第2話 冷笑の末路
そして、僕達は王宮に着いた。王宮は白塗りのレンガでできていて、とても巨大だ。中央には大きな居館があり、鋸型の凹凸が城壁にある。左右には太い城壁塔・門塔が均等に設置されている。上にはもうひとつ塔があった。
すると、ガルシアと同じような身なりの女性がやってきた。この方も魔術師だろうか。
「こんにちは。本日はお越しいただきありがとうございます」
「ふっふっふ……して、おいしいものはどこにあるのかね?」
「ちょっと涼、その冗談はきついかも……」
「じゃあ、ここからは私が案内するわ!ありがとう、もう下がっていいわよ」
「はい、ガルシア様。では皆様、ごゆっくり……」
僕達はガルシアに連れられ、まずは礼拝堂へ向かった。
「ここは、私達魔術師、そして国民皆が利用することの出来る礼拝堂よ」
礼拝堂も巨大だ。国民皆が利用するのだから、当然だろう。白塗りの壁に、床は木製の綺麗なフローリング。そこには無数の木製のベンチが設置されている。
壁のステンドグラスからは、オレンジの眩しい光が差し込み、壁がカラフルに染まる。
「うわ、チョーデカい!しかも綺麗」
「キリスト教の礼拝堂のような印象ね」
「……ん?ここは王宮内なのに、国民が入れるのか?」
「ええ!王宮は、一階部分は誰でも使用を許可しているの。入口で許可証を見せる形になっているわ」
僕の問いにガルシアが答える。成程、セキュリティが厳しいという訳でもないんだな。これは、何かの問題が起きたとしても大丈夫だという自信の表れだろうか。
「さぁ、次は応接間に行きましょう!」
今度は応接間にやってきた。こちらは壁が金に染まっていて、大きなガラスが取り付けられている。ここは落ち着いた広さだ。黒塗りのテーブル、椅子が数個設置されている。天井にはシャンデリアがあった。
「ここも綺麗!……ねぇガルシア、歓迎会ってまだなのかな?!」
「涼そればっかり……少し待ちなよ」
「えぇ、ここで暫く待っていれば、誰か知らせに来てくれる筈だわ」
「そうだな、少し待つか」
傍にあったベンチに腰掛け、暫く待つ。……すると、一人の女性がやってきた。ガルシアのような服装をしているので、魔術師だろう。
「お待たせ致しました、皆様。只今、王の代理であるアイラ様にお会い頂きます」
「え、代理なのか?」
「えぇ、今王は巡幸中なの。だから代理がいるとは聞いていたけど……アイラだったのね」
「知ってるの?」
「えぇ、前にアイラが派遣されてきた時に知り合ったの。中々面白い子だったわ」
「へぇー。ねぇ、どう?可愛いのその子?」
「えぇ!とっても可愛いわ」
雑談しながら向かう。着いたのは玉座だった。
「やっほー。君たちよく来たねー。私はアイラだよ、よろしくー。」この人がアイラか……ガルシアとは違い、僕と同じような年齢の女の子だ。肩まである銀髪に、トパーズのような金色の目をしている。身なりはパーカーだろうか?その下にはブレザーの様なものを着ているということが、服の下からはみ出ている部分から見て取れた。下はスカートを着用しているようだ。
「まぁ!本当にアイラじゃない!どうして代理になったのよ?貴女、こういうの面倒臭いって言って、いつもやらなかったじゃない」
「あっ、ガルシアー。だって、国王が『今任せられる魔術師はお前しか居ない』って言うんだもん」
「あら、フラムやメルヴィはどうしたの?」
「その2人も巡幸に着いて行ったよー」
「あら、そうだったの。……ねぇアイラ、王ってどう?楽しい?」
「楽しくないよー。そもそも、留守を任されただけだし、全然なんもできないよ」
「そうなの……あっそうだ、紹介するわね!こっちが慎滋で、涼に、優杞よ!」
「はいよー、よろしくー」
……2人だけで会話が進んでしまっている。それにしても、ガルシアがあれだけ楽しそうにしゃべっているのは初めて見た。相当仲がいいんだろう。
「あのー、そろそろご要件の方を……」
「あっ、そうだったわ!じゃあアイラ、お願いね!」
