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プロローグ

全国大会の決勝。

試合終了5分前、2-2で同点。


おれは中盤で味方からのパスを受け取り、前を向く。

ディフェンスが2人、素早く寄せて来た。

軽いフェイントをかけて抜き去る。

残るディフェンスは2人、味方のフォワードが裏を狙っている。

フォワードを気にしてるディフェンスは寄せてこない。

ゴールが見えた、おれは右足を振り抜く。

ボールを蹴った瞬間分かった。完璧なシュートになる。

ボールはキーパーを通り抜けゴールに突き刺さる。


3-2で試合のホイッスルがなる。

駆け寄ってくる仲間たち。最高の気分。

人生で1番幸せな日だ。


場面が変わる。

病院におれは立っていた。

目の前には泣き崩れる母さん。

母さんの目の前には……,


目が覚める。

夢を見ていたようだ。また、あの夢か。

着ていたTシャツには汗をびっしょりかいている。


時計を見ると朝の5時半。

起きるには早いけど、また寝る気にはならなくて服を着替える。


今日はせっかく高校の入学式なのに夢のせいで気分は下がり気味だ。

服を着替えたおれは日課のランニングに向かう。


ランニングの最中、あの夢のことに考えてしまう。

あれは小学生の時の夢だ。おれが1番輝いていた頃の。



おれはサッカー少年だった。

あの頃は毎日サッカーをしていて、県でも有数の強豪サッカーチームに所属した。

おれには才能があったらしく、強豪チームでもスタメンになれた。

サッカーをやるにあたって家族は応援してくれた。特に父さん。いつも試合を見に来てくれて、うれしかった。


あの日は全国大会の決勝。

おれのチームはトーナメントをなんとか勝ち上がって決勝まできた。

父さんは応援に来れるはずだったけど、仕事の関係で途中からしか来れないという。

残念だったけど、途中からでも応援に来てくれる父さんのために頑張ろうと思った。


相手チームは去年の優勝チームでとても強かったけどおれのチームもなんとか頑張り、試合後半になっても同点。

このまま延長戦になるかと思った時、おれにパスが来る。

おれは一瞬のチャンスをモノにして点を決めた。

これが決勝点となっておれのチームは優勝。


最高な気分だ。父さんも喜んでくれるかな。

観客席に父さんを探すけど見当たらない。

おかしいなと思っていると、監督が真っ青な顔をしておれのところに向かってくる。


父さんが死んだ。監督はおれにそう言って病院に連れて行った。

言われた言葉を受け入れることができないまま病院に着く。


病院に入ると泣き崩れている母さんを見つけた。

母さんの前には目を閉じた父さん。


父さんは試合の応援に向かう途中に交通事故に遭い、死んだ。

その日以降、おれはサッカーをやめた。


もしおれがサッカーをやってなかったら父さんは死ななかったかもしれない。

泣き崩れる母さんの姿を思い出す度にそんな考えが浮かぶ。

おれはもう2度とサッカーをしないと誓った。



いつまにか家まで戻ってきている。

考えているうちに日課のランニングが終わってしまった。

スマホを見ると6時半、ちょうど母さんが起きてくる時間だ。


家に入るとリビングから音が聞こえる。


「おはよう、母さん」

「あら、おはよう(れん)。ランニングしてきたのね。朝食は作っておくからシャワー浴びてきなさい」


シャワーを浴びて制服に着替えたおれはリビングに行く。

ちょうど母さんが朝食をテーブルに運んでるところだった。


「やっときたわね。ちょうど、朝食ができたところよ」

「ありがと母さん。いただきます」


朝食を食べながら、高校のことを話す。

今日は入学式だけど、母さんは仕事だから来れない。

とても残念がっていた。


「蓮は友達少ないんだから、しっかり友達作るのよ」

「まぁ、合うやつがいたらね」

「それに中学は部活やってないんだから、高校ではするのよ。せっかく若いんだから青春しなさい」

「別に入らなくたっていいじゃん。部活より勉強のが大切でしょ?」

「いいから入りなさい。昔はサッカーやってたんだからまたやりなさいよ」

「サッカーはしない!部活は考えておくよ」


そう言っておれは部屋に戻る。

母さんはおれがサッカーをやめた理由を知らない。特に聞いてもこなかった。

けど、うすうす気付いてるのかもしれない。


母さんはおれにサッカーして欲しいのだろうか?

わからない。

母さんはサッカーを恨んでないのだろうか?

