第14話 冒険者ギルド
──タリナムの街のマルス達。
「なかなか美味かった。あのマスターも見かけによらず料理が上手いんだな」
俺とリーザは泊まっていた宿の朝食を済ませ冒険者ギルドに向けて歩いていた。久しぶりのタリナムの街だが人通りは以前よりずっと少ない。
俺の村と違ってここは通りも石畳のレンガだし建物も綺麗に並んで立っているが人通りが少ないと酷く寂しい感じがする。
「うん、美味しかったねマルスお兄ちゃん。マスターは元コックさんなんだって言ってたよ」
「なるほど、それは美味いわけだな」
リーザには今まで聞かなかったけど何時鞭の練習とかしたのかな。それも俺に内緒で。その司祭のようなドレスも何時の間に準備したんだ? まあ、今さら聞く気もないけどな。
「やっぱりモンスターの噂が広まってて人通りは少ないね」
え? そういうことだったのか! モンスターの影響だったわけだな、なるほど。さすがリーザだ、頭もいい。言われてみればモンスターが人を襲ってるなら出歩かないよな。
ん!? じゃあ、ここまで来る途中も危なかったんじゃないか!? よかった、無事にこれて………。
「そ、そうだな。早くなんとかしないとな」
俺はリーザにそれとなく合わせた。そしてギルドにはゴブリンロードの討伐を指示された連中が集まってるんだろう。きっとマイアもそこにいるはずなんだ。マイア、他のギルドの奴らに口説かれてないだろうな。
「あ、あそこだ。あの看板はギルドの看板だよね?」
「ああ、木製の盾に剣と木槌と杖。周りを鋼のヘデラのツタが囲んでるのはギルドの看板だ。真ん中にはギルドの刻印も入ってるしな」
以前マイアに頼んで連れてきてもらった時のマイアの説明をそのままリーザに伝える。
「そうなんだ。看板と他にも掲示板もあるね」
ふっふっふ、全てマイアから聞いてるからな。兄としていい所を見せておくか。
「ちなみに木製の盾と剣は人間を意味していて、木槌はドワーフを意味している。杖はエルフのことらしいぞ。エルフは今でこそ数が少なく見かけなくなったそうだけどな。鋼のツタは三つの種族の結束が何時までも続くようにとの意味らしい」
「へえ、そんな意味があったんだ。お兄ちゃん、物知りだね」
「あと、掲示板にはギルドへの依頼内容や依頼を達成したパーティーメンバーが張り出されてる」
全部マイアから聞いたことだけどな。よし、もうギルドの前に着いた。ここは常時開いてるから朝だから誰もいないなんてことはない。早速入ってみるか。
「マイア、いるかな? お兄ちゃん、来たことあるんだもんね。ちょっと怖いな」
「大丈夫だって。俺がいるんだし、行くぞ」
俺はガチャリと大きめの分厚いドアを押す。ガラガラとドアに付けた呼び鈴がなった。中に入ると受付のカウンターで何人か話しをしてる。皆こちらを見たが直ぐに向き直り話しだした。
「あ、依頼ですか? ちょっと待って下さいね。今終わりますから」
初めて見る受付嬢の女だ。っていっても一人しか知らないけど。以前来た時は中年の女だったが今は若い女に代わってる。それも中々のいい胸をしてる、服装もメイド服だし。ギルドもついに受付嬢で人気取りか?
