れがあるわ!)
「じゃあ、早く聖堂までもどろう!」
「みんな忘れ物はないわね?」
「アイミとギブもいっしょに行くんだよ!」
「はい、お願いします。」
「はい!」
アイミとギブは急いで背嚢を背負い武器を手にした。
死んだ戦士たちが持っていたものは、食料や遺品として持って帰るものだけを残してあとは穴に埋めてある。
シーノはすーっと上空にまで上がって行ったと思ったら、すぐ降りてきて告げた。
(たぶん、もう走ってもどっている時間はないわ。魔軍の警備隊らしい一隊がこちらに向かって来ているわ。レオ、二人ずつ抱えて聖堂までひとっ飛びして!)
「えーっ、オレが抱えて飛ぶのー?!」
(グズグズ言っているヒマはないのよ!最初にイザベルとアイミ、次にカイオとギブよ。さあ、早く!)
「ええーい、イザベル、アイミ、ちょっとごめん」
と断って、ちょっと呆然としているイザベルを右脇に、少し固まったようになったアイミを左腕にすばやく抱えた。
(100人ほどの魔軍部隊がこちらに急行してるわ。レオ、聖堂の方に向かって3メートルほど助走してから思い切って飛ぶのよ!それっ、行けェ―――!)
レオは無我夢中でシーノの指示にしたがって助走して思いっきり飛んだ。
タタタタ... ピョ――――ン!
「キャーぁぁぁ むぐぐぐぐ...キャーぁぁ!」
「ヒィィィ......!」
イザベルはレオの体に両腕でしっかりと抱きついたが、ロケットにぶら下げられて飛び出すような怖さに思わず叫ぼうとした。
だが、魔軍に聞かれるかも知れないと思って片手で自分の口をふさいだので、腕一本だけの腕でレオにしがみつく格好になり、今度は体が落ちそうになったので、口をふさいでいた手でふたたびレオにしがみつきながら小さく悲鳴をあげ始めた。なんとも器用な赤毛の美少女だ。
アイミはかわいい小さな叫び声を上げ、レオの首に両腕をまきつけ両目をしっかりとじていた。
一度の跳躍でレオは約100メートル飛び、聖堂の中ほどに着地した。
ゲートがある祭壇までの距離を数秒で走り抜いて階段の前に到着する。
飛んでいた間と走っている間に、両腕にかかえた赤毛の美少女とエルフ美少女のやわらかく甘い匂いのする体をしばし堪能した。
(レオォ!!! 何を悠長なことをしてるのォ?! そんなに触りたいのならあとで触りなさい! 私がさわらせてあげるから。それよりも早くカイオとギブを助けに行かなくちゃダメでしょう?!)
大声の念話でシーノから叱咤を受ける。
「ちょ、ちょっとシーノちゃん、な、何をいっているの?」
「あのー… それは私としても少し困ります...」
顔を真赤にして抗議するイザベルと、なぜか身をモジモジしながら頬を染めていうアイミだった。
その場でカッコよく180度ターンしたレオは、数歩助走してカイオとギブが待っている地点の方向目がけて飛んだ。
飛びながら空中で、自分の手をニギニギして先ほどの美少女と美女エルフのやわらかい身体の感触を思い出していた。
その顔は- もしイザベルとアイミが近くにいたら引いてしまうほどニヤけたものだった。想像に気を取られたせいか、着地スタイルに入るのが遅れ、頭から森の中に突っ込んだ。
バリバリバリ ゴツーン!
「アイテテ…」
(任務についているときは、任務のことだけを考えなさい!美女たちの柔肌なんかを思い出しているからアタマから着地するのよ!)
しっかりとツッコむシーノだった。
(…)
(…)
当の美少女たちは彼らの会話を聞いてもだまったままだった。
アタマを地面から引き抜き、帽子や服についた土を払うとすばやくカイオとギブのところへ移動し、同じように片腕にカイオ、もう一つの腕にギブを抱えると、ふたたび数歩助走してひとっ飛びで聖堂に着地する。二人とも美女たちと違って腕などは巻きつけず、黙って抱えられた。
ふたたび、タタタタ... ピョ――――ン!
さすがに、カイオもギブも少女たちのように叫んだりしなかった。
カイオからはオーデコロンの匂い、そしてギブからは濡れた犬の匂いがした!?
ゲホっ ゲホっ!
「さきほどは、すいぶんと楽しい思いをしたようだね…」
着地後、レオから離れる時にカイオが耳元で言った。
ギブは何も言わずにお礼を言って尻尾をふりながらアイミのもとへ駆け寄った。
レオがゲートのある祭壇に来ると、こちら側に来たときにしたように、シーノは魔法陣の上に停止し、(アイミ、呪文を唱えて!)と指示した。
アイミが〈神聖アールヴ語で〉唱え始める。
「大いなる万物の創造主であり……」
来た時と同じように、光の輪がみるみるうちに大きくなり、レオ、カイオ、イザベル、それに今回はアイミとギブをいっしょに包む。
「……ことなる世界への 門口を ひらきたまえ!」
アイミが詠唱を唱え終わると、金色の光の輪はさらに大きくなり、魔法陣までその範囲に入った。
ジ…ジジジ…ジジジジ…
周りの空気が震えるような感じがして、ゲートである魔法陣の描かれた壁の下方にある黒い大きな- レオに言わせれば200インチテレビのような- 石板がブンっとうなったとみると、先刻三人がいたテラの世界の地下聖堂がそこに現れた。
(早く、くぐって!)
シーノにせかされて次々と駆け足でゲートをくぐる。
みんなが通り抜けたのを確認すると、シーノもくぐり抜け、すぐに光の輪は元通りのホタルの光ほどの大きさに縮まった。
ゲートがたちまち閉鎖し、元通りの黒曜石の石板になった。
「ふう...」
「やれやれだ」
「無事もどれたか!」
口々に安心した言葉を発する三人の勇者たち。
「ここが… あなたたちの世界 ― テラの聖堂なんですね…」
「天井があるというところを除けば、今さっきいたところと変わりませんね、アイミさま。」
アイミとギブは興味深そうに聖堂内を見渡している。
エルフ語はわからないので、今度はイザベルが訳して伝える役になる。
「オレたちが聖堂へ逃げて祭壇に消えたのを感づいて、向こう側のゲートを壊さなければいいけどな…」
レオが心配して、今抜けてきたゲート ―すでに黒い石板にもどっていたが― を見ながらつぶやいた。
「それはだいじょうぶだと思います、レオさま。いくらヒエーナでも、空中を移動したわれわれのあとは追跡できないでしょう。」
「あ、そうか。あのケダモノは匂いで獲物を追いかけるんだからな。ボクたちの匂いは飛び上がった時点で地上から消えているわけだ...」
「でも、聖堂でシーノちゃんが出した光を見てやって来るかも知れないわ。」
イザベルが心配そうな顔で言う。
(それはだいじょうぶよ。森の木は高いし、まだ数キロほど離れていたから光は見えてないでしょう。それに万一に備え、私は遮光バリアーを張って光を出さないようにしたから)
本当に頼りになる守護天使シーノさまだった。
しかし…
「?」
「?」
テラにもどったとたんに念話が使えなくなったカイオとイザベルは、シーノが何かを言っているらしいと感じたが、二人とも頭の上に?マークをつけていた。