「はーい。じゃあ王からの手紙を読むよー。」
――まずはこの国の王として感謝を述べておく。もうこの世界には慣れたか?我が国が転移者を迎えるのはこれが初めてなので、今君たちが会っているであろうアイラをつけさせることにする。
彼女は北方から派遣された魔術師で、世界の中でもトップクラスの実力を持っているので、心配はないだろう。
「――だってさ。手紙にもあった通り、トップクラスの魔術師でーす。あーでも、あたしがキミたちと一緒に行動するのはこの国の中だけだからねー。ちょっと用事があるんだよねー。」
「この国の中でだけとはいえ、強力な戦力だ。ありがとう」
「いーってことよー。」
「改めてよろしく頼むわ、アイラ!あなたがいると心強いわね!」
ガルシアが嬉しそうにアイラに抱きつく。
「はいはーいよしよし。でもガルシアも強いじゃーん?」
「ええ、そうね!」
「いや、認めるんかい!」
久山の渾身のツッコミが炸裂する。彼女のツッコミは普段の彼女とは全く違う印象を受ける。
「優紀、あなたそんな口調も出来たのね!」
「いや、ちょっと熱がこもっちゃって……」
「いわゆる、『ギャップ萌え』ってやつー?……ん、誰か来てるみたいだねー。」
僕達がわいわいやっている所、一人の魔術師がやってきた。
「――盗賊です!街に、強力な盗賊が現れました!」
「お、仕事だねー。いっちょやっちゃいますかー。」
「盗賊?……もしかしたら、独立軍と関係があるかもしれないわ!早速向かいましょう!」
「おー!僕の能力、早く知りたいしねー!」
「……うーん、盗賊と独立軍って関係ないと思うんだけど……めんどくさそうだし」
元気な三人と対照的に、久山は少し気が向かないようだ。……まぁ、どの道街の住民が困っているというなら助けた方がいいのは確かだ。それに、この「能力」も試してみたい。
「……えぇ、向かいましょう。場所はどこかしら?」
「バレンシャスでございます!」
「分かったわ。じゃあ皆、行きましょう!」
僕達はガルシアとアイラに連れられ、「バレンシャス」という街に向かった。
「……ふぅ、着いたわね。」
ここがバレンシャス。ここもやはり、白を基調とした建物がズラっと並んでいる。先程の街と違う事と言えば、柑橘系の匂いが広がっているということか。建物だけでなく、畑のようなものも多くある。早速、僕達はその盗賊を探した。街が被害を受けていないということは、今は離れにいるのだろう。
「で、その盗賊っていうのはどこにいるのかしら」
「うーん、どこだろ……」
「……ん?今のは何?」
久山が何かに気づいたようだ。しかし、僕達は特に何も感じないが……あ。
「……風?」
「んー。不思議な風だねー?」
そうだ、心なしか風が先程より強く吹いているのだ。その風は段々と強くなっていき、終いには小さな台風のようになった。荒れ狂う風が畑の葉を吹き飛ばし、巻き込んでいる。
その小さな竜巻は、段々段々と小さくなっていく。……すると、何やら5人の人影が見えた。
「やあガルシア、私が落ちぶれたのとは裏腹に、随分偉くなったじゃないか」
「その声は…レイシスかしら」
「あー、レイシス……そんなやついたっけー?」
……中の5人の人影と、後ろに控える20人ほどの姿がくっきりと見えた。その内の一人は、ガルシアと同じようなローブを着ている。この二人は面識があるようだ。アイラはあまり面識がないらしい。
「あなた…ついに盗賊にまで成り下がったようね」
「盗賊もいいものだぞ?よければ君も一緒にどうだ?」
「お断りよ。敵対するつもりなら、私はあなたを倒さねばならない」
「ガルシア、あの人知り合いなの?」
「ええ、ちょっとね。前にこの王国で一緒に魔術師をしていたの」
「あたしは彼、知らないなー。」
涼の問いにガルシアが答える。彼はガルシアと同じ魔法を使える存在であり、恐らく風を操るのだろう。そしてやはり、アイラは彼とは面識がなかったようだ。
「先手必勝よ!私の実力、見せてあげるわ!
