第33話 命の天秤
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なんだって? 魔族? 魔族ってあの魔族か? 体が緑色の頭が禿げてて触角のある。……いや、それはなんとか星人か。そんなわけないな。
ヤバいな、これは今までで一番危険な匂いがします。
バーティッド王はゆっくりとした口調で話し始めた。
「ことの始まりは2年前になる。魔物が姿を現すようになり人を襲うようになったことは知っているね?」
「は、はい。ダンジョンなんかもそうなんですよね。急にダンジョンから魔物が出てくるように……まさか? その魔族が?」
「そうなんだ。この事実は一般には公開していないからね、もしも誰かに話す場合は相手を選んでほしい。話しを戻すが、その『不滅のレイエス』がもたらした厄災は世界を根本的に変えてしまうほどのものだったんだ」
「そ、そうですね。魔物が人を襲うようになるなんて……」
ヤバイぞ、とんでもない展開きましたけど? これは俺の手には負えない話ですね、はい。
「元々は魔物はそういった生物だからね。300年前に伝説の勇者の手によってダンジョンに多くの魔物が封印されたんだよ。それからは封印を逃れたわずかな魔物が人を襲うような程度で被害は済んできたがね」
「勇者アルバス・ナイトレインですよね。ダンジョンに魔物を封印したなんて流石は勇者ですね」
「そうだな。まあ勇者アルバスが直接封印したわけではないが素晴らしい功績を残している。まさに伝説の人物だ」
「そうなんですか。それが300年前……」
よく考えればあのサンタクロース……、いやアルバスさんって今もオロビアの村で生きてるよな。深く考えなかったけど変な話だ、300歳超えてるってことだよな。
「そのダンジョンの封印を解いたのがその『不滅のレイエス』だ。その封印を解くことは人間やエルフには不可能といっていい。それほど強力な封印だった。その封印を解いたあの魔族の力は我々の力をはるかに越えている」
「…………」
すごい、これはナントカクエストってゲームみたいな展開ですね。
お手上げです。隣りにいるシルヴィア団長も真剣な眼差しでバーティッド王のことを見ている。やはり、かなり深刻な問題なんだろうな。
……しかしシルヴィア団長は美人だ、うん。すごい美人だぞ。こんな美人が団長なんて騎士団はさぞ浮かれまくってるだろうな。
おっと、ヤバイヤバイ。今はそれどころじゃない、そのとんでもない魔族が問題だ。『不滅のレイエス』、すさまじく危険な奴だ。
だけど、昨日今日に剣と魔法のファンタジー世界にやって来た俺に何ができる? 勿論、何も出来ませんよ。
それに魔法なんてのもマトモに見たこともないし。
「魔物が現れた2年前、我々も調査に乗りだしたんだ。それこそ我が国だけではなくガルバリア帝国や聖アレンバルト王国などの大国も調査に躍起になったよ。どの国も自衛の為の騎士団を組織していたから壊滅的な被害は出なかった。しかし魔物に襲われれば民はひとたまりもない。騎士団も民を守る為だけの組織になりかけた。そこで台頭してきたのがギルドと言うわけさ」
「なるほど、騎士団は国を守り、ギルドは魔物を倒すわけですね。それなら皆は安全ですね」
バーティッド王は苦笑いをしながら誰も座っていない玉座を見上げる。
「正直、複雑だね。魔物が闊歩する世界にはなったが、そのことがきっかけで国同士の戦いはあれから起こっていない。それどころかギルドが台頭したことによりそれで冒険者と呼ばれる者達が増えたんだ。そして国は活気に満ち溢れたんだ」
「え? ……そうか、魔物を倒すことは経済の起爆剤になるからですね!? 魔物のコレクターなんて人もいるし、素材なんかは上質だから交易などもできる。 それに魔物と戦う為の装備品の売買などもそうだ、素材を集める人、それを運ぶ人、武具を造る人、売る人全てが循環し、経済が動くから!」
バーティッド王は今度はニヤリと笑う。どこか嬉しそうだ。
「その通り。君は面白いな、エノムくん。まったく常識的なことを知らないと思えば、頭の回転はかなり速いじゃないか。不思議な少年だよ、君は。その容姿も装備もどこか…………いや、君に会えてよかったよ」
「そんな、俺なんて何も出来ませんよ」
バーティッド王は深く息を吐きながらまた誰も座っていない玉座を見上げる。
「しかしながら、話はここからが本題なのだよ」
「そ、そうですよね。ここから先なんですよね」
そう、今までの話ならバーティッド王が俺を呼んだりする理由にはならない。これ以上の何があるんだ?
「半年前になる。ここより北西に小さな集落があった。そこは人口200人ほどの獣人族の村だった。ある日、その獣人族の村が魔物の大群に襲われたんだ。獣人は数こそ少ないが戦闘能力は極めて高い。並の魔物ならあっという間に倒してしまうだろう」
獣人族の村? なんだ、嫌な予感がするな。クロロと関係あるかもしれないな。俺は黙ったままま頷く。
「そんな彼らが魔物の大群に包囲され最早助かるすべ無しと救援の要請がきたんだ。それを伝えに来たのは小さな子供の獣人族だった。その子供は怪我をし、疲れきってはいたが命を懸けてここまで助けを求めてやって来た。だが…………」
「?」
「このラザ・ジュエル王国の直ぐ近くで魔物の大群が現れたんだ。君ならどうする?」
「え、それは……」
勿論、俺はそんな場面に出くわしたなら助けに行くだろう。うん、俺なら何だかんだできっとその獣人族の村に助けに行く。
だけど、それは俺が何も属さない只の魔眼術師だからだ。この国の人ならそうはいくか? いや、そうはならない。先ずは自分達の身を守らないといけない。国を民を家族を………。
バーティッド王が言いたいことは多分それだ。
「助けには……、行けません。先ずは自分達の国を、民を守らなくてはならないから。それに相手は人族ではないし、人口数も少ない。騎士団やギルドを向かわせるのは自分達を危険に晒すことにしかならない……」
「その通りだ。報告を受け、俺は王として決断を迫られた。助けに行くのは簡単だ。だが、もしそれが何者かの巧妙な策略だとしたら? 助けに向かわせた隙に王国に攻めいられたら? あの時はそんなことを考えておかねばならない情勢だったんだ。魔物が現れ、世界が不安定だった」
そうだよな、それは当然のことだ。獣人族を助けに行って自分達が国を滅ぼさるようなことになれば……行くわけにはいかないよ。
「だけどね。そこで話は終わらない。俺はこの国の宰相や騎士団、ギルド共会議を開き、何とか助けに行けないかと話し合った。そんな中でも時は無情にも刻み続ける」
バーティッド王はやはり王国を背負っているんだ、武神と呼ばれていようとも一国の王なんだ。重いな、想像しただけでも押し潰されるよ。
「獣人族の子供が助けを求めてきてから半日、俺はある報告を受けた。我が娘、シャロン……。いや、シャーロット・ルディ・キスタック。我が王国の王女が獣人族を助けるために義勇兵と共にその村に向かったとね」
「ええ、王女様が!?」
なっ、なんだって、とんでも展開きちゃいましたけど!?
さっすがおてんば姫様だよ、どうなるの!?
最後までお読み下りありがとうございました。
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