2-06 長生きできなくなったエルフたち②
父・ルジーム魔王は自分を継ぐルゾードに教えていた。
「ルゾードよ、よく聞け。魔将たちの中には、一筋縄ではいかない者や頭の固い者もいる。これまでは、私の絶大なる力と同盟軍との戦いにおいてわが魔軍が幾多の勝利をおさめてきたがゆえ、だまって私にしたがって来たが、私が亡きあと彼らがお前に背くようであれば眷属もろとも一掃するのだ。お前が信頼していいのは、幼いころよりいっしょに育った気心の知れた仲間だけだ。そのことを努々忘れてはならん! それともう一つ、“大業を果たすためには、まず味方を欺け”という言葉を忘れるな」と。
かくして、ルゾードは世界征服と魔族の永遠なる繁栄という大目標のため、味方である魔族を欺き、「魔王殿をないがしろにしている古狸どもを始末させてください」と憤る腹心の友らにさえ本心を打ち明けず、その時が来るのを待っていたのだ。
こうして『6.6血の粛清』とあとで呼ばれることになった魔軍内の不満分子を粛清・一掃した新魔王ルゾードは、信頼できる古参の魔将は魔軍にとどめおいたが、少しでも疑わしいと思われた古参の魔軍幹部はすべて退役させ、信頼できる腹心の魔軍将校たちを新たに魔将に抜擢し、魔軍の体制を一新し固めた。
そして万全の布石を打ったあとで初めて、魔将たちに自分の世界征服大計画とその詳細を打ち明けたのだ。
むろん、魔将たちには他言しないことを誓わせた上で『魔の血判状』に一人ひとりの魔将の血印を押させた。『魔の血判状』とは、そこに記された誓いをもし破るようなことがあったら、即座にその裏切り者は断末魔の苦しみを味わって消滅するというげにも恐ろしいものだ。
魔軍の新体制を確立し、有能で信頼のおける魔将たちをしたがえた魔王は、着々と計画を進めていった。相変わらず散発的にあちらこちらで戦をしかけ、ロクに戦端も交えずに退却したり、わざと前進基地の砦の防御を弱くして同盟軍に占領させたりをくりかえした。
そしてその間、魔王は魔軍団をさらに増強し、軍備も拡大していった。
そして苦節ン年。満を持した魔王は長期間かけて練りに練った大計画を実行に移したのだ。
『新秩序計画』と魔王によって名付けられたは作戦は今を去る100年前に開始された。
まず、その第一段階として魔大陸からっもっとも近いミッッデンランジア(中央大陸)に魔軍5軍団(1軍団は魔軍兵士約30万人と魔眷属と言われるゴブリン&コボルト兵約150万で構成)を投入。
各軍団には信頼のおける若手魔将にベテランの魔将を軍団幕僚としてつけていた。
もっとも手ごわいと予想されたトロール族国、獣人族国へはそれぞれ2軍団ずつが派遣され、鬼人族国に対しては1軍団が投入された。
そして第二段階として、トロール族国、獣人族国を制覇した軍団でもって、それほど強くはないと考えられたミッッデンランジアの人族諸国を攻略する。
その後、鬼人族国を攻略した軍団でもって、残るイーストランジア(東の大陸)のドワーフ国、エルフ国および人族のヤマト王国を制圧するするという計画だった。
長きにわたった訓練と最新装備の魔軍と綿密に練られた攻略作戦の効果は予想以上で、長い間魔軍相手に勝ち続けていたため油断しきっていたトロール族や獣人族の防御ラインはひとたまりもなく突破され、破竹の勢いで進撃した魔軍によって、トロール族国、獣人族国、鬼人族国の首都は数か月で陥落した。
もっともこれには、これらの種族の首都が比較的魔族大陸から近いところにあったという地理的条件も魔軍の攻略作戦に大いにプラスというのも大きい。
魔軍はトロール族国を完全に占領し、国を追われたトロール族たちは難民として獣人族や人族などの国へ避難していった。
そして、この初戦の混乱時に、魔王の誇る精鋭デモーン部隊2千名が千匹のブラックドラゴンに乗って、雲海の上からエルフ国の首都アルフヘイムのあるサグラーダ山脈まで発見されずに近づき、早朝のアルフヘイムを強襲したのだ。
不意をつかれたエルフたちは、多大な犠牲を出しながらも女王と神殿の巫女たちや宮殿に避難してきたエルフたちを魔法陣を使って逃がすことができた。
残ったエルフ戦士たちは、エルフ将軍シューナーデの指揮のもとよく戦ったが、多勢に無勢で奮戦虚しく、最後の一兵まで戦って死んだと言われている。
全滅させられる寸前、シューナーデ将軍は、年の若いエルフ兵士たちを魔法陣を使って逃げさせたのち、自ら魔法陣を破壊してデモーン部隊がエルフの女王たちの後を追うのを阻止したという。
