第36話 なるわけがなかった
「シャロン姫だって!?」
ランスロットがシャロン姫と呼んだのは誰のこと?
大広間から繋がる大回廊、その先には綺麗な洋服に着替えた猫耳族の少女クロロがいる。
そしてその隣には見たことがないメイド服の女性がいた。確かに美人なんだけど……。
シャロン姫って16歳か17歳だよな。確か俺と歳は変わらないはずだった。でも、あのメイド服の女性は俺よりは歳上だ。おかしいな。
あの女性がシャロン姫? 姫様なのにメイド服? コスプレ好きの王女様なのか?
……それともう1人知らない子がいる。女の子だ。ちょっと、でもあの子なんなの?
向うから全力で駆けてくる女の子が1人いる。どう見てもクロロと同じくらいの小さい子だ。着ているドレスも可愛らしいが子供用ドレスだ。あの子がシャロン姫のわけがない。
んー。でも、まさかな……。凄い綺麗な子だ。キラキラとして人を引き寄せるような瞳はこっちまで元気が出てくるような魅力に溢れている。そして長い綺麗な髪は心が安らぐようなピンク色でシルクのように滑らかに揺れている。
顔立ちは芸術品のように整っている。それにしてもこの世界の女の子はレベルが桁外れだ。まるでエベレストのように高い。そこは最高に嬉しいんだけど……。
断言するが俺は決してロリコンではない。もう一度言う、いや、言わせてくれ。俺はロリコンじゃない。
だが、一般的価値観で見てもあの女の子はとんでもない美人になる。それこそ至宝と呼ばれるくらいに。ま、まさか……あの女の子がシャロン姫?
ん? 何か叫んでるぞ? 何を言ってるんだ?
「……やりますわー!」
「は?」
なんだって? 何を?
「さあ、心を入れ替えなさいー! アナタのような人はアタシが成敗してやりますわー!」
え? 成敗って誰を?
あっ、すげぇ、跳んだ。
え、でも俺に向かって跳んできたよ?
華麗にジャンプしたと思ったらラ○ダーキック!?
狙いは俺? え?
「あぶなっ!?」
俺に向かって伸ばしたスラリとした足は空を切った。俺も黙って蹴られるつもりはないから当然避ける。
「こらっ! 避けちゃダメでしょっ!」
「な、なんだよ、あの、君、頭大丈夫なのか?」
「なんですって? そんなことアナタのような人に言われたくありませんわ!」
「……は? お嬢ちゃん、人違いしてないか? 俺はそんなこと言われる覚えはないよ」
「アナタがあのエノムでしょう! クーちゃんにあんな格好させて、酷いですわっ」
「クーちゃん? クロロのことか? いや、そりゃ確かに酷い服を着てたけど─」
「問答無用です、このゲス! ろくでなし!」
「ちょっ」
ゲ、ゲス!? こんな子供にそんな罵詈雑言をぶつけられ俺のメンタルはかなり打ちのめされた。
更には飛び蹴りの後は回し蹴り、容赦の無い攻撃が続いてます。
俺、そんなゲス野郎なの!?
おい、ランスロット、止めろこの野郎!
ランスロットは無表情のまま(フルフェイスの仮面だから当たり前)突っ立っている。この野郎、実は笑ってんじゃないのか!?
「シャロンー、ダメだよ、エノムはクロロの連れだって言ったでしょ。エノムは優しいんだから乱暴しちゃダメだよー!」
「姫様、いい加減にして下さい! ゲスでもなんでも客人に失礼ですよ! また私がサウン宰相に叱られてしまいます!」
おお、クロロとメイドさん、早く止めてくれ! 流石に女の子相手だと避けるしかないよ! それにやっぱりこの子がシャロン姫か?
「クーちゃんは騙されてます! 優しい人は女の子に奴隷服を着せてお城に来たりしないわ!」
「ちょっ、違う! 俺は呼ばれたから来たんだよ、なぁクロ─」
『ドカッ!!』
「ぎゃ!!!」
「あっ、ごめんない、避けないから……」
── 女の子のしなやかな蹴りが俺の急所を蹴り上げた。途端にうずくまり動けなくなる俺。あっ、これ死んだわ。大事な所がもうダメです。
そして慌ててクロロが駆けてくる。
「エ、エノム! 大丈夫? ダメだよ、シャロン。エノムは悪くないの」
「ごめんなさい、だって避けないから……」
「姫様。なんとはしたない、私、知りませんよ!?巻き込まないで下さいね!」
「ごめん、ルージュ。つい……」
「…………死んだか」
ランスロットのムカつく声が頭の隅の方で聞こえた………。
「って、死なないからー!! ちょっと、痛いよ、どうしてくれんのよ!」
「きゃあ! 生きてますの? ごめんなさい、やり過ぎましたわ」
「こらっ! 何てことすんだ! 謝っても許されないことってあるんだぞ!」
「うう、ごめんなさい。……あの、何してますの?」
「痛くて立てないの! 男は皆こうなるの!」
「エノムー、大丈夫? ごめんね、シャロンが勘違いしたみたい」
俺はもう起てない、いや、立てない。足がガクガクして、まともに立つことすらできない、男にしか理解できないよ、この痛み。
「あ、あの、アナタがクーちゃんに酷いことしてると……」
「どっちが!? 俺、君のせいで女になるよ!」
「え?」
マジ、勘弁してくれ! 確かにクロロはボロい服に奴隷用の首輪(偽物)をしてたから勘違いしても仕方がないかもしれないが、これは酷いよ!
すると、なぜかランスロットが一歩前に踏み出し話し始めた。
「あー、シャロン姫。このエノムと名乗る小僧は姫が思うような悪人ではなさそうですよ。私は先程、この者と手合わせしましたが自分よりもこの猫耳族を庇いならが戦いました。悪人ならば奴隷を盾にするものです」
「そ、そんな……。も、申し訳ありませんわ、なんとお詫び申し上げれば……」
シャロン姫と呼ばれた女の子はやっと間違いに気づいたようで慌てて俺に頭を下げて、近寄ってきた。う、なんか警戒してしまうが。
「ら、ランスロット……。まさか、俺を助けてくれるなんて……」
驚きだ、まさかあのランスロットが俺に助け船を出すなんて。
「ふん、姫様に倒されたお前が余りに哀れでな。お前は一国の姫に負けたのだ。名誉ある敗北だな、しかとこのランスロットが見届けたぞ、くっくっく」
「な、この野郎。お前、俺に負けたからって言いふらす気だな!」
「それにしても、シャロン姫。そのように派手に振る舞われて誰かに見られでもしたらどうするおつもりですか? サウン宰相には人前に出てはダメだと何度も言われたはず。ルージュ、お前も何をやっているのだ」
「す、すいません、ランスロット様。私が至らぬばかりに……」
ルージュと呼ばれた若いメイドは深々とランスロットに頭を下げる。まさか、いや、ランスロットは偉いさんか? そりゃ守護騎士だからな、それにシャロン姫と呼ばれた女の子もランスロットには言い返せないようだけど?
「……だって退屈なんですもの。それにやっとクーちゃんと会えたし」
「まったく何度も懲りませんなシャロン姫は。はっはっは」
「って、おい、俺を無視するなー!」
ん? シャロン姫とクロロは知り合いなのか? だけどシャロン姫がこんな小さい子供な分けない。いや、たしか『呪い』で姿を変えられたって。
まさか!? そうなのか、やっぱりこの子がラザ・ジュエルの至宝とよばれるシャーロット姫なのか!?
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