第27話 旅人の宿り木
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「ちょっとは落ち着けよ、クロロ。それじゃ、あきらかに不審者だぞ?」
「え? そうっかな? そんなっことないっけろ」
「ふふ、カミカミじゃないか。ここまで来ればもう大丈夫だよ」
俺達は大きな門を通り抜けしばらく歩くと広場のような所にたどり着いた。
そこには大勢の人達が忙しそうに行き交っている。皆そんなに急いで何をやるんだろうな。
それとは逆に、広場の中央では待ち合わせをしているような若い女性もいるし、噴水のある水場の周りには行商をしている商人たちも大勢いた。
「流石は王国の城下町だな、活気や人の多さも全然違うや」
「……ねぇ、エノム」
「ん? どうしたクロロ。腹が減ったのか?」
「違うよ! もう、レディに失礼でしょ!」
「悪い悪い、冗談だよ。どうしたんだい?」
クロロはなぜか黙り込み中々その理由を言おうとしない。どうしたんだ?
ふとクロロの視線を追うを待ち合わせをしているであろう若い女性を見ている。きっとこれからデートなんだろう。
可愛らしいドレスを着ているし、長い美しい黒髪を一つに束ねたポニーテール、それがとても似合ってる。それにかなり綺麗な女性だ。クロロは羨望の眼差しでその女性を見ている。小さくてもやっぱり女の子なんだな。
「あっ、クロロ、もしかして洋服が欲しいのか? クロロも可愛い服着たいんだろ?」
「……違うよ。クロロって可笑しいの? 奴隷ってクロロみたいな格好してる子のことを言うの?」
「いや、クロロは可笑しくないよ。むしろ可愛い、大丈夫だ。宿を決めたらクロロの洋服を買いに行こうな」
「!! いいの? クロロお金ないよ? エノムが洋服買ってくれるの?」
「ああ、勿論。でもあんまり高いのは……ダメだけど。それなりのは買ってあげるよ」
「やったー! うれしい、約束だよ」
「ああ。じゃあまずは宿を探そうか」
「うん!」
クロロはやはり自分の格好が気になっていたんだな。凄い嬉しそうだ。
そして俺達は広場の入口にあった大きな地図が張ってある掲示板を確認しに行く。この地図を見る限りかなり大きな城下町だ。それに商店街や宿泊施設などの区画、住宅街やギルド支部などの区画など用途別に分けられているようだな。
「宿泊施設があるのはここから東の区画か。向こうだな」
「ここの建物ってどれも大きいんだね。丈夫そう」
「そうだな。随分古い建物だけどレンガ造りだし街並みも綺麗だ。この街はかなりの歴史があるんだろう」
「宿に泊まれるの楽しみだね! クロロは泊まったことないよ!」
喜ぶクロロと一緒に宿泊できそうな宿を探した。さすがに王国の宿だけあってタリナムの街の宿に比べるとかなり高い金額設定になっていた。これはもう少し安いとこを探すしかないな。
今いる辺りは超高級宿が並ぶストリートのようだ。しかも建物もまるでどこかの宮殿のように立派だった。それでも普通に考えて一泊で金貨2枚は高い。俺とクロロなら金貨4枚だ。(ちなみに銀貨一枚で一万円、金貨一枚で十万円くらいのレートだろうと思う)
通りを挟んでしばらく行くと庶民が泊まるような宿が立ち並んでいた。ここならなんとか俺でも泊まれそうかな。
[旅人の宿り木]とある看板になぜか親近感が沸き、ここに決めた。というか多分ここに泊まれないともう宿は諦めるしかないだろうな。それはなんとしても避けたい。
それなりに大きな木造の建物だったが比較的に新しいようだった。
きっと俺みたいな流れ者が泊まれるように作られたんだろうな。
宿の玄関には女将さんらしき獣人族の女性がいた。
クロロとは違い、耳がウサギのように長い。顔もどこかウサギっぽい感じがした。俺達が来たことに気づき近寄ってきた。
「なんだい? 宿泊かい? それなら二人で夕食付きで銀貨2枚だよ。うちは奴隷だろうと宿に泊まらせるし、その子だけ外で寝かせるなんて言ったらぶっ飛ばすからね。文句があるなら他所に行きなよ」
おお、かなり気の強い女性だな。まあ、そのことに文句もないし金額的にも泊まれるから嬉しい限りだよ。
でも、奴隷ってやぱり不当な扱いをうけてるみたいだな。この世界に来てまだ本物の奴隷をみたことないけど想像道理の扱いなんだろう。異世界もやはり良いことばかりじゃないな。
「いや、勿論二人でお願いします。それにこの子は奴隷じゃないですから。」
「そうかい? そんな可愛い子にそんな格好させといてよく言うじゃないかい」
「本当だよ。クロロは奴隷じゃないよ! あとでエノムに洋服買ってもらうんだ」
クロロはウサギ耳の女将さんに元気に答える。
「へぇ、そうなのかい。じゃあ、二人で銀貨1枚でいいよ。部屋は2階の205号室だよ。ほらこれが鍵だよ。部屋に有るものは自由に使いな。トイレは1階の共同、風呂は男女別に共同浴場があるよ」
「あ、ありがとう。本当に銀貨1枚でいいの? 半額なんだけど」
