3-24 ミューロィナの青春③
その人族の娘は…
背はかなり低く、彼女と試合する獣人族の戦士たちと比べるとまるで子供のようです。
黒く長い髪と白い肌の人族の娘は緋色の服を着ており、彼女の髪の黒さと肌の白さをひときわ目だたてさせます。
“きれいな人…”
それがミューロィナの正直な感想でした。
「なにー、あの娘? まだ子どもじゃない?」
「いやいや、ジャグリナ、あんた知らないの? 人族って大人になっても童顔なのよ?」
「えーっ、本当、リッパルナ?」
「それでも、ありゃ相手にならないよな?」
「あの“勇者”とかいう人族の娘、アタマおかしいじゃね?」
後ろの席から男子隊員たちの声がします。
審判役のジャバリューが、対戦相手を紹介します。
人族の娘はモリ・ランという名前だそうです。“夜叉族”と紹介されましたが、人族とどう違うのか誰もわかりません。
対する獣人族の戦士は
リザードマン戦士のガネーシャ
虎族戦士のエンバラモス
大猩々族戦士のガルディクス
サイ族戦士のメーティオーン
オオカミ族戦士のグット・シー
という、パンサー隊員たちも名前を聞いたことのある有名な戦士たちでした。
「聞いた? あれ、ムリ、ムリに決まっているわ!」
「試合開始して10秒もしないうちに、あの小さな人族の娘、八つ裂きにされちゃうわ」
「それに、あのガネーシャって言うリザードマンの戦士、素早い攻撃で有名よ!」
「グット・シーも巧妙な攻撃するって言うし...」
「エンバラモスの爪にかかったら...」
「大猩々のガルディクスは、魔族兵士を腕で引き裂くって聞いたぜ?」
「でも、本当に獣人族の戦士と互角くらいに戦える能力ないと試合しないわよね...」
「ミューの言うことももっともだけど、体力差はメチャ大きいわよ」
みんな人族の娘が、どんな悲惨な死を迎えることになるかを想像していました。
「はじめっ!」
ジャバリュー審判が試合開始の合図をしたとたんに、獣人族戦士たちは、すばやく半円形に人族の娘を囲んだかと思うと、リザードマン戦士のガネーシャが長い剣で斬りかかりました。
直後に虎族戦士のエンバラモスと大猩々戦士のガルディクスが、三又槍と槍で突きました。
ギャリリ―ン!
武器が交差し、金属のぶっつかり合う音が響きました。
血にまみれた人族の娘...
の姿を誰もが想像しましたが
なんと、ランという人族の娘の姿は、そこにありませんでした?!
オオオオオオオオオオオ――――――!
観客がどよめき、耳が痛くなるほどです。
獣人族の戦士たちは、キョロキョロあたりを見回してランという娘の姿を探しています。
ミューロィナたちも、まるでキツネに包まれたように闘技場を見ています。
「あの人族の娘、消えちゃったわよ?」
「俺は夢でも見ているのか?」
ゴシゴシと目をこする男子隊員。
ポカっ!
「イテぇ、何するんだ、ジャグリナ!」
「寝ぼけていないって教えてあげたのよ、グスターブ!」
「あの娘、どこに行ったの?」
「知らないわよ!消えたんだから!」
ワーワーワーワ―――――
コロセウムの観衆たちは大騒ぎです。
その時、透き通った声が響きました。
「どこ見ているの――? 私はここよ――!」
「!」「!」「!」「!」
なんということでしょう、人族の娘ランはゼリアンスロゥプ大王のいる天幕の上に掲げられている大王の紋章旗のポールの上に立っているではありませんか?!
オオオオオオオオ―――――――!
観客のどよめきがハンパありません。
みんなが大王の紋章旗の方を見て指をさして驚いています。
もちろん、ミューロィナたちもビックリです。
岩のごとく動かないので有名な大王さまが、自分の椅子から立ち上がって天幕の上を見上げています!
