第41話 魔法使いのオランドゥ
「ねぇ、エノム。美味しいね」
「そうだな。でも食べ過ぎるなよ」
「大丈夫、大丈夫。エノム、これおかわりいる?」
「んー、そうだな、食べるか」
俺とクロロは食堂で女将さんが準備してくれていた朝食を食べている。朝食はバイキング形式なっているから食べ放題だ。
「おい、クロロ取りすぎだろ。他のお客さんもいるんだからほどほどにな」
「うん! これ食べたらやめる」
蒸かした芋に塩味が付いた蒸かし芋を山盛りに盛るクロロ。あとは焼きたてのパンに野菜とベーコンを挟んでサンドイッチを作る。
そんな俺達の様子をニコニコしながら見ていた中年の男が話しかけてきた。
「兄ちゃん、アンタらすげぇ美味そうに食うよな。そのサンドイッチはベーコンをもう一度焼いて焼きたてで食うともっと美味いぜ」
「え? もっと美味くなるの? ならやってみようかな」
俺は男に言われたようにキッチンの厨房にいって置かれているフライパンとコンロに火を点けようとした。
「あれ? スイッチがないな。何処で火を点けるんだ?」
俺はぐるりと厨房を確認する。正直、この世界の厨房は俺がいた世界とあまり変わらないんだが……。キョロキョロしてるとクロロがまだかといった顔で厨房に来た。
「何やってるのエノム?」
「ああ、この調理台でベーコンを焼こうと思ったんだけど火の点け方がわかんない」
おかしい、俺が来た時は確かに女将さんがここで料理して食材を焼いてたぞ? この形状からいって間違いなくフライパンで焼けるはずなんだけど、火を点けるスイッチすらない。
「おい、兄ちゃん何やってんだ? 焼き方も知らねーのか?」
俺とクロロの様子を見ながら中年の男は調理台に向けて右手をかざす。すると調理台の真ん中にある窪みから炎が立ち上がる。
「おおっ! すげぇ!」
「兄ちゃん、何処の田舎者だよ? これにマナを充填させないと火が付くわけねーだろ」
男は調理台の真ん中にある水晶のような石を指差しながら呆れた顔で俺に教えてくれた。
「いやー、すいません。ド田舎者なんで。ありがとうございます」
ジュウジュウとベーコンを焼く音と美味そうな匂いがする。
かなりの火力でフライパンを炎が焦がしている。どうやらこの水晶にマナを送るようだ。
魔力はこの世界にある力だ。てか、マナなんて力が俺にあるんだろうか?
「よし、ほら焼けたぞ。クロロ」
「おー、美味しそうだね」
俺は厚切りのベーコンを2枚焼いてからパンに挟んでクロロに渡した。
しばらくするとコンロから立ち上る炎はゆっくりと消えた。これがマナの力。この世界にある力か……便利だな。
「おっちゃん、ありがとう。うんうん、焼きたてのベーコン、美味いよー」
クロロは俺が渡したサンドイッチにかぶり付きながら中年の男にお礼を言った。
「お、おっちゃんって。おい、お嬢ちゃん、俺はまだ28だぞ。まだまだ若いんだからな、俺は」
「そーかー、ごめんね。物知りのおっちゃん」
「はぁ、ま、いいか。お嬢ちゃんから見たらおっちゃんだからな。――それはそうと、兄ちゃん、その格好からするとギルドの冒険者か?」
男はボサボサの髪と左目には丸い眼鏡をしていた。そして椅子には使い込まれたロッド、着ている外套からすると魔法使いかもしれないな。
「いいえ、俺は魔眼術師のエノムといいます」
「ほう。兄ちゃんは只者じゃねーな? わかるぜ、俺には」
「そんなことはないですけど。――あの貴方は?」
「俺はオランドゥ。しがない魔法使いだ。元ギルドの冒険者で今は世界を旅して観ている」
「凄いですね、世界を旅する魔法使いか」
「ま、そんな格好いいもんじゃねーけどな。兄ちゃんはこの王都には初めてか? どっから来た?」
オランドゥさんは俺達と同じテーブルに自分の取り分けた皿とグラスを持ってくるとクロロの隣の椅子に腰掛ける。おれの正面だ。
「えーと、オロビアの村から来ました。ここには昨日着いたばかりです」
「オロビア? じゃあモラルヴィッツ大平原を越えてきたのか。あの辺はギルドと騎士団が魔物の討伐をしたばかりだから危険度は低いが徒歩では3日はかかる距離だ。こんな遠くまで何をしに来たんだ?」