――『紅き雷光』!!」
ガルシアは雷を召喚したようで、雲ひとつない快晴であるにもかかわらず、一条の赤い雷が真っ直ぐに、そして、無慈悲に落ちた。
「うがぁああ!」
雷を受けた盗賊は、後ろ向きにドサッと音を立てて倒れた。
「ええっ!?そんな、殺しちゃうの!?」
涼の驚きを隠せない声が聞こえる。僕も同様だ。確かに紛争を止めるというのはこういう事だが、やはり間近で見ると惨いものだ。
「いえ、峰打ち程度よ。王国の魔術師は、人を殺すことは禁じられているの」
ガルシアが答える。王国の魔術師は、人を殺してはならない……その束縛の中で魔法を使えるとは、相当の実力なのだろう。
「魔術師も結構大変なのね……」
久山が言い終わった瞬間、前方遠距離より撃たれた無数の矢が久山目掛けて飛来していた。
「優紀、危ない!」
ガルシアは瞬時に宝石のような形の氷を作り出し、全ての矢を受け切った。直後、その氷塊は無数に割れ、大きな氷柱のような姿になった。
「喰らいなさい!」
しかしその氷柱たちは、レイシスへ接近するといきなり角度を変え、垂直に地面に刺さってしまう。
「……ほう、やはりやるな。流石、ヴィクトール家の私を蹴落として四天王の座に着くだけある」
「……本当、貴方は家柄でのみ人を見る男だものね。それが盗賊に成り下がるなんて、滑稽な話ね」
レイシスの皮肉めいた口調に、ガルシアも馬鹿にした口調で返す。レイシスという男はどうやら名門の魔術師を多く輩出している家柄のようだ。反面、ガルシアはぽっと出という事なのだろうか。
「貴方達は下がっていて。レイシスはもう王国の魔術師ではない。人を殺すのに躊躇なんて無いわ」
レイシスに気を取られている間に盗賊の一人が僕の背後に回り込んでいた。
「喰らえ!!」
驚く間もなく、僕は咄嗟に剣の身で攻撃を防ぐ。しかし、あまりの衝撃に耐えられず、剣を落としてしまった。このままでは……
「詰めが甘かったな!」
もう一撃来る。何とか解決策を考えた。
まずい。
どうする。
死にたくない。
――――この身を、「守りたい」。
そう強く思った瞬間、僕の頭で「硬」という漢字が弾けた気がした。
――――その瞬間、僕は理解した。自分の「能力」を。
咄嗟に僕の身を硬化させ、剣の攻撃を防ぐ。
「……『物体の硬度や強度を変えられる能力』……これが、僕の能力……!」
「何?生身で剣を受けるなど、どうなっているんだ!」
「……よし。そこの盗賊、死なないように気をつけろよ!」
僕は硬化した自分の拳を、盗賊の顔面目掛けて思い切り突き出した。
「んぶぅっ!」
すると盗賊は間抜けな声を出し、2、3mほど吹き飛んで行く。
「わー、慎滋すごい!……僕達、なんか出来ないの!?」
涼が焦っている所に、先程とは違う盗賊の1人が涼目掛けて鉈で切りかかろうとしている。
「涼、危ない!」
――咄嗟に体を硬化させ、涼を庇う。
「慎滋、大丈夫!?」
盗賊の鉈を背中で受けつつ、涼に心配される。
「僕は……僕は……あっ!」
何か閃いた様子を見せると、僕に鉈を喰らわせていた盗賊は空高く吹っ飛んでいった。
「僕のはー……なんだろ?」
暫くすると、盗賊は遥か彼方の枯れ草の積もった平原に落ちて行った。
「嬢ちゃん、あんたの相手は俺だ!」
久山に殴りかかる一人の盗賊。
頭に思い浮かぶ「身」の文字。体が軽くなる。
「はっ!」
力強く息を吐き、手を地につき逆立ちのような格好になりつつ脚を開いて蹴る。
「ぐっ…」
「なるほど…私は『身体を強化する能力』ね」
「そんな余裕でいられるかな?」
……と、いつの間にかガルシアの目前にレイシスが姿を現した。
疾風の如き速さで接近してきたのだ。
「お返しだ。喰らえ!」
「……あぐっ!」
レイシスが手に力を込めたかと思うと、今にも吹き飛ばされるかというような風を拳に纏わせ、ガルシアを殴り飛ばした。
「うっわー、ロリっ娘殴るとか、ちょっと引いたわー。」
アイラの腕に力が入るのを感じる。
「これは許せないかもー。」
「……水の魔女アイラの、ちょっといいとこみせたげる」
いつのまにかアイラの手に握られていた氷の剣が思いっきり地面に突き刺さる。
すると、少なくとも僕の見える範囲全域の地面が凍りつく。
「『氷晶の結界』。この技使うの久しぶりかもー。」
「何ッ!?貴様、どこの魔術師だ!?まさか……」
「うるさいなー。黙らせたくなっちゃうでしょー?」
アイラは地面に刺さった氷の剣を抜く。
「じゃ、いくよー……それっ!」
アイラは声を出しつつ、回転斬りを行う。すると、盗賊達の足下から鋭利な氷柱が勢いよく飛び出す。
