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夢への第一歩

早朝の公園。

人の気配がない場所に1人の姿がある。


おれは早朝のランニングを終えて、公園に来た。

あるものを持って。

もう使うことがないと思っていたもの。


久しぶりだ。

本当に久しぶりで少し緊張する。


サッカーボールを地面におく。

ゆっくりと足でボールに触れる。


リフティングでもしてみるか。

1、2、3……リズムよくボールを蹴っていく。


懐かしいなぁー。小学生の頃、よく練習したのを思い出す。


998、999、1000。

だんだん感覚が戻ってくる。

ボールが足に吸い付く感触だ。


昔と感覚は変わってないけど、身体が成長した分、力の入れ方をしっかり練習しないと。


それからリフティングとドリブルを続けた。


ふと時計を見ると、1時間経っていた。

ヤバイ、学校に間に合わなくなる。

これから帰ってシャワー浴びてから行くのに30分かかるからギリギリだ。




ふぅー。

遅刻寸前で学校に着いたおれはため息を吐く。

そんなおれに近づいてくるやつがいる。


「今日はギリギリやったな」

「おはよう、透。ちょっと朝ランニングしてたらね」

「ランニングなんて真面目やな。それより、やっぱりサッカー部入ろうや」

「いいよ」

「ええんかい!?どう言う風の吹き回しや」

「やっぱりサッカーが好きなことに気づいたんだよ」

「そうなんか。まぁええわ。じゃあ、今日見学に行こうや」


おれと透は放課後、サッカー部の見学にいった。

おれたちの他にも見学してるやつが数人にいた。

サッカー部にはAチームとBチームがあるらしい。

おれたちが見に来てるのはAチーム。

試合形式の練習をしている。


「透はどう思う?」

「どう思うって何がや」

「サッカー部の実力だよ。おれもある程度は分かるけど、やっぱりブランクはあるからね」

「県内で見ると強い。公立で県ベスト4まで行くだけあるわ。けど全国的に見ると……うーん、難しいな。弱くはない、でもこれといって強いと言った感じもせえへん」

「具体的にはどうなの?」

「守備はしっかりしとる。結構なレベルやと思うわ。それこそ全国でも通用するんじゃないかと思うくらい。けど、攻撃があかん。密度もバリエーションもないから守備より数段レベルが低くなってる。だから弱くもないけど強くもないって感じや」

「なるほどなぁー。攻撃が上手くいったら強くなるってことかぁー」

「そゆことや。まぁおれと蓮がいれば大丈夫やろ。蓮が昔のままやったらやけどな」

「透の期待に応えられるように頑張るよ」



サッカーの勘を取り戻すために毎朝練習。

そんな日々を過ごすうちに2週間が過ぎ、仮入部の日が来た。



サッカー部に入部する新入生はおれを入れて15人からいた。

東征高校は県ベスト4まで行くくらい強いけど、推薦とかはないからこの人数だ。ある程度頭も良くないと入らないからな。


「おれが3年でキャプテンの遠藤(えんどう) (かおる)だ。これからよろしく頼む! とりあえず、新入生は自己紹介していってくれ。サッカー経験の有無、経験者は得意なポジションを言ってくれ」


順番に自己紹介をしていく。みんな中学でサッカーやっていた経験者だ。まぁ当然か、ここは結構強豪だしな。


「坂下 透と言います。 西条中でキャプテンをしてました。ポジションは攻撃的MFです。よろしくお願いします」


「おい、西条中って……」

「去年の県代表じゃないか」

「おれあいつ知ってるぞ。小学生の時から結構有名だったし」

「なんで東征なんだ?もっと上の高校にも行けそうなのに」


結構ざわざわしてるな。あいつってそんな有名だったんだな。

おっとそろそろおれの番だな。


「おれは安藤 蓮です。中学生の時はサッカーしてませんでしたが、小学生の頃は陽南(ようなん)FCというチームでプレイしてました。ポジションはオフェンスなら得意です」


