第4話
ほどなくして、面談の時間になった。
職員さんに連れてこられたのは、病院の待合室のような場所だった。
いまは名前を呼ばれるまで待っている。
「安地英雄さん」
名前を呼ばれたので、面談の部屋に入る。
すると、これまた病院の診察室のような部屋に、医師のような白衣の男性がいた。
「こんにちは。安地英雄くんだね? さっそくだけど、面談を始めていいかな?」
白衣の男性はそう言った。
この人が面談の担当者か。
「はい。よろしくお願いします」
そう答えると、白衣の男性はタブレット端末のようなものを手に取り、質問を始めた。
「これから、いくつか質問をするけど、そのいずれにも、“はい”か“いいえ”で答えて欲しい。いいかい?」
“はい”か“いいえ”。
シンプルでいい。
「わかりました」
「うん。それじゃあ第一問。 “昨日、電波を受信しましたか?”」
「はい」
俺はそう答えた。
昨晩の記憶は、なぜだか曖昧だ。
でも、俺はヒーローになっている。
電波を受信したのは確かだろう。
白衣の男性は、俺の目をじっと見ていた。
そして、次の質問をしてきた。
「……。第二問。 “それは、ヒーロー電波ですか?”」
なるほど。
この面談の目的は、ヴィランのあぶり出しも兼ねているのか。
ヴィラン電波は突発的に受信するのがほとんどだが、15の誕生日に来ることも結構あるらしい。
この質問には、自信を持って答えられる。
「はい」
白衣の男性は、ずっと俺の目を見つめている。
なんだか怖い。
「……。第三問。“その力は、人々を守るためにあります。そうですね?”」
そんなの、当たり前だ。
「はい」
「オーケー。質問終了だ」
はやっ!
もう終わり?
「……うん。嘘はついてないみたいだね。おめでとう。ヒーロー電波を受信したんだ」
「なんで分かるんですか?」
「ああ、隠していてすまない。これでも私は、ヒーローなんだ。読心術の固有スキルを持っているから面談の担当に選ばれていてね」
驚いた。
この白衣の男性は、ヒーローだったらしい。
ヒーローの素顔はあまり拝めるものではない。
俄然興味がわいてくる。
「ヒーローだったんですか! ヒーローネームは何ですか!?」
「ははは……。それは、君がヒーローライセンスを取得したら教えてあげよう」
そうだった。
ヒーローの正体は、できるだけ隠すのがルールなのだ。
「そうですよね、すみません……」
「決まりだから、ごめんね。それじゃあ今から、ヒーローに関する簡単な講習をするよ。それが終わったら能力測定だ」
「講習ですか?」
「ああ。簡単にだけどね。君、電波を受信してから、自分の身がどう変化しているのか、分っているかい?」
「どう、って……。エナジーとか、スキルとかを使えるようになった……と思います。でも、具体的にはよくわかりません」
「うん。まず、何より重要なのはヒーローを超人たらしめるもの。“エナジー”がその体に宿っていることだ。未だに全くもって解明されていない未知のエネルギー。不可能を可能にしてしまうパワーを、君は持っているんだ」
「……!!」
かっこいい!
「……嬉しそうだね。そして、これも重要だ。“エナジー”を持っているのは、ヒーローだけじゃない。なんだと思う?」
「……ヴィラン、ですか?」
「そう。ヴィランだ。彼らも、僕たちヒーローと同じ“エナジー”を持っている。“ヴィランエナジー”と、“ヒーローエナジー”。それは、同じものとされている。じゃあ、ヴィランとヒーローの違いはなんだと思う?」
「それは……考え方、とか?」
「そうだね。ヒーローとヴィランの違いは、たったの一つ。それは、心の在り様だ。電波と共にもたらされるのは、“超能力”と、……電波による“強烈な精神汚染”だ」
「精神汚染……?」
「精神汚染を受けるのは、ヒーロー、ヴィラン共に変わらない。ヒーローは絶対的な正義感を刻み付けられる。ヴィランは他者に対する悪意と、欲望の増長、破壊衝動を刻み付けられる。……だからヴィランも、被害者と言えるのかもしれない」
「……」
「でも、ヴィランは悪だ。人類の平和を脅かす存在であることに変わりはない。それを防ぐのが、僕たちヒーローの仕事ってわけさ」
「そうですね」
「うん。まぁ、ヒーローとヴィランについてはこんなところかな。それじゃあ次にいこう。次は、ヒーローとしての力の使い方だ」
「おお、待ってました」