第47話 冤罪、魔法使いの少女!
「ちょっ、ちょっと待って! ……待って下さい!――待てって! 聞けよっ。おわあっーー!」
死にもの狂いで真横にぶっ飛びのダイブをする。
『ドガガガッドーン!』
耳をつんざくような爆音と眼が眩むほどの閃光だった。
空気が明らかに焼けている。――ジリジリと肌を焼きつくす熱気。
強力な攻撃魔法。マジで魔法だ。
これ、避けなかったら、俺……死んだんじゃないの?
――どうしてこうなった? いやいや、どういうこと?
俺の目の前には一人の女魔法使い。えらく殺気立っている。
「やるじゃない、覗き魔の変態野郎のくせに。さっさと黒焦げの干物になっちゃえ『火球』!」
「だから、違……わーー!」
溶岩のような灼熱の塊が俺めがけて飛んきた。なんとかさっきと同じように横に転がりながら命懸けで炎の塊を避けた。
凄まじい速さで飛んでいった炎の塊は校舎脇の緑樹に直撃し、その太い幹をボッキリと砕いた。更には極炎が立ち上り瞬く間に消し炭へと変わり果てる。校庭は瞬く間に火の海と化していた。
「また避けたね! アンタみたいな女の敵はこの学院一の女魔法使い、ルナ・フィスティスが成敗してやるっ」
俺に銀灰色の杖を向けながら半裸の美少女が叫ぶ。やばい、これはマジで殺されてしまう。この女の子、凄腕の魔法使いだぞ。
「いや、誤解だから! 俺は覗きなんてしてないから! その前に君、こんなとこで普通に着替えてる方がよっぽどおかしいからね!」
目の前の少女が身に付けているのは魔法使いの三角帽子と淡いピンク色のシャツのみ。下は綺麗なすらりとした生足だ。
つまり、下は履いていない。……いや、下着は着てるよね当然、チラチラ見えるし。
「ボクの研究室でボクが着替えをしていておかしい分けないでしょう!? 言い訳なんか聞きたくないわ、死になさい!」
「その前に服着てくれよ!」
ヤバイ、また魔法がくるぞ! 気が引けたけど【心眼】で心を読む。めちゃめちゃ怒っていらっしゃる。……しかも、ヤバイ、光魔法だ!
俺は光魔法や聖魔法が弱点になってるから受けたら死ぬぞマジで!
「ちょっと、待って、俺、この学院で魔法の勉強がしたくてシルヴィア団長を訪ねて来たんだよ、だから怪しくなんてない! シルヴィア団長に聞いてみて!」
もう必死に言い訳した。俺が彼女の着替えを見たのは確かだが。……このボクっ娘、良い身体してる――じゃないから! わざとじゃないし。
俺の命を掛けた言い訳を信じてくれたのかシャツ姿の女の子は手を止めた。
「アンタさ、どうやったの? あの部屋はボク以外は誰も入れないようにしてあったんだぞ。あの扉はボク以外は絶対に開けられない、ボクの魔力を打ち破りでもしない限りは!」
「……? 知らない、何もしてない。鍵でもかけ忘れたんたろ?」
あー、ヤバイぞ、ヤバい。クロロとキャロットは何をやってんだ? 早く帰ってきてくれないと俺死んじゃうよ!
「それにアンタ、ボクの魔法を三回も避けた! ありえない、絶対にありえない、もうこうなったらとっておきのをお見舞いするからっ」
「はあ!? 」
光の魔法陣らしき模様が少女の周りに浮かび上がる。さっきの魔法よりも詠唱が長いのはより強力な魔法だからだろう。力強い魔力が今にも弾けそうだ。
「待って! 降参だよ、俺の負け! ほら、降参!」
俺は両手を上げて戦う意志のないことを強調した。いくら何でもシャツしか着てない女の子と戦えるわけがない。
「……駄目、ボクの許しを乞うならボクに勝ってからにしてよ。さあ、これはボクの最強魔法だよ!」
「言ってることが滅茶苦茶だから! 君には勝てません! 俺、弱いの!」
光が少女の銀灰色の杖に収束していく! ヤバイどうする!?
しかし、爆音と閃光のせいか、最悪のタイミングでクロロとキャロットがこの異常事態に気づき俺に駆け寄ってくる。
「エノムー、どうしたの?」
「エノムさん! あの爆発は…!?」
「あっ! 駄目だ、来ちゃ駄目――危ない!」
光の閃光が杖先より放たれる刹那、俺はスキル【神速】を発動し魔法使いの少女まで一気に間合いを詰める。
「えっ!?」
一筋の黒い稲妻のように少女まで駆ける。躊躇する暇はない。魔剣レーヴァテインに手を掛けた。
「ゴメン! 斬るよ!」
「なっ、いつのまに……」
俺もやるしかない、この魔法を喰らえば致命傷は間違いないし、なによりクロロとキャロットが巻き込まれてしまう。
やるしかない! 俺は少女の左側に滑り込むように踏み込んだ。
そして瞬きすら追いつかない速さで少女を断ち切る。
『ゴトンッ』
確かな手応えと共に切り落とした物が地面に転がる。やらなければこっちが殺られていた。
少女の周りに浮き上がった光の魔法陣は宙に吸い込まれるように消えている。
キャロットが校舎側から駆けてくる。さっきの炎の塊が飛んでいった方だ。
「エノムさん一体どうされたんです!?」
「キャロット、実は……」
「す、す、スゴイ! 何、何? 何なの! めちゃめちゃ強いじゃない!」
「……ゴメン、君が誤っても許してくれないから。その杖を斬るしか方法がなかった」
魔法使いの少女の足元には凄まじい切れ味で両断された杖の先が落ちていた。その杖を握りしめながらルナと名乗る魔法使いの少女は俺をまじまじと凝視している。
「ルナ! アナタ、ちょっとどうしたの?」
「? ――キャロか。もしかして知り合い?」
ルナは俺から目を離さない。
「ああ。キャロットにここに案内してもらったんだよ。シルヴィア団長に会うために」
「ふーん、さっきの言ってたのは本当なんだ」
それでもルナは俺をじっと見ている。何だよ、謝ったじゃないか、まだ怒ってるのか――。
「エノム! また喧嘩したの!」
「あ、クロロか、大丈夫か?」
「なんでエノムは直ぐに喧嘩するの!」
キャロットとクロロはルナの前に割って入るように立ちふさがる。
「エノム、このお姉ーさん、服着てないよ?」
「エノムさん、どういうことですか?」
「いや、本当に聞いてよ、誤解だから……」
キャロットはルナの足元が俺に見えないようにガードしながら俺を……、変態を見るような感じでガードしてる。
これって、冤罪でしょっ!
《おい、エノム。俺様を忘れるな。毎回毎回、何やっとんじゃ、お前は》
レーヴァは呆れた声で囁く。いや、なんか、誤解だからね。皆が俺を襲ってくるの!
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