「あ、こちらへどうぞぉ。お待たせしました」
おお、近くで見ると可愛いじゃないか。リーザほどじゃないにしても目を引く可愛さだ。藍色の髪の巻き毛に知的な瞳がいいな。なにより活発な印象とメイド服が見事にあってるし胸もデカい。
「あのさ、依頼じゃないんだ。オロビアの村のマイアはここに来てるかな?」
「マイアさんなら今はいませんよ。でも、もう少しで見回りから帰ってきますからここでお待ちになられますか?」
「ああ、じゃあそうさせてもらうよ。向こういいかな?」
「どうぞ、空いてる席に座ってお待ちくださいね」
ギルドの受付をすぎると大部屋にテーブルが5つありさっきの奴らも座っている。こいつらみんなギルドのハンターだろうけどな。
俺とリーザは空いているテーブルの席に腰掛ける。なんだかいまいち居心地悪い。受付ではあんなに気分良かったのに。リーザもなんだか緊張してるようだ。
「ちょっと君、名前なんていうの? すごい綺麗だね、俺はシリウスだ。シリウス・ドッグ、よろしく!」
「ああ、俺はマルスだ。そんなに俺は綺麗かな? ありがとう、うれしいよ」
「はあ? あんたに言ったんじゃないよ、そっちの綺麗な彼女に言ったんだよ」
わかってるよ、うるせえ野郎だな。こういった所に来るとリーザには毎回のようにこういう奴が声を掛けてくる。さっきからリーザが大人しいのはそのせいだな。もう慣れてるけどな。
「俺は魔法使いなんだ。こう見えてCランクなんだぜ。君は司祭なのかな? とっても似合っているね」
なんなんだこの野郎は。リーザはこういう時は全く相手にしない。少しでも答えればこいつらはどこまでも調子に乗るからな。そのことをリーザはよく分っている。しかしムカつく顔してるなこいつ。
「いや、俺は勇者だぜ。そんな司祭に見えるのか。おかしいな、今まで言われたことなかったけど? 君、ホントにCランクの魔法使い?」
「はあっ? さっきからなんだよ君、邪魔しないでくれないか! それに勇者だって? 顔だけじゃなく頭もおかしいようだな」
「え? なんか言ったかシマリス・ドッグフード君」
「キサマぁあ!! 馬鹿にするのか、許さないぞ!! 外へ出ろ!」
「お兄ちゃん止めて。ごめんなさいシリウスさん」
ふん、怒ったか? この距離で魔法は詠唱できないだろ? その前に詠唱したら俺の聖剣がお前の喉元に突き刺さるけどな。
「やめないか、シリウス。君が悪いぞ」
お、なんだ? 話しの分る奴がいるじゃないか。
「いや、しかしエリオさん。こいつが喧嘩を売ってきたんですよ」
なんだこいつ、俺とは全然態度が違うじゃないか。一体どんな奴が止めに入ってきたんだ?
「って、少年じゃねーか。なんだお前、こんな子供に敬語使ってんのか? はっはっは。ありがとうな、少年! こいつはホントに失礼な奴だが許してやるよ。だが、もっと躾をしっかりしてくれたまえよ」
シマリスの奴め、あんな偉そうなこと言っといてこんな子供に敬語使ってるとは、笑えるな。だが、この少年、まさかホントに偉いのか? 格好からして騎士の見習いでもやってそうだが?
「ちょっと、お兄ちゃん、お兄ちゃんの方が失礼だよ」
リーザが俺にひそひそと話しかけてきた。さっきまでは黙ってたのに、何が失礼なんだ? 俺はリーザにどうしたと問いかける。
「その人は女性だよ。見て分るでしょ? 何言ってるの、早く謝って!」
「え!?」
俺はもう一度その少年を見た。リーザが言ったようにたしかに女だ。エリオという名前と体系、喋り方からして少年だと思い込んでたが、見ると気品のあり凄まじく綺麗な顔立ちをしている。それに軽装だが騎士のプレートメイルと制服もかなり高価な物のようだった。
「ごめんごめん、若く見えるから少年かと思ったよ」
「ちょっと、お兄ちゃん違うでしょ! 謝るのはそこじゃないから! いや、それも失礼なんだけど」
「ああ、そうか! すまんすまん。見間違えたんだよ、その格好だからついな。悪かった」
「いや、いいんですよ。慣れていますから。気にしないで下さい」
たしか、エリオとか言ったな、こいつはシマリスと違って良さそうな奴じゃないか。
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