③
銀座四丁目の探偵社へ向かうと、玄関の明かりの下で、四角いフレームの眼鏡をかけた真面目そうな顔立ちをした、学生服姿の少年が、あたりを見回しながら立っていた。やがて、僕の存在に気付くと、
「高津さんですね。探偵社の仁科というものです」
駆け寄ってきたのが、よく悠一さんの話に出てくる仁科さんだったので驚いていると、
「探偵長がお待ちです。ご案内しますから、ついてきていただけますか」
「は、はい……」
とっつきにくい印象をうけたまま、仁科さんの後ろへくっついてエレベーターへ乗り、見覚えのある探偵長室の戸をノックすると、
「やあ、どうぞ。お入りください」
「悠一さん、いったい何が――」
返事を待たないうちに戸を開けると、今度は勢いよく、
「健壱ィ、心配したんだぜっ」
「――弘之!」
こちらへ弘之が躍りかかってきたのに驚くと、ソファに腰を下ろしていた益美がこちらを向いて、
「あんた、いったい今日はどこで何してたのよ」
「ハハハ、あんまり心配かけたらいけないぜ、高津さん。――探偵長、一件落着、ですね」
学生服の上からトレンチコートを着た猫目さんが僕の方へ安心しきった顔を見せている。
「やあ、まったくだ。高津さん、お二人があなたの安否を心配して、僕のところへ電話を寄
越したんです。もしなんともないのなら、僕の電話に呼び出されて、ここまでやってくるん
じゃないか、という見立てだったようですが、大当たりでしたね」
「そういうことだったんですか……。すいません、ご心配をおかけして」
深々頭を下げると、悠一さんは首を振って、
「謝る相手が違いますよ。……そこのお二人に、言うことがあるんじゃありませんか」
背中のむずがゆさに振り向くと、弘之と益美が、僕の方をじっと見ている。一歩前へ出て、
「ごめんな、二人とも。なんとなく、学校へ行きにくくってさ。つい、サボっちまったんだ」
「あンだよう、心配かけやがって。てっきり、三番目の被害者にでもなっちまったのかと思
って、ビビってたんだぜ」
弘之が肩を激しくたたきながら、不安から解放された、どこか間抜けな表情を浮かべると、
その後ろでは益美が、やれやれ、と言いたげな目で僕らをじっと見つめている。
「――さて、無事に人探しも済んだし、僕らも心置きなく、九州へ行けますね」
「九州、ですか?」
猫目さんの言葉に目線を動かすと、悠一さんの足元に年季の入った革のトランクが置かれているのに気付いた。ほんのちょっと、近所へ出かけるような荷物には思えない。
「そうなんですよ。今度の事件に関係のある人物が、九州にいるようでしてね」
紺のトレンチコートを着ながら、悠一さんが言う。
「健壱ィ、感謝したほうがいいぜ。探偵長、わざわざ列車を一本遅らせてくれたんだからさあ」
どうやら、悠一さんは出張直前のわずかな時間を割いて、弘之たちのために動いてくれたようだった。
「――仁科くん、車を二台、出してくれないか。人数が多いから、その方がいいだろう」
ドアの隅に控えていた仁科さんに悠一さんが呼びかけると、仁科さんはわかりました、と言って、部屋を出て行った。
服部時計店の鐘が、六時を告げたところだった。