あちこちから阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる。それと同時に、アイラの持っている剣と地面が溶けていく。10秒も経たずに元へ戻ってしまった。
「……だが、まだやれるぞ!」
「レイシス、あなた、やってくれたわね……!!」
復帰したガルシアが鬼の形相でレイシスをにらみつけていた。
「おー、激おこだねー。これは一騎討ちっぽい流れだねー。じゃああたしは残りをやっておくかー……それっ」
アイラが指を鳴らすと、ある一点に向かって風が吹き始める。
「なんだこれ!?引き寄せられるぞ!」
「今からキミたちは、すごーい体験をしまーす。楽しみだねー?」
アイラの手が高く掲げられると、盗賊がいる辺り一面に上向きの突風が吹く。
何やら助けを呼ぶ声のようなものが聞こえた気がしたが、その声は突風でかき消され、真実はわからなかった。
「じゃー、そろそろ終わりにしますかー。」
たちまち風にあおられ吹き飛ばされてしまう盗賊たちを見つつ、アイラは上に掲げていた手を思い切り前へ突き出す。
上向きの突風はアイラを中心として波紋が広がるような向きになり、たちまち盗賊は地面に打ち付けられた。
「風の魔術師達相手なんだから、やっぱここは風で真っ向勝負でしょー。じゃー慎滋くん、こいつやっちゃってー。」
「なぜ僕がやるんだ?」
「それは勿論魔術師に相性がいい、転移者だからよ!」
「……何?こいつら転移者か!!」
レイシスはガルシアの言葉を聞き、突然の事に頭が回らなつつも、咄嗟に身構えた。
「畜生、これを喰らえ!」
手にしていた杖から強力な突風を繰り出した……が、僕には大して効かない。効くはずもない。……そう、転移者には全員「魔法耐性」があるからだ。
「転移者の魔法耐性が想像を絶する事はお前も知っているだろ?最後の最後に……バカをしたな!!」
僕は言い終わると同時に、渾身の一撃をレイシスの腹に叩き込む。
「ぅごふっ!……クソっ、クソッ!賤民の出がァ!この……っ、この、ヴィクトール家の俺が……っ、何故……こんな目に……ぃッ」
「ゴチャゴチャと……うるせぇッ!」
喚ける体力の残っていた哀れな男の顔面に、もう一度拳を叩き込む。
よろけていた体はそのまま吹き飛び、倒れた。
「……やったようね。こいつらは取り敢えず、他の魔術師達に処理させておくわ」
「なぁガルシア、あのレイシスとかいう男とはどういう関係だったんだ?」
「……前、と言っても2、3年前。まだ彼がいた頃、彼はとても優秀な魔術師だったわ。近い内、『彼はきっと四天王になれる』と言われていたの。
……ただ、その座は私が奪ってしまったわ。名門出身の彼が頑張った十数年を、ぽっと出の私が数年でね。彼は掌を返す様に散々な批判を受けたわ。『ヴィクトール家の面汚し』とね。
やはり、彼にも背負うものがあったのね」
成程。彼にも背負う物があり、そして道を踏み外してしまった……か。
残念な話だが、盗賊になっていい話にはならない。彼らを連れていったのを見届けた後、僕達はバレンシャスに戻った。
「ご協力、誠に感謝します。ガルシア様、アイラ様、そして転移者の皆様」
「いえいえ、大したことないわ!」
そう言って礼金を嬉しそうに受け取るガルシア。
「ちょっと待ってくれ。鉄の剣のことと言い、これ以上ガルシアの迷惑はかけたくない。」
そう、僕はあの時、ガルシアがいたからこそ、武器を買えた。この世界のお金など持っているはずがなかった。
「だから……」
「わかってるわよ、はい!礼金少し分けてあげる!」
しかし、これではガルシアに借りっぱなしになってしまう。言おうか言うまいか考えていた矢先、ガルシアは答えてくれた。
「大丈夫よ。こないだの剣の代金はちゃんと引いてあるから」
なんだか心を見透かされた気分だが、これで迷惑をかけなくて済むと思うと気が楽になった。
「あたしの分もあげよっかー?でもその代わり、ちょっと言うこと聞いてもらうけど……ふふふ」
「いや……勘弁しておく。というか勘弁してください……」
なにやら強烈に嫌な予感がしたので断っておいた。
「なーんだ……行きたかったんだけどなー、デート。」
嫌な予感は的中した……のか?むしろこれは行くべきでは……?でも一緒に転移されてきた二人にからかわれるだろうし……などなどいろいろ考えていたら、どうやら僕は赤面してしまったらしい。
「ふふ、何顔赤くしてんの、冗談だよー?」
