幕間1:お風呂を覗こう
俺達はゴブリンロードと配下のゴブリンを一掃し、タリナムの街の平和を守った。そのことがあって既に俺達はこの街の有名人。勇者様御一行となったわけだ。俺達は今、高級宿の宴会場に招待されている。
「おお、勇者マルス様だぞ! さすがは勇者、連れている女の子達も美女ばっかりだ!」
「ほら、あれがこの街の英雄のマルス様だって!隣りにいるのは家来の剣士かな?」
「ああ、なんか真っ黒で悪そうな奴だからマルス様にやられて子分にでもなったんじゃないか?」
「勇者様、バンザーイ!!」
そう、なんとマルスが何時の間にやらゴブリンロードを倒した勇者で、俺はマルスの子分らしい。
俺のいない間にマルスが自称勇者を名乗っていたらしいからな。加えてあの騒ぎだ。当然ゴブリンの軍勢を倒せば皆が勇者マルスの偉業だと思うだろう。
まあ、別にいいけどね。それにこれからこの街で一番偉い人が俺達を祝う宴の準備をしてくれてるらしい。
やっとまともな食事に有り付ける。なんせダンジョンで変な物ばっか食ってたからな。
これからのご馳走のことを考えると誰が何をやったかなんてどうでもいいや。皆を助けれたし。
俺はかなり広い宴会場に用意された大きめの円卓テーブルに皆と囲んで座っている。
ここに集まってるのは俺達やギルド関係者、守衛、傭兵などの功労者だ。当たり前だけど知らない人ばっかりで緊張する。
「ごめんね、エノムさん。本当はエノムさんがゴブリンロードを倒したのに。お兄ちゃんが倒したことになってるわ。それに勇者マルスだなんて」
「いいよ、別に。マルスも自分で倒したなんて言ってないじゃないか。それにあの時マルスが体を張って皆を守ったからこそ俺は間に合ったんだよ」
リーザ、なんて可愛いんだ。その申し訳なさそうな顔もまたいい。それに今リーザやマイアはこの宿のオーナーが用意してくれた豪華なドレスを着ている。リーザは黄色のドレス、マイアは赤色のドレスだ。なんて眩しい、とても似合ってるし綺麗だ。俺はこんな気持ちになれるんだな、こんな女の子達と知り合いだなんて夢のようだよ。
それに司祭の服もリーザが着ると色気があってめちゃくちゃよかった。これからリーザの影響で司祭が流行りそうな予感がする。
でも、気のせいかマイアは俺のことを見ようとしない。どうしたんだ? さっき話しかけた時も顔が赤かったしな。熱でもあるのか?
「それではお集まりの皆様、今日はこの『勇者マルスとその仲間達』の活躍によりこの街が救われたことに感謝の意を表し、この[白いグリフィン亭]の贅の限りを尽した料理でもてなさせていただきます。さあ、存分にお召し上がり下さい」
恰幅のいいおっさんが前に出てきて挨拶をしている。それから接客のウェイターが次々に料理を運んでくる。それに何時の間にかマルスも前の檀上にいるじゃないか。あいつ緊張してるのか? 大丈夫なんだろうな? 俺はどうなっても知らないぞ。
「それにしてもエノムさんは強いですよね。あの剣技はどこの流派なのでしょうか?」
俺の左隣に座っているの女の子が話しかけてくる。この子はたしかエリザベスといったな。エリオと呼ばれている凄い美人だ。騎士の鎧を着てたから目立たなかったけど紫色のドレスを着たその姿は何処かのお姫さまのようだ。
でも、剣技って? 流派なんてのも別にないけどなんて言えばいいんだろうな。
「えっと、エリオだったね。俺は流派とかは別にないよ。ただの我流かな」
「本当なのですか?? それであの強さとは驚きです。一度、我が姉と手合せしてもらいたいものです」
「お姉さん? 俺は剣士じゃないし、それにお姉さんの方が強いから大丈夫だよ」
「ふふ、エノムさんは本当に控えめな方なのですね。あれ程の強さを持ちながらそれを少しも態度に出さない。ゴブリンロードを倒したのも貴方なのに一言もそのことは言っていませんよね?」
「うーん。俺が止めを刺しただけだしさ。皆が力を合わせたからだよ。それに俺は最後に来たから力が余ってたのさ」
「ねえ、エノムくん。私のことも助けてくれましたよね。本当にありがとうね、かっこよくて痺れたわ」
おおっと、今度はメイド服で戦っていたお姉さんだ。なんだか今日はやけに女の子に話しかけられるなあ。
たしかギルドの受付嬢兼Aランクの冒険者のメルフィさん、コバルトブルーのドレスだ。メイド服もいいけどこっちのドレスもよく似合う。それに胸はマイア並みにデカいぞ。おっと、いかんいかん。なんと彼女は一人で30体のゴブリンを倒したらしい。
「あの時は危なかったですから間に合ってよかった。それに皆さんホントに強いですよね」
「君、それ嫌味で言ってるのか? それとも自慢かい? さすがはゴブリンロードを一撃で倒すだけあるねえ。自信まで一級品ときてる」
なんだ、誰だこの人? さっきから同じテーブルにいたけど。俺絡まれてるのかな?
