1-16 謎の穴
「よく言うよ。それよりちゃんと前を見て走らせろよ。道路から外れて用水路になんかに突っ込みたくないからな」
「だいじょうぶよ。馬ってけっこう賢いから、ちゃんと道の真ん中を走ってくれるのよ」
「へーえ… それは知らなかった」
「それにいつも通っている道だったら、帰りには手綱で操らなくても勝手に家まで帰ってくれるくらいよ」
「へえ。ヘタな酔っぱらいよりずい分マシだな」
そんな話をしているうちに、神殿の入り口を過ぎ、遺跡のある丘へと続く道を走っていた。
遺跡が手前に見えるところで大きく右に回り込み、ちょうど遺跡の後方にあたる樹海へと向かう。
樹海の前は草原だが、すでにカイオ王子は到着しているようで、森の入口に栗毛の馬とその横に人がいるのが見える。
イザベルは馬車を止めると、馬を馬車をつなぐハーネスを外し、馬を連れて近くの木に手綱を結びつけた。こうして馬を休ませてやると同時に草を食べれるようにしてやるのだ。こういうところはさすがに女の子らしくやさしい。
カイオ王子はすでに馬の手綱を木に結びつけていて、馬から降ろしたリュックのような袋から何やら出していた。腰にはすでに剣を下げている。イザベルも馬車から荷物を降ろし、剣帯を付け剣を吊るした。レオだけが木剣だ。
(クーゥ… カッコいいな。オレも本物の剣がほしい!)
(あわてなくても、その時が来たら持てますよ。持たなければ… あっ、これは言わない方が…)
「ンー? 何々?持たなければ何だって?」
また口に出してしまった。
「えっ、何が持たなければ何って?」
イザベルがクエスチョンマークを頭の上に出して訊く。
「いや、本物の剣を持ちたいなーって…」
「ああ、剣ね。うちから一つ持ってきてあげればよかったわね。要らないとは思うけど、万一に備えて持ってきたのよ」
「レオは木剣でもけっこう振れるだろう? たぶん剣を使うことなんて起こらないよ。もし、危険なケダモノが森から出てきたとしても問題なくその木剣で倒せるよ」
そう言いながら、森の中へ入っていくカイオ。
イザベルがすぐ続き、レオも続いて森に入る。
(で… 何が“ これは言わない方がいい”んだって?)
シーノに念話で訊く。
(ま、それはあとの楽しみってことで…)
うまくかわすシーノ。
“こいつ、なんだかこれから起こる事を知っているようなフリだな…”
心の隅で思うレオだったが、今あまり守護天使を追い詰めてもしかたない。あとで機会があればまた聞いてみようと考えた。
『謎の穴』の場所に着き、カムフラージュのために上にかぶせていた枝や葉を取り除き、またテコを利用して入口をふさいでいる首像のついた石の台を横にずらす。
穴の中には急な石段が見えるが、見えるのは光が当たっているところまでで、それから下は見えない。
カイオとイザベルは火打箱から黄鉄鉱の火打石を出して、手早くランプに明かりを点ける。
カイオとイザベルがそれぞれ1つずつランプを持ち、レオはロープの束を肩にかついで二人に続いて穴の中に入った。
穴の中は、日の光が届かなくなったあたりから急に空気がヒヤッと冷たくなった。
石段を10メートルほど降りると平らな通路らしいところに出た。ここからは山をくり抜いた坑道のように天井も床も壁も土だ。
高さはギリギリ2メートルほど。幅は人がようやく通れるくらいだから1メートルくらいだろう。
かなり湿気を感じるが苔も生えてなければ、冒険映画『イン〇イアナ・ジョ〇ンズ』に出てくる洞窟の中のように蜘蛛の巣だらけでもない。
そもそも、ずっと出口が塞がっていて、光も入らなければ風も入らないのだから苔が生えるはずはないし、蜘蛛の餌となる虫だって入ってきようがないのだから、蜘蛛だって生きてはいられないのだろう。
せまいトンネルをしばらく歩いたところで石段に突きあたった。
20段ほど上ると石でできた通路に出たが、3メートルほど行くと壁に突き当たった。
「これは絶対に隠し扉とかがあるだろ?」
レオが言うと
「だな!」
「だね!」
と二人もうなずいた。
はたして突き当たりの壁をよく調べると取っ手のような金具埋め込まれていた。
