電撃強襲戦(上)
《海兵隊キャンプ内ブリーフィングルーム》
「全員集まったな。これから作戦のブリーフィングを開始する」
「うえ~ダリ~……」
「ったくお前は……」
「まず、作戦の概要を説明する」
「は~い」
「……敵の対戦車砲と榴弾砲は確認できる限り全て撃破、戦闘ヘリも同様だ」
岩本は若干間を置き、後畑を睨みましたが、残念ながら後畑には全く効果が無いようです
「しかし、輸送ヘリはまだ残っている。更に、今後は防衛体制の強化が予想される」
すると、彼の部下の一人が手を挙げました。
「どうした?」
「防衛体制の強化とは具体的にはどれくらいなんでしょうか?」
「ふむ……そうだな。まずは―――」
「まあ地雷の再配置やら本格的な防御壁の配置やら各種戦力の再配置やらと色々やってくるだろうな」
「特に、一つも破壊できていない迫撃砲は要注意かもね。壁の裏とかから砲弾の雨降らせられたら堪ったもんじゃない」
「それは大丈夫じゃね? こっちには『ウォールバスター』あるしな」
「そうかね?」
「あっ……そうだ岩本!」
岩本はすごく不満そうな顔をしつつ、答えました。
「なんだ?」
「狙撃砲、ない?」
「……無いな」
「マジか! じゃあ野砲は?」
「33式ならあるが」
「う~ん……軽カノン砲かぁ……どーしよ」
「何をしたいんだ?」
「っつーかガンシップとかそういうの無い?」
「無いな……何故そんな無茶振りをするんだ?」
「取り敢えず地雷原をなんか安めの砲弾で先に吹っ飛ばしときたいな~って思って」
「地雷原など無いと思うが……」
「バーカ。いきなりこの島占領するような野蛮人に条約なんて通用しねーよ!」
(人のこと言えねーだろお前は……)
まあ、当然草架とかはこうなります。
「何だい? 草架」
「なっ……何でもないよ」
「本当に?」
「これ以上無駄話をするな」
岩本がピシャリと言いました。
「近づいて銃撃すれば良いだろう。幸い、こちらにはガトリングガンもある」
「馬鹿じゃねぇの? それじゃああっという間に弾切れするし、射程が短いから相手の有効射程に入っちまう」
「だが一番有効だろう」
「わかってないな~」
後畑はやれやれといった表情で語り始めました。
「岩本。敵の輸送ヘリは残ってんだよな?」
「ああ」
「で、だ。大共連の輸送ヘリって基本的にどんなカーゴハッチだっけ?」
「横が上に開くタイプだろう」
「そうそう。まるでガルウィングみたいにね!」
「それがどうしたんだ?」
「え~? まだ分かんないの?」
「……早く言え」
「もうそろそろ焦らすの止めた方が良いと思うよ。岩本の眉間のシワが増えてる」
「はいはい。輸送ヘリの横側が開いてそっから無反動砲やら機関砲やらの砲身が覗いてる光景を想像してみ? ヤバイっしょ」
「むう……」
「となると砲撃かね?」
「だな……隠れさせてるアイツ等呼んでくるか」
後畑は無線機を取り出しました。
「こちらブリッツ、平野の鉄壁に集合しろ! 以上!」
そう言って後畑は無線を切りました。
ブリッツとは、英語で電撃という意味で奇襲、電撃戦を得意とする後畑の愛称です
「これで多分来るだろ」
「大丈夫か?」
「まあどーせ来るよ。気長に待とうぜ」
「そんなに一度に動いて見つからんのか?」
「俺の部下を舐めすぎだっての! そんなヘマする連中じゃねぇ」
「まあまあ。岩本、コイツの指揮についていける強者達だよ? もうちょっと信じてあげて下さい」
「……分かった。それはもう聞かん」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《二十三世紀新島沿岸》
「ふむ……なるほどな。分かった。だが、我々はここで待機するぞ?」
「ああ。それで結構だ」
大和のブリッジで二人の壮年の男性が会話していました。
片方は大和の艦長、もう一人は……
「砲弾の入れ替えさえすれば相手が軽巡、駆逐でも問題ないんだがな」
「只でさえ値が張る46㎝砲専用砲弾をわざわざそんな戦術的価値の低い連中に使わせたくないんだろうな」
「まったく……軽巡、駆逐でも侮るとひどい目に遭うぞ」
「フンッ……下らんな。相手を侮るくらいの自信ぐらい持っておけ」
そんなふざけているとしか思えない台詞に、艦長は思わず口角を上げてしまいました。
「お前は本当に変わらんな。柿崎?」
「お前の方が変わっとらんと思うがな。滝川」
第二艦隊の駆逐艦「雪風」の艦長である柿崎でした。
因みに、大和の艦長が滝川です。
「しかし、大丈夫なのか?」