エフィジェンヌ女王は、最後のエルフ兵士たちが魔法陣から出てきたのを確認して、涙を流しながら出口側の魔法陣の破壊を命じたと言われている。
ルゾード魔王は占領したアルフヘイム市の名前をカーマダトゥー市と変え、魔都として整備を命じると同時に念願であった長寿を得るためにここに移り住んだ。
さらに魔都カーマダトゥーの周囲に結界を張って万全な防衛ラインを築かせた。
そしてエルフ国はアラマシュトゥと名前を変えられた。
エルフ国を追われたエルフの民たちは、ミッッデンランジアの奥の人里から遠く離れた山脈にエルフの女王があらたに『エルフのかくれ里』を作ったことを知ると、それぞれ長く苦しい旅をしてかくれ里にたどり着いて住むようになった。
一方、ミッッデンランジアにおける魔軍の戦況は、トロール族国は当初の予想に反して数年で制圧することができ、大勢のトロール族が魔軍の奴隷として食料生産などに従事させられ、王侯貴族と数万のトロールたちが難民として隣国である獣人族国に避難した。
魔軍は、獣人族国の大部分を制圧できたが、戦線を立て直した獣人族軍は底力を見せ、数年後、首都ゾオルを魔軍の手から奪還し、さらに東部地域も取りもどしたが、それ以降は魔軍、獣人族軍とも戦線に大きな変化はなく一進一退の状況が続き、もう数十年にわたって膠着状態となっている。
鬼人族も、緒戦では魔軍の猛攻に後退に次ぐ後退を重ね、これまた領土の大半を失った。
そこで鬼人族軍は山岳地帯や森林地域に軍を移動しゲリラ戦に戦略転換して魔軍を苦しめてたが、ここでも両軍にこれといった戦略的な決め手に欠いたため、鬼人族国においても何十年という長期の膠着状態に陥っていた。
しかし、7年まえに鬼人国大王がエンマに代わってから鬼人族の反撃がはじまり、鬼人族軍はそれまでには見られなかった統制のとれた軍となり、“鬼人種”特有の強靭さと力強さでもって魔軍を押し返しはじめ、ついには5年前には首都ガジーマを奪還し、諸戦線でさらに魔軍を追い詰める状況にまでなっている。
魔王は、この事態に次の手を打った。
彼らの間で『新秩序Bプラン』と呼ばれているものだ。
トロール国を制覇した第一軍と第二軍のうち、第一軍を鬼人国を担当している増援軍として派遣。
新設した第六軍120万と第七軍125万を、それぞれイーストランジアのヤマト国およびドワーフ国攻略に派遣し、これら両国を攻略した後に鬼人族国へミッッデンランジアの東海岸から侵攻させ、西側で戦っている第一軍と第五軍で東西から挟撃するという作戦だった。
魔王のイーストランジア攻略作戦が実施されたのは2年前。
新設された魔軍第六軍と魔軍第七軍の軍団長たちと魔軍兵士たちの士気は高かった。
とくに新たに任命された軍団長たちは、ほかの軍団長たちがミッッデンランジアで華々しい戦果- 鬼人族相手に苦戦を強いられている第五軍以外- を上げている軍団長たちに負けない戦果をあげて、魔王に認めてもらおうと怒涛の進撃を開始した。
ヤマト国攻略を命じられたのは、軍団長バメロス率いる第六軍120万の魔軍(魔軍兵士20万+魔眷属軍兵士100万)は、ヤマト王国首都の防衛を任せられていた武将- 軍中枢に近い重要なポストを担っていた者- の裏切りであえなく陥落。
ヤマト国軍総司令官もその裏切者によって殺されたとの情報が流れた。
ヤマト王家は急遽、イーストランジア大陸の南方にあるエゾ島に遷都し、ヤマト国軍はなおもヤマト国南部に後退して抵抗を続けている。
一方、ドワーフ国攻略を担当した第七軍のネルガル軍団長は、指揮下の125万の魔軍(魔軍兵士25万+魔眷属兵士100万をもってドワーフ国攻略に取りかかったが、勇猛を持ってなるドワーフ族戦士たちの頑強な抵抗にあって、現在にいたるもドワーフ国占領という目的とは程遠い、わずか30パーセントほどしか占領しておらず、苦戦を強いられている。
現在の状況は、イーストランジア人族のヤマト国首都エドとトロール族の首都ウラルオルルはいまだ魔族の占領下にあるが、それぞれ遷都したこれらの国は抵抗を続けている。
一方、その戦闘能力の高さもあいまって首都の陥落は防ぐことができたドワーフ族国とこれも首都を奪還した鬼族国は、「国民総戦士令」を発令し、国家総力戦でもって魔軍戦線を一部では押し返しつつある。しかし、長年にわたって世界征服計画のもと魔軍を増強してきた魔族も当然強く、戦局は一進一退状態だという。
新魔王ルゾードの遠大な世界征服計画。
魔軍は圧倒的な強さで各国に侵略をはじめましたが、最初は押されていた鬼人族軍、獣人族軍も持ち前の強さで体制を整え魔軍を押し返し始めました。