取っ手の金具を引きだし、突き当りの壁を引いても動かず、押してもダメだった。
ならばと横に引いてみるとズズズッとすべって開いた。
隠し扉の向こう側には、また石の階段があった。
階段を上がり切ると、そこは今までとまったく違った石造りの立派な通路があった。
通路は幅が2メートルほどと広く、天井も壁も床も大理石のような光沢をもつ石でできていて、ランプの明かりに照らされるとかなりよく作られた通路― いや、正しくはトンネルだろう。
相変わらず外からの明かりなどは入ってないので、ランプがなければ真っ暗だが。
隠し扉の通路側には壁画のような模様がはいっていて、中央あたりは壁面よりわずかに凹んでいた。見ると、通路の壁にもずらーっと同じように壁画のような模様がはいっていて、やはろ同じように真ん中あたりが凹んでおり、通路側からは、よほど注意深く見ないと隠し扉があるとはわからないようになっていた。まあ、そうでなければ隠し扉の意味はないわけだが。
さて、通路を右へ行くか左へ行くか。
みんな立ち止まって考えていると、イザベルが何かを見つけたらしく、隠し扉の反対側の壁に近づいてランプを掲げて何やら壁の一部を見ている。
「どうした?ゴキブリでも見つけたか?」
カイオが冗談半分に聞く。
「ここに何か書いてあるわ」
「えっ?どれどれ」
二人もイザベルのそばに行き、カイオは自分のランプをイザベルのランプに近づける。
「これは、わけのわからない記号だな」
「いや、ちょっと洞穴の入り口にあった頭の像に刻まれていた記号に似ているみたいだぞ」
「ちょっと二人とも少しだまって。たぶんこれは『神聖アールヴ文字』よ」
「えっ、『神聖アールヴ文字』って、イザベルなんでわかるんだよ?」
「『神聖アールヴ文字』って、古代経典に使われていたって文字だろ? ということは、ここは教会となんか関係があるところなんじゃないか?」
さすがカイオは王子だけあって、城の家庭教師などからいろいろ習っているようだ。
しかし、イザベルが記号を見ただけで『神聖アールヴ文字』を見ただけでわかるとは…
レオも驚いた。
「で、なんて書いてあるんだ?」
「えーっと左側の記号の意味は《こちらは聖なる所へ》かな… 右側のは《神の戸》か《神の扉》とかいう意味だと思うわ…」
「「えーっ!」」
ハモってしまった二人。
「イザベル、『神聖アールヴ文字』を読めるのか?!」
「《聖なる所》とか《神の扉》とかって何だよ?!」
「二人一度に聞かないで!一人ずつしか答えられないから!」
「「そりゃそうだ」」
またハモるレオとカイオ。
「わかった。じゃあボクの質問から答えてくれ」
「なんでそうなる?」
「じゃあ、先にカイオの質問に答えるわ。ほら、私のお母さまは元巫女さんだったって言ったでしょ?」
「あ、そんなこと言っていたな」
「神殿で仕える巫女とか神官は、『神聖アールヴ文字』を習うのよ。それで私のお母さまは知っていて、それを私にも小さい時から教えてくれていたの」
「なーるほど。それで読めるんだ」
「でも、なんでイザベルのお母さんは『神聖アールヴ文字』なんかを教えたんだろうな…」
「それは、ゆくゆくは私を巫女にしたかったんじゃない? まあ、私はこんな性格だから、おしとやかな巫女さんになんてなれそうもないけど…」
「あはは。それは言えてる!」
「同感!」
「なに二人そろって、まるで私がオテンバみたいに言っているのよ!」
しきりと怒るイザベル。
それでも気を取り直して、レオの知りたいことについて考える。
「《聖なる所》って神聖な所っていうことよね?《神の戸》とか《神の扉》ってどこかへ行ける門のことかも…」
「つまり《聖なる所》というのは神殿みたいなものと考えていいようだな。じゃあ、こちらの《神の扉》が、天国に行ける門のようなものかも知れないぞ?」
イザベルの解読にカイオが解釈を加える。
「《聖なる所》は神殿でいいとして、《天国への扉》って、天国なんてあるはずがないだろう?」
「《天国》へ行くのはいいけど、帰れなくなったらたいへんだ!」




