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第1話

「はやく……はやく……! クソッ! 誕生日過ぎちゃうよ……」


ずっと、うわごとのようにそう呟いていた。


焦っていた。


今日、15の誕生日を迎えた俺は、とある特別な施設にいた。

『超人』を管理する目的でつくられた、国の施設だ。


誕生日の前日から、誕生日の翌日まで、二泊三日を過ごすことになる。


与えられた個室は、ホテルの一室のようなつくりだった。

部屋には監視カメラが設置されており、モニタリングされているとのことだった。


落ち着かないし、慣れない環境だが、いまはそんなことはどうでもよかった。


絶望的な状況だった。

死刑宣告を待つ囚人は、こんな気持ちなのだろうか。


俺は、ずっと机の上に置かれたデジタル時計を睨んでいた。


そこには【23:00】と表示されていた。

あと1時間もすれば日付が変わってしまう。

待ちに待った“15歳の誕生日”が、終わってしまう。

それは俺にとって何より恐ろしいことだった。


このまま明日になってしまったら、平凡な人生を決定づけられてしまうから。

それは、俺の夢も一緒に終わってしまう、ということを意味する。

物心ついてから何年も夢想し続けて、もはや憧れを通り越して決定事項になっていた、“ヒーローになる”という夢が。


「……クソッ! なんで来ないんだよぉ……」


机に突っ伏して頭を抱える。


今日まで、本当にいろいろ頑張ってきたんだ。

ヒーローになるための身体づくりをしてきたし、勉強も頑張った。

勉強できないヒーローじゃ格好悪いと思ったからだ。

他人には親切にした。

困っている人がいたら助けた。


自分の中のヒーロー像に恥じないよう、必要だと思ったことは惜しまずにやってきたつもりだ。


なんとなく、そうしたほうが“電波”を受信しやすくなる。

そんな根拠のない考え、というか、思い込みがあった。


でも、現実はそう甘くはなかった。


“電波”を受信する人間の割合は、1000人に1人、つまり0.1%しかいないと言われている。

俺は、それに選ばれなかっただけ。


「……はぁ」


しばらく顔を伏せていたら、頭がぼんやりしてきた。

昨日は徹夜だったから寝不足なのだ。

誕生日を迎えたらすぐにでも“電波”を受信するんじゃないかなんて思って、昨日は興奮して眠れなかったから。


(……少し、横になるか)


もう時間は確認したくなかったので時計を見ずに椅子から立ち上がり、そのままベッドに潜り込む。


目を閉じると、先ほどの出来事が思い出された。


母親からの電話だった。


『超人』になるかどうか、ある意味では人間を卒業することになるわけで、母親的には心配だったのかもしれない。


俺が、電波はまだ来ていないと告げると、母はどこか安心したような声で、「残念だったね」なんて言った。

だから、俺は「まだ終わっていない!」と、そう言って電話を一方的に切ってしまったのだ。


「……まだ終わっていない……か」


自分の言った言葉を、もう一度ポツリとつぶやく。

我ながら諦めの悪いことだ、と思う。


自分でも分かってる。

この時間になっても来ないということは、つまりそういうことなのだろう。

でも、どうしても諦められなかった。


そんなことをうだうだと考えているうちに、意識が朦朧としてきた。

横になった途端に、睡魔が襲ってきたのだ。


このまま、眠ってしまおうか。


今日が終わらないうちに。

夢を見られるうちに、幸せな妄想ができるうちに……。


まだ可能性は残っているのだから……。

案外、朝起きたらヒーローになってました、なんてことがあるかもしれないし。


そんな都合のいいことを考えながら、俺は微睡みに身を任せた。



――――――――



どれぐらいそうしていただろう。

突然、俺の脳内にアナウンスが鳴り響いた。


『おめでとうございます! 安地英雄さん!』


(……? ……え?)


それは機械的な女性の声だった。

祝福の言葉とともに、俺の名前が呼ばれた。


「……! まさか!」


これが“電波”か!?

飛び起きて、机上のデジタル時計を見る。

そこには【23:59】と表示されていた。

なんてギリギリなんだ。


「夢じゃない……よな……?」


ベッドに潜り込んだせいで寝てしまって、夢を見ているのではないかと思い、頬をつねる。

痛い! これは現実だ!


「ははは、マジか……」


ざまあみろと、心の中でほくそ笑む。

俺は“特別”に選ばれた!

今すぐにでもみんなに自慢してまわりたい気分だった。


しかし、脳内アナウンスが次に言った言葉は、俺の願いとは真逆だった。


『あなたは、ヴィランに選ばれました! この世界を混沌の渦に陥れましょう!』


「……は?」

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