「えーと……」
俺はオランドゥさんの質問にどう答えればいいのか迷った。バーティッド王からの召喚状のことはあまり言わないほうが――。
「エノムは王様に呼ばれたんだよ! エノムは凄いんだよ」
クロロが悪気無しにオランドゥさんに答えた。オランドゥさんは一瞬複雑な表情で俺を見たが俺の様子から冗談ではなく本当のことだと直ぐに悟ったようだった。
「いやー、只者じゃないとは思ったがすげぇな、兄ちゃん」
「いや、はは……。まあ、俺が何か出来るわけでもないですけどね」
俺はオランドゥさんに笑って誤魔化す。オランドゥさんもそれ以上は何も聞こうとはしなかった。
「まぁ、俺はまだこの宿にしばらく居るから何かあれば聞いてくれ。あんなド田舎から来ればわからないことばかりだろう」
「ありがとうございます。そうだ、オランドゥさんは魔法が使えるんですよね?」
「ん? まぁな。魔法使いだからある程度の魔法は心得ているぞ。なんだ、魔法使いになりたいのか?」
「あ、いや。俺も魔法が使えるのかなと思って」
「ふむ、そうだな。先ずはコンロに火を点けれるようになることだ。それが出来れば魔法も使えるようになる」
「え?」
そうなのか。魔法は使いたい。早速練習しよう。
「はははっ。冗談だよ。そう簡単に信じられると冗談も言えねーな」
「ええ? 冗談なんですか? 真剣な顔で言わないで下さいよ。……まぁ、そんな簡単に魔法が使えるわけないか……」
「すまんすまん、だがあながち冗談でもないんだがな。マナを使えれば魔法も使える。原理は同じだからな」
オランドゥさんは笑いながら皿に盛ったミートボール入りのパスタを食べ始めた。
うーん、この人はちょっと苦手なタイプだな。
「……兄ちゃん、魔法を覚えたいならこのラザ・ジュエルには魔法学院があるぞ。なんせ俺もそこ出身だ。兄ちゃんさえ覚える気があるなら今からだってやれるぞ」
「魔法学院? 魔法使いに為るための学校? やっぱり魔法使いになるには努力と勉強が必要なんですね」
「その上に、才能もだ。まあ、俺は大した才能もなかったがな。この王都には様々な学舎があるぞ。騎士や学者を目指すなら王立学院、魔法使いなら魔法学院だ」
「そ、そうなんだ。皆努力してるんですね」
うーん、ギルドに登録して魔物を倒して経験値とお金を稼ごうと思ってたけど学院にいって能力値を上げるのもいいかもな。できれば魔法も覚えたい。
多分、魔法は勉強しないと覚えられないだろうからな。
「じゃあな、兄ちゃんにお嬢ちゃん。何かあれば力になるぜ」
「ありがとうございます、オランドゥさん」
オランドゥさんは皿の料理を勢いよく掻き込んで行ってしまった。
苦手なタイプだけど悪い人ではないな。
やっぱり魔法は努力しないと使えないんだな。考えてみたら魔法はリーザの回復魔法を一度見ただけだ。
あの時は回復魔法すげぇって思ったけど、俺も使えたら……。攻撃魔法とか絶対覚えたほういいよな。うーん、覚えられるかな?
……そういえば魔法使いの知り合いが俺にも一人いたな。シリウスもあんな女の子ばっかり追いかけるような感じだったけど努力家だったんだな。
「エノム、どうしたの」
「ん? ああ、ごめん、考え事してた。なんだい、クロロ?」
「これ食べたら出かけるんでしょ? 何処に行くの?」
クロロは口一杯に頬張りながらモグモグと俺を見ている。ふふっ、可愛いなクロロは。
「ああ、そうだな。ギルドに行こうと思うんだ。食べ終わったら行こうか」
「うん! 行こうぜーエノムー!」
クロロは、にっこり笑い両手を上げる。俺達の他にも数人のお客さんがいたけどクロロは元気がいいねと何人かに声をかけられていた。
そして俺達は朝食を食べ終え、支度をしてからギルドに向かって歩きだした。
最後までお読み下りありがとうございます。
次の話で第2章の完結となります。
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