表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
胸キュンゲッター  作者: まりばな
〜1章目〜
1/5

1話 物語の始まり

少し楽しい話を書きたい。そうふと思った私はこんなテーマを思いついた。


世の中の恋人たちが感じる“胸キュンポイント”を探す、ドタバタ胸キュンラブコメディーなんて面白いのでは!?…と。


「…それで、僕をここへ呼んだってわけ?」

@:そうだよー。

「ふーん…ちょっと そこで腕広げて立って」

@:はい、…っと。

「そいや(くすぐり)」

@:ひぃやぁぁぁ!


私は50の精神的ダメージを受け…って違う そうじゃない。私はこの作品の筆者、author(オーサー)だ。(あ、ちなみにauthorの「a」は@だ。)そんなことより早くこの生意気な主人公に名前をつけないと。


「僕は徠。ライでいいよ」

@:ちょ、なんで勝手に決めるの!?

「僕、元からこの名前なんだよね?」

@:ぐ、ぐぬぬ…


そう、私が書こうと思った時に思いついた名前を彼はなぜか知っていた。手間が省けるのでそんなに気にしては いないが、優秀すぎて逆に困るくらいだ。


…まぁ、所詮私の想像なしでは動くことができない彼は やはり、私の作品の登場人物でしかない。せめて彼に強すぎる個性を与え、沢山の人にも愛されてほしいと思った。


「ねぇ、そろそろ本気で怒っていい?僕、動けるんだけど。自分の意思で。」

@:ほんと?なら動いてみてよ。

「んじゃ、     」


ピタリと彼の言葉が止まった。…いや、正確には彼の言葉が途中で“途切れた”。見てわかるように、無駄なスペースを残したまま そのカッコは閉じられている。


私は今 タブレットを操作し、この小説を書いていて、彼が話す場面では「」のみを与えていた。ここで 補足しておくが、このタブレットは特別なもので、これによって書かれた物語は 筆者の思い通りに出来上がっていく。登場人物は「」を与えるだけで会話をするのも もちろんのこと。


だから、その登場人物が「黙る」なんてことは想定外だった。


@:徠…どこ行ったの?


不安な気持ちでそう一行加えると、突然肩を軽く叩かれた。私以外にこの部屋には誰もいない。…とすると、…お化け?


「は…、は…っ」


現実の私は息苦しくなって 呼吸が不安定になりながらも、勇気を振り絞って ゆっくり振り返った。


すると、そこには人影…が。


「へ……、え!?」


目の前にいる人影の正体は、私が書いていたこの物語の主人公、徠だった。


…だがおかしなことに、目の前の徠は口をパクパクさせているだけで 声が聞こえない。何かを必死に伝えようとしているのは 伝わってくるのだが、何を言っているのか 全く聞こえないのだ。


すると、私の疑問に勘付いたのか、徠は私の持っているタブレットを指差した。もしかして、と思った私は「」(カッコ)を文章に付け加えた。「」内に一文字ずつ彼の言葉が紡がれていく。


「声が無いことを忘れていたよ。…物語の中で活動するには差し支えないけれど、君と話すには少し手間がかかるな。」


打ち間違いではない。彼の言葉は私が打つことはないから、彼は真剣に言っているのだ。私が想像することが全て 反映されるわけではないことも、思い描いていた物語の内容とは 明らかに違うことも、彼の一言を読み返すたびに その違和感は確信に近づく。


…ねぇ、徠。声が“無い”って、どういうこと…?


私は現実世界にいる徠に問いかけ、「」を加えるも 目の前の彼は首を横に振った。答えない というわけではなく、彼の表情からして 答えられない と言いたいらしい。


「」


沈黙が続く。彼からの言葉は無い。


私がどんなに心で念じようとも、彼は苦しい表情をするだけで、私はため息をついた。


徠の行動に私が何も言えずにいると、彼は私の肩を叩いた。足元を指差すので見てみると、彼の足元から身体が徐々に消え始めていたのだ。


その現象に驚いて私は徠の身体に触れようとするも、その手は虚しく彼の身体をすり抜ける。彼は触れられるのに、私は触れることができない。その真実があまりに残酷で、私は彼が消えていくのを ただ見ているだけのことしかできないのだ。


「何、その辛そうな顔。僕、死なないからね?」

「そ、それでも…消えちゃうんでしょ?」


泣くのを堪えながら彼に質問をすると、彼は俯いて肩を震わせていた。どんどん姿は見えなくなり、細かい動作は見えづらくなっていく。


徠、消えないで!まだ物語は始まってすらない!!


心でそう叫んだ瞬間、彼がハッと顔を上げ、一筋の涙をこぼして…消えてしまった。


主人公がいなくなるなんて、物語がおわることと等しいのに彼は何も言わなかった。私はタブレットに視線を戻し、彼がついさっきまで話していた部分を見返した。


最後の一言だった “死なない” は、私の中で生き続けるってことなのかもしれない。…それなら、彼の意思をきちんと受け止めて 私も気持ちを切り替えなければならない。


今度こそ間違えないように。

ハッピーエンドへ導くことができるような、最高のストーリーにするために。


@:わかったよ、徠。新しい主人公として、今 作るからね…。


新しい物語をもう一度 (イチ)から考え直すことを決めた。


@:さぁ、一声目。…喋ってください。

「…ねぇ、死なないって言ったよね。話聞いてた?」


そうして始まるはずだったのに、どういう事だろう、これは。


@:アナタ ダレデスカ

「失礼だな。物語の主人公の名前を忘れる作家さんなんて、聞いた事ないけど?」

@:だって、それは…!


こんなことがあり得るのか。私は恐る恐る 彼に言葉を促した。


「僕が、この 胸キュンゲッター の主人公…徠だけど、なにか?」

@:嘘でしょ……!?


こうして、やっと始まりの位置に着いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