わからない。



東征(とうせい)高校。

おれが入学する高校だ。

文武両道を掲げる高校で全国大会に出場する部活もある。


そんな東征高校の入学式におれはいた。

そこそこ有名な高校だけあって、豪華な入学式だ。


校長の長い挨拶が終わり、やっと入学式が終わった。入学した1年生は事前に分けられたクラスに向かう。

おれのいた中学から東征高校に進学したやつはあまりいない。

ここはなかなか偏差値の高い高校だし、おれの中学からは入れる人が少なかった。


だから新しいクラスに知ってる人がいなくても驚かなかった。

名簿を見て席に着くと、担任だと思われる先生が入って来て学校の説明をしていく。


「知ってると思うが、東征高校は文武両道を謳う高校だ。よって必ず何かしらの部活には入ってもらうぞ!」


えっ! 知らなかった!

そんなことパンフレットに書いてなかったぞ!


「これから部活の希望届けを配るが、提出期限は2週間後までだぞ!」


おれが呆然としていると教室のドアが開き、担任が出て行った。


どうしよう。 部活なんてやる気なかったのに。


「なぁなぁ、お前って昔サッカーやってたやろ?」

「やってたけど、お前だれだ?」


話しかけてきたのはやや長めの髪をオシャレにセットしているチャラそうなやつだった。


「おいおい、自己紹介聞いてなかったんかい。おれは坂下(さかした) (とおる)って言うんや。よろしくな蓮」

「あーごめん聞いてなかったよ。こちらこそよろしく透。それでサッカーやってたってなんで知ってるの?」

「知ってるに決まってるやろ。小学生の時、県大会の決勝で戦ったんだよ」

「なるほど、そういうことね」

「そういうことや。それで蓮もサッカー部入るやろ?」

「いや、サッカー部には入らないよ」

「なんで入らないんや。あんな上手かったのに」

「好きじゃなくなったんだよ。じゃあおれ帰るわ。また明日ね」


透から逃げるように立ち去る。


まさか知ってるやつがいるなんて驚いた。

あいつからしたらおれがサッカーしないのは変なのか。

なんの部活やるのかも考えなきゃな。


早めに帰宅したら母さんがご飯を用意して待っていた。


「ただいま、もう帰ってきてるなんて早いね」

「おかえり。今日は蓮の入学式だったからね。行けなかった分、ご馳走を作りたくてね」


テーブルには豪華な夕食が並んでいる。

どれもおれの好物ばかりだ。


「ありがと、母さん」

「それじゃ冷めないうちに食べましょう」


「蓮、部活決めたの?」

「まだ決めてないよ」

「サッカーやりなさいよ。好きだったでしょ?」


母さんは懲りずにサッカーを勧めてくる。


「サッカーはしないよ」

「なんでしないのよ。お父さんのことを気にしてるの?」

「……」

「やっぱりそうなのね。ちょっと待ってなさい」


母さんはどこからか手紙を持ってきた。


「これは?」

「お父さんから蓮への手紙よ。もう蓮も受け止められる年齢よね。部屋に戻って読みなさい」


そう言うと母さんは片付けを始めた。


手紙……父さんから?

おれは重い足取りで部屋に戻る。


手紙を見ると『蓮へ』と書いてある。


手紙なんて父さんいつ書いたんだろう?

ゆっくりと手紙を開けて中身を読む。


『 蓮へ

誕生日おめでとう。

もうすぐ中学生になるなんて時間が過ぎるのは早いなぁー。あんなに小さかった蓮がこんなに大きくなるなんて思わなかったよ。それにサッカーもすごい上手いしな。蓮がサッカーする姿を見てると年甲斐もなくワクワクするよ。蓮なら日本代表にだってならんじゃないか? 親バカって言われるかもしれないけどおれは蓮ならなれちゃいそうな気がするよ。

蓮がサッカーを好きになってくれて本当に嬉しかった。おれもサッカーが好きだったからなあ。やっぱり親子だと思ったよ。これからもサッカー頑張りなさい。蓮が日本代表になってくれることがおれの夢だ。

ほんとに誕生日おめでとう。

父より


涙が止まらない。

優しかった父さんを思い出す。

父さんはいつもおれを褒めてくれた。


そんな父さんが死んだのはおれのせい。

でも父さんはおれにサッカーをしてほしいんだよね。


日本代表……。父さんの夢か。


おれは一気に部屋を出てリビングに行く。


「どうしたの?」

「母さん。おれサッカーやるよ! だって父さんはおれがサッカーしてる姿を見てると思うから!」

「蓮……。そうね、お父さんも蓮を応援してるわ!頑張りなさい」


母さんは泣きながら笑顔だった。

おれが気づくのを待っててくれたんだ。

ありがとう、母さん。


父さん見てて、おれサッカー頑張るよ。




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