3-26 ミューロィナの青春⑤
ミューロィナのフルネームは ミューロィナ・ゾネンブルーメ・キャルニヴォルです。
マリヒメママのミドルネームにはダイツ国生まれのヘレーナおばあちゃんのファミリーネーム“ゾネンブルーメ”がついていました。
それで、ミューロィナが生まれた時に、マリヒメママがミューロィナにもミドルネームとして“ゾネンブルーメ”を付けてくれたのですが...
ゾネンブルーメってダイツ語で“ひまわり”という意味なのです。
ミューロィナが幼稚園に入園した時に、クラスで先生がひとり一人新入生の名前を呼び、ミューロィナの名前を呼んだとき、「これはステキなミドルネームですね? ダイツ国の言葉で“ひまわり”っていう意味なんですよ」とニコニコしながら説明したことで、ミューロィナのミドルネームの意味を知ったクラスのお友だちたちから、「ダイツのダイツのひまわりちゃん!」とからかわれるようになったのです。
ミューロィナ自身、ダイツ人のおばあちゃんの孫であることを誇りに思っていましたが、それ以上に豹族の女の子であることの誇りの方が大きかったのです。
もちろん、顔は薄い斑点と豹耳がある以外は、まるっきり人族の顔なのですが。
それ以来、ミドルネームは必要な時以外、名乗らないようにしていたのです。
しかし、正式に自己紹介するのなら、フルネームを言わなければなりません。
でも...
勇者レオの興味は“ひまわり”というミドルネームではないことをミューロィナは“女の子”として感じていました。
そんな彼女の考えにはお構いなく、ジャバリューパパは得意げにミューロィナのスキルを紹介しました。
「得意技は、隠密行動、後方かく乱、暗殺、それとカメレオン・スキルです。」
「あ、暗殺?」
体の細い金髪青目のドワーフの勇者が反応します。
「カメレオン・スキル?」
レオと言う若者も片方の眉を吊り上げて興味を示しました。
“へ~え... 人族って、そんなこともできるのね? 私もできるかしら?”
なんてミューロィナは思っていました。
それからしなければならない事を知っていたら、決してそんなバカバカしいことなど考えなかったでしょう。絶対に。
「いや、大王様が、ドワーフとヤマトの戦士たちが勇者殿たちといっしょに戦っておるならば、獣人族からもぜひ代表を一名加えてもらいたいと所望されましてね...」
「はあ...そうですか」
「最初、私はリザードマン女戦士のガネーシャを、と考えたのですが、アイツはすでに許婚がいまして、彼と分かれて戦いたくないと言うので、私の娘を選んだ次第です。」
「これでも豹族の精鋭部隊パンサーの一員。偵察、後方攪乱、暗殺を専門とするエキスパートなので、十分役に立つと思いますが...」
「で、そのカメレオン・スキルと言うのは?」
勇者レオが即座に反応しました。
“えええ? なんで、カメレオンスキルに反応するの?”
ミューロィナは、次に何を要求されるかを想像して... 心臓がドキドキしました。
「ミューロィナ、見せてあげなさい。」
案の定、レオという若者はカメレオンスキルに興味を示し、ジャバリューパパはミューロィナに命じました。
「はい、パパ。」
ここに至っては、後戻りできません。
パンサー部隊の女性隊員は、命令があれば、その特殊能力を、いつでも、どこでも使わなければならないのです。
ミューロィナは覚悟を決めて、着ていた服をすべて脱ぐと、カメレオンスキルをもっとも有効的に発揮できる場所として壁際にある長椅子まで行きました。
その長椅子は高級木材で作られたもので、シックな模様のある生地が張られていました。
ミューロィナは、長椅子まで行くと、仰向けに横たわりました。
すると、どういうことでしょう、その長椅子の生地と同じ模様がミューロィナのハダカの体一面に現れたではありませんか!
「もういいだろう。」
1分後にジャバリューパパがオーケーを出したのですが、ミューロィナは死ぬほどの恥ずかしさを感じていました。
それは、レオという勇者が、彼女の体をずーっと瞬きもせずに見続けていたのを知っていたからです。
長椅子から立ち上がったミューロィナは、何も言わずに黙ったまま服を着はじめました。
「オレたちとしては、これからの旅はさらに困難になると思うので、有能な仲間は一人でも多い方がいいです。ミューロィナさんは、特殊な能力をもっているようですし、大王の言われるように獣人族を代表する戦士として、こころよく受け入れたいと思います。」
勇者レオがジャバリューパパに言っている言葉を、ミューロィナは信じられないという顔で聞いていました。まさかと思ったことが起こったのです!
“私が勇者たちの仲間入り?”
半ば呆然として、勇者レオの顔を見ると、彼はミューロィナを見て微笑みました。
そしてミューロィナは感じたのです。
キュン!
“えっ、なに、この胸の痛みは?”
「ミューロィナ、お前からもお礼をいいなさい。」
「あ、は、はい。レオさま、ランさま、モモさま、これからよろしくお願いします。」
「ランさまとか、そんなもったいぶった呼び方はよしてよ。私たち年はあまり変わらないでしょう?だったらランでいいわ。」
「そうよ、そうよ。モモでいいわよ。」
「オレもレオでいいよ。」
勇者たちは、もう何十年もミューロィナを知っているような親しさで話してくれました。
そして、不思議な白くきれいなブレスレットをくれたのです。
「ミューロィナ、これつけて。」
手首にブレスレットをつけて、あまりの美しさに見とれていると、勇者レオがステータスウインドウの説明をしてくれました。
驚いたことに、“ステータス表示”と念じると、見たこともない文字や数字がずらーっと並んでいます。そして自分の装備までも表示されているではありませんか!
《ミューロィナ:ステータス》
装備:
E 武器 ショートソード、爆裂手裏剣
E 投擲武器 爆裂弾、焼夷弾、毒ガス弾、煙幕弾
E 濃紺のニンジャコスチューム または迷彩服
E ニンジャマスク または迷彩マスク
特技: スキル:カメレオンスキル
興味深そうに見ているミューロィナに新しい仲間が声をかけてくれます。
「これでミューロィナも私たちの仲間ね!」
「でもミューロィナって、長すぎるじゃない?ミユでいいよね?」
「あ、それいい、じゃあミユで決まりね!」
「えっ、ミユ...??」少しとまどうミューロィナ。
まあ、ミューロィナは、すでにミューと呼ばれていたので、ミユと呼ばれても正直言って、あまり驚かなかったが、会って5分もしない内に、まるでもう仲の良い友人同士のようにニックネームを付けてくれたということに内心驚いたのだ。
「うむ。これでミューロィナ、いやこれからはミユか-も勇者殿の正式な仲間になったわけだな。しっかり頑張るんだぞ。泣いて帰って来ても私は知らんぞ?」
厳しそうな言葉を言うジャバリューパパですが、なんだかその声はちょっぴり感情が高ぶっている感じです。男手一つで育てたかわいい娘を旅に出すことになったので、それまでの苦労を思い出して感極まったのでしょう。
しかし、そこは長年激戦の続く前線で生きて来たジャバリュー将軍、すぐに冷静になり、わが娘の門出を祝福したのでした。




