2-07 長生きできなくなったエルフたち③
エルフ族がどうして長寿の術を失ったかが明らかになります。
シューナーデ将軍とエルフ兵士たちが命をかけて守ってくれたおかげで、脱出することができたエフィジェンヌ女王と生き残ったエルフたち。
彼らは、ミッッデンランジア(中央大陸)の奥地の険しい山岳地域まで逃避行を続け、そこにかくれ里を作って暮らしているという。
しかし、エルフたちは神より“神聖なミトラカルナー山”を守ることを託されているのだ。
のうのうとかくれて生きていくわけには行かない。
そのエフィジェンヌ女王と生き残ったエルフたちを悩ませる問題のほかに、エルフたちには“神聖な山”から遠く離れて暮らすようになってから、深刻な問題に直面することになった。
それはエルフたちが“長寿の術”を無くしてしまったということだった。
「えっ、エルフさんたちは長生きできなくなったの?」
「“神聖な山”から遠くに住んでいるから?」
ここまで聞いて、レオたちは一応、状況は理解できたが、“神聖な山”から離れて暮らすことが、それほど深刻な問題をエルフたちにもたらしていることに驚いたのだ。
「ええ、それが現在の私たち-エルフの状況です。」
「だから、アイミは見た目のままの17歳なんだね」
「そのとおりです」
そして、アイミは続けて語った。
どうして、彼女たちが少人数でこんな危険なところにやって来たのかを。
長寿の術を無くしたエルフたちは、隠れ里に住み始めてから高齢者たちが次々と亡くなり始めた。
さすがに一部で言われているように、千歳のエルフは存在しないが、それでも300歳、400歳という高齢ウルフはたくさんいた。もっとも長寿のエルフは500歳とも言われていた。
それらの高齢エルフたちが、ミッッデンランジア(中央大陸)の奥地の隠れ里に暮らし始めてから、年々一人、二人と亡くなり始めたのだ。
そして、次第にそれは高齢者だけに限らないという衝撃の事実が判明したのだ。
隠れ里に住むようになって10年、20年、30年経つと、避難して来た当時、40歳とか50歳とかいう、エルフとしては極めて若い世代に入るエルフたちが“老衰”症状を見せて衰弱しはじめ、老齢で亡くなり始めたのだ!
エルフたちはパニックに陥った。
エルフは長寿であるためもあってか、一般的にあまり子を生まない。
生涯で二人か三人も産めばいいうちだ。出産率が年齢に比べて極端に低いエルフたちが、結婚、子作りはまだこれから… と考えられる若い世代― 人族で言えば十代 ―つまりエルフのそれまでの寿命からいうとティーン世代のエルフたちが亡くなり始めたのだ。
十代といった若い世代や高齢者だけにかかわらず、聖域を離れミッッデンランジアに移り住むようになったエルフたちは、人族と同じように、70歳とか80歳、90歳といった年齢でで寿命を終え始めたのだ。
これはエルフたちにとって種族の存続につながる大危機だった。
エフィジェンヌ女王と古老たちは協議を重ねた結果、“産めよ増やせよ”キャンペーンをエルフ族一般に実施することを決定したが、長い期間にわたってのんびりと子作りをして来たエルフたちの習性は、そう一朝一夕で変わるわけがない。
アイミは、そういう状況の中で生まれた“新世代”のエルフなのだそうだ。
つまり、聖域を知らずに育った世代で、状況が状況だから、“新世代”のエルフにはのんびりと教育や訓練、経験などを教えたり、おぼえたりしている時間はないので、“人生百年”という短いスパンで生きることに習熟している人族の教師などを雇って、エルフにしてみれば生まれて間もない赤ちゃんとも言える幼年エルフたちに早熟教育を3才児から半分“強制的”に実施されることになったそうだ。
なので、“女の子の保健教育もちゃんと受けています”とアイミは少しはにかみながら語った。
“エルフの女の子の保健教育ってどんなものだよ?”とレオはツッコミたかったがやめた。
冗談を言っている時ではないと思ったからだ。
アイミというエルフ少女はやさしそうなので、イザベルのようにレオに肘鉄は食らわせないだろうが、魔法で黒焦げにされるリスクがある...
