第26話 ラザ・ジュエル王国
雲一つない青い空の下、整備された歩道を獣人族の女の子クロロと歩いている。
この石畳の歩道は俺の目的地が近いことを表していた。
ここからでもうっすらと遠くにお城のような建物と城下町が見える。そう、『ラザ・ジュエル王国』だ。
思っていた通りかなり大きな国のようだ。城下町をぐるりと囲む城壁も相当高い、敵の侵入を防ぐことが目的で造られたその壁を突破するのは容易ではないだろうな。
「てっか無理だな。あの壁は登れない、高すぎる」
「どうしたのエノム?」
クロロが不思議そうな顔で俺を見上げる。
「いや、あの城壁が高いから登れないなと思ってさ」
この少女は獣人の猫耳族で名はクロロという。なぜあの道化師の格好をしたホビット、アバロンといたのかを聞くと、自分でもよく分らないということだった。
アバロンとは2週間くらい前に会ったそうで、クロロが倒れているところを助けてくれたらしい。なぜ、倒れていたか、両親や家族、何処に住んでいたかなどは思い出せないとのことだった。
いわゆる記憶喪失ってやつだな。そのことをいいことにアバロンに奴隷の格好をさせられ、詐欺まがいのことに協力していたらしい。まあ、クロロ本人は何をやっていたのかは全くわかっていないようだけど。
クロロは10歳くらいで猫の耳と尻尾、ウェーブのかかった肩まである水色の髪。その瞳はエメラルドグリーンを思わせるようなキラキラとした緑色だ。そして意外としなやかな手足をしている。
俺はロリコンじゃないけど、クロロはかなり可愛いな。もう一度言うけど俺は決してロリコンじゃない、一般的に見てだから。
「あの壁ならクロロ登れるよ。上まで登ったことあるよ」
「え!? 本当か? すごいなクロロは。でも、もう登ったりしちゃダメだぞ」
「うん、アバロンに登れるかやってみろって言われてやったら白い鎧を着た人達に見つかって逃げてきたの」
「な!? え?? マジ??」
「ホントだよ。でも夜だったからクロロだっては分らないと思う」
「そうか、なら行っても大丈夫だな。多分あの正門には衛兵がいて入国者をチェックしてるだろうからな」
どうやって登ったんだ? 獣人って身体能力が人間よりも凄いんだろうな。人間にあの壁は無理だぞ。
アバロンめ、そんな危ないことクロロにさせやがって。
「あそこに行って何をするの?」
「ちょっとバーティッド王って人に呼ばれててね。王様に会いに行くのさ」
「ええ!? 凄いエノム! 偉い人なのエノムは?」
「はは、違うよ。ちょっと会うだけさ。俺もなんで呼ばれたのかは分らないんだよ」
「そうなんだ。でもあのお城に入れるなんてエノムは偉いなあ」
やっぱり子供は素直だよな。それにまずはクロロの服を買ってあげよう。流石にこんなボロい服は可哀相だ。それに今日は宿に泊まって明日王様に会いに行くつもりだ。
俺は今、銀貨を5枚と銅貨を3枚持ってるから充分買い物や宿にも泊まれるだろう。
それにしてもタリナムの街からこのラザ・ジュエル王国まではやっぱり徒歩で3日は掛るんだな。
もちろん車なんて物は無いし飛行機もない。この世界の移動手段て他に何があるんだ? やっぱり馬車とかかな。この3日、馬車はおろか人にも滅多に会わなかったけど。
「あ、エノム、あれ正門だよね。白い鎧をきた人間もいるよ」
「ああ、きっと門番だろうな。やっと着いたよ」
ここから見ると正門の大きさに驚いた。今までこんなデカい門は見たことがない。20メートルはあるしかなり分厚い門だ。そしてその周りの城壁は30メートルは確実にある。この国に入るならあそこの正門から入るしかないようだ。
門の近くまで行くと門番の衛兵がざわめき始めた。衛兵は門を挟むように2人づづ4人の衛兵がいた。
そして1人の衛兵が腰の長剣に右手を当てながら俺の方へやって来た。
「そこの君、止まるんだ! それ以上こっちに来るんじゃない!」
「え、なんで?」
「なんでって、ふざけてるのか? 怪しいからに決まっているだろう!?」
「え? 俺は魔眼術師エノム、こっちはクロロです。王様に用があるから通らせて欲しいのですが」
「バーティッド王に? なんの用なんですか?」
「それはこっちが聞きたいよ。呼ばれたんですよ、王様に」
白い鎧をきた衛兵は長剣と丸い盾を持っている若い男だったが、明らかに俺を怪しい奴と疑っている。
「今この国は厳戒態勢にあって簡単に通す分けにはいかないんだ。何か身分を証明する物はあるか?」
「え? そうなの? 困ったな?」
何が困ったって厳戒態勢ってなんだよ、めっちゃ嫌な予感するよ。それに身分を証明するものなんて持ってない……。
「何か無いのか? それなら通せないぞ」
「聞きたいんだけど、何かあったんですか?」
「先日、この城壁を駆け上がり侵入しようとした賊がいたんだ。この壁を駆け上がるなんて並みの賊じゃないからな。それに姫様のことも……いや何でもない。とにかく身分を証明できないなら通せないぞ」
「そうなんですか」
うわあ、思いっきりクロロのことじゃん。まだクロロだってバレてはないけど。
おい、クロロ、俯いてあたふたするなよ、疑われるじゃないか。
それに今姫様とか言いかけたぞ? ヤバい、どうしようか。
「あの、この王様からきた召喚状ならあるんだけどこれならいいかな?」
「なんだって? こ、これは王家の捺印! 見せてくれ」
衛兵は驚いたように俺が渡した召喚状を確認している。なんか大丈夫そうだな。
「エノム殿、失礼しました。これは間違いなく本物の王による召喚状でした。通ってもらって結構ですが今日はもう王に謁見は難しいでしょうね」
「そうか、わかった。ありがとう。じゃあ行くよ」
「その子はエノム殿の奴隷ですか? 見れば獣人の娘のようでうすが?」
「この子は奴隷じゃないよ。俺の連れだ。通っていいだろ? この子が通れないなら俺も行かないけど」
「いえ、失礼しました。お通り下さい」
「ねえ、さっき姫様とか言ったけど何かあったの?」
「申し訳ありません、それは私からお伝えするわけには。おそらく王はその件でエノム殿を呼ばれたのでしょう」
「わかった、ありがとう。それじゃあ」
そして俺と、さっきから俯いて明らかに挙動不審なクロロと一緒にラザ・ジュエル王国に入国した。なにやらよくないことが起きているようだ。
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