「確かに巡視船とはいえ3隻だ。そう易々と沈めることはできんが……問題ない。俺を誰だと思っている」
「万年独身脳筋男」
「……滝川。人が殺意を抱く瞬間は知っているか?」
「今分かったよ」
二人は同い年なハズなのですが、見た目の印象は随分と違います。
滝川は俳優みたいな格好良いおじさんで、柿崎は武士みたいな、貫禄のある厳ついオヤジです。
「それで、話は終わりか?」
「ああ。取り敢えず目的は果たした。」
「そうか(やっと帰ってくれるのか……)」
「そんなに俺が嫌いか?」
柿崎が艦長を睨み付けました。
「お前いつの間に読心術を……?」
「そんなもん使っとらん」
「まあったくこれだから洒落が分からん男は……その調子じゃあ結婚は先になりそうだな」
「……」
柿崎は無言で席を立つと、そのまま艦橋から出ていきました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《雪風/艦橋》
「戻ったぞ」
「見れば分かります」
「あの面倒な滝川を相手にお喋りしてきた上官に、労いの一言もないのか?」
「そのお喋りが上の命令です。命令を全うするのが軍人の仕事です」
この失礼気味な人は、柿崎の副官の です。
見た目は冷たいキャリアウーマンって感じの軍人っぽくない人です。
まあ、柿崎が礼儀とかをほぼ気にしない人なので、大丈夫なようです。
そして、柿崎は艦長席に座るなり、ため息をつきました。
「俺達が何故こんな運び屋紛いの事をせねばならんのだ……?」
柿崎の不機嫌の理由は、雪風の横を並走する補給艦に積んである、コンテナのせいです。
その中には、奪還作戦用の特殊機材が入っているらしいのですが、柿崎達にはそれ以上情報は降りてきていません。
「このコンテナ……嫌な予感しかせんな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《海兵隊キャンプ》
「木田大尉以下砲兵隊、只今帰還いたしました!」
「ごくろーさん」
「お疲れ様……なんかゴメンね?」
「いえいえ。あの度しがたい性格の上司に鍛えられてますから、こんなこと慣れっこですよ」
「木田も大分逞しくなったもんだ~」
いつの間にか、外はかなり暗くなっています。
そして、木田達が帰ってきて、砲も揃いました。
「さてと。カノン砲を長射程タイプに改造すっか」
「改造?!」
「なーに驚いてんだよ違法改造ならずっとやってるだろ」
「やってるの9割以上隊長と局長ですよ!」
「局長って誰だ?」
この質問に草架が、ため息をつきながら答えました。
「結城の事だよ」
「アイツ局長だったの? ってかなんの局長?」
「舞鶴基地研究所局長に決まってんでしょうが」
「ガチで?」
「ガチで」
「アイツそんなに出世したんだ~」
ガチャガチャ! ガチャン!
後畑達がホウレンソウをサボるのの拠点にしている部屋に、最悪の敵が侵入してきました。
「ん?」
「うげぇ~」
「あっ……」
「こ~う~は~た~?」
「おう。どうしたオカマ」
「俺はオカマじゃな~い!」
「じゃあOKAMA?」
「英語風に言っても変わんないよ~!」
なんと、突然出てきたのは鷹田でした。
「何でドロップキックしたの?」
「うるさかった」
「あんなことする必要あった?」
「怪我人は寝てろ。迷惑」
「でも指揮ぐらいはできる……って言うかやりたかったんだけど」
「どうでも良い。取り敢えず寝ろ」
「……本気で言ってる?」
「俺は事実か冗談しか言わない」
「答えになってない」
「どうでも良い」
後畑のそんなテキトーとしか思えない返しに、なんか鷹田がキレました。
「いい加減にしろ!」
「何を?」
「お前が必要だと! 思ったら! 味方にも手をあげるとこ!」
「だって必要だし」
「でも! 殴らなくたって!」
「……」
「後畑は昔っからそう! 軽く部下を使い潰して! 世話が面倒だからって捕虜もいつの間にか処刑してる!」
「……」
いつの間にか論点がずれていますが、気にしてはいけません。
キレている時には、
「ちょっと邪魔だったら平気な顔して味方も撃つ!」
「黙れ」
突然、後畑の声が、ゾッとするほど冷たくなりました。
「お前は何が言いたいんだ?」
「いや……だから!」
「だからじゃわかんねーよ。何だ? お前は何がしたい?」
そう言って鷹田の顔を見上げる後畑の目は、虚ろでした。
感情もなく、論理もなく、ただただ相手を一方的に糾弾する、最悪なタイプの目でした。
「お前がどう思うかは関係ない。ただ、俺は俺のやりたいようにやる」