エルフ人口が容赦なく減る一方で、エルフ族の知恵と歴史を知り尽くし、伝える役割をもっていた長寿エルフたち― 一般的に古老と呼ばれる― も相次いで亡くなりつつあり、文化と歴史の伝承さえも危ういものとなりつつあった。
この事態に、就任して間もないエルフの新女王エスティーナも(前代のエフィジェンヌ女王も老齢により90歳で亡くなったため)エルフ族滅亡という危機の前に、種族の運命をかけた大勝負を決意することを余儀なくされた。
それはエルフ族の全力をかけて『エルフの聖域』を魔族の手から奪い返すことだった。
もちろん、他種族にくらべて圧倒的に人口が少ないエルフたちは、独力で奪還作戦など実行できない。そこでエスティーナ女王は他種族― 人族、 獣人族、ドワーフ族、トロール族、鬼人族たちの国へ密使を送り、『エルフの聖域奪還作戦』への協力を依頼することを決意した。
各種族ともそれぞれ自国内での魔族との戦いで多忙であったが、“エルフ族の今日の問題は明日のわが族の問題”と出来るだけの協力と応援を約束してくれた。
聖域の奪還が成功すれば、魔王も人並の寿命しか生きられないことになるから、戦いがさらに長引いた場合、魔王が寿命で亡くなり、新しい魔王がルゾードほど賢くなければ同盟国側の勝算も増えるし、魔族が新たな拠点とした聖域を奪還することができれば魔族に大打撃をあたえることができ、大反攻のきっかけにもなる。
“しかし、他種族もそれぞれ戦争を継続しており、手一杯であるため、魔族の本陣の様子もわからないのに、なけなしの兵力を差し向けることはできない。さしあたっては、エルフ族が先導して偵察隊を聖域に送り込んで詳しく状況を調べて欲しい。そのために戦士が必要なら選りすぐりの戦士をいく人か回そう”
だいたい、そんな約束を人族、 獣人族、ドワーフ族、トロール族、鬼人族たちの政府代表者は伝えたらしい。
そこで急遽、エスティーナ女王と故老たちは偵察計画をたて、偵察隊出発の日に間に合うように戦士たちを送ってほしいと各国に使者を出して要請し、各国は約束通り戦士たちを派遣することになった。
しかし、ミッッデンランジア(中央大陸)の人族国が送り出した10名の派遣隊は、運悪く魔軍の部隊と遭遇し、全滅させられ、獣人族の派遣隊も途中で同じように魔軍の部隊との戦闘で8名が戦死し、残りの2名はミッション続行不可能と判断し獣人国へ帰還。
トロール族の派遣隊も似たような状況でトロール戦士10名中、わずか4名だけが生き延びて合流地点で落ち合うことができた。ドワーフ族は幸いにも魔軍とは遭遇せずに10名全員が合流場所に到着できた。
鬼族は首都ガジーマ奪還作戦の実施の準備中であるため、今は戦士を派遣できないと連絡してきていた。
しかも、エルフ戦士グループ10名を加えて二十数名となった同盟国偵察隊は、ミッッデンランジアで移動中に魔族に操られたブラックドラゴンの奇襲に遭い、とっさの魔法バリアで防御し、ステルス魔法で姿を隠すことができた6名意外は全員戦死する事態となってしまった。
魔族の本拠地となってしまった『聖域』への侵入は予想以上に困難で、こうしてようやくもとエルフの国― 魔王によってアラマシュトゥと名前を変えられたが― へたどり着くことができたのは、当初の偵察隊人数の十分の一という惨憺たる状況だった。
そして、この最後に残った偵察隊は、ステルス魔法を使いうまく身を隠しながら聖域にまで侵入することができたが、聖堂近くの森の中を移動していたときに魔軍の巡回警備隊に発見されてしまった。
魔軍の警備隊は軍用獣としてヒエーナ(さきほどの黒ブチのあったケダモノらしい)を常に数匹連れており、このヒエーナたちは鋭い嗅覚と聴覚で姿を隠していたエルフの偵察隊を発見したのだ。
偵察隊は警備軍から先制攻撃を受け、魔弓兵のボウガンでエルフ神衛士とトロール戦士とドワ―フ戦士がたちまち倒され、偵察隊のリーダーであった魔法士タムルが電撃魔法サンダーアローで反撃し、魔弓兵を倒したものの、魔軍警備隊長の攻撃魔法を食らってタムルは絶命。
アイミを襲おうとしたヒエーナたちはギブによって3匹ともすべて殺された。
そして、なぜエルフたちが聖域にいるのかを聞き出すためにアイミを生け捕りにするように魔軍の警備隊長が命令し、アイミとギブが魔兵士たちに囲まれた直後にレオたち“三人の勇者”が飛び込んできたということらしい。