「すいません、どちらさまでしたっけ? 俺もの覚え悪くて」
「くっ、俺はシリウスだ。魔法使いのシリウス、俺だって東門を守ってたんだ。それなのにあの自称勇者は皆にはやし立てられ、君は女の子にモテモテじゃないか!」
「はあ、すいません。でも魔法が使えるなんて凄いですね。今度見せて欲しいな」
「お、そうか? 中々話がわかるじゃないか。あの勇者とは違うようだな」
なんだこいつは? かまってほしいのか? お前なんていちいち相手にしてられるか。こっちはもう腹ペコなんだ。もう食べよう、限界だ。
「おお、料理がそろってるな。さっそく食べようぜ。なあ、エノム俺の演説聞いたか?」
「マルス、演説してたのか。ごめん、聞いてなかった」
「はああ!?? まじかよ、リーザは聞いたよな?」
「ごめん、マイアと話してたから聞いてなかった」
残念ながら誰も聞いてなかったようだな。まあ、お前はそういうの向いてるよ。一種の才能だろうな。
「もう腹ペコだから食べよう。頂きます」
俺は目の前に出された料理に我慢できず食べ始める。凄い、やっぱりこの世界の食べ物は美味い!
「おおっ美味いな! これジュエルロブスターだろ、こっちはレインボーフルーツのサラダ!すげえな」
「ちょっと、お兄ちゃん、静かにして。行儀悪いよ」
「まったく、礼儀作法も知らないのか、自称勇者さまは」
シリウスがマルスに突っかかる。マルスは余裕の顔でシリウスに返す。
「シマリスいたのか? まあ、食おうぜ。折角のご馳走だ」
「そ、そうだな。わかった。今はご馳走になろうか」
なんだかんだで単純なやつらしいな。それにしても美味い料理だ。
──そして俺達は皆で会食を楽しみ、そして宴会も終わりをつげた。俺達は今日はこの[白いグリフィン亭]に一泊することになっていた。ああ、ベットで寝れるのかな、それも食事と同じくらい楽しみだったんだ。
なんせダンジョンの床で寝てたからな。凄い生活してたもんだ俺も。
部屋に着くまでマルスとシリウスと一緒だ。宴会場からは別棟に宿があるのでそこまでアーチ状の渡り廊下を歩いている。こいつ等喧嘩するなよ、面倒だからな。
「聞いたか?」
マルスが突然真剣な顔つきで口を開いた。
「ああ、聞いた。流石だな、君は」
ええ?? なんだよ。シリウスも真剣な顔でマルスに答える。お前ら息ピッタリかよ!
「なんなの? どうしたんだよ二人とも?」
何事が起きたんだ、あんなに仲が悪かった二人なのに。
「決まってるだろ、エノム。さっきマイア達はどうするって言ってた?」
「え? 部屋に帰るって言ってたけど」
「おいおいエノムくん、何を言ってるんだね君は。その後だよ、その後!」
ちょっと、こいつ等漫才コンビみたく息あってるぞ。
「そういえば温泉あるから皆で温泉はい……って、まさか!!??」
「そうだよ、覗きに行こうぜ」「そうだ、覗きに行こう」
「!!!」
君たち息ピッタリだし、マジで言ってるのか!?? 顔は真剣だけど、言ってることは最低だから!!
お読み下さりありがとうございます。幕間2:に続きます。
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