「いいんだよ。アタシも獣人だ、この子が元気で嬉しくなったんだよ。大抵の獣人は肩身の狭い思いをしてるからね。アンタはその辺のクズ野郎とは違うみたいだしさ」
「え、はい。ありがとうございます」
獣人は肩身が狭い? 色々とあるんだな。でもこの女将さんはいい人そうだ。それじゃあ早速部屋で休んだら風呂に行こうかな。いや、その前に腹が減ったよな。朝から何も食べてないし、もうとっくに昼を過ぎている。クロロもきっと腹が減ってるだろうしな。
「すいません、昼食とかって注文できるんですか?」
「ん? まだ食べてないのかい? 夕食の準備はこれからだけど、昨日の夜に作った余り物のシチューならあるから食べな。それはサービスだよ、食いたいだけ食べてきな。食堂はあの突き当りを左だよ」
「本当!? やったねエノム! ありがとうおばちゃん!」
そういうとクロロは走って食堂に行ってしまった。よっぽど腹が減ってたんだな。可哀相なことしたな。俺もそうだけど……。
「パンもあるから好きなだけ食べな」
「ありがとう、女将さん。それと一つ聞きたいんだけど、この国の姫様ってどんな子なの?」
「ん? シャロン姫かい。そりゃアンタ、『ラザ・ジュエルの至宝』と言われるくらいの超が付く美人でおてんばな姫様だよ。アタシ等みたいな獣人にも良くしてくれるしこの宿も姫様が許可してくれたからやれてるのさ。それにもうすぐ17歳の誕生日でいつもなら誕生祭で賑わうんだけどね」
「へえ、そんな美人なんだ。……え? おてんばって言ったいま?」
「アタシは姫様が小さい頃から知ってるからね。亡くなったスカーレット王妃様に似てとんでもない美人になったよ。そりゃあ、隣国の王子も求婚に来るくらいだしさ。まあ、バーティッド王が門前払いだけどね」
「おてんばって言ったよね?」
「でも、この半年は誰も見てないんだよ。噂では病で倒れたんじゃないかって話だ。噂だから本当かどうかわからないが、あの姫様が病気になるとはアタシは思いたくないね」
「それで、おてんばなんでしょ?」
「まあ、とにかく姫様は本当の意味でこの国の至宝だよ。幸せになってもらいたいね」
「そう、ありがとう。じゃあ、シチューいただくよ」
ふーん、そんなに国民に慕われるお姫様か。ちょっと興味あるな。
いや、ちょっとどころかかなりある。でも最近は見てないってやっぱり何かあったのか?
結局おてんばな姫様なのかはわからずじまいだったな。
そして俺は急いでクロロが行った食堂に向かう。そこには誰もいない厨房と大きなテーブルが6つあり、それぞれに4つの椅子が無造作に置かれている。
「遅いよ、エノム! もうクロロ食べるよ!」
「あっ、悪い悪い。待っててくれたの? パンも食べていいってさ、女将さん」
「本当? やったー」
そして俺とクロロは鍋にあった冷めたシチューを二人で全て平らげパンも2人で6つほどご馳走になりました。
はい、これはもうお金払ったほう良さそうですね。なんてことを考えていると女将さんが俺を探して呼びに来た。
「いたいた。マガンジュツシのエノムってアンタのことかい?」
「? そうですけど。それが何か?」
「アンタを探して衛兵が来てるよ? どうする? 追い返すかい?」
「衛兵? いや、大丈夫。行きますよ。あと女将さん、これ実は全部食べちゃったからお金払います」
「あれを全部食べたのかい? すごいねアンタら。いや、これはいいんだよ。余り物だしね」
クロロは心配そうに俺を見ている。自分のせいで俺が衛兵に呼ばれたと思ってるんだろう。
「大丈夫だよ、大したことないさ。あの入口に行けばいいのかな?」
「ああ、そこで若いのが二人いるよ。あれはたしか門番のクレスとドミニクだったね」
「門番? さっき会った彼らかな」
そして俺はクロロを残して宿の入口まで戻った。そこにはやはりあの白い鎧を身に着けたあの時の門番の若い男がいた。
その若い男は俺を見つけると安堵の表情を見せる。なんだ? どうしたの?
「探しましたよ、エノム殿。大変申し訳ないのですが、お願いがあって貴方を探していたのです」
「俺をですか? どうしたんです?」
「実は……、王がこれから貴方に会いたいとのことなのです。あの時私が謁見は明日になると伝えたばかりにこんなことに。騎士団長に貴方が来たことを報告したのですが、すぐにでも貴方を呼んでくるようにと言われました。私の判断が間違っていました、ご迷惑をおかけしますがこれから王の元へ一緒に行ってはもらえないでしょうか?」
「そうなの? いったいなんのさ。俺って別に何か出来るわけでもないよ?」
「それは私にはわかりかねます。ですが、どうかお願いします」
「わかった、行くよ。ちょっと待ってて。クロロに事情を話してくるから」
「あ、ありがとうございます! 私も首にならずにすみます」
ええ?? 俺行かないとトンデモないことになるんじゃん! はあ、でもやっぱり悪い予感しかしない。
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