第40話 お客さんは女の子
『ドン ドン』
――ん? 誰か来たのか……?
カーテン越しに窓から爽やかに朝日が入り込んでいる。日差しを受けた隣のベットには丸まったままのシーツが微かに上下していた。どうやらクロロもまだ寝てるようだな。
『ドン ドン』
――やっぱりだ、ドアを叩く音がする。誰か来たようだな。
「ちょっといいかい、マガンジュツシのエノムさん、起きてる? お客さんがアンタを呼んでくれって」
「え? はい、今起きます」
俺は寝ぼけた頭でベットから起き上がり、ドアを開けた。そこには昨日のウサギ耳の女将さんが元気に立っている。マジか、昨日遅くまで働いてたのにまた働いているの?
「あ、おはようございます、女将さん」
「おはよう! アンタ、ホントに人気者だねぇ。またアンタを呼んでくれってさ。しかも今度は可愛いお嬢さんだよ」
「? すいません、じゃあ、今……準備したら行きますから」
「あいよ、そう伝えておくよ」
あー、誰だろう? 可愛いお嬢さんなんて知り合いは勿論いない。
まさかシャロン姫が俺に会いにくるわけないし。
俺は適当に身なりを整えて部屋を出た。クロロは寝かせておいて問題ないだろう。
階段を下りて宿の玄関まで行くとそこには一人の女の子が椅子に腰掛けて俺を待っていた。
やっぱり知らない女の子だ。茶色いショートの髪形にキリリとした瞳が印象的な少女だ。
揺ったりとした服から出ている手足のしなやかさで運動能力の高さもわかる。騎士団なのかな? 腰には細身の剣を下げている。
少女は俺が来たことに気が付きスッと立ち上がる。
「はじめまして、朝早くからごめんなさい」
「はぁ、はじめまして」
少女は礼儀正しく頭を下げる。俺より年下に見えるけどしっかりしてそうだ。爽やかに笑う笑顔がとても可愛らしい。
「私はキャロット・オリバーと申します。お呼び立てしてごめんなさい。少しお話しいいでしょうか?」
「どうも、エノムです。いいですけど……なんでしょう?」
――あれ? オリバーってどこかで聞いたような。
「エノムさんのことは兄から教えて貰いました。それに兄と手合わせしたことも聞きました。守護騎士ランスロットは私の兄なんです。不躾ですが兄に勝ったというのは本当なのですか?」
「え? ランスロットの妹さん? 」
「はい」
マジか、ランスロットにこんな可愛い妹がいたなんて。……そう言えばランスロットの顔は見てないんだよな。フルフェイスの白銀の仮面だったからな。
――まさか、アイツ。イケメンって落ちなのか?
「? どうかなさいましたか?」
「あ、いえ。……確かにランスロットとは剣を交えたけど勝敗というとね、うん。勝ち負けは着いてないよ」
まあ、俺が勝ったわけではないよな。実際、シルヴィア団長に止められたけどあのままやってたら勝てたかどうかはわからない。
「…エノムさん、貴方は何者なのですか? 兄は守護騎士なのですよ?」
「俺は……その、えーと、魔眼術師です。」
「魔眼術師? 初めて聞いた職業ですわ。魔眼術師とはどんな能力の使い手なのでしょうか? 兄と渡り合ったというその剣技、私ともお手合わせして下さいませんか?」
「え!? 君と?」
「はい、私が相手では力不足なことは重々承知しております。ですが守護騎士と渡り合う程の剣技、どうしても貴方の剣と交わりたいのです!」
「……」
えーと、なんかちょっといやらしい響きだな。いやいや、つーかこのキャロットちゃん? 俺と戦う気なのか?
「あの、どうなさいました? やはり私では不足ですか」
「あ、いやいや、違うけど。キャロットちゃんは俺と戦う気なの?」
「もちろんです。エノムさんが応じてくれるなら今すぐにでも」
「……キャロットちゃんは騎士団員なのかい?」
「いいえ、私はまだ15なので騎士団には入団できません。王立学院の騎士候補生です。ちなみに私は騎士候補生の首席なのでそれなりの腕前は持ち合わせているつもりですわ」
「マジ? 首席ってエリートじゃないか、凄いね」
「兄のランスロットも騎士候補生では首席でした。あとは……クレスさんも首席でした。私も二人に負けないように精進しています」
「そうなの、あの二人も首席だったのか。え? クレスもなの? でもクレスは門番で騎士見習いだって言ってたけど」
「はい。クレスさんに限らず、騎士団に入団した団員は皆そうです。階級にも順序がありますからいくら剣の腕があるからといっていきなりナイトや守護騎士にはなれないんです」
「へー、そうなのか」
「あの、私に剣を……」
「エノムー! 何処いったの~! まだ風呂なのー!」
「あっ、クロロだ。起きたんだな」
どうやらクロロが起きて俺を探してるようだ。あんまり騒ぐと迷惑になるな。
「ごめん、クロロが起きたみたいだから行かないと。それに俺は女の子と戦う気はないよ。ごめんね」
「そ、それは私が女だからとう意味ですか? だから戦えないと」
「……、うん、そうだよ。君には悪いけど俺は女の子とは戦えない。君が例え剣に身を置く騎士候補生だとしてもね。俺は剣士じゃないし、特別な剣技もないよ」
「そうですか……。わかりました。朝早くからご迷惑をおかけしました……。」
キャロットは明らかにガッカリした様子で俺に頭を下げる。なんか、悪いことしたかな。いやいや、俺は女の子とは戦えないから仕方無いよな。
つーか、俺が剣を教えて貰いたいくらいだよ。
「じゃあね、ごめんね」
「はい、ありがとうございました」
俺はキャロットに別れを告げクロロの声がする部屋の方へと歩きだした。後ろをチラッと見るとキャロットがうつ向きながら帰るところだった。
うーん、可哀想だけどね。こればっかりは。
「あっ、エノム! 何処いってたの! 迷子になったの!?」
「おはよう、クロロ。朝から元気いいな、お前は」
「そうだよ、元気だけがクロロの自慢だよ」
「はは、そっか。よし、朝食食べたらちょっと出掛けようか」
「うん! お腹減ったね、早く行こう、朝食朝食ー」
「ホント、朝から元気だなクロロは」
まあ、俺もやることがあるからな。キャロットには悪いけど、俺は俺でもっと強くならないと。
まだシャロン姫を救えるだけの力は俺には無い。でも、だからってほっとけないんだ。
やれることはやってみる、まずはレベル上げだ。それとお金を稼ぐ。強さも大事だけどお金も必要だからな。
まずは朝飯食べたら出掛けよう。
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