「慎滋、アイラはここへ来てすぐの時からこうだったから、気を悪くしないであげて?アイラはね、人が普段しない行動を見るのが好きなの」
ガルシアが肩をさすりながら慰めてくれた。恥ずかしすぎて10分ほどアイラの顔を直視できなかった。
「でも僕が慎滋だったら、迷わず『はい』って言ってるなー」
「同感。私もそう言ってると思う」
「ほら、この雪のように綺麗な髪!クールな顔立ち!」
「佇まいはクールだけど、言動がゆるいところとかがいい」
「あ、ありがとー……うれしいよ……」
「あら、アイラも照れてるじゃない!」
「はい、倍返し成功!これでお互い様だね!」
「涼とこんなことしたの、久しぶりかも」
「二人とも、本当に仲がいいのね!」
といった感じで、僕とアイラはからかわれながら、あとの三人はからかいながら、どこか宿泊するところを探しつつ街の中を探索した。
「あー、そういえば」
「どうしたのかしら、アイラ?」
「あたしが泊まってる宿屋で泊まろうよー。いい所だよー?」
「お!アイラ、いいアイデアだね!」
「うん、そうしよう。さすがアイラ」
いつのまにか打ち解けている。やっぱり、この二人の気さくさは驚くに足りる程だ。
「そういえば、アイラが敵を倒す時『水の魔女』って名乗ってたけど、あれは何なんだ?」
「それはねー、称号なんだよー。普通、魔法を使って攻撃できる人達は『魔術師』って言うでしょー?」
「そうね、じゃあその中でも一級の実力がある魔術師には称号がつくわけね」
「優紀、正解ー。『魔女』として認められるには、実力がないとだめなんだよー。ちなみにー、男の人は『魔導師』になるねー。」
「具体的にどれくらいの実力がいるの?僕、気になる!」
「それは『雷の魔女』に聞いた方が早いよー。ね、ガルシア」
「ガルシアも魔女だったのか。結構凄いんだな、ガルシアって」
そう言いながら僕はガルシアの頭を撫でてみた。
「その呼び方、ちょっと恥ずかしいのだけれど……あと、なでなでをやめてちょうだい!まあいいわ、私が教えてあげる!」
「転移者と同じくらいの芸当ができる、と判断されれば、『魔女』と認定されるわ!」
「へー、じゃあ僕達は、最初から魔女みたいなものなんだね!」
「まー、端的に言えばそーゆーこと。そして、称号を持っている人の得意な技にはねー。名前がつけられるってわけ。例えば、あたしの“氷晶の結界”とかねー。ほら、宿屋についたよー」
石造りで出来た普通の民家と比べると少し大きい宿屋。「中世ヨーロッパの建物」と聞けば一瞬で思い浮かぶ、そんな外観の建物だった。
チェックインも済んだし、まず夕食を食べようと思ったが、久山がぽつりと一言。
「私は、先にお風呂に入りたいな……」
「さんせー!私もすごい汗かいちゃった!」
赤羽根を見てみると、額から汗が滴っていた。
「私も入りたいわ!」
「うんうん、あたしももう疲れを洗い流したい感じー。」
魔術師組もついに賛成しだした。こうなればもう止まらない。
女子達は先に風呂に入ってもらい、僕は自室で待つことにした。
「うわぁ、やっぱ優杞おっきいねー!」
「ちょっ……声大きいよ……!」
騒いでいる。自室まで聞こえてくる。
そう、実はここ、この僕の借りた部屋は、偶然にも風呂の隣だったのである。
「ねえ、2人とも!私の前でそういう話しない!」
お、ガルシアの声だ。
「大丈夫だよ!ガルシアも大きくなるって!それにしても、優杞はいい体してるよねぇ…あの服じゃわかりにくいもんね」
「それなら、旅へ出発したら服を買うといいよー。この北の国には、いい服がたっくさんあって、あたしの服もそこで買ったんだー。」
「へー、この世界にもちゃんとああいう服があるんだ!僕も着てみたいかも!……それにしても、綺麗なモノ持ってますねぇ、アイラさーん?」
「ちょ、ちょっと、触らないでー!」
「ふっふっふー、よいではないかよいではないかー!」
正直、僕は壁に耳をつけ、話を聞くのに夢中だった。
「ほら、そういうことしてると、慎磁が盗み聞きしてたりしてるかも」
「流石にそれはないわよ!」
ガルシアさん、本当にすみません。実は……聞いてました。
それからは、僕も風呂に入った。なんだかいい匂いがした。
風呂から出たら、みんな疲れてぐっすり寝てしまっていた。広間で寝ていた彼女達一人一人に布団をかけてあげたあと、僕も自室へ戻ってゆっくりと、眠りの中へ落ちていった。
――――明日、大紛争が起きるとも知らずに。
どうも、吉凶 巧です。第2話投稿させて頂きました!
今回もかなり増量です。レイシスとか。
では、また3話でお会いしましょう。