「そのせいで部下が死んだとしても?」
「ああ」
「後畑は人の命を何だと思ってんの!」
この叫びなのか疑問なのか分からない言葉に、後畑は少し間をおいてから答えました。
「別に、何とも。俺も含めて、鉛弾一発、その程度で死ぬ。価値的には5ドルあるかないか」
「……本気で言ってる?」
鷹田は絶句していました。
当たり前です。
こんな狂った意見を突然ぶつけられて、まともに思考が機能する方がおかしいのです。
「俺は本気だよ。みんな一緒。人が死んだところで、俺は何も感じない。だって、どうせいつか死ぬし」
そして、一拍おいてから、さらに続けました。
「別に大事じゃないって言ってる訳じゃあない。ただ、取り立てて守ろうっていうものじゃないってだけ」
この台詞に、その場にいた全員が絶句していました。
こんな頭おかしい意見を平気な顔してぶつけてくるのが後畑です。
ただ、後畑の本当に怖いところは、その定義の中に自分を含めて尚、それを提唱できる狂気なのでしょう。
「ふあぁ……なんか眠くなってきたし、寝るわ」
後畑はそう言って自分に割り当てられた部屋へと入って行きました。
「じゃ、俺達も寝ようか。明日の攻略戦に支障がでたら困るし」
草架がこう言ったのを皮切りに、その部屋に居た連中も、ノロノロと部屋へ帰っていきました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《翌日》
「おはようございます!」
「ん~……おはよう。木田。んで、何でそんなに張り切ってんの?」
「いえ……え~っと……」
「昨日の事吹っ切れて無いなら寝てて良いよ?」
「そういう事じゃなくてですね……ただ気合が入っているだけでして」
「ふ~ん」
そして、木田は周りを見回し、少々驚きました。
「隊長、もしかして徹夜しましたか?」
「ん~? 何で分かったの?」
「すっごいオイルの臭いと金属の臭いがします。隊長から」
「まじで!? ……分からん!」
「……まさかカノン砲全部改造したんですか?」
「うん」
「全部で20門以上あるのに!?」
「うん。それが?」
サラッとエグい仕事量をこなす上司に、木田は開いた口が塞がりませんでした。
「俺は作戦開始まで仮眠すっから不具合とか確認しといてー」
「はっ、はいっ!」
「ん。じゃ」
そう言ってフラつきながら部屋に戻る後畑を、木田はずっと見つめていました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
《作戦開始五分前》
「おはよ~……ムニャ」
「……ハァ。徹夜すっからそうなるんだよ」
「しょうがないだろ? あの状況で部下をこき使うのもアレだし……」
「お前って意外とそういうの気にすんだな」
「まあねー。だって『こんなヤツの言うことききたくねー』とか思われたら嫌じゃん」
そう言いつつ後畑は木田を探しています。
「どしたの?」
「んにゃ……徹夜でやったからミスあるかもしんねーし……確認させてたんだよ。その結果を聞きたい」
「隊長~!」
「あっ」
「そこにいたか」
「カノン砲確認終わりました! 全部大丈夫です!」
「うし。一丁やりますか!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「作戦開始だ! とっとと片付けるぞ!」
「「「「「「ウォオオオオオオオ!」」」」」」
岩本の号令で、部隊が一気に湧きました。
「っしゃ。地雷原はたぶんA―1からB―5までだ! ぶちかませ!」
「了解!」
ズドドドドドドドドォン!
カノン砲と榴弾砲が火を吹き、地雷原(と思われる場所)に大量の砲弾が降り注ぎました。
ドガドガドガバゴォン!
なんか言語化がかなり難しい炸裂音が響かせながら、砲弾が着弾しました。
明らかに砲弾ではない爆発も見られるので、多分あたりでしょう。
「やっちまえ!」
後畑が岩本に言いました。
まあ、そうなれば当然、
「突撃ィー!」
突撃の号令と共に、45式が全速力で飛び出し、それに隠れるようにしてジープが飛び出します。
「じゃ、俺らも」
「ハァ」
「いっけー!」
後畑達の22式―――ルーフ有りのジープが少し遅れて飛び出しました。
「木田以下モブ共! トラックで牽くなりして少しずつ近づきながら撃て! OK?」
「了解!」
後畑はルーフの上に、壊れたストレリチアから外した、無反動砲を置きました。
他にも、97式自動砲やら擲弾筒やらを置いています。
「さーてと。何が来るかなー!」
バダバダバダバダバダバダバダバダ!
