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青いベンチ

作者: 桜本 結芽

【次は牧野〜、牧野駅です、車内のお忘れ物にご注意ください】


電車の中にアナウンスが響くと、


(次だ、降りないと……)


そう思いドアの前で開くのを待ち、ホームの前で電車が止まりドアが開くと、僕は少し混み合う駅のホームへと降りた。


僕がこの街に来たのは久しぶりで、今日は一年ぶりで2回目のクラス会に出るため電車を乗り継いできて、街の空気を吸うとふと昔に付き合っていた彼女の事を思い出し、手に持った案内を見た。


(来ないかなぁ?)


と思ったものの来て欲しい、と思ってしまい顔を赤らめながら案内に載っている地図を見ながら歩いていく。


何気なく周りを見てみると、僕達が付き合っていた頃と変わらない景色で、今でも沢山の人が歩いていて目に止まったのは駅前広場だった。


(行くか……)


僕は広場から目を逸らし気を引き締め、また歩き出ししばらく歩いて行くと、地図にあるおしゃれな居酒屋にたどり着きホッと息をついた。


(今年はこの店でするんだ……)


僕は今年の幹事を務めた潤に感心しながら中へ入り、店の店員に宴会場へ案内を受けて中へ入ると、


「おっ! 澤井だ、よく来た! 去年ぶりだなぁ」


と潤が僕を見つけて話しかけてきたので、


「久しぶり、元気だっか? 最近全然連絡無かったけど?」


そう言って潤の肩に腕を回すと、


「俺も色々あったんだよ! そう言う裕二はどうしてるんだ? 大学、ちゃんと行ってんのか?」


と返され僕はすかさず、


「行ってるよ、潤と一緒にするなって!」


その何気ない話をしている内に、僕は懐かしさに胸が熱くなり目に少し涙を浮かべると、


「なにもう泣いてんだよ! 早すぎだろ!」


とすかさず突っ込まれ、


「う、うるせーな!」


そう言って咄嗟に顔を隠しながら“彼女”の事を探していると、


「兼松さんはまだ来てないよ」


と近くで見ていた元クラスメイトの佐合さんが教えてくれたので、目をドアへと移らせるとまだ来る気配はないと思い、僕はガックリと肩を落として、


(もう会えないのかな?)


そう考え込んでいると、


「なぁ裕二、お前大学で法学部にしたんだって?」


と横で弘田が話しかけてきたので、


「うん、昔から弁護士になるのが夢だったから」


そう言うと弘田は感心したように、


「ホントすごいよな、でも澤井は昔っから頭良かったもんなぁ」


と言いながら僕の頭を激しく撫で回し、


「ちょっ、マジでやめろって!」


そう言いながら僕は昔に戻った気分でじゃれあっていると、


「おっ! 兼松さん! オレオレ、俺の事覚えてる?」


と潤が裕美に話しかけている所を見つけ近付くと彼女は、


「私、オレオレ詐欺の人に知り合いなんていないけど?」


そう言うと宴会場が笑いに包まれ、僕は和みながら、


(全然変わってないなぁ、裕美は……)


と考えていると裕美が僕に気付き近づいて来て、


「久しぶり、元気だったの?」


そう言われたので僕は笑顔を見せて、


「うん、裕美は?」


と訪ね返すと、


「私も元気だったよ」


その後話をしていくと、裕美は有名大学の医学部にいる事が分かり、僕達はその後も話を交わした。




クラス会はとても楽しく、あっという間に終わってしまい、友人達や元クラスメイトは、酔ってフラフラのためタクシーや家族の迎えで帰宅し、僕もタクシーで帰ろうとした時、


「ねぇ裕二、久しぶりに会ったんだし、メルアド交換しない?」


突然言われたので僕は慌てて、


「い、良いよ!」


そう言うと僕は裕美とメルアドを交換した後帰宅した。




クラス会から2週間が経ち、僕と裕美は時折メールのやり取りをしていて、ある休日の昼に突然裕美からのメールで、


『私、鹿児島に行くから』


と短い文書それだけが僕の携帯の画面に映っていて、驚いた僕はすぐさま裕美に電話をかけ数コールの後、


《もしもし》


電話に出た裕美は冷静な口調だったが僕は慌てて、


「さっきのメールって、どういう事?」


と問い詰めるように尋ねると裕美は少し間を置き、


《そのままの意味だけど》


そう言って黙り込む僕に裕美が、


《私、忙しいからもう切るね》


と何も言えず電話を切られ僕は、


(嘘だろ?)


呆然として部屋の中で立ち尽くし、僕はまだ裕美の事が好きなんだと思い知った。


「そんな……」


なんで僕はもっと裕美に好きだと言わなかったんだ? もっと、もっと、僕の声が枯れるまで言えば良かったんだと、今頃悔やむがあの頃は恥ずかしくて言えなかった。


その時、壁に飾ってある昔撮った写真が僕の目に止まり、僕は意を決して家を出て行き、裕美の家へと向かった。



やっと彼女の家に着くと僕は大声で、


「裕美!!」


そう叫ぶと、驚いた裕美が2階の窓から顔を出したので、


「好きだ! 僕は裕美の事が好きなんだ!! この気持ちはずっと変わらない!!」


大声でずっと告白をしていると、裕美が急いで玄関から出て来て、その顔は涙で濡れていた。


「私、その言葉をずっと聞きたかった! ずっと待ってたんだよ?」


と声を震わせながら言うと、


「うん、ごめん……」


そう言って裕美を抱きしめると、裕美は僕の肩に顔を埋めてきたので僕は、


「たまには帰って来こよ、ずっと待ってるから……」


と優しく言うと裕美は顔を埋めながら、


「うん」


そう頷いた。





それから9年が経ち、僕は弁護士になった。


部屋には裕美と僕とを繋げてくれた、高校の修学旅行先で2人が仲良く青いベンチに腰掛けブイサインをしている写真を飾っている、大事な、大事な写真を……

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