第9話 危険な影
よし、まずはこのエルフのマントで全身を覆い、『陰影のスキル発動』!
「これでモンスターが俺の気配を感じ取り難くなったはずだ。ちょっと不安だけどアナライズで確認したから大丈夫だろ」
俺はさっき来た道を今度は一人でまた戻っていく。マルスと一緒にダンジョンに入っていた時の方が何倍も気が楽だった。今は一人、流石に心細い。俺に何かあっても誰にも気づいてもらえずに俺は死ぬんだろうな。一応、怪我を回復するポーションっていう傷薬はアルバスさんに貰って三つ持っているけど。
ま、いっか。その時はその時だ。よし、まずは『スライムロード』だ。倒して経験値を稼ぎまくってやる。けどそう上手くいくわけないよな。
俺が一気に強くなるにはこの方法しかない。どのくらい時間が掛るか分んないけど冷静にいかないと。それに食べ物だってさっき弁当食べたから、あとはリーザに貰ったクッキーしかない。こうなればスライムだって食ってやるぞ!
そして俺はダンジョン地下一階に戻り『スライムロードで最強を目指せ作戦』を開始した。
── 三日が過ぎた ──
なんとダンジョンの隅を何かが明るく照らし出した。俺はマントで全身を覆いながらじっとその光を見つめる。
い、いたぞ!! 『スライムロード』だ!!
普通のスライムより一回り小さいが間違いない。眩い輝きを放ちながら物陰を素早く移動している。そして移動しては立ち止まり辺りを警戒している。
あ、あせるなよ。まずは【分析】と奴の心を読む【心眼】だ。今襲ってもだめだ。焦ってもいいことは無い。まずは弱点を見つけてから行動を開始する。よし、スライムロードを『アナライズ』だ!
【スライムロード】:Aランク
スライムが2000体以上の同種のスライムを捕食するとスライムロードとして進化する。大変珍しいケースではあるが2000体以上のスライムの養分が凝縮しているため体が輝くほどのエネルギーを補完している。
スキル:【神速】【気配】【分裂】
耐性 :なし
弱点 :氷属性[上級] 食事中
(!?)【 オカシイ ナニカノ ケハイスル キケン ニゲル 】(心の声)
なんだって!!?
スライムロードは風を引き裂くようにあっという間に逃げて行ってしまった。
「そんな馬鹿な。俺はこのマントで気配を消しているし、ここからだとまだ距離があるのに」
アナライズで向けられた気配に気づいたのか? しかし、やっかいなスキルだな。【神速】に【気配】か、相性よさそうだ。でも弱点の情報は手に入れたぞ。 もちろん俺は魔法は使えないから狙うなら奴がメシを食う時だ。今逃げられたのは仕方ない諦めよう、チャンスはまた来る。
「だけど、ここは地下二階だ。気配を消しているにしても慎重に行動しないとな」
俺は今、地下二階にいる。ここのフロアにはスライム以外の強そうなモンスターがワンサカといる。得に厄介なのはあの豚頭だな。奴は地下三階を根城にしているらしいがたまに二階にやってくる。
鼻がいいのか俺も危うく気付かれるところだった。今の俺では到底勝てない魔物だ。
豚頭は別にしてもやることは決まった。スライムを囮にする、つまりは釣りだ。スライムロードが捕食しようとするのをひたすら待つ。奴を探して見つけても近づいた途端に逃げるかもしれないからな。
まずは一階にいってスライムを捕まえてくるか。スライムマスターの称号を貰ってもいいくらいに俺はスライムの扱いには慣れていた。よし、また慎重に一階を目指そう。
── それから更に三日後。 オロビアの村(マルス・リーザ達の村) ──
「お兄ちゃん、エノムさんは今日も来なかったね」
「ああ、あれから六日も経つけどな。きっと違う町に行ったんだよ。ダンジョンには入らないって言っていたしな」
「でも何も言わないで居なくなるような人じゃなかったよね。礼儀正しかったし」
「うーん、俺もそう思うけど、どこに行ったんだろうな」
『ドン ドン 』
誰かがドアを叩く音がする。こんな遅い時間に誰なんだと思いマルスは声をかける。まさかエノムなのか?
「だれだよ、こんな時間に」
「あたしだよ、マイアだ。エノムは戻ってきたかい?」
「マイア? どうしたんだよこんな時間に」
マルスは鍵をあけマイアを家に入れる。明らかにマイアは焦り戸惑っている。リーザも何事かと近寄ってくる。
「マイア、エノムさんはもう六日もここには来ていないよ? どうかしたの?」
「そ、そうか。ごめん、こんな遅くに……。実は例の魔物がまた現れたらしいんだ。しかも、隣りの町で被害が出たんだって。今じゃ向こうは大騒ぎだよ」
「なんだって!? じゃあ、2年前のあの魔物がまた来たっていうのか? ギルドの連中は何をしてるんだよ!」
「それが、町にいたギルドの冒険者が戦ったらしいんだけど、数人が殺された。かなりの強さだけどなぜか一度引いたらしいんだ。それにゴブリンロードまで進化してたって」
「そんな…………。大丈夫なのマイア、あなた……」
「あたしは大丈夫さ、リーザ。でもエノムに力を貸して貰おうと思ったんだけど居ないなら仕方ないね」
「マイア、ゴブリンロードはギルドの連中にたった一体で戦える力を持ってるモンスターだぞ。はっきりいって手におえる相手じゃない。この件はおそらく王都のギルドが動くはずだ」
「……そうだね、わかってるよ」
「あ、待てよ、遅いから送るよ」
「何言ってんだい、あたしの方が強いんだよ? 送って貰ったらあんたを送りにこなくちゃならなくなるよ」
「ぐ、そんなはっきりと。でも、たしかにそうだ。気をつけろよマイア」
「ああ、じゃあねマルス、リーザ」
「うん、気を付けて。無理しちゃだめだよマイア」
── 不穏な影が静かに近寄ってきていた
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