それを見た人族の娘ランは、優雅に大王に礼をしました。
次の瞬間、ランの姿はポールの上から消えていました。
観衆がまた騒ぎ、人族の娘がどこに行ったのか探しています。
大王様もキョロキョロとランの姿を探しています。
ミューロィナたちも探しています。
「ひきょう者、降りて来い!」
「怖くなったか、人族の娘っ!」
闘技場の獣人の戦士たちが喚いています。
「だれが、ひきょう者ですって?」
声とともに人族の娘が《かぶりつき》と呼ばれる半分地下式の特別観覧席の前に現れました。
《かぶりつき》にいた将軍たちも驚いています。
観衆も大王もミューロィナたちも驚いています。
人族の娘に翻弄されてアタマに来た戦士たちが、大声をあげて一斉にランの方に走って行きました。
その時
シューシューシューシューシューシューシューッ
風を切る音がして、闘技場の中に置かれていた剣、槍、鉄球、三又槍、短剣などが一斉に獣人戦士たち目がけて飛んで行ったのです。
太陽の光を反射してキラキラ光る剣や槍などが獣人族戦士たちを取り囲む情景は―
とてもなく美しいものにミューロィナには見えました。
百戦錬磨の戦士たちは一歩も動けず、見ていた大王も将軍たちも観衆も、その現実離れしたような光景に一瞬静かになってしまいました。
が―
次の瞬間
オオオオオオオオオ―――――――!
コロセウムを埋め尽くしたたち観客たちからどよめきが巻き起こり、ついで盛大な拍手が闘技場に鳴り響いたのです。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ…
「しょ、勝負あり!」
ジャバリュー将軍が大きな声で人族の娘ランの勝利を告げ、王族用の観覧席の前にある手すりに身を乗り出すようにして見ていたゼリアンスロゥプ大王も右手指を上にあげてランの勝利を認めました。
しかし、事はそれでは終わりませんでした。
何と、自分の部下である戦士たちが“いい物笑いの種”になったと感じた将軍たちが、五人も人族の娘ランに挑んだのです。
五人の将軍たちの名前は
象族将軍ディアドコイ
牛頭族将軍カーマデーヌ
馬頭将軍ガヴァーロ
犬族将軍モロシアン・マスティフ
犀族将軍ボブヒッポ
いずれも、過去に獣人族軍で輝かしい手柄を立てた戦士たちでした。
これにはミューロィナたちもたいへんビックリしました。
「え――っ、それはないでしょう、将軍さんたち?!」
「かよわい人族の娘一人に勇猛無比の将軍が五人?」
「こりゃ、ますます面白くなるな!」
ゴツン!
「イテぇ、何するんだ、ジャグリナ?」
「かよわい娘一人が怪物のような将軍たち五人に殺されるかも知れないのが、それほど面白いの、グスターブ?」
「そうよ、そうよ!」
「だって、わからないじゃないか? またさっきみたいに剣や槍を飛ばすかも知れないし!」
でも、ミューロィナたちの心配は杞憂に終わりました。
なぜなら、
かよわい人族の娘に代わって、若くて細い体の人族の若者が将軍たちと戦うことになったからです。
人族の娘の姿が闘技場から三度消え、将軍たちの相手をすることになったレオという若い人族の男に虎族将軍ガドゥンガンが一気に跳躍するようにして迫った時、レオという若者は、信じられないほど高く飛び上がり- ミューロィナなどは、若者が羽をもっているのではないか、と思ったくらいでした― 手にしていたとても大きな剣を投げたのです。
いや、投げたのだと思います。
一瞬、若者の手から大きな剣は消えたように見えたからです。
何だかよく見えませんでしたが、将軍たち目がけて光条が数回きらめいたように見えました。
若者の手に大きな剣があるというのがわかった時、
象族将軍のディアドコイが持っていた巨大なオノは真っ二つに斬られ
虎族将軍ガドゥンガンが持っていた武器、巨大な三又槍も穂先が無くなっており
犬族将軍モロシアン・マスティフの大剣は根元から断ち切られ
馬頭族将軍ガヴァーロのフレイルと牛頭族将軍のカーマデーヌの金棒も鎖を切られ、
金棒を根元から切られてしまっていたのです!




