第25話 猫耳族の少女クロロ
「ほな、始めますよ? ルールは簡単ですわ。この金貨一枚をワイが素早く隠します。それを旦那が見つけるだけ。簡単ですやろ? でもチャンスは一度ですから慎重にお願いしますわ」
「なるほどね。その金貨はアバロンさんの何処かに隠すってことでいいね?」
「それは当然ですわ。しっかりしてますな旦那は。それでは始めますよ」
アバロンはそう言うと金貨を持った手を閉じ、両手を素早く交差する動作を始める。
確かにかなりの早業だ。これは相当鍛えてあるな、何人も騙されたんだろう。
これはもうその金貨がどこにあるか分らない。
─── 普通の人間ならね。
「どうです? もう金貨がどこにあるか分りませんやろ? 途中で降りるのは無しですよ旦那」
「うーん、そうだな」
「どうです、これには種も仕掛けもありまへんよ。ワイの技ですわ」
(どうや! これを見破るのは無理ですよ旦那。それに元々金貨なんて持ってませんからワイ(笑))(心の声)
「さあ、どうや旦那! 金貨は何処や? 待ったなしの一回勝負や!」
「よし、わかった。金貨はその左の袖の裏に隠したね。間違いないよ」
「!!?」
(なんと!? まさか今の動きを見切るなんて信じられんわ。初めて見破られました、正解や。素晴らしいですよ旦那。でも勝負はワイの勝ち。あの金貨は実は温めると銀貨から金貨に変わる偽物なんですわ)(心の声)
「ほう、袖の裏ですか、でも残念……」
「待て!!」
そう言って俺はレーヴァを鞘ごとアバロンに向ける。
「な、なんですか!? 旦那、まさかワイを殺してクロロを奪う気なんか!? それはあんまりですわ!」
アバロンは微動だにせず鬼気迫る勢いで俺に食って掛かる。流石に場数を踏んでる子悪党、こんな脅しは通じない。勿論俺は脅そうなんて思ってないけどな。
その様子をジッと見ていた獣人の少女クロロは青ざめカタカタと震えている。ごめんね、直に終わるから。
「いや、動くなよアバロンさん。俺は嘘が嫌いだ、俺を騙したら直ぐに首を跳ねからね」
「いいですとも、ほな袖の裏を見せますわ」
「待てっ!! 今動いたらその手首を切り落とすぞ!!」
「!! でもそれじゃワイが袖に金貨を隠してないと証明できませんわ! 旦那、それが人間のやり方ですかい!?」
(この小僧! どういうつもりや? しかしこの小僧の気迫、動けばホンマにやりおるぞ。なんとかしてこの『銀貨』を見せんと。この銀貨を見せればそれで終わりや。まさか金貨が銀貨に変わってるなんて誰も分る分けない)(心の声)
「よし、動くなよ。俺は手を出さない、これは勝負だからね。君はクロロと言ったね、ちょっといいかい? この君の主の袖から金貨を持って来てくれるかな? 今、俺もこのアバロンさんも動かない。動けるのは君だけだ、それならいいだろ?」
「…………」
「なっ、どういうつもりです旦那!? クロロは関係ないですやろ! ワイが見せれば済む話ですわ」
「ダメだ。動くなよ、アバロンさん。俺はあなたの為に言っている。さあ、クロロ。お前の主の左の袖に隠してある金貨を大事に両手で隠し俺の前で見せるんだ!」
「!!??」
(なんですと!! この旦那何者や! まずい、それをやられると銀貨が金貨になってまうわ!!)(心の声)
「クロロ、君がやらないなら俺は君の主の首を跳ねるぞ。主を助けることができるのは君だけだ」
「!!??」
(この旦那!! なんて奴や、信じられん。まさか全てを見透かしておるんか!?)(心の声)
俺の言葉にクロロの表情が変わる。アバロンを助けると決意を秘めたその瞳、君は勇気があるね。
「わかったよ。クロロがやればアバロンは助かるんだね? 信じるからね? 待っててアバロン、今助ける」
「ま、待てクロロ……」
アバロンは何とかしようと慌てふためいている。それが逆にクロロを力づけたようだ。クロロはアバロンの為に震える体で前に一歩踏み出す。
