第7話 初ダンジョン
俺は一歩一歩、周りを確認しながらダンジョンの入口まで行く。まさかダンジョンに入る前にモンスターに襲われるなんてことが有るかも知れないからだ。ダンジョンに入らないから襲われないなんてルールはもちろん無い。
ここでふと疑問に思う。俺がここに来たからモンスターが俺を襲う分けで、それは俺がモンスターと闘うという目的があったからだ。モンスターは俺を探して襲ってきたりはしない。
「あれ? これじゃ俺の方がモンスターじゃないの?」
ふと沸いた疑問がつい口に出た。
「なんだエノム? 何がモンスターなんだよ? ビビったのか?」
「あ、いや。ここまで来たんだけどちょっと聞いていいかな? モンスターって俺達を襲ってくるんだろ?」
「はあ? 何いってんだよお前。当たり前じゃないか。何人犠牲になったと思ってんだよ!」
「いや、それはそうだけどさ。でもそれは俺達がダンジョンに入ってモンスターを倒そうとするからだろ?ダンジョンに入らないでほっとけばいいんじゃないの?」
「?? お前さっきから何言ってんだよ? ダンジョンをほっといたらモンスターが溢れて村が襲われるだろ? だからマイアやギルドの連中がにハントしてるんじゃないか」
「え? 増えてダンジョンからモンスターが出てくるのか?」
「あたり前だろ。そんなに頻繁に増えるわけじゃないけどな。ダンジョンにはボスと言われる魔物もいるそうだ。このダンジョンはFランクの一番危険度の少ないダンジョンだけどな」
「ええ? ボスもいるのか? Fランクのダンジョン? 今までずっとそれをやってきたのか?」
「お前なあ、そんなんじゃ何時まで経っても冒険の一歩目も踏出せないぞ?」
くっ、それは俺のセリフだったのに……、だが今は確かにそうだ。
「モンスターが突然ダンジョンから出てきて人を襲うようになったのは2年くらい前からだよ。お前ホントに知らないのか? 今まで何処に住んでたんだよ。あんなに大騒ぎになって世界が変わったってのに」
「2年前? マイアの両親が襲われた時だよな?」
「ああ、そうだ。かなり前は魔物が人を襲うなんて当たり前だったらしい。たしか300年前に伝説の勇者って人が魔王を倒してからは魔物はダンジョンに姿を消したんだ。それが最近は街道にまで魔物が現れるようになった」
「なんでモンスターが急に出てくるようになったんだ?」
「いや、俺がそんなこと知ってると思うか? 王都の学者達がずっと研究してるけど一向に何もわかってないらしいぜ」
なんてことだ。かなり危険な世界設定だ。このダンジョンはFランクらしいが大丈夫なのか?
「それにエノムは伝説の獣88匹を倒したんだろ? それって88個のダンジョンを攻略したってことじゃないのか?」
うっ、そういうことだったのか!? なるほどそれで皆あの反応だった分けだな。
「いや、俺は隣りの大陸で暴れてた獣を退治したからダンジョンを攻略したわけじゃないんだ」
きたー、久しぶりに俺のお調子者のでまかせ作戦。マルスは信じるだろうけど流石に良心がチクチクするな。
「そうだったのか。だから魔眼術師って聞いたことない職業なんだな。隣りの大陸から来たのか」
「う、うん。ダンジョンも初めてみたよ。どのくらい奥まであるの?」
「前にダンジョン鑑定士がきて鑑定したら地下3階だったそうだ。こんな辺鄙な村のダンジョンだからな、有名なギルドは来てくれない。だから、ザコをこれ以上増えないようにハントしてるのが現状だ。といっても実際はマイアがやってるんだけどな。この村には戦士はマイアしかいない。」
「そ、そうなのか。凄いなマイアは」
そういうことか。でも初代勇者が300年前に魔王を倒した?
勇者アルバス・ナイトレインのことだろうな。300年も昔の人だったのか。
「よし、そろそろ行くぞエノム」
「うん、行こう」
覚悟を決めてやっと、俺はダンジョンに潜入した。長かったけど、遂にダンジョンに潜入した。逃げ回れる強さを手に入れるために。そうして何事もなくしばらく進んでみた。
「なんか、ダンジョンって思ってたほど環境悪くないなんだな。まだ入り口の方だけど、空気もそんな悪くないし太陽も明かりも無いのに暗くない。そんな明るい分けじゃないけど」
そう、俺が思ってたダンジョンのイメージとは全く違っていた。壁はなんだか明るく光ってるように見えるから周りが暗闇で見えないってこともない。
それに鼻が曲がるような異臭もない。モンスターが多くいるんならきっと環境は激悪なんじゃないかと想像してた。
「ああ、ダンジョン自体が魔力を持ってるらしいからな。モンスターの糞や死骸もダンジョンに吸収されてダンジョンの魔力に変換されてるって説が有力らしい」
へー、そうなのか。ダンジョンが自分で掃除してくれてるようなもんだな、綺麗好きなんだねダンジョンさん。
「おっと、何かいそうだぞエノム」
《ドッキン》
「お、おう。弱いモンスターしかいないんだろ。この辺りは」
《ドッキン》 《ドッキン》
やばい、心臓の音がめちゃくちゃでかいぞ。
その時、突然黒い影が俺達の前に飛び出してきた。遂にモンスターが現われた!!
「お、スライムじゃないか。それも2匹。ま、楽勝だ。」
おお、これがスライムって世界共通の最弱モンスターか? まさにイメージ道理な単細胞生物だ、プルプルしてて内臓が透けて見えるぞ。向こうもまだ襲ってくる気配はない。
よし【分析】で調べておこう。スライムを『アナライズ』だ!
【スライム】Eランク
[説明]単細胞生物のゼリー状のモンスター。攻撃力、防御力も低いため駆け出しの冒険者がレベル上げに狙うことが多い。瀕死の状態になると分裂し片方を囮として逃げることがあるがあまり知られていない。
スキル:【分裂】
耐性 :なし
弱点 :全属性
おお、やっぱり思った通りのスライムだな。スキルは【分裂】か。さらに【心眼】を発動!
【テキ クウ 】(心の声)
ええ? スライム俺達を食べる気じゃんか。こんな見た目だけどやっぱりモンスターだな。
「おい、エノム! 気を抜くなよ、相手はモンスターだぞ!!」
「あ、ああ。やるぞマルス」
こうして俺の初めての戦闘が幕を開けた。
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