「安藤ってあの?」

「ん?お前知ってるのか?」

「お前知らないのか?あぁ、お前県外か。じゃあ知らないかもな。陽南FCは全国優勝を成し遂げたチームで、その時の全国大会でMVPだったのがあの安藤ってやつだ」

「そんなすごいやつがなんで東征?」

「わからんけど、中学ではあいつの話は聞かなかったからそれが関係しているんだろう」

「怪我か? まぁなんにせよ今年は豊作みたいだな」


「よし!それじゃあ新入生の実力を見るためにミニゲームをしよう。30分ハーフだ。2,3年生に混じって得意なポジションでやってもらう。5チームくらい作ろう」


どうやら試合形式の練習をするらしい。

ちょっと緊張してきたぞ。

昔は緊張なんてしなかったのに。


5チームに分かれたがおれと透は一緒のチームだった。


「よかったわ。蓮と一緒のチームで。やっぱり知り合いが一番やな」

「おれも透と一緒でよかったよ」

「あのー…おれも一緒のチームなんだけど」


そう言って話しかけてきたのは先程一番初めに自己紹介をしていたやつだ。

高校生1年生にしては大きな身長を持ってやや強面の顔をこわばらせている。


「あぁよろしくな。確か佐藤(さとう) (けい)って言ってたやんな?」

「そうだよ、圭って呼んでよ。あっちで先輩が待ってるから行こう」

「分かった。同じチームだしよろしくな」


先輩たちはAチームとBチームが混ざっているようだった。

おれたち1年生をフォローするためにバラバラに集まってるらしい。


結局、おれはトップ下をやり、少し後ろに透がつくことになった。

圭は身長を生かしたポストプレーを得意とするFWらしい。


「じゃあa面の方で赤と緑チームでb面で黄と黒チームで試合だ」


おれたちは緑だから、赤チームとだな。

この試合は1年生の実力を見るためだから、2,3年生はある程度同じぐらいの実力のはずだ。よってチームの勝敗は1年生の力量にかかってる。

ならここでしっかりとアピールしないとな。

夢のためにも!


試合が始まる。

両チームともパスを回す。やはり先輩たちは基本がしっかりしている。そうそうミスはしないだろう。


狙いを絞ってとりにいかなきゃな。

おれは相手のトラップが大きくなった隙をついてボールを奪取する。

すぐさまドリブル開始。


センターラインを超えた段階で相手は5人残ってる。

ショートカウンターについて来れてるのは前に残っていた圭とすぐさま感じ取った透だけか。


どうするか、そう考える内にディフェンスが詰めてくる。

ややスピードを落とし、透にパスを出すフリをする。

ディフェンスの1人が釣れた。


素早く抜き去る。カバーに来た2人目は緩急を使い、抜く。


これで残るは3対3だ。けど、隙がない。さっきと違いしっかりと素早くカバーが入れるようにしてるな。


抜くのは無理そうだ。

なら打ってみよう。

おれは思いっきり右足を振り抜く。



***


やはり天才やな。


おれーー坂下 透は純粋に安藤 蓮をそう評価する。

足にボールが吸い付くようなトラップといい、広い視野、素早い状況判断どれをとっても天才だ。


小学生の時、あいつと対戦した時を思い出す。


小学生とは思えない技術と判断能力。

手も足も出んかったわ。


中学では絶対に勝ってやるていう気持ちでたくさん練習したのに全く名前を聞かんくなるし、高校に入学してみたら同じサッカー部。

よくわからんやつや。


けど、あいつとならすごいサッカーできるってことが確信できたわ。


ブランクがあるとか言ってだけど冗談きついわ。

今も簡単に上級生を抜き去りおった。


全ての動作が自然なんや。

おれにパスを出そうとしてるのも自然に見えるし、スピードを落としたのもおれにパスを出すため落としてるように見えるから油断してしまう。


よって、簡単に抜かれる。上級生の実力が低いわけじゃない。簡単な話や。あいつが天才なだけや。


あーあ、シュート決めおった。

結構なロングシュートや。ディフェンスが寄せるのを躊躇した一瞬でもう打ってる。


なんちゅー状況判断や。

おれも負けてられんな!

あいつに負けないように頑張らなあかんわ。





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