「ちょっと、待ってクロロ。アバロンさん、止めるなら今だ。もしあんたが負けを認めて俺に全てを差し出すならそれで許してやろう」
「はあ? 何言ってるんや!? ワイは負けてないですやろ? 今それを……」
「だけど!! もし、あんたがイカサマをしているなら!! もしそうなら、あんたの全てを俺が奪い、そしてあんたを殺すからね」
「なっ、それはあんまりですわ!!」
「当たり前だろ。もし俺が負けたらあんたは躊躇せずに俺から全て奪うだろう? まあ、そういう勝負だから当然さ。でもイカサマなんてしてたら俺は許さない。即座に首を跳ねる。いいかい? 負けを認めるなら俺とクロロが確認する前の方がいいだろう?」
「ぐっ!」
(この小僧、なんて小僧や)(心の声)
「アバロン……。どうしたの? どうすればいいの?」
「黙っとけ、クロロ。もうお別れや」
「えっ??」
そういうとアバロンは負けたというポーズで両手を上げる。クロロは何が起きているのか理解していないだろうな。
「ワイの負けですわ旦那。その通り、金貨はワイの左の袖に隠してましたわ」
「え? え? アバロン?」
「すまんなクロロ。これでお前ともホンマにお別れや」
「冗談だよね? 嘘だよねアバロン。クロロを村に返してくれるんだよね?」
「お前、まだそれ信じとるんやな。それ嘘やからな。お前の村なんてホンマは知らんわ。今までお前で稼がせて貰ってたんで黙ってたんやけどな。旦那、それじゃクロロを頼みましたよ」
「ああ、ホントにこの子の村は知らないんだな? お前がもしこの子を村に本当に送り届けるなら俺はお前から何も受け取らないよ」
「アバロン……」
クロロは心配そうにアバロンを見ている。そんなクロロをアバロンはふんっと鼻で笑った。
「旦那、ホントに知りませんしその奴隷はもう役に立ちませんからいらんですわ」
(ホンマはその獣人族の村は全滅しとります。魔物の軍勢に襲われたか人間に滅ぼされたかは知らんけどな。それだけは教える分けにはいかんのや)(心の声)
「じゃあな、クロロ。まったくワイもとんでもない小僧っ子に勝負を吹っかけたもんやな。エノムいうたな、クロロを頼むわ。どうしようと旦那の勝手ですけどクロロを傷つけるんだけは止めてな」
「……そうか。わかった。俺はこれから王都に行く。そこでこの子が安全に暮らせる場所を探すよ」
「頼みましたわ。じゃあな、クロロ。今まで稼せいでくれてご苦労やったな」
「そんな、アバロン。行っちゃうの?」
「そうそう、旦那、奴隷の話しですけどな」
「何もいらないよ。行くんだろ? 真夜中だ、気を付けろよ」
「……おおきに」
そう言って道化師アバロンは俺達の前からいなくなった。俺があいつから全てを奪わなかったのはあいつが最低限、クロロを保護していたからだ。一応無事にクロロが生きてこれたのはあいつのお陰だからな。
「うーん、まいったな。俺にはやっぱり計画性が無いようだ。どうしよう」
「クロロはアバロンに捨てられたの? クロロは本当は奴隷なの?」
俺の隣りで獣人族の少女が不安げに俺を見ていた。
いやいや、これからマジでどうしよう。
『ぐぎゅるるる』
静かな草原に爽快な腹の虫が鳴く。クロロと言う名の獣人の少女は顔を真っ赤にして俯いた。
「ん? なんだ? お前腹減ってんのか?」
「う、うん。今日は何も食べてないから」
「そうか、なら俺がピザをお前に食わせてやろう。美味いからちょっと待ってろよ」
「いいの? うれしいな。ありがとう」
「ま、王都に行ってから考えるか」
そして俺は最後のパンに干し肉とチーズ、玉ねぎのような野菜を盛大に盛り付け焚火で炙り始めた。
お読み下さりありがとうございます。エノムの新たな相棒は猫耳族の少女?
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