大型の、ローターが二個ある輸送ヘリが登場しました。
案の定、開けっ放しのカーゴハッチから、砲口や銃口が覗いています。
「ありゃあ多分重機と榴弾砲だな。細長いのは無反動砲か?」
「そんな事よりアレどうすんの?」
「決まってんだろ」
後畑はニヤっと笑ってから、言いました。
「撃ち墜とす」
「だと思った」
ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!
数発のロケット弾が上空に向かって発射されました。
鷹田は怪我人だからと、強引にキャンプに閉じ込めているので、多分88式の対空ロケット弾でしょう。
「俺もやるかぁ」
後畑は97式を40°くらいにしてぶっぱなしました。
ズッダァアン!
個人携行火器としては異常な発射音と共に、強化タングステン弾が飛びました。
強化タングステン弾は正確にヘリのローターの一つを貫きました。
ローターを一個失ったヘリは、何とか体勢を整えつつ不時着しました。
可哀想な事に、地雷原に。
ズッドォォオオオオオン!
砲撃で撃ち漏らしていた対戦車地雷が一気に火を吹き、ヘリを原型が分からなくなるぐらいグチャグチャにして、吹っ飛ばしました。
「……まだ地雷あったの!?」
「岩本達危なくない?」
「大丈夫だ! アイツらがそんな簡単に……いや、あるな!」
彼らはそう言っていますが、地雷があるかもしれないと分かっていて突っ込むほど、岩本達もバカではありません。
ドガガガガガガガガガガガガガガ!
戦車が重機関銃を斉射し、残った地雷も吹っ飛ばしました。
「やるなー」
「ま、岩本もそこまでバカじゃ無いか」
そして、地雷原を抜けると、急造品感満載の壁が彼等の前に立ち塞がりました。
しかし……
ドゴォン!
かなり大きな爆発音と共に、壁がバラバラになりました。
これは恐らく―――
「ウォールバスターだろうなアレ」
「破城鎚ね。アレあそこまで火力あったっけ?」
破城鎚と言っても、半裸マッチョが木の棒抱えて突っ込んだり、屋根と台車付きの棒で城門を叩き壊したりするヤツではありません。
彼等が言う破城鎚は、火薬の力で金属製の杭を打ち込み、その杭を炸裂させて壁を強引に爆破するヤツです。
「ヒュ~派手にやったな!」
「こりゃ敵も慌てるだろうな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『おい! 壁を木っ端微塵にしてやったぞ!』
『こちら第二機甲突撃隊! 敵の車輌群と会敵! 損害大! 待避します!』
『第一、第三機甲突撃隊は損害軽微! このまま戦闘を続行します!』
『こちら―――』
ギャーザザッワーギャーワーワー……
「むう」
岩本は、余りの報告の多さに、若干混乱してしまいました。
現場も混乱しているのか、日本語になっていないものや、通信をオフにし忘れてずっと戦闘音を響かせているものも有り、目茶苦茶です。
「もう無理!」
林が仕事を投げ出し、軽機関銃を撃ち始めました。
ダダダダダダダダダダダダダダン!
何故か三台出てきた敵の二人乗りバイクを、7.62㎜の弾丸が襲いました。
バイクはなかなか頑丈で、けっこう耐えましたが……乗ってる人間が蜂の巣になっているので、余り意味はありませんでした。
「アイツらロケラン持ちか」
バゴォン!
「ん?!」
「どうした!?」
『マズイ……13式機甲兵です!』
「なっ」
「本当にマズイな……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「何だってぇ!?」
「どうしたの?」
「アイツ等13式まだ持ってやがった!」
「嘘だろ?!」
「アレは大共連の本土防衛用だったハズだ」
「少数を偵察やら哨戒やらに持っていく事はあるらしいけど……そんなに大量に持ってくるって事は……」
「連中はここも本土だと言いたがってるわけだ」
後畑も、草架もイライラし始めました。
「よし」
「どうする? 腹の虫が騒ぎだしちゃいそうだけど」
「もちろんソッコーで虐殺だな!」
「……」
草架は無言でジープのギアを上げ、後畑は白兵戦の準備を始めました。