アイミが魔法で反撃しなかったのは、魔軍の襲撃が急すぎて詠唱を唱える時間がなかったからだそうだ。
「そう言えば、私たちが倒した魔族の中にひときわ大きいヤツがいたわ。コイツは強そうだと思って最初に倒したけど… じゃあ、あれが魔族の警備隊長だったというわけね」
賢いだけでなく、状況判断も人一倍すぐれているイザベルだった。
「なーるほど、事情はよくわかったよ。ボクたちがここに来たのは、単なる偶然ではなかったみたいだな…」
「間一髪でアイミちゃんとギブ君を助けることができてよかったわ」
「それはそうと、魔王とか魔族とかって、一体何なんだ?」
レオが、カイオもイザベルも知りたがっていたことを訊いた。
レオの質問に対してアイミは「私が知っている範囲で...」という前提で話してくれた。
魔王は黒龍種だと言われていること。
黒龍種は魔族種の中でトップに君臨する種族で、希少種族らしく、魔族全体の中でも極めて数が少なく数百人もいないと言われているそうだ。
魔王はその黒龍族の中でもっとも古く、代々、魔族を従え、支配している一族で、魔王以外のほかの黒龍族も魔軍の高級幹部や将軍職などについている。
次いで灰色龍という種族があり、灰色龍族は魔族社会ではナンバー2の位置を占めており、この種族からも魔軍の高級幹部や高級官僚や科学者、エリートなどが多く出ているそうだ。
そしてダークエルフ族。同じく希少種であり、この種族には圧倒的に黒魔術師が多い。
同じダークエルフの亜種であるグレイエルフ。こちらは魔軍の幹部将校や下士官、一般官僚などが多く、魔族全体の人口の約2割を占めるのだとか。
それから、コボルト、ゴブリンなどの下等魔族。魔族全体の実に8割近くを占め、魔軍兵士、一般労働者などはほとんど彼らによって占められているそうだ。
“ええええっ??? ラスボスは魔王で、魔王は黒龍王? こりゃ本当にDKの世界だな!”
心の中でのけぞるほど驚きながら、創造主様の念に入った異世界設定に感心するレオだった。
「そうか。まあ、エルフとか獣人とかドワーフがいるんだったら、ドラゴンとかゴブリンとかコボルトなんかがいても不思議じゃないわね...」
「黒龍とかって、かなり強そうだな... また、強くなければ魔族のトップに立てないしな!」
イザベルとカイオがそれぞれ意見を述べる。
「それはそうと、話を聞いた限りでは、ギブの種族- オオカミ族というか人狼族というか― は偵察隊に戦士を送り込まなかったようだけど、ギブはどこで合流したんだい?」
カイオがアイミのボデイガードみたいなギブについて訊いた。
「あ、それはですね、私とギブは小さい頃から近所に住んでいて、とても仲良しだったんです。それで今回の偵察計画が立案されて、私が実戦でも役に立つ治癒回復能力と攻撃魔法の両方をかなりのレベルで使えるので選ばれ、ほかに選ばれたエルフ戦士仲間といっしょに合流地点に向かう時に、ギブが友だちだからと言ってボディガードとしてついて来てくれたのです。」
「ああ、そうか」
「そして、先ほどお話しましたように、人族、トロール族、ドワーフ族の派遣隊がそれぞれ魔軍との交戦で全滅したり、欠員などがでましたので、リーダーのタムル法士さまが、若いけど戦闘能力が高く、彼もよく知っているガブに偵察隊に入ってくれるように頼んで入ってもらったのです」
話が一段落したと思われた時、アイミが言った。
「あのー… まだお話はたくさんあると思いますけど、早くこの場所から脱出した方がいいと思います」
「え、どうして?」
「それは、魔軍はルゾードが魔王になってから連絡手段を重要視するようになっており、同盟軍の部隊と遭遇したり、異常事態が起こった場合はすぐに伝書カラスや伝書コウモリを使って魔軍駐屯地や魔軍本部に連絡するので、ここにももうしばらくしたら魔軍の支援隊が現れると思うからです」
「えーっ、魔軍って想像以上に有効な通信手段を使っているんだな!」
「じゃあ、早くここから抜け出しましょう」
「って言っても、どこへ向かえばいいんだよ?」
そう。
ここは魔軍の本拠地『魔都カーマダトゥー』のひざ元なのだ。
先ほどのアイミの話によれば、魔軍はすでに魔都エリアに侵入者がいることに気づいており、じきに部隊を送りこんで来て虱潰しで侵入者を探しはじめるだろう。
そうなれば